松島聡
1997年11月27日生まれ、静岡県出身。A型。STARTO ENTERTAINMENT所属。アイドルグループ・timeleszのメンバー。音楽活動のほか、ドラマ、舞台・バラエティ、そして2023年には自身初となる個展『松島聡 コ。展』を開催するなど芸術分野でも活躍。多彩な活動の幅を見せている。

役作りは、自分との共通点を探していくことから
― 稽古にはまだ入っていない段階ではありますが、まずはこの『おどる夫婦』という作品への率直な想いをお聞かせください。
現時点では自分の役柄についても固めきれていませんし、未知数な点も多いです。タイトルに“夫婦”と入っていますけど、僕自身は結婚しているわけでもないので語れることも少ないんですけどね(笑)。蓬󠄀莱さんの作品は、以前『広島ジャンゴ2022』を観させていただいているのですが、現代社会においての人との関わり方といった、複雑な人間性をエンターテインメントにされていたので、その蓬󠄀莱さんの描き方ってすごく面白いなと思っていまして。夫婦間の関係性とか夫婦ならではの人間ドラマみたいなところを、蓬󠄀莱さんがどうやって描いていくんだろうという期待と楽しみな気持ちでいっぱいです。
ただ今回の作品、そして自分の役に関しては、もう少し抽象的というか難しそうな印象があったんですよね。なので、作品に対する理解度をどういう風に高めていこうかというのが、まずは今回の課題になってきそうだなとは思っています。
― 作・演出の蓬󠄀莱さんとは既に実際にお会いして、お話をされたそうですね。
はい。初めてお会いした時、「タイプロ(timelesz project)見てるよ」といっていただきました。特に推しは聞かなかったですけどね(笑)。とても気さくでフレンドリーな方だったので、距離を感じずにナチュラルに会話ができました。「聡くんの持っている人柄や雰囲気を役に反映させられたらいいなと思ってる」とも、おっしゃってくださったので、より楽しみになりました。
― これまでも舞台作品に出演されていますが、舞台ならではの面白さや難しさに関しては、どういうところに感じられていますか。
やはり自分自身ではない、もう一人の人間を演じるというところでしょうか。だけど僕、100%別人を演じることはなかなかできなくて、どこか自分とリンクできる部分を見つけて役と向き合っていく作業が好きなんです。今回も自分をうまく投影できる部分を見つけつつ、光也として生きることができれば、よりリアルに演じられるのではないかと思っています。
― たとえばどういったところが、光也という役のヒントになりそうでしょうか。
光也は、脳の病気で短期的な記憶がなくなってしまうという障がいを持っている青年なので、社会に出たいけど出られないことに対する葛藤もあるだろうと思いますし、いろいろなことに対して不甲斐ない気持ちにもなっているだろうし。そういう、言語化するのが難しいことを、役柄を通してどう伝えていくかが、まさにお芝居を通して表現していかなきゃいけないことですからね。そこをいかに自分らしく表現するのかについては、僕の中では読み切れない部分でもありますので、そこは蓬󠄀莱さんに引き出していただきたいなと思っています。
― 今回、長澤まさみさんがお姉さん役を演じられますが、どんな印象を持たれていますか。
まだ、テレビの向こう側の人っていうイメージです(笑)。ビジュアル撮影をする前にも一度、ちらっとご挨拶をさせていただいたことがあったんですが、飾らずにありのままでフランクに接してくださいました。同じ静岡県出身なので、まずは静岡愛をきっかけに会話をしていけたら。あと僕、実は長澤さんが出られていたドラマ『プロポーズ大作戦』が好きだったんですよ。当時リアルタイムで見ていて、学校で『プロポーズ大作戦』ごっこをやっていたくらい(笑)。もし、ご本人に嫌がられなければですが、青春エピソードとしてお伝えしてみたいなとも思っています。

苦しい時もある。それでも役者は「自分を更新する」必要な時間
― 松島さんの中で、グループとしての活動と、役者としてのお仕事とで、影響し合うことや刺激し合うことってありますでしょうか。
僕の場合は、切り離して考えているかもしれないです。そうでないと、うまく自分を保てない気がして。グループ活動の時はアイドルとしての自分に振り切っていますが、舞台に立つ際にはどちらかというと素の自分に近いというか。アイドルをやっている時も、もちろん自分なんですけどね。お芝居の稽古や本番中はどうしても自分自身を見つめ直す時間が長いので、知らなかった面を知ることができたり、弱いところや強いところ、内面的に恥ずかしい部分なども含めて徹底して考えたりするので。
― ということは役を演じる時には自分自身とじっくり向き合って、役作りをするタイプなんですか。
そうすることのほうが多かったですし、僕はそのやり方が合っている気がします。それが正しいやり方なのかは、わからないですけど。だから少し、苦しくなる時もありますね。
― 恥ずかしさや見たくない部分とも向き合わなければいけないから。
そうです。でも、自分という人間を更新していくためには必要な作業でもあるので、年1回程度はそういう機会を持てるほうが、むしろありがたいことのように感じています。
― グループ活動も舞台でのお仕事も、それぞれに醍醐味があり、辛さがある。
そうですね。わかりやすくいうと、舞台だと自分のファン以外の方も観に来られていて、そういう意味ではアイドルの現場は多少甘えられる環境ではあるのかもしれないですが、舞台ではそうもいかないというか。僕のことを何も知らないお客さんから、役や作品とのズレが出ていると厳しい意見をいただくこともありました。それに「本業はアイドルだもんね」といわれてしまうと、すごく悔しい。だから自分としては一旦それぞれを切り離して、しっかりと一人の役者としての役目を果たせるよう、自分自身と正面から向き合うことにしています。
― ちょうど、グループとしても新たなスタートを切るタイミングでもありますし、4月にはこの舞台も幕が上がります。アイドルとして、そして役者として、今年はどんな年になりそうでしょうか。
無事に終えたプロジェクトもそうでしたけど、とにかく人と関わる機会が最近はすごく多くて。その中で、自分の至らない点もたくさん見えましたし、逆にここが武器になりそうだなということも見えるようになってきました。人としての厚みを増してくれた人たちに出会えた期間でもあったので、そこで得たものをグループ活動や、お芝居に活かしていきたい。きっと今回のお芝居でも、素晴らしい方々とご一緒させていただくので、また新たな気づきに出会えそうな予感がしています。

