いつも新曲がいいけど、とても言い表しづらいアーティスト
— 今回紹介していただくBialystocksはどういうアーティストでしょう。
それが非常に言い表しづらいアーティストなんです(笑)。ちょっと前までバンド形式だったのが現在は二人組になっていて、一般的には「映像作家とミュージシャンによるユニット」と言われることが多いんです。でも、そう言われてもあまりピンとこないですよね。
— そうですね(笑)。
音楽性としては、打ち込みのトラックというよりはバンドスタイルが中心ですね。そうした比較的クラシカルなサウンドアプローチをとりながらも、ソングライティングはちょっと外してくる。それがBialystocksのおもしろいところであり、特徴かなと思います。メロディーがいいんだけど、オルタナティブな部分もある。懐かしさもあるんだけど、めっちゃ新しい感じもする。やっぱり、ひとことで言い切るのは難しい(笑)。
— (笑)。
でも、毎回すごく良い曲が届くので、リリースをいつも楽しみにしてるんですよ。僕がApple Musicでやっているラジオ番組「Tokyo Highway Radio」でも何度かかけています。
— 最初にピンときた曲は?
「灯台」という曲ですね。
これも表現しづらいんですけど、ジャズやソウルっぽい香りがしますよね。それでいてメロディーの節回しはクラシックな感じもする。
— 歌がハイトーンになる瞬間なんかは、ディアンジェロ(※アメリカのR&Bシンガー)を連想しました。
いわゆる「ネオソウル」的なセクシーな感じもありますよね。
おそらく彼らは音楽的なバックグラウンドが広いので、Bialystocks自体の音楽もピンポイントで言い表しにくいんでしょうね。日本のバンドだったら、キリンジとかBuffalo Daughterに近い感じもします。
ジャンル不詳ながらも「今」。見事な作曲スキルに舌を巻く
— 映像作家でもあるボーカル甫木元空さんは高知県四万十町に在住とのことですが、そのプロフィールも含めて本当に掴めないですね(笑)。
そうなんですよ。本当にBialystocksを言葉で紹介するのは難しい。僕自身も煙に巻かれ続けている感じがしますもん(笑)。
2021年に出たアルバム『Bialystocks』も、ネオソウルっぽい曲があるかと思えば、シティポップっぽい曲が始まったり、突然長尺のプログレっぽい曲が出てきたりと、非常にバリエーション豊かです。作曲技術的にも演奏技術的にも、なんでもできる人たちなんでしょうね。
— 確かに。作曲のレベルが非常に高い印象がありますね。
コード進行の作り方や、それに対するメロディーの付け方もレベル高いですよね。変わったコードを使ったり、変なところで転調したり、マグレじゃなく確信的にやっているのがよくわかる。
— 聞き手として試されている感じもします(笑)。今、この取材現場で流れている「I Don’t Have a Pen 」には、アメリカのインディー・フォーク・バンドであるボン・イヴェールっぽさも感じます。
全体的にはソウル感が漂っている楽曲ではありますけど。これも簡単にジャンルが言える曲ではないですよね。
— ジャンル不詳感はありつつ、ビートの太さやグルーヴィーなニュアンスは明らかに「今っぽい」。
その部分だけ切り取ると「King Gnuっぽい」と言うこともできるかもしれないですね。
— ああ!確かに。ビジュアルは正反対かもしれないけど、サウンド的にはKing Gnuと通じる部分がありますね。
でも、Bialystocksはもっと脱構築感があって、”元ネタ”みたいなものが全然見えてこない。
— やっぱり煙に巻かれる(笑)。そして、これだけ曲が書けるのに「売れてやるぜ」って感じがないですよね。
すけべ心を全く感じないですね(笑)。でも、もうすぐ見つかっちゃうんじゃないかなって気もしますね。ちょっと匿名性が強い感じではあるけど、実は歌詞もすごくおもしろいですし、アーティストとしての素顔やキャラクター性がもっと見えてきたら、ハマる人が一気に増えるんじゃないかと思います。
良いソングライティングを楽しみたいあなたに
— 1曲、読者の方にお薦めするとしたらどの曲を選びますか?
新曲の「日々の手触り」ですね。
この曲はシンプルなようでいて、かなりすごい作品だと思います。めっちゃ静かに始まるんですけど、後半に向けて徐々に盛り上がっていく流れがすごく上手い。こういうシンプルなテーマが徐々に大きくなって盛り上がる曲って、すごく難しいんですけど、それが見事に成功しているんですよ。
レイ・チャールズなんかの往年のソウルを感じるけど、それをBialystocks特有のシンガーソングライター的世界観でやっているのもまたすごい。
— 歌い出しのメロディーはむしろ童謡っぽい感じすらします。
フォーマットとしてはR&Bやソウルなのに、メロは意外とそうでもないんですよね。なんなら他の曲ではそういうメロディー要素も強いのに、この曲ではそうじゃない。この塩梅がおしゃれで、なんかもう悔しくなりますね(笑)。
— 最後に、Bialystocksをどういう人にお勧めしたいと思いますか?
