作家性とポップを両立する、新世代の感覚を持ったアーティスト
— 今回紹介していただく「Mega Shinnosuke」はどんなアーティストでしょうか?
Megaくんはとにかくポップですね。作家性を担保しつつポップな楽曲を作れるタイプの人というイメージです。系譜としてはKing Gnuやmillennium paradeの常田(大希)くんと近いところにいると思います。
— 音楽性としてはどんな特徴がありますか?
彼の音楽全体に当てはめるなら「ポップ」としか言いようがないですが、楽曲ごとにジャンルの話をするなら、1曲ずつ全然違うジャンルの音楽をやっていると思いますね。
ちょっと前に「若者がギターソロを聴かない」というトピックが話題になりましたよね。他にも「イントロが長いと聴かない」「曲のトータルタイムが長いと聴かない」とか。
— はい。音楽好きを中心に話題になりましたね。
そういう議論を別としても、何となく「みんな忍耐力がなくなってきてるのかな?」みたいな印象を、若い世代を中心に聞き手にも作り手にも感じる部分はあります。
けれども、Megaくんの音楽は、そういう風潮に対して「それでもいいじゃん」と、いい意味での開き直りみたいな、あっけらかんとしたスタンスを持っているように感じます。
— 集中力や忍耐力が減っているなら、それなりの音楽の作り方があるということですね。
実際、昨年出たアルバム『CULTURE DOG』についてのインタビューで「長いアルバムが聴けないから、短いアルバムを作りました」といった内容の話をしていたんですよ。
それを言える勇気はすごいと思いましたね。ミュージシャンとして、将来の創作の幅とか縛られてしまいそうじゃないですか?でも、そこをあっさり言ってしまう冷めた感じにはZ世代的な感覚を感じました。
サブスク以降のフラットな音楽的価値観を感じる
— 作品を聴いていても「Z世代的な感覚」は、強く感じますね。
楽曲にも表れていますよね。すごくいろんな音楽的な引用や情報が飛び出してくるんですけど、それら元ネタとMegaくん自身の強い連続性はあまり感じない。「おもしろいものがあったから手に取りました」ぐらいの、リミックスやサンプリング的な感覚で使っているんだろうなって気がして、そこが逆におもしろいんですよね。
— 「このアーティストに思い入れがあるから」とか「楽曲の持つテーマが共通しているから」みたいな感じではない、良い意味で軽やかな引用をしている印象を受けますね。
反射神経でやっている感じがしますよね。ある意味でとても現代的というか、サブスク時代のミュージシャンって感じがしますね。
— その一方で、前回紹介していただいた「Nagakumo」と対照的に、Mega Shinnosukeは音楽的ルーツがほとんどわからないですね。
特定のアーティストやジャンルから深く影響を受けるというより、「『○○○』って曲だけは好き」みたいな、1曲しか知らないアーティストから影響を受けたりしてるのかもって感じがしますね。
このあいだ、サイプレス上野さんと話していたら、車の運転を手伝ってくれている後輩の子に車内DJも任せているそうなんですけど、その後輩が作ったプレイリストはジャンルも時代も全部ぐちゃぐちゃになっていると言ってました。サブスク以前から音楽に触れている人間からすると「いや、そんなことしちゃダメだろ」と言いたくなるような内容らしいんですけど、本人は「えっ、これでいいんじゃないですか?」みたいな感じらしくて。
— ジャンルにもよりますが、優れたDJは音の雰囲気だけじゃなく、アーティストの関係性や、時代背景、楽曲同士の文脈なんかも読んだ上で選曲しますもんね。
そう。でも、サブスク以降のフラットな価値観では、そんな文脈は関係ない。Megaくんの音楽からもそんな感じがします。
もちろん、実際は深く影響を受けているアーティストもいると思うんですけど、過去の音楽それ自体はもはやサンプルネタでしかないくらいの感覚があるのかもしれないですね。アティテュード面では、非常にヒップホップ的とも言えるのかも。
元ネタを軽やかに引用し、パソコンを楽器として扱うソングライティング
— 読者に1曲すすめるとしたら、どの曲を選びますか?
『CULTURE DOG』に入っている「Sports」という曲です。
単純に僕がビートルズフリークだから、この曲を選んだんですけどね(笑)。サビ前に「Twist & Shout」の引用っぽい箇所があるんですけど、元ネタとの接続感が希薄なのが最高だと思います。良い意味で「なんとなくやりたくなった」的な気軽さというか、「別にそんなにビートルズ好きじゃないでしょ?」って感じの軽快な使い方(笑)。でも、そこが今っぽくていいんですよ!
