伊藤さんがアメカジにハマったのは6〜7年ほど前。それまではまったく興味がなかったという。しかし、バイク好きが高じてハーレーダビッドソンを購入した際、後輩であるフルーツポンチ亘さんから「ハーレーに乗るなら、そんな服着てちゃダメです。今ある服は全部捨ててください」と言われ、アメカジ沼へと足を踏み入れることとなった。それ以降どっぷりのめりこみ、新宿西口駅からほど近いこの「JUNKY SPECIAL」にも足繁く通うようになったそう。
伊藤さんは店長と話しながら、店頭に並ぶ定番のチェックシャツやアロハシャツ、スカジャンをチェックしていく。アロハを筆頭に派手な柄物シャツが並ぶ中、「ゆりやん(レトリィバァ)が『R-1グランプリ』で優勝したときに虎の柄シャツ着てて、今はゆりやんのイメージが強い」とシャツを見ながらこぼす伊藤さん。店長によれば、今やアメカジ好きの芸人は本当に多いという。
伊藤さんのこの日の私服も、数年前にこのお店で買った虎柄のピンクのスカジャン。そのブランドであり、アメカジ好きの中では知られた存在のメーカー「東洋エンタープライズ」を激賞する。
伊藤:アメカジって、昔あったモデルを再現してるものが多いんですよ。その中でも東洋エンタープライズのスカジャンはクオリティが高く愛用しています。僕は虎柄が好きで、スカジャンの昔の刺繍の感じだったりスカジャン独特の雰囲気ある虎がヘタウマな味になってたりするのが、可愛いんですよね。
一方の福田さんは「ファッションへのこだわりが本当にまったくない」と言いながら、店内をなんとなく物色している。この日の私服は全身黒というワントーンのファッション。「中学生みたいなこと言いますけど、アウトレットで適当に良さそうなやつを買ったり、誰かにもらった服とか着てます」と苦笑する。
そんな対照的な2人に、編集部から「それぞれ気になる服を試着してほしい」との要請がかかる。伊藤さんは、以前から気になっていたという青色の生地に虎の刺繍がドーンと入ったスカジャンをセレクト。お目当てのスカジャンの着心地をチェックすべく、こなれた感じでさらっと着こなしてみせる。
かたや、「選ぶ基準がわからないから、一番高そうなやつを試着しようかな」と一通り見て回る福田さん。何もわからないまま選んだのは、店長いわく「本当に店頭で一番高級」というB-3のフライトジャケット。ムートンやシープスキン、馬革や牛革などが使われていて、お値段はなんと31万円の良モノだ。
いざ試着してみると、手に持ったときの重厚感に反して軽くて抜群の着心地に驚く福田さん。ムートンボアもしっかりしているため、「冬でも中はTシャツで大丈夫そう」というほどの防寒仕様だ。バイク乗りの伊藤さんも、暖かいジャケットに興味津々。ファッションに興味がないと言っていた福田さんだが、最終的には「作りもちゃんとしているから長い間着られそうで、普通に欲しいですね」と、思わず食指が動いていた。
ほかにも、店内をくまなく見て回った2人。アメカジはハワイアン系やミリタリー系、カレッジ系などさまざまなジャンルに分かれているが、伊藤さんは中でもワーク系が好きだということで、シャツやジーンズ、オーバーオールなどをじっくりとチェック。約30分ほどの「JUNKY SPECIAL」滞在を存分に堪能したのだった。
バイトしておごられてコンパして…若手時代を支えてくれた街
伊藤さんにとっては行きつけの、福田さんにとっては普段訪れることのない、アメカジショップを楽しんだ2人。この新宿という場所には、どんな思い出があるのだろうか。
福田:僕ら2人とも西東京出身なんですけど、学生の頃は新宿にあまり出ませんでしたね。吉祥寺が近かったからそこで事足りたし、あえて渋谷や新宿に行こう、なんて全然思わなかったです。
伊藤:大学生くらいになって、初めてじゃないけど「新宿や渋谷に行ってみるか」って感じ。でも、福田は新宿でバイトしてたよね?
