よしもと本社とほど近い距離にある「凪」へ訪れたコットンの2人。24時間営業のこの店にかつてのコットン(当時ラフレクラン)は稽古前後でよく通っていたという。
西村:ネタ見せの前や稽古終わりの朝だったり、「ちょっと凪行くか!」って感じで、みんなである種の栄養ドリンクを入れるような感覚で行ってました。
きょんさんは、現EverybodyのタクトOK!!さん、西村さんは当時凪でバイトをしていた元東京NSC15期生の初代えーいちさん(現在は中目黒のラーメン店主)といった先輩らに誘われて訪れることが多かったそうだ。
きょん:ぼく一人だと絶対行かないようなお店だったんですけど、初めて連れてきてもらって最初にこの煮干し系ラーメンを食べた時に衝撃を受けました。一口食べるごとに煮干しの濃い感じにハマってきて。それからは僕も後輩を連れてきてました。先輩から下の子たちまで、吉本興業の文化というか、吉本芸人みんな1回は来たことあるんじゃないかな。
店に入って早速食券を買う2人。西村さんは「凪に来たら、食うのは『すごい煮干ラーメン』ですね」と麺硬め、味濃い目、油の量多め、ピリ辛の辛銀だれはピリ辛と、手慣れた様子で注文していく。一方のきょんさんは、朝10時からラーメン店で取材とわかっていたはずが、まさかの「前日夜にラーメンを食べてきた」と告白。塩味付けで麺硬め、味薄めの油の量少なめ、ノーピリ辛に麺の量も並の半分と、完全に胃を守る選択肢を取っていた。
手際良く調理する店員さんをカウンター越しに見つめるコットン。西村さんは「あの返しが大事なんだよなぁ……」「(調理器具の)レードルがまたおしゃれ!」「この赤味だれ(辛銀だれ)がうまそうなんだ」と矢継ぎ早に情報を出していく。一方のきょんさんはガン見しすぎて西村さんから「オペレーション、ガン見すんな!」とツッコまれ、「『オペレーション』って言うんだ〜」とトボけた様子を見せていた。
ラーメンフリークとしても知られる西村さん。実はきょんさんは、相方のインスタグラムをチェックしたり本人に電話をしたりしてラーメン情報を聞き出しているのだとか。
きょん:前までにっくんがインスタでラーメン以外の情報も載ってる“にしログ”ってやってたんですけど、アカウントにログインできなくなってやめちゃって。でも、今は“にしむラーメン”というアカウントでラーメンを紹介してるんですよ。
西村:もともとは「#イケ麺に貢ぐ人生」っていうタグにしてたんです。ホストに貢ぐ女性みたいな感じで、イケメンの“メン”を“麺”にして。そしたら、フースーヤーの田中ショータイムが「難しいハッシュタグ、やめてください。“ にしむラーメン ”でお願いします」って言ってきて。個人的にやってるのになんでそんなこと言われなきゃいけないんだ、って思いつつやってます。
きょん:絶対“ にしむラーメン ”のほうが良いよ。シンプルイズベストだよね。
西村:お前がこのくだりまで説明しないと! “ にしむラーメン ”はスベってるだろ! だから俺、お前の話を遮ってまで田中ショータイムの話したんだよ。俺一人がスベらされると思って。
きょん:なんか割り込んできたと思ったんだけど、なるほどね(笑)。
西村:新宿だったら、小麦の香りを楽しむつけ麺屋さんや新進気鋭のブランド店、淡麗キレキレ醤油の名店やノドグロラーメンを出す店など……ラーメンの激戦区になっていて、今アツいですね!
