十三代目 市川團十郎
1977年十二代目市川團十郎の長男として東京に生まれる。1983年5月に初御目見得。1985年に七代目市川新之助を名乗り初舞台。2004年に十一代目市川海老蔵を襲名。2013年には、自主公演「ABKAI」を立ち上げ、2015 年から始まった「六本木歌舞伎」などで次々と新作を創り上げる。海外公演は、2004 年に十一代目海老蔵襲名披露をパリ・国立シャイヨー宮劇場をはじめ、ロンドン、アムステルダム、パリ、モナコ、ローマ、シンガポール、UAE、ニューヨークで行い、いずれの舞台も大きな話題となっている。 2015年より東京2020 組織委員会文化・教育委員会委員を務め、2021年東京 2020オリンピック競技大会開会式へ出演。2022年に十三代目市川團十郎白猿を襲名。2001年芸術選奨文部科学大臣新人賞、2007 年フランス芸術文化勲章シュヴァリエ。
歌舞伎で描かれる安倍晴明の「光と闇」の世界

― 今回、團十郎さんが主演を務める『SEIMEI』は、安倍晴明の世界を新しい切り口で描く舞台。初心者の方も足を運びやすい、ショーアップされたエンターテインメントになりそうです。
今回の会場となるTHEATER MILANO-Zaがある「歌舞伎町」。この街の名前は、かつて歌舞伎の劇場を誘致する計画があったことに由来すると聞きました。これを機に、地元の皆様にも舞台をご覧いただきたいです。
― 『SEIMEI』の舞台は平安時代。「天下が乱れる」というお告げを受けた陰陽師・晴明が、平安京の四方を守護する朱雀・青龍・白虎・玄武の四神に都の結界を守るよう命じますが、朱雀が「人間を一掃すべきだ」と裏切り……都に侵入する魑魅魍魎や第六天魔王との戦い、精霊や神々との対話。壮大なスケールの世界が立ち上がりそうです。脚本のファーストインプレッションを教えていただけますか?
「私の力で、必ずこの世を、人間を守ってみせる」と力強く言い放つような晴明は、自分こそは人間の力を超越したところにいる――という自負のもと生きている人物です。けれどもさまざまな経験を経て人間であることを思い知り、そして自分を支配している精霊、さらに神々ですら、森羅万象、宇宙を形づくる要素の一つなのではないかと思い至る。晴明の目線で描かれた物語だと感じました。
― 台本を拝見すると、さまざまなことに葛藤する晴明自身の、心の中をのぞいていくような印象もあります。
そう、「光と闇」という二つの世界が提示され、晴明がだんだんと光の方へ到達していくようなイメージですよね。どこか幻想的というか、現実世界ではないような。と同時に、現代の映し鏡でもあって。ある意味、抽象性が強く「役者泣かせ」の台本でもあります。
― 役者泣かせ、ですか?
「役者泣かせ」にもいろいろな種類があって、例えばギリシャ悲劇の『オイディプス』のように膨大な台詞がある芝居も、ある意味「役者泣かせ」の一つでしょう。でも古典作品は、きちんとやりきりさえすれば、到達すべきゴールがある程度は見えている。でも今回のような新作は、そうした、わかりやすく向かうべきゴールが見えない中でのクリエイションになります。想像力を駆使し、咀嚼しながら、身体表現としての表現を探っていかなくてはいけません。もちろんこれは、やりがいでもあります。
世界に誇る日本の表現者たちが集結。伝統と新しさが交差する新しい試み

― 今作では、国内外で活躍するクリエイターの方々とのコラボレーションが実現します。
歌舞伎の場合は座頭(主役)が演出的な立場も兼ねますが、今回は広井王子さんが演出を手掛けられますので、私はいち役者として向き合いたいと考えています。世界的ミュージシャンのSUGIZOさん、ワールドワイドに活躍されるケント・モリさんが神楽振付で参加されるということで、この機会に「新しいことを学びたい」という気持ちもありますし。邦楽作曲には今藤長龍郎さん、歌舞伎音楽には田中傅次郎さんなど、普段歌舞伎の舞台で一緒になる皆様とも、こうした新しい企画でご一緒するのが楽しみです。
― キャストについても伺えれば。朱雀を演じる嶋﨑斗亜さん(Lil かんさい)の印象、そして期待するところも教えてください。
お会いした時の印象は、「とても可愛らしい方」です。あの若さと軽快さと瞬発力を、そのまま役に活かしてくだされば、と思いますね。私たち歌舞伎の人間はどうしても、伝統的な手法でカッチリとした演技を重視します。でも今回はこういった新しい試みの作品ですから、ある部分では彼の軽やかさに合わせたいなと。また嶋﨑さんも、こちらから影響される部分もあるでしょう。役者同士の本能的な部分でディスカッションしながら、一つの作品をつくりあげられたらと思います。
歌舞伎町の舞台で、市川團十郎が挑む安倍晴明の世界

― 今回、THEATER MILANO-Zaには初登場ですね。
そうなんです。昨年劇場に下見で伺い、東急歌舞伎町タワーにも初めて足を踏み入れました。エスカレーターで上階にある劇場に向かいながら、「歌舞伎からインスピレーションを受けたのかな?」と思わしき「新宿カブキhall~歌舞伎横丁」(2階のフードホール)を眺めて……極彩色とネオンで飾られたスペースで、海外の方もたくさん楽しそうに過ごされていましたね。
― 團十郎さんの新宿の思い出を教えてください。
ついこの間も子どもたちが「映画が観たい」というので、歌舞伎町にある大きな映画館にみんなで出かけました。新宿の外れにあるご飯屋さんにも昔からよく行くのですが……場所はナイショにさせてください(笑)。
― 世界に誇る日本の表現者たちが集結して贈る、新しい安倍晴明の世界……初日が楽しみです。
クリエイターの方々との意外なコラボレーションを通して、表現においても、お客さまにとっても、新しい出会いの場をつくるのが我々演者たちの役目でもあります。今回の舞台は、現代的な要素をふんだんに取り入れた作品になることでしょう。肩の凝らない作品となりますので、ぜひ足をお運びください。
文:川添史子
写真:平安名栄一
THEATER MILANO-Za公式サイトにてその他のエピソードも含めた記事公開中(記事はこちら)
JAPAN THEATER『SEIMEI』
公演日程:2025年3月1日(土)~3月23日(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
お問合せ:Zen-A(ゼンエイ) 03-3538-2300(平日11:00~19:00)
主催:株式会社3Top、テレビ朝日、ニッポン放送、読売新聞社
製作:松竹株式会社
運営協力:全栄企画株式会社
チケット料金:1等席12,000円/2等席9,000円/3等席4,000円(税込・全席指定)
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