福田:忘れてたけど、そういえばそうだ! 20歳くらいの頃に、歌舞伎町の「BAGUS」(ビリヤードやダーツなども楽しめる飲食店)でバイトしてましたね。ビリヤード好きだったから、1〜2年くらい働いてました。バイトの業務でビリヤードの珠を洗わないといけないんですけど、拭いてもなかなか乾燥しないから一回電子レンジにかけたんですよ。そしたら、ビリヤードの珠って中に空洞があって、そこの空気が膨張して大爆発した。めちゃくちゃ怒られましたね。
【※危険ですので、絶対に真似しないでください】
伊藤:なんだ、そのアメリカ人みたいなエピソードは(笑)。
福田:その後、芸人としてデビューしてからは、当時よしもとの劇場が東京は「ルミネtheよしもと」しかなかったので、よしもと芸人はみんな毎日、新宿に集まってました(1998年に「渋谷公園通り劇場」閉館後、2006年に渋谷・ヨシモト∞ホールが開館)。よしもとは先輩が絶対におごるルールなので、2期上の先輩で当時まだ売れてなかった平成ノブシコブシの徳井(健太)さんによくラーメンをおごってもらってましたね。
あと、若手芸人って、劇場や仕事が増え始めると固定のバイトが難しくなって一番金がないんですよね。その時期は歌舞伎町のキャバクラに臨時で入って、バイト代の一部をとっぱらいでもらってなんとかしのいでました。芸人ってことでキャバクラのお客さんも可愛がってくれて焼き肉を食べさせてくれたりして、一番厳しい時代を助けてくれた街でもあります。
伊藤:僕は歌舞伎町だと、芸人になってからよくカラオケとかでコンパしてた。昔、コマ劇あたりにあったマクドナルドで同期のやつとコンパまでの時間を潰してて、そこにいた可愛い女の子を気にしてたら、その後のコンパでその子が来てテンション上がって空回りしたこともあったり……。あの頃は、歌舞伎町の至るところで芸人がコンパしてましたね。
福田:コンパをきっかけに彼女ができた同期の芸人と歌舞伎町を歩いてたら、ほかの芸人と手をつないでるその彼女と鉢合わせて、彼女が一目散に走って逃げていく現場にいたこともある(笑)。
伊藤:昔は、本当にそういうのが起こり得る街だった(笑)。ただ、00年代中盤以降、僕らが渋谷で「AGE AGE LIVE」に出るようになった頃からは、コンパの数は一気に減っていきましたね。それくらいになると、僕もコンパよりゲーセンに入り浸って遊んでました。
福田:僕らの上の世代はほとんど毎日コンパしてたんですよ。僕らは一番下の後輩として連れて行かれてて、楽しかったけど、やっぱりちょっと嫌だった部分もあって……。僕らが上の世代になってきたときに、それを後輩に強いるのもどうかってことで、コンパ文化が廃れていったんだと思います。
伊藤:あとは歌舞伎町でいうと、僕らが「東京住みます芸人」をやっていた時に(2011〜2016年頃)、歌舞伎町の街灯が全部LEDライトに変わるということでその点灯式の司会をやったり、歌舞伎町ルネッサンス関連の仕事をさせてもらったことがあります。思い返すと、僕らの「東京住みます芸人」としての仕事って、歌舞伎町関連の2個くらいしかなかったかも(笑)。
福田:そもそも「住みます芸人」って、地方を盛り上げるためのものっていう部分もあるからね。プロジェクトの開始当初は、その土地出身者が「住みます芸人」になるってことで、実はよしもと内でもコンビ両方東京出身というのが僕らくらいしかいなかったんです。だから、僕らに役目が回ってきたんだと思います。
20年にも及ぶ芸人人生を通じて、さまざまな形で歌舞伎町と関わってきたLLR。来る11月13日に、20周年単独ライブ「20年経ってもがんばっていきまっしょい」の開催を控えている。20年というのは大きな節目のはずだ。ベテランの域に入りつつある中で、これから先の芸人人生をどう歩んでいくのか。
福田:僕らくらいの世代になると、共通して成功するための方法論があるわけではないと思うんですよね。M-1やR-1といったコンテストに出場して、勝てばスポットライトが当たって……という世界ではなくなってくる。だから、自分なりの何かを見つけて商売を成功させた上で、最終的にお笑い芸人として成功するパターンしかないのかなって。
伊藤:そういう意味で、今日のアメカジもそうですけど、趣味や自分の好きなことを仕事につなげられたらいいな、というのはあります。それもただマニアックであればいいというわけじゃなく、広く浅いほうが見てる人に伝わりやすいパターンもあったりしますよね。
福田:20年もやってると、そのあたりの商売の仕方はみんな上手になってるとは思います。ただ、昔はみんなで仲良く芸人やれればいいって思ってたけど、20年もたつと昔一緒だった同世代もいなくなってきてる。昔、結構上の先輩が劇場の楽屋でつまらなさそうにしていた理由が、今になってわかってきましたね。
だから最近は、その分、新しいこともどんどんやっていかないといけないと思ってます。それこそ、今はYouTubeとかで過去の芸人の映像を見ることも出来るので、今活躍している世代だけじゃなく、時代を超えて面白い芸人と勝負しないといけない世界になっている。そんな中で、自分たちも新しいことをやらないといけないだろうな、って。
伊藤:僕たちは未来のことを想像するのが苦手なまま、20年目まで来たんですよ。もともと、逆算できるようなタイプでもないので、正直20年もお笑い芸人をやるなんてまったく想像してなかったですね。
福田:僕も、10年続かないと思ってました。それでも、僕らには”鈍感力”があったから、20年続いてきた。今度の20周年単独ライブは、今までとは少し違った形にしようかと考えているんです。ネタ7〜8本もガッツリやるんじゃなくて、3本くらいのネタにプラスして、自分たちの魅力を十分に出せる面白い企画を用意して見せていけたらいいなって。
伊藤:昔からLLRを知ってる人が観に来ていただけたら、「LLRらしいな」というところもあれば、「変わったな」というところもあると思います。そのどちらも楽しんでもらえるようにできればと思います。正直、本番はどうなってるか今の段階ではまだ僕らもわかってないんですが、ぜひオンラインも含めて観に来てください!
『LLR 20周年単独ライブ「20年経ってもがんばっていきまっしょい」』
日時:2022年11月13日(日)12:40開場13:00開演
会場:ヨシモト∞ホール
出演:LLR/てつみち/ですよ。/怪獣たけうち/こりゃめでてーな広大/セブンbyセブン玉城/長崎亭キヨちゃんぽん/クレオパトラ
会場チケット完売/配信チケット販売中
FANY Online Ticket
『【アフタートーク】LLR20周年単独ライブ「20年経ってもがんばっていきまっしょい」』
日時:2022年11月13日(日)15:10開場15:30開演
会場:ヨシモト∞ホール
出演:LLR/てつみち/ですよ。/怪獣たけうち/こりゃめでてーな広大/セブンbyセブン玉城/長崎亭キヨちゃんぽん/クレオパトラ
会場チケット
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配信チケット
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Photo:石田 寛
Text:須賀原みち
Edit:斎藤岬