きょんさんは、ラーメン店の名が挙がるたびに「あそこ美味しいよねえ。好き」とシンプルな感想を挟む。隙あらば情報を盛り込む知的な西村さんと、どこか抜けているようで素朴な雰囲気を醸し出すきょんさんの好対照の雰囲気が印象的だ。
そして注文したラーメンが到着。「きたきた!」「うまそう!」と2人が沸き立つ。
二人分揃って、「いただきます」。「最高だ!」「めちゃくちゃうまい」と夢中になって麺をすすっていく。
西村:煮干しラーメンには灰濁セメントドロドロ系とサラサラ清流系があるんですけど、凪は両方の良さを適度に取り入れた、まさに“凪の味”といったオリジナル煮干しラーメンなんです。甘味、塩味、苦味、酸味、旨味、いわゆる五味のバランスもすごく良くて、完成度がずば抜けて高いと思います。
箸は止まらず、あっという間に完食。「ラーメンはめっちゃ早食いです。美味しいうちに食べたいですし」(西村さん)と満足げな表情を見せながら、朝から続々とお客さんが来店する凪を後にした。
「僕にとって新宿は“踊る街”」「芸人からあんま聞いたことねえよ」
2人は現在、改名してから初となるルミネtheよしもとでの単独ライブ「dress」を控えている。新宿や劇場の思い出、そして単独に向けた思いを聞いた。
— お二人にとって新宿の原体験や思い出を教えてください。
きょん:NSCの時は、新宿の居酒屋でアルバイトしてましたね。その居酒屋に水槽があったんですよ。超田舎もんの考えなんですけど「居酒屋に水槽があるってとんでもないな!」と思って、そこでバイトすることにしました。仲良い芸人と一緒にバイトに入ったんで、すごく楽しくて。しかも、そこのスタッフもみんな昔芸能の仕事を目指してたんで、すごく優しくしてくれました。急に仕事が入った時も「なんとかするから行って来い」って言ってくれて、めちゃくちゃやりやすい環境でしたね。
西村:僕は広島から上京してきて、初めて新宿に行ったのは19歳の時。大学のサークルでダンスやってたんで、新宿のクラブとかよく行ってました。あと、明治安田生命ビル。今から18年くらい前ですけど、夜になるとビルの下が暗くなってガラスに姿が映るから、ダンサーにとっての聖地みたいになってたんです。少し上の世代だとLDHの人も踊ってたらしくて、そこで踊るのはひとつのステータスだった。なので、僕にとって新宿は“踊る街”ですね。
きょん:そんなエピソード、芸人からあんま聞いたことねえよ。
— (笑)。歌舞伎町にはどういうイメージを持っていましたか?
西村:昔は日本一の歓楽街というイメージで、ちょっと怖いと思ってたりもしました。でも、芸人になってからはよく歌舞伎町で飲むようになりましたね。
きょん:若い時は朝まで稽古して、仕事もないんで開いてるラーメン屋さんとかで芸人仲間とどんちゃん騒ぎしながら飲んでましたね。とんでもなく金がないのに後輩を見つけたら奢らなきゃいけなかったので、店に入る前に外からコソコソのぞいたりして。後輩がいたら、店を変えたり缶チューハイ買って歩きながら飲んだりして……。
西村:あー、行儀悪いね(笑)。でもたしかに、今は違うけど、昔はちょっとモラルがハザードしてたイメージだったかもしれない。僕も稽古帰りに朝から先輩と歌舞伎町で飲んだりして、そんなふうに新宿は夢を語る街でもあると思います。
ただ、僕はNSC入る前に広島でアナウンサーやってて貯金もあったんで、金のない飲み方ってあんましてないんですよね。NSC入った1年目も家賃8万5000円のマンションに住んでたし。でもそれだとマズいってことで、一応芸人と一緒に住んで苦労エピソードを作ろうとしてました。
きょん:NSC時代に貯金あるのとか嫌だわ〜。
— 新宿×吉本興業というと、劇場の「ルミネtheよしもと」が象徴的です。お二人にとってルミネはどういう舞台ですか?
西村:今では月に3〜4回くらいコンスタントに出させてもらってますけど、やっぱり“東京のお笑いの劇場”といえばルミネだと思っています。毎回新鮮な気持ちで適度な緊張感があって、オーディションに立たされている感じなんですよね。ほかの東京の劇場と違って全国各地からいろんな層のお客さんが来て、スタッフさんも絶対に見てるので、俺らみたいなまだ世に出てない人間にとってはウケなきゃ終わり、って気持ちでやってます。
きょん:僕も、良い意味で慣れない劇場ですね。中川家さんとか村上ショージ師匠とか、すごく上の先輩とかもいらっしゃるので、楽屋でもがっつりリラックスモードにはならないです。あと、僕は素人的な部分があるんで、口には出さないですけど、テレビで見てた芸人さんがたくさんいて嬉しいです(笑)。この前も、くっきー!さんと銀シャリの鰻さん、インポッシブルのえいじさんと一緒にカードゲームをやりました。
西村:こいつ、「緊張する」って言ってますけど、全然そんなことないですからね。この前、ルミネの支配人とショージ師匠にコンビでご飯に誘われたんですよ。僕らみたいなひよっ子は静かに後を付いていくわけですけど、エスカレーター降りてるときに急にこいつが携帯見ながら「夢ならばどれほど良かったでしょう〜♪」って鼻歌歌い出したんですよ!ヤバくないすか!?
