10代とは思えない、末恐ろしいバンド
— 今回紹介いただくchilldspotとは、どんなアーティストでしょうか?
いわゆるZ世代のバンドで、めちゃくちゃ若いんですよ。この1stアルバム『Ingredients』は、資料に「10代の全てを注ぎ込んだ」と書かれているくらいですからね。でも、若いくせにめちゃくちゃ器用で、のびしろだらけの状態で、すでに良い作品を作っているのでみんな注目している。そんなバンドです。
— 最初に曲を聴いてからプロフィールを読んだので、「若っ」と驚きました。
僕もそうなんですよ。とても10代が作って演奏しているとは思えない。
— 曲の世界観も含め、早熟ですよね。
恋愛の歌詞とかも「高校生でそれ歌う心臓あるんだ!」って驚かされる内容で(笑)。俺が高校生の頃だったら顔真っ赤になっちゃって歌えないような曲を平気でやっている。すごいですよ。
— 3コードでパンクを鳴らす的な、一昔前の高校生バンドの世界観とは非常に遠いところにいますよね。
chilldspotを無理矢理ジャンルに当てはめるなら、ファンクとかR&Bの色が強いと思うんですけど、今の時代でそういう音楽やるならヒップホップ以降の感覚やネオソウル的な感覚を持っていないといけない。でも彼らは全部持っている。凄腕のドラマーとして知られるクエストラブが叩くような揺らいだドラムも平気で使っているし。
それって俺の世代からすると一周してやっとできることなんですよ。まずはストレートなR&Bのドラムを達人レベルまで極めてから、クエストラブみたいに崩すという流れだったはず。でも、彼らはその両方をすでにできている。
あと多分ジャズの素養があるメンバーがいるんだと思うんですけど、めちゃくちゃジャジーになる瞬間があるんですよね。それもロバート・グラスパーなどの近年の新しいジャズの潮流をちゃんと見た上で、無理なくそれをやれている感じがある。末恐ろしいですね。
早熟。しかし、たまに覗く若さも魅力
— 「chilldspotを聴くなら、まずはこの曲」という一曲を教えてください。
「未定」ですね。アルバムの中でも特に目立っている曲だと思います。シンプルな褒め方ですけど、メロがいいですね。そして、リズムに対して日本語の音を置く位置の選び方が上手いですよね。日本語って全部に母音があるから、何も考えないと昔の歌謡曲みたいに四分音符に一文字ずつ当てはめがち。でも、だからといって無茶なことをやりすぎちゃうと、日本語の良さがなくなってしまう。けれどもchilldspotはそんな日本語の良さを残した上での遊びが上手いと思います。
— ストレートすぎないし、奇をてらいすぎてもいない。早熟ですね。
でも、たまに「この年齢でしか書けないだろうな」という歌詞や曲もあって、それもいいんですよね。
— 大人のリスナーだからこそ楽しめるポイントですね。
そして意外とユーモラスなところがあるのもいいんですよ。ステーキを作るだけの曲もありますからね。ちょっと安い肉を工夫して美味しいステーキを作るっていう。CHAIに通じるユーモアを感じていいですね。
— 若者らしい“ノリ”を感じますね。
でも、飯を食うのを肯定しているところは、実はルッキズム打倒の文脈を持っているんじゃないかな?とも思っています。太ることの肯定というか。そういう「自己肯定をしていこう」っていうのは、やっぱり最近のキーワードやメッセージですからね。
ソロアーティストの時代に可能性だらけのchilldspot。バンドとしての魅力に期待
— ちなみにみのさんがchilldspotを聴いたきっかけは何だったのでしょうか?
僕がやっているApple Musicのラジオ「Tokyo Highway Radio with Mino」に新曲として送られてきて、最近のフレッシュなアーティストの中でも抜きん出ているなと思って何回か取り上げさせてもらいました。
— みのさんは職業柄サンプルをたくさん聴くと思うのですが、刺さる音楽の共通点はありますか?
