邦楽トップの才能を誇るシンガーソングライター
— 中村佳穂さんはどんなアーティストでしょうか?
ざっくり言うとシンガーソングライターです。主に鍵盤を弾かれているのですが、音楽性的にはソウルとかファンク系の要素が濃くて、大貫妙子さんあたりの70年代女性シンガーソングライターの系譜に位置づけることもできると思います。
昨年のNHK紅白歌合戦にmillennium parade × Belle(中村佳穂)として出演していましたし、この連載で扱うにはすでに有名なアーティストだとは思いますが、それでも世間での評価がまだ追いつききってない部分もあると思うので紹介させてもらうことにしました。
— みのさん的には中村佳穂さんのどんなところが魅力だと思いますか?
サウンドプロダクションへのこだわりが半端ないのがまたおもしろいですね。有機的でファンキーなバンド演奏の魅力もありながら、トラックメイカー的というか、DTM的な考え方でミックスしたような、新しくておもしろい音響を聴かせる作品をリリースされているんです。
その上でシンガーソングライターとして曲も歌声も良いので隙がないんですよね。本当にもう全部が良い。才能っていう点で考えると、邦楽シーンでもトップ中のトップだと思いますね。
— 軽々しく「天才」という言葉を使いたくはないですが、彼女に対しては思わず使いそうになります。
もう天才と言うしかないんじゃないのかなと思いますね。ソングライティングも結構ひねりが効いていて、すべてが半歩くらいシーンから飛び出している。そういう攻めた作風を持ちながらも、リスナーとちゃんと接点を持てているバランス感もいい。
もちろんすでに評価されているアーティストですが、先んじたことやっているので、そこに追いついてくるリスナーがどんどん増えていって、今後数年間かけてさらに評価されていくんじゃないでしょうか。
2022年ナンバーワン最有力候補となる新作『NIA』
— 中村佳穂さんの新作アルバム『NIA』は2022年最も期待されている作品のひとつですよね。
今年のナンバーワン最有力候補だと思います。2018にリリースされた前作『AINOU』は邦楽史に残るアルバムだと断言したい傑作でしたが、彼女の作品の作り込みを考えると『NIA』が3年ぶりの新作となるのも納得です。「さよならクレール」「Hank」などの先行曲も期待を上回るクオリティーでした。
— 最初の先行曲「さよならクレール」はリズム的にもかなり攻めたアバンギャルドな曲でしたが…
次の「Hank」はアコースティックな弾き語りみたい内容なんですよね。こういう路線はこれまでなかったし、ジョニ・ミッチェル(1960年代から活躍するアメリカを代表するシンガーソングライター)みたいな音で、「この人、こっちの方向性も行けるんだ」と驚きました。そしてめちゃくちゃかっこいい。
「さよならクレール」で『AINOU』を上回るような最先端の緻密なサウンドプロダクションを見せたかと思えば、「Hank」ですから。中村佳穂さんからの「こういうのもやるよ」というメッセージを勝手に受け取りました(笑)。
— 近年、海外を中心にジョニ・ミッチェル再評価の波が高まっている気がします。
評価はずっと高いんですけど、さらに上がってきているのは感じられるかもしれないですね。ジョニ・ミッチェルは良い女性シンガーソングライターの代名詞みたいなところがありますもんね。そして一聴すると古いフォーキーなシンガーソングライターって思われるかもしれないけど、よくよく聴くと曲の作りとかコードとかの動かし方がかなりとんがっている。
— ジョニ・ミッチェルは今聴いても本当に古くないですよね。
全然古くないですね。歌詞もトップレベルだし。本当にトップオブトップだと思います。
「あえて売れ線に走った曲」も聴いてみたい
— 読者の方に中村佳穂さんのおすすめ楽曲を紹介するとしたら?
個人的には『AINOU』に収録されている「きっとね!」という曲が好きなんですけど、このタイミングで紹介するなら「さよならクレール」、あるいは『竜とそばかすの姫』の主題歌でmillennium parade × Belle(中村佳穂)として発表した「U」もいいですね。
— ありがとうございます。最後に、今後中村佳穂さんにどんな期待をしたいですか?
現状、新作『NIA』がリリースされる前、「Hank」でちょっと新しい路線をチラ見させてもらった状況ですが、より幅広い音楽性も楽勝でモノにできる人だってことがわかったので、そういう音楽性の広がりは今後もすごく楽しみです。
これまでは作り込んだサウンドプロダクションの作品が印象的でしたが、生ピアノと歌、アコースティックギターと歌だけでもいけるし、それはそれでものすごく普遍的な作品になるだろうし。
あと、中村さんは売れようと思ったら楽勝でチャート1位とかバンバン取れちゃう人だと思うので、そういうスケベ心をたまに見てみたいなと(笑)。
— それは見てみたいですね。
そっちに振るのもそれはそれでおもしろいというか、ド直球のポップスを作る中村佳穂さんを見てみたいところはありますね。
中村佳穂『NIA』
2022.03.23 Release
[初回限定盤 (CD+Blu-ray)] 税込¥6,600
[初回限定盤 Blu-ray 収録内容]
・LIVEWIRE Streaming live(2020.9.12 sat)
・中村佳穂のげんざいち 2022 ~うたはじめ~LIVE PART(2022.1.1 sat)
・“Hank” from うたのげんざいち 2022 in東京国際フォーラム ホールA(2022.2.4 fri)
[通常盤 (CD)] 税込¥3,300
[トラックリスト]
01. KAPO✌️
02. さよならクレール
03. アイミル
04. voice memo #2
05. Hey 日
06. Q 日
07. ブラ~~~~~
08. 祝辞
09. MIU ※3/2 先行配信(情報解禁前)
10. Hank
11. NIA
12. voice memo #3
中村佳穂
数々のイベント、フェスの出演を経て、その歌声、音楽そのものの様な彼女の存在がウワサを呼ぶ京都出身のミュージシャン、中村佳穂。
ソロ、デュオ、バンド、様々な形態で、その音楽性を拡張させ続けている。
みのミュージック
YouTubeチャンネル「みのミュージック」は現在33.3万人登録者を誇り、自身の敬愛するカルチャー紹介を軸としたオンリーワンなチャンネルを運営中。
Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めており、今年5月には自身初となる書籍「戦いの音楽史」を発行し活動の場を広げている。
text&photo:照沼健太