きょん:俺、『Lemon』歌ってたか。前ににっくんが見えてたから普段の感覚になっちゃったんだろうな。
西村:俺が本当に、夢ならばどれほど良かったでしょうって思ったわ! ルミネで藤崎マーケットさんと初共演する時にご挨拶させてもらった後も、お二人とすれ違う時に「ラララライ♪」とか歌い出したんで、俺が「ライ!ライ!(肘で小突く)」ってツッコんで。
きょん:ミーハーだからか、そういうのついついやっちゃうんですよね(笑)。
— きょんさんにとって、ルミネは憧れの芸人さんに会える場所でもあるんですね。
きょん:大学生の時に、すごいお笑い好きの女の子と付き合っていて、彼女に連れられて初めてルミネに行ったんです。そこで、カナリアさんや御茶ノ水男子さんを見て爆笑して。特に、御茶男さんはほかの出演者の都合で急遽中説をやってたんですけど、それがめちゃくちゃ面白くて、帰り道に彼女もずっと御茶男さんの話をしてました。あまりにも彼女が褒めるから途中から悔しくなっちゃって(笑)。
それが直接的なきっかけになって芸人を目指したわけじゃなかったんですけど、ずっと憧れがありました。芸人になってから御茶男さんと直接話す機会もあって、当時の話をしたらご本人たちもそのことを覚えていて、すごく嬉しかったですね。
— ルミネはきょんさんの夢の始まりでもあるし、その夢を叶えた場所でもある。
西村:……すいません、ちょっと説明不足ですね。今、きょんがルミネで衝撃を受けて、直接お笑いという夢につながったわけではないけれど、その時の火種をずっと灯したまま、今その火がしっかりと燃えているっていうストーリーでまとめようとしましたよね?
— すごくキレイにまとまったなと。
西村:危ない危ない。話聞いてる間、ずっと我慢してたんですけど、本当のこと言いますね。こいつ、一回その火種が消えて、社会人になった後、ワタナベエンターテインメントの俳優コースに入ってますから。本当は俳優でいきたかったんですよ。お笑いへの夢、美しい、みたいなのマジで全然違う!こいつの夢は武道館で歌うことなんで。
きょん:なんでそれ言うんだよ! あと、夢は武道館とTGC(東京ガールズコレクション)ね(笑)。
— (苦笑)。そんなお二人にとって縁深いルミネで、6月11日にコットン第2回単独ライブ「dress」が開催されます。ラフレクランから改名し、コットンとしては初のルミネでの単独ライブということで、そこにかける意気込みをお教えください。
きょん:実はコットンになってすぐの頃にルミネで初単独をやろうと考えていたんですけど、コロナ禍で一回流れてしまったんです。その後、我々が所属する渋谷・無限大ホールで第一回目をやりました。ただ正直な話、コロナで結構お客さんが離れてしまって、今回もチケットが売れるか心配だったんです。蓋を開けてみたら会場チケットは完売でひとつ安心したんですけど、やっぱり緊張はしています。ルミネは腕を組んだ大人もいっぱい見るので、その人たちを笑わせなくてはいけないっていうプレッシャーもある。だから、ルミネは自分たちの成長につながる劇場ですね。……あれ、意気込みって質問でしたっけ?
西村:うん、大丈夫大丈夫。
きょん:オンライン配信もあるので皆さん見てください! あと、一個だけいいですか? もうここで言っちゃおう……! いいですか? 実は……打ち上げもやります!!
— ……?
きょん:あ、お客さんと打ち上げやるってことです! 当日ではないですけど、オンラインサロン内でZoomを使って、単独ライブの打ち上げ会として俺らも酒飲んで乾杯するっていう。ほかの芸人さんがなかなかやっていない試みなので、ぜひ皆さんオンラインサロンに入ってください。
西村:うん、言ってることは全然間違ってないです。ただ、声量とトーンだけ間違ってた。
— (笑)。では、最後に西村さんからも意気込みをお願いします。
西村:今までの単独ライブはただ僕らが面白いことをやるということで、表現がいろんな方向に散っていたり、ある種独りよがりだった部分もあったように思うんです。でも、今は自分たちの持つ技術や表現の仕方がなんとなくわかってきて、初めて「dress」という一つのコンセプトの下で60分のエンターテインメントのショーとして作っています。これまでと違ってすべてきょんと入念な打ち合わせをして、ライブの演出や空気感、笑わせどころも少し変えています。
ある意味、これがコットンとしての本当の出発点でもあり、「コットンってどういうコンビ?」というのを知れる一枚目の名刺となる公演だと思います。芸人として10年目を越えて、ただ笑えて面白いなんていうのは当たり前で、そこにある機微や趣、言葉で表せない感情といった余韻に浸ってもらえるようなライブにしたいと思っています。
コットン
西村真二(にしむら・しんじ/1984年6月生まれ、広島県出身)と、きょん(1987年11月生まれ、埼玉県出身)のコンビ。東京NSC17期の同期で2012年に結成。2021年、「ラフレクラン」から現コンビ名に改名。
コットン│MOSH(モッシュ)
ライブ『dress』
Photo:映美
Text:須賀原みち
Edit:斎藤岬