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年間50公演通う“謎解きオタク”NON STYLE井上裕介流・東京ミステリーサーカスの歩き方|吉本芸人×歌舞伎町 Vol.2

歌舞伎町

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アミューズメント お笑い 吉本芸人×歌舞伎町
DATE : 2022.05.06
吉本興業の多くの芸人たちにとって、「ルミネtheよしもと」からほど近い歌舞伎町は馴染み深い街だ。それぞれにお気に入りのスポットや思い出の店がある。本人アテンドのもと、そうした場所を巡っていく連載第ニ回は、「東京ミステリーサーカス」×NON STYLE井上裕介さん。
「東京ミステリーサーカス」は、地下1階から5階までリアル脱出ゲームをはじめとする体験型ゲーム・イベントが楽しめる“世界一謎があるテーマパーク”だ。年間50公演の謎解きに参加する謎解きファンである井上さんは、オフの日はここで丸一日過ごすこともあるという。東京ミステリーサーカスの楽しみ方をレポートしてもらった。
『ある隠し金庫からの脱出』(2階)にて。井上さんはすでにプレイ済とのこと。

近年、クイズや謎解きがブームになっている。そんな中、新宿・歌舞伎町で謎解きファンを夢中にさせているのが、「リアル脱出ゲーム」などで知られる株式会社SCRAPが運営する東京ミステリーサーカスだ。
2017年に開業した本施設は、「世界一謎があるテーマパーク」というキャッチコピーの通り、ビルの地下1階から5階まで常時15種類以上の体験型ゲーム・イベントが開催されている。そしてこの“リアル脱出ゲーム好きの聖地”ともいえる場所に足繁く通っているのが、お笑いコンビ・NON STYLEの井上裕介さんだ。
実は井上さん、謎解きの大ファンとして知られている。参加後に自身のアメブロにアップしている公演レポートの数だけでなんと320件以上。好きが高じて、現在、東京ミステリーサーカス内で体験型ゲーム・イベント『NON STYLE 井上からのラブレター』を開催中。全面協力という形でもはや制作者にまでなっているのだ。
今回は、そんな井上さんに東京ミステリーサーカスを案内してもらい、その魅力について思う存分語ってもらった。

「おはようございます!」と、1階のミステリー広場に颯爽と登場した井上さん。もはや顔見知りのSCRAPスタッフと挨拶を交わし、勝手知ったる雰囲気でさっそく建物内を進んでゆく。
最初に訪れたのは、地下1階の「ヒミツキチラボ(大ホール)」。いわゆるホール型と呼ばれる「リアル脱出ゲーム」が楽しめるスペースだ。定期的に公演内容が変わるものの、多くは数名のグループを組んで2時間程度の謎解きに挑んでいくこととなる。取材時には『謎だらけの孤島からの脱出』(2022年4月17日まで)が開催されていた。

『謎だらけの孤島からの脱出』の様子。意味ありげな物体があちこちに配置されている。

「プレイ済です! 僕のチームは完全クリアできました。最後の大謎はラッキークリアって感じでしたけど」と、さすがすでに攻略済とのこと。「普段プレイしているときの感じでお願いします!」とカメラマンが注文すると、テーブルに置かれたリーフレットを読み込んだり、「こういうところにもヒントがあったりするんですよねぇ」と会場内の様子をじっくり観察したり。完全に動きが“リアル脱出ゲーム慣れ”した人だ。
「柱の本数やセットの特徴もチェックしておくといいんですよね」

『謎だらけの孤島からの脱出』にて、普段プレイするときの様子を再現してくれる井上さん。

「ハマったのは、10年くらい前に仕事で『リアル脱出ゲームオンラインREGAME』をやったのがきっかけ。SCRAP代表の加藤隆生さんが現場にいて『めちゃくちゃ面白かったです!』と話したら、常設イベントにお誘いいただいて、それから通うようになりました。最初は全然クリアできなかったけど、“謎を解く”というひとつの目的の下、みんなでワイワイ協力するのが楽しかったんですよね。
それと、例えばルーム型と呼ばれるイベントだったら、机をひっくり返したりフローリングの木目を剥がしたり……普段絶対にできないようなことをゲーム内でなら体験できるのも楽しさの秘訣かな」
ハマって以降、10年間で約500公演、1年あたり50公演とほぼ週イチで謎解きをしている計算だ。「ガチ勢ですね」と言うと、「僕なんて全然! 全体の成功率でいうと、50%くらいちゃうかな」と笑いながら首を振る。
「僕はどちらかというと、クリアできる/できないより、参加したみんなが楽しくできるのが一番だと思ってます。参加人数を満たしたグループで行くこともあれば、2〜3人、もしくは一人で参加することもあるんですけど、不思議なもんで公演が始まってしまえば、初対面の人とも打ち解けられるんです。プレイする中で、自然と褒め合ったりするからかな?」