— 今って、映画も音楽も、何でもかんでもハイコンテクスト化しているので「もう文脈とか、これ以上いいです!」っていう気分になるときがあるんですけど、そこに刺さる感じがありました。
お笑いもハイコンテクストな時代ですからね。そういう点で、Megaくんはアティテュード的にパンクっぽい部分があるかもしれないですね。
— 「Sports」は比較的ストレートなギターロックですけど、他の曲も聴いていくと、どうやって曲を作っているのか気になってきます。過去のインタビューを読むと、楽器については「ギターだけは多少弾ける」的な発言がありましたが。
今すごく増えている「一番得意な楽器はコンピューター」というタイプなんじゃないかなと思いますね。そういう人たちの作業を見せてもらうと、従来のMIDIキーボードを中心としたDTMと違って、鍵盤から離れたところで発想や作業を行なっているように感じますね。
— となると、サンプルやループなどのフレーズの素材を並べて、楽曲の骨格を作っていく感じですか?
そういう人が多いと思いますね。サンプル的な考えで曲作りをしたいのかなと。でも、Megaくんに関しては、楽曲を聴く限りかなりコード進行を意識している感じがするので、その点では旧来の作曲と地続きのソングライティングなのかも。そこは勉強しないと身につかないものだと思うので、どこで身につけたのかは謎として残りますが。
— 最後に「Mega Shinnosukeはこういう人におすすめ」というものがあれば、ぜひ。
これはもう、小難しいことを考えずポップな音楽を聴きたい人におすすめです。僕みたいなめんどくさいリスナーは、その裏側にあるものを読み取ろうと必死になってしまうのですが、ぜひカジュアルに聴いて楽しんでほしいです。
Vol.1 全員10代の末恐ろしきバンド「chilldspot」
Vol.2 日本の音楽ファンに“命題”を突きつける「民謡クルセイダーズ」
Vol.3 ゆらゆら帝国以来の衝撃。オルタナロックの系譜に立つ「betcover!!」
Vol.4 フォークソングとしての普遍性と攻めたサウンドの融合「ゆうらん船」
Vol.5 すぐれたポップセンスで日本語を響かせるバンド「グソクムズ」
Vol.6 天才と呼びたくなるシンガーソングライター「中村佳穂」
Vol.7 謎多き新世代ミクスチャーバンド「鋭児」
Vol.8 バンドサウンドとBento Waveを融合させる「ペペッターズ」
Vol.9 渋谷系の真髄に迫るネオネオアコバンド「Nagakumo」
Mega Shinnosukeさんからのコメント
推薦頂きありがとうございます!
今回の作品 EP『ハンサムなDANCE』を作り始めたきっかけは
一昨年僕が20歳になりクラブイベントに遊びにいけるようになり
音楽の聴きた方をまたひとつ学ばせてもらったんですけど
そのクラブで流れる音楽の中に僕の曲もあったら嬉しいなと思い制作を始めました。
しかし、普段から直感的に手探りで曲を制作しており”勉強”してみることが不得意なので
なんか結局ちょっと僕的にはクラブミュージックとは違うかなというかよく分からないものが出来ました。
でもそれでいいのかもしれないと思いました。
なんか一風変わった質感。なにかシーンを想定していても僕の作風になってしまう感じ。
僕は自分の感性が誇らしいです。
僕は変わらずこのままゴーイングマイウェイで音楽を楽しんで作っていきやす。次はロックをやります!宣言しときます!みのさんお楽しみに。
改めてMega Shinnosukeを推薦頂きありがとうございます!
DigitalEP「ハンサムなDANCE」
2022年7月13日Release
Mega Shinnosuke
2000年生まれの21歳。本名。東京生まれ福岡育ち。2019年4月より東京在住。作詞、作曲、編曲を全て自身で行う。2017年秋よりオリジナル楽曲の制作をスタート。00年代生まれならではのフットワークの軽さと、時勢をキャッチするポップへの嗅覚を武器に、どこか懐かしさもある印象的なメロディーをロック、シティポップ、ガレージ、オルタナ、ヒップホップなど、ジャンルを横断したサウンドに乗せる。音楽以外にも、アートワーク、映像制作に携わるなど、全てをセルフプロデュースで行う新世代のクリエイター。好きな食べ物はジェノベーゼと牛タン。どちらかというとジェノベーゼの方が好き。
みのミュージック
YouTubeチャンネル「みのミュージック」は現在36.7万人登録者を誇り、自身の敬愛するカルチャー紹介を軸としたオンリーワンなチャンネルを運営中。
Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めており、自身初の書籍「戦いの音楽史」を発行し活動の場を広げている。
text&photo:照沼健太