演出はミュージカル、ストレートプレイからノンバーバルまで、さまざまなジャンルの作品を手掛け、東京2020パラリンピック開会式の演出で世界的にも注目されたウォーリー木下が担う。本作にて2024年の地球に生きる主人公・星真一役に挑む井上瑞稀に、作品にかける思いや自身と役との共通項などについて語ってもらった。
井上瑞稀
2000年10月31日生まれ。KEY TO LITのメンバー。2023年3月に『LOSERVILLE(英語版)』で舞台単独初主演を務めるなど、アイドルに加え、俳優業も精力的に活動中。

僕も真一も自分の意見を押し出すのは苦手なタイプ
― 『W3 ワンダースリー』の台本を読んだご感想をうかがえますか。
まだ稽古に入っていない段階なので現時点での印象ですが、宇宙人や動物など人間以外のキャラクターも登場しますし、手塚治虫さんの漫画が原作ということもあり、SF的な展開が多い作品だと感じました。これを演出のウォーリー木下さんが舞台でどう表現するのか、今からワクワクしています。劇中で歌う場面や、身体を動かすステージングもありますから、言葉だけでなく歌や身体表現で作品をどう表現していくのかも自分にとって課題のひとつになりそうです。共演者の方たちがそれぞれ個性的な役をどう演じるのか拝見できるのがとても楽しみな半面、出演者の中で僕が一番頑張らなくてはいけないのは間違いないと思っています、頑張ります。
― 井上さんが演じる地球の青年・星真一とご自身との共通項はありそうですか?
真一の年齢設定も含め、比較的、自分と近いと感じました。僕はあまり自分の意見を強く押し出せるタイプではないのですが、真一もそういう性格なので、もしかしたら僕の個性に真一のキャラクターを寄せてくださったのかもしれません。あと、劇中に登場人物が動物に変身する場面もあるのですが、もし、自分が何かの動物に変身するとしたら猫です。基本、マイペースなところが猫とそっくりなので。
― 真一は漫画を描くことが好きな青年です。
自分で漫画を描くことはないですが、読むのは大好きです。最初にハマったのは『SLAM DUNK』ですね。父親がバスケをやっていた影響で、幼少時から全巻自宅にありました。キャラクター的には三井推しです。あの圧倒的な強さに憧れますが、僕にはキャパが足りないので自分でやってみたいとは思えないです、だって三井を演じるなんておこがましいですから(笑)。
演出家・ウォーリーさんからのアドバイスで違う世界が見えた

― 『W3 ワンダースリー』演出のウォーリー木下さんとは『ルーザーヴィル』(2023年)でも組まれていらっしゃいますね。
『ルーザーヴィル』の時は、僕の方に(演技に対する)迷いのようなものもあって、ウォーリーさんにいろいろ教えていただきました。この作品の出演が決まってからまだゆっくりお話できていないのですが、先日、同じ舞台を観劇した際にご挨拶できて嬉しかったです。
『ルーザーヴィル』で特に記憶に残っているウォーリーさんからのアドバイスは「相手の言葉をよく聞く」です。僕、稽古中に周囲に迷惑をかけてはいけないと、自分のセリフのタイミングばかり考えていて、相手役のセリフをきちんと受け止められていなかったんです。本来は相手役の言葉を「受け」て、自分の中に生まれたものを足して相手に「渡す」ことが大切なのに。ウォーリーさんからそこを指摘され、自分の演技が相手役との交流の上で生まれたものではないことに気づかされました。それまではどこかでその過程を飛ばしてしまっていたんですよね。
― ウォーリーさんからのアドバイスでご自身の演技にどんな変化を感じましたか?
これまで自分が無理なく舞台で演技ができていたのは、共演者のみなさんがすごい人たちばかりだったからで、僕に合わせてくれていたのだとわかりました。「相手の言葉を聞く」ことを意識するようになってから、芝居ってみんなで作っていくものだとあらためて腑に落ちた気がしますし、今回、ウォーリーさんとまた組ませていただけることになったので、もっと深いところまで突き詰めて真一という役を演じたいです。ただ、お芝居の話はできてもウォーリーさんのパーソナルな部分はまだうかがえていないので、今回はそこも聞ければと思っています。普段、どんな生活をしているのかまったく見えない方ですから。
― 真一の兄・光一を演じる平間壮一さんとは取材でお話になったとうかがっています。
平間さん、めちゃくちゃ優しく接してくださって、僕はすでに“お兄ちゃん”だと思っています。今回、ご一緒させていただけるのが本当に心強いですし、稽古に入っていろいろ教えていただけるのが楽しみです。
― 他の共演者の方とはまだお会いになっていない?
そうですね、ヴィジュアル撮影の時もひとりでしたし、今回は初めましての方ばかりなのでどんな稽古になるのか緊張しています。あ、でも今、配信ドラマの『ガンニバル』にハマっていて、西村邦寿役を演じていた永田崇人くんと共演できるのが嬉しいんですよ。ドラマを観て一方的に永田くんのことを知っているつもりになっているので。
時代を映すSF活劇、気負わずに観てほしい

― 2024年の『劇走江戸鴉~チャリンコ傾奇組~』では橋本涼さんとのダブル主演でした。今回は井上さんおひとりでの座長になりますが、先輩からアドバイスなどはもらっていますか?
わあ、そうですよね。ただ今回は座長ということを一旦忘れて、役や作品と向き合うことを第一に考えようと思っています。とはいえ、座長ってみんなに差し入れとかするんですよね、どうしよう、僕、ノープランです(笑)。そういえば、楽屋の暖簾についてもまだ考えていなくて、お願いできるのであれば井ノ原(快彦)さんに相談したいのですが、どうなるかなあ(笑)。公演中の楽屋での過ごし方にも特にルーティンなどはないので、きっと眠っていると思います。
― 『W3 ワンダースリー』東京公演は東急歌舞伎町タワー内のTHEATER MILANO-Zaで実施されますが、歌舞伎町や劇場でのエピソードなどありましたら教えてください。
歌舞伎町の映画館にはよく足を運んでいました。残念ながら、THEATER MILANO-Zaにはまだお邪魔できていないので、自分が舞台に立たせていただく前に機会があれば観劇などでうかがいたいです。東急歌舞伎町タワーには体感型アトラクション施設「THE TOKYO MATRIX」もありますよね。そこには以前、番組の企画で行ったことがあります。その頃は『ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-』をやっていて僕も遊ばせてもらったのですが、すごく難しくてクリアできなかったです(笑)。でも、全身を使ってバーチャル空間の中で遊ぶあの感じ、めちゃくちゃ楽しくてテンション上がりました。
― ありがとうございます、もうじき『W3 ワンダースリー』のお稽古も始まりますね。
僕自身、まだ手探りの部分も多く、ウォーリーさんや共演者のみなさんのお力を借りながら作品や星真一という役と向き合っていければと思っています。未来に向けてのメッセージを宿した作品だとも感じていますが、視覚的な効果などもおもしろくなりそうですから、あまり気負わず観に来ていただければ嬉しいです。
W3 ワンダースリー
公演日程:2025年6月7日(土)~6月29日(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
お問合せ:チケットスペース 03-3234-9999(10:00~15:00)
主催:フジテレビジョン、ミックスゾーン、キューブ、シーエイティプロデュース
チケット料金:S席12, 800円/A席11,000円(税込・全席指定)
URL:OFFICIAL SITE / THEATER MILANO-Za
ヘアメイク: 浅津陽介
スタイリスト:小林洋治郎
文:上村由紀子
写真:浦将志