脱出後のフォトスポットでパシャリ。

「“ガチ勢”ではなく“エンジョイ勢”」を自称する井上さんは、一緒に行く人によってプレイスタイルも変えている。経験豊富な井上さんが後輩芸人や仕事関係者を誘って司令塔としてゲームを楽しむこともあれば、クイズ作家などの“ガチ勢”と行くときはメンバーの手足となってチームに尽くす立場になる。
「謎解き未経験の人は『謎を解いた人がヒーローになれる』と思いがちなんですけど、実は『謎を解くためのヒントを見つけた人がヒーローになれる』んですよ。手がかりを見つけるのが難しい中で、初めて参加した人の何気ない一言が最後の大謎の答えにつながってきたりする。なので、エンジョイ勢の僕としてはグループのみんなが発言しやすい空気感を作るようにしています」

施設内を探索しながら謎を解く体験型イベント『SCRAP×うんこドリル うんこ謎解きプロジェクト』の一箇所にて。ポップなうんこがかわいい。
連続する9つの部屋を脱出する『Escape from The NINE ROOMS 止まらない豪華列車からの脱出』。車両にはいくつもの仕掛けが。

別の階には、一人や少人数で参加できる「リアル脱出ボックス」や『Escape from The NINE ROOMS 止まらない豪華列車からの脱出』、また施設内を巡って時間無制限で謎を解く周遊型の謎解きも多数設けられている。井上さんは、オフの日に東京ミステリーサーカスを訪れて丸一日過ごすことも少なくないという。周遊型のイベントやコンパクトな公演で遊びながら、定時での開催となる大型公演に参加するなど、完全に楽しみ方を知り尽くしている。
そして、開催中の『NON STYLE 井上からのラブレター』もそうした周遊型イベントのひとつだ。

周遊型ゆえ、館内のあちこちに井上さん関連のパネルや展示が。こちらは2階の年表。

「初めての人でも解けて、誰でも楽しめるようにしたかったんです。謎解き初心者にはちょうどいい難易度になってると思います」と、自身の等身大パネルの前でキメ顔で語る井上さん。なお、撮影中に通りがかったお客さんたちが井上さんに気づき、声を潜めて色めき立っていた。
「いろいろアイディアを出しました。予算の兼ね合いでつくるのが難しいギミックもあったんです。僕の顔パネルにキスしたら温度変化を感知して、パネルから言葉が出てくるとか(笑)。そういう制約もある中で、僕らの想像を超えて満足できる謎を作り上げるSCRAPは本当にすごいと思いますね」
最後までキメ顔のまま、コラボイベントの裏話を語ってくれるのだった。

1階に置かれた自身の等身大パネルと。

東京ミステリーサーカスには、プロジェクションマッピング技術を応用した「Projection Table Game」やタブレット端末を利用した謎解きなど、最先端技術を活かした公演も多い。「エンターテインメントの可能性をすごく見せてくれますよね。プレイしていて、お笑いにも活かせる部分がある」とプロ意識を垣間見せる。
「謎解きって、いかに没入させて集中させることで最後の大謎への伏線に気づかせないようにするか、というところがあるんですよ。それってお笑いも似ていて、お客さんの目に見えるところに集中させておいて、見えないところからボンと面白いものを出して予想外の笑いを生み出したりする。そういう共通点を感じますね」
芸人ならではの見方を語りながら、どんどん建物内を歩く。東京ミステリーサーカスには、初めて訪れた人におすすめの公演や楽しみ方を教えてくれる案内役「TMCコンシェルジュ」が常駐している。実は今回の取材でも案内をお願いしていたのだが、井上さん自らのプレゼンに、コンシェルジュさんも「本当にお詳しいですね!」と感嘆しきりだった。