うーん、難しいですね。でも、僕がもらっているサンプルってビジネス臭があんまりしないというか、直球の売れにいっている曲があんまりないんですよ。その中でもおもしろいと感じやすいのは、試みやコンセプト自体がおもしろいものですね。でも、chilldspotの場合はとにかく王道的にソングライティングと声が良かった。尖っているんだけどソングライティングが良いとなると、より広くいろんなものを巻き込んで大きくなっていく可能性を感じますね。ある種の王道っぽい空気をまとっている、風格みたいなものがありますね。
— ヴォーカル比喩根さんの声にも貫禄がありますよね。
ちょっとスモーキーな感じでいいんですよね。そして細かいビブラートが上手いです。フレディ・マーキュリーを筆頭に、細かいビブラートができる人が良いボーカリストだと思いますね。「いきなりそこと比べる?」って思われそうですけど(笑)。
— 今後chilldspotにどんなことを期待したいですか?
バンドとしての良さがすごく出ていると思うので、そこの軸を保ちつつも羊文学の塩塚モエカさんみたいに他のアーティストとどんどん絡んでいってほしいなと思いますね。羊文学はそういう塩塚さんの外での活動がバンドにフィードバックされてどんどん良くなっているので。
— 最後に、chilldspotの「こういうところに注目してほしい」という点をご紹介いただけますか?
僕は理屈っぽいので、いろんな切り口で話しちゃいましたけど、彼らと同世代の人は同じ目線で聞けるところがいちばん熱いポイントだと思うんです。だから、大人の分析をすっ飛ばして「自分たちのバンド」みたいな感じで聴いてほしいですね。そして、俺のようにちょっと上の世代のリスナーは、単純に「若いのにすごいアーティストが出てきた」と思いながら聴いてほしいです。
<chilldspotからのコメント>
この度は注目のアーティストとして私たちchilldspotを選んでいただきありがとうございます。
拝見させていただいているチャンネルでご紹介いただきすごく嬉しいです!
今回の1stAlbum『ingredients』は、振り幅の広い楽曲が集まった作品になったと思います。このタイトルは、日本語で”素材”という意味があり色々な思いを込めました。
メンバー1人ひとりが素材で、それをchilldspotというバンドで調理をしたらこうなるよっていう意味や、この曲たち自体が素材で、ここからさらに成長していくよっていう意味、聴いてくれた人が、このchilldspotの曲という素材をどう調理して自分の中に落とし込むかという意味。それを全部込めてこのタイトルにしました。色々な人に寄り添える曲が揃っているので必要とする人に届いたらいいなと思ってます。
また、このアルバムを引っ提げて10/3に渋谷WWWで初めてのワンマンライブも行いました。私たちの目標の1つに、ライブバンドになりたいという思いがあって、ライブでは音源とはまた違うアプローチをしていきたいと思っているので、これから機会があったらライブにも足を運んでいただけると嬉しいです。
chilldspot
chilldspotとは、chill , child , spot , potを組み合わせた造語。メンバー全員2002年生まれ。東京都出身の4人組みバンド。2019年12月に結成し活動開始。2020年11月1stEP『the youth night』を高校在学中にリリース。高校1年の頃初めて作曲した「夜の探検」を含む全7曲を収録。作詞・作曲も担当するVo.比喩根から自然と溢れ出すグルーヴと、異なる音楽ルーツを持つメンバー全員で形造る楽曲は、なぜか中毒性があり、一瞬で彼女らの渦に飲まれる。グルーヴとジャンルレスな感覚で自由に遊ぶネクストエージ。
みのミュージック
YouTubeチャンネル「みのミュージック」は現在33.3万人登録者を誇り、自身の敬愛するカルチャー紹介を軸としたオンリーワンなチャンネルを運営中。
Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めており、今年5月には自身初となる書籍「戦いの音楽史」を発行し活動の場を広げている。
text&photo:照沼健太