松島流・舞台を楽しむポイントは演者の「目」を見ること
― 今回東京公演で上演される劇場は、新宿・歌舞伎町のTHEATER MILANO-Zaです。この劇場には、どんな印象を持たれていますか。
まず、近い!(笑)。演者さんとお客さんとの距離が、ものすごく近く感じる劇場だと思います。あと、音響のことは詳しくはわからないんですけど、音が出た瞬間に一気にその物語の世界に入り込める空気感があるなと思いました。一歩引いて観るというより、没入できる空間というか。だからたとえば、このお芝居のビジュアルをご覧になってちょっと遠いイメージで観に来られたお客さんが劇場に入ったら、予想外の近さを感じながら、より具体的にこの物語の世界観を楽しんでいただけるのではないかなと思いました。

― 何か舞台作品をご覧になったんですか?
昨年の『台風23号』を観させていただきました。僕、その時に初めて森田剛くんのお芝居をナマで観ることができたんです。僕にとって、森田くんのお芝居って映画『ヒメアノ~ル』(2016年)のイメージが強烈に残っていて。
― あれは、とんでもなく怖い役でしたね。
いまだにずっと怖いです(笑)。でも『台風23号』の時は怖さもありつつ、何を考えているのかわからない人で「ああいう役も演じられるんだ!」と、ものすごく痺れました。
― 映像で見る時と、舞台での演技とでは、また違ったんじゃないですか。
俄然、迫力が違いましたね。あと、声。フィルターを通して聞こえてくる声とナマで響いてくる声とでは、印象が全然違いますし。わりと僕は、お芝居をされている方のポイントとして目を見るタイプなんです。目の動きでその人の役が見えてくるというか。そこを注視するのが、すごく好きなんですよね。その点、THEATER MILANO-Zaでは座席の位置にもよるかもしれませんが比較的、目の動きがハッキリ見える気がしました。それに、横方向にとても広いわけでもないので、セリフをしゃべっていない演者さんがどういう芝居をしているかも追っていける領域が確保されているというのも、お芝居を見やすいポイントになるのかなと思います。
― 近いうちに、自分があの舞台上に立つんだと想像しながらご覧になっていたんですか。
はい。作品にも集中したいんだけど、「来年にはここに立ってるんだ」というイメージも把握しておきたかったもので、なんだかずっと緊張しながら観ていましたね(笑)。
― 実際にご自身が舞台の上に立たれている時は、どのようなお気持ちになられているんでしょうか。
「生きてるなー!」って感じがします。自分に合う場所、僕に求められている場所、僕が求めていた場所は結局、ステージなんだろうなと思うんです。だから、復帰した後に改めてステージに立った時も「自分の居場所はここ以外にはない」と思いましたし。キレイごとをいいたいわけじゃないんですけど、やっぱり自分の好きな場所はステージの上なんだということは、お客さんを前にするたびに、より強く思います。
― 『おどる夫婦』は夫婦、そして家族のお話でもあります。松島さんが思い描く、理想の夫婦とは?
理想の夫婦ですか。難しいですね(笑)。自分が両親に対して「ああしてほしかった、こうしてほしかった」と思っていたことを、自分自身で体現できる存在になりたいです。自分が両親に感じてきた感謝と、受けてきた愛情ももちろん大事に思いながらも、それに加えて、あそこの部分は欠けていたなと思うところが備わっている夫婦になれるのなら、理想といえるのかなと思います。
あと、究極的には会話をしなくても一緒にいたいと思えるかどうか、なのかなと。それは、メンバーにも感じていることでもありますね。言葉を発さなくても一緒にいて居心地がいい人って、いるじゃないですか。夫婦も、そういうことなのかなって。自分の弱い部分も強い部分も、恥ずかしいなと思う部分も全部を知っている相手。でも知っているからこそ、こっち側から言葉を発さなくてもそばにいてくれるだけで安心できる。それがお互いにとっていい夫婦といえるのではないか、と。……って、僕なんかが想像だけで夫婦を語ってしまいました、なんだかスミマセン!(笑)
Bunkamura Production 2025『おどる夫婦』
公演日程:2025年4月10日(木)~5月4日(日・祝)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
お問合せ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)
主催/企画・製作:Bunkamura
チケット料金:S席12,500円/注釈付きS席12,500円/A席9,500円(税込・全席指定)
チケット販売:Bunkamura
ヘアメイク:朝岡美妃(Nestation)
スタイリスト:渡邊奈央
文:田中里津子
写真:浦将志