バースペース「Standbar777」にて。「ここで飲んでみたいなぁ」。

しかし、5階のバースペース「Standbar777」の前へと移動した時、今回の取材で初めて「これ何? 知らへんのやけど」と驚きの声が。それもそのはず、謎解きの合間にお酒を楽しめる「Standbar777」はオープンしてすぐにコロナ禍の影響で休業となっていた(本取材後、3月25日よりリニューアルして営業を再開)。
「コロナ禍以前は、謎解き後によく近くの飲み屋で反省会や感想会をやってました。今回は誰が一番活躍したかとか、あの謎のヒントを見つけてきた人がMVPだとか、ああでもないこうでもないって喋るのが楽しい。芸人仲間と『自分たちで作るとしたら、どんな謎解きにするか』って話もようします。僕にとってリアル脱出ゲームのゴールはクリアじゃなくて、終わった後の飲み会(笑)。早くそんなんができるようになればいいですね」

館内を歩き回った後は1階のカフェスペースで休憩。

施設内を一通りめぐって、1階のミステリー広場へ戻ってくる。1階にはカフェ「HIMITSU COFFEE」があり、ここで提供される軽食やドリンクにはなんと“謎”のトッピングがあるのだ。しかもスイート/ビター/スパイシーと、難易度は三段階。「これはまだやったことない!」という井上さんに、チャレンジしてもらった。

“謎”を渡されるやいなや、解きにかかる。

一番簡単な“スイート”と中難易度の“ビター”は危なげなくサクサクとクリア。しかし高難易度の“スパイシー”にはやや苦戦を強いられ、「言葉がわからへん(笑)」と頭を抱える一幕も。なんとか解き終わって、「僕はシンプルにアホやからちょっと手こずりました」と苦笑する。

歴戦の猛者だが「スパイシー」では苦戦!

「謎自体はいっぱい解いてきたんで、解き方は早めにわかるんです。でも、解くために必要な知識がないことがあるんですよ。それでもグループでやるときは、ほかの人に補ってもらって力を合わせればクリアできる。謎解きは年齢や技術の差が出ないので、平等に楽しめます。ほんで、ちょうど手が届くか届かないかのラインにうまいこと設定されてる。この難易度設定が絶妙なんです」
そこまで話してSCRAPスタッフのほうをチラッと見る井上さん。「こんなん言っていいのかわからんけど……」と前置きした上で「なんていうか、高嶺の花じゃなくて、頑張れば自分にも振り向いてくれそうな女性って感じなんですよね(笑)」と、コンプライアンスをしっかり意識しつつ“らしい”表現で説明してくれた。
「未経験の人からは『何がそんなに楽しいねん?』ってよう言われるんです。けど、こればっかりはもう一度味わったら抜け出せない。僕もいろんな人を連れて行って、9割くらいは沼にハマってますね」
満面の笑みでそう話し、東京ミステリーサーカスめぐりは終了。約1時間の行程中、リアル脱出ゲームへの愛あふれる語りは止まらなかった。
最後に、自身のコラボイベント開催までこぎつけた謎解き愛好家としての今後の野望を聞いてみた。
「SCRAPは過去に新宿の街を歩く周遊型イベントをやってきてるんですよね。新宿には劇場の『ルミネtheよしもと』があるし、みんなで力を合わせて今の世の中を明るく楽しくできるようなイベントがやれたらいいなと思います。
東京ミステリーサーカスで謎解き用のキットを受け取った後、ルミネで寄席を楽しんでもらって、その回のトリのネタの中に“謎”が含まれてる、とかね。そこでヒントを手に入れて、さらに新宿の街に謎を解きに繰り出していくイベントができれば完璧ですよね。ただ、みんな謎を解くことに集中するから、トリの1組はどんなに面白いネタをやっても絶対ひと笑いも取れないのが難しいところかも(笑)」
いつか新宿を舞台に“謎解き”と“笑い”というエンタメのコラボレーションを体験できる日がやってくるかもしれない。

東京ミステリーサーカスがオープンした際から人気を博し、3年間で17万人を動員した『ある刑務所からの脱出』。昨年復活したこちらも井上さんは当然プレイ済。捕まった演技をしてくれた。

井上裕介(いのうえ・ゆうすけ)

1980年3月1日生まれ、大阪府出身。2000年に高校の同級生・石田明とNON STYLEを結成。2008年、『M-1グランプリ』第8代チャンピオンに輝く。『NON STYLE井上のバズらせJAPAN』などにレギュラー出演中。

NON STYLE井上 Official Blog

Photo:映美
Text:須賀原みち
Edit:斎藤岬

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