今のうちに聴いておいて、将来的にYouTubeのコメント欄で古参アピールしたい人に(笑)。
— あはは(笑)。
それは冗談としても、良いソングライティングを聴きたい人におすすめしたいですね。今でも、サンプリングや打ち込み主体ではなく、個人の思いが曲に乗っかっているタイプのクラシカルな作曲が好きな人は多いと思うんです。そうした人にはぜひBialystocksを聴いてほしいですね。小手先の要素が一切ない、まっすぐな作曲を楽しめると思います。
Vol.1 全員10代の末恐ろしきバンド「chilldspot」
Vol.2 日本の音楽ファンに“命題”を突きつける「民謡クルセイダーズ」
Vol.3 ゆらゆら帝国以来の衝撃。オルタナロックの系譜に立つ「betcover!!」
Vol.4 フォークソングとしての普遍性と攻めたサウンドの融合「ゆうらん船」
Vol.5 すぐれたポップセンスで日本語を響かせるバンド「グソクムズ」
Vol.6 天才と呼びたくなるシンガーソングライター「中村佳穂」
Vol.7 謎多き新世代ミクスチャーバンド「鋭児」
Vol.8 バンドサウンドとBento Waveを融合させる「ペペッターズ」
Vol.9 渋谷系の真髄に迫るネオネオアコバンド「Nagakumo」
Vol.10 新世代らしい音楽との向き合い方を感じる「Mega Shinnosuke」
Vol.11 “音色”からポップミュージックの幅を広げる「Serph」
Vol.12 日本にガレージロックブームを起こすかもしれないバンド「w.o.d.」
Bialystocks 甫木元さんからのコメント
Bialystocks
推薦していただき驚いています…。
新しいアルバムタイトルである「Quicksand」を調べると恐ろしい言葉が並びますが、人生でどうしようもできない泥濘にはまる、喪失と出会う事は誰にでも起こる事です。足を取られても砂時計の様に時間と共に価値観は変化して、季節は変わっていく。
前作Tide Poolをへて、沈んでいく時間、そこから少しづつ季節と歩幅を合わせられるようになっていく過程をアルバム全体通して描けたらという思いを込めてアルバムを制作しました。
今回アルバムの発売と同時期に映画も公開します、今後も意味のある形で他のジャンルとも上手くまざりながら自分たちの個性を探って行けたらと思っています。
Bialystocks『Quicksand』
2022年11月30日(水)発売
■初回限定盤 [CD+Blu-ray] PCCA-06165 / 税込4,950円
■通常盤 [CD ONLY] PCCA-06166 / 税込2,970円
【収録内容】
《CD》
01. 朝靄
02. 灯台
03. 日々の手触り
04. あくびのカーブ
05. タダで太った人生
06. Upon You(11/9(水) 先行配信スタート
07. Winter
08. 差し色(テレビ東京系ドラマ25『先生のおとりよせ』EDテーマ)
09. はだかのゆめ(映画「はだかのゆめ」主題歌)
10. 雨宿り
《Blu-ray》※初回限定盤のみ付属
Bialystocks 第一回単独公演 於:大手町三井ホール 2022年10月2日
01. All Too Soon
02. 花束
03. またたき
04. Emptyman
05. 光のあと
06. フーテン
07. コーラ・バナナ・ミュージック
08. あいもかわらず
09. Winter
10. ごはん
11. Thank you
12. I Don’t Have a Pen
13. Over Now
14. 差し色
15. Nevermore
16. 日々の手触り
17. 夜よ
Bialystocksメジャー1stアルバム『Quicksand』特設サイト Streaming
ご予約はこちらから
※価格、収録内容共に予告なく変更する事が御座います。
Bialystocks(ビアリストックス)
2019年、ボーカル甫木元空(ホキモト ソラ)監督作品、青山真治プロデュースの映画 「はるねこ」 生演奏上映をきっかけに結成。
Vo甫木元空のソウルフルで伸びやかな歌声で歌われるフォーキーで温かみのあるメロディーと、
Key菊池剛(キクチ ゴウ)によるジャズをベースに持ちながら自由にジャンルを横断する楽器陣の組み合わせは、普遍的であると同時に先鋭的と評される。
2021年1st Album 『ビアリストックス』 発表。収録曲「I Don’t Have a 1Pen」はNTTドコモが展開する「Quadratic Playground」のWEB CMソングに選出されている。
2022年4月には初の書き下ろしドラマ主題歌として「差し色」がテレビ東京ドラマ25「先生のおとりよせ」EDテーマに起用。10月には初のワンマンライブ『第一回単独公演 於:大手町三井ホール』を開催、即日ソールドアウトを達成。
11月30日メジャー1stアルバム『Quicksand』をPONYCANYON / IRORI Recordsよりリリース。
みのミュージック
YouTubeチャンネル「みのミュージック」は現在38.6万人登録者を誇り、自身の敬愛するカルチャー紹介を軸としたオンリーワンなチャンネルを運営中。
Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めており、今年5月には自身初となる書籍「戦いの音楽史」を発行し活動の場を広げている。
text&photo:照沼健太