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「芸人人生のどんな場面にも、新宿の街がありました」相席スタートが吉本興業・東京本社を歩く|吉本芸人×歌舞伎町 Vol.1

歌舞伎町

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お笑い 吉本芸人×歌舞伎町
DATE : 2022.04.13
吉本興業の多くの芸人たちにとって、「ルミネtheよしもと」や東京本社からほど近い歌舞伎町は馴染み深い街だ。そんな街を巡る「吉本芸人×歌舞伎町」連載企画第一弾として、結成9年目の男女コンビ「相席スタート」の2人が登場。相席スタートといえば、2016年の『M-1グランプリ』で決勝進出を果たしたほか、山﨑ケイさんは自著エッセイがテレビドラマ『人生が楽しくなる幸せの法則』(2019年/日テレ系)として映像化され、山添寛さんはクズキャラがフィーチャーされ、『ラヴィット!』(TBS)に登場してはネットニュースを騒がせるなど、コンビでも各々でもさまざまな方面で活躍を見せている。そんな2人に、新宿歌舞伎町のほど近くに建つ吉本興業株式会社東京本社を案内してもらった。
本社1階廊下にて。「休日は電気が消えてて、夜に来るとちょっと怖い」とのこと。

撮影は、お笑いファンなら芸人インタビュー記事で何度となく見たことがあるであろう中庭からスタートした。季節ごとに植物や装飾の趣向が凝らされているそうで、現在は黄色い金木犀の花が咲いている。
当日は今年最後の寒気が吹き込むあいにくの雨模様だったが、「クリスマスにはツリーが設置されたりしてシーズンごとに映えるんで、中庭で取材の写真はよう撮りますね。今日はいつもよりちょっと天気が悪くて晴れてないですけど、絶好の取材日和として臨んでます」(山添)とやる気をのぞかせる。

吉本東京本社といえばここ! というイメージすらある中庭。雨が降る中、相席ならぬ相合い傘をしてもらった。

次に訪れたのは、一部の芸人の憩いスポット・喫煙所。ここはなかなか撮影には使われないスペースだ。着くなり、さりげなく胸ポケットからセブンスターを取り出す山添さん。

山添:ここが吉本芸人たちの面白さが一番出る場所ですね。今、若手で面白い芸人は全員ここ通ってます。もし喫煙所がなくなったら、何千人か会社やめるんじゃないですか?

非喫煙者のケイさんは初めて足を踏み入れたとのこと。相方が喫煙者だと“タバコ待ち”が生じるのでは、と水を向けると「最初の頃はちょっと嫌でしたけど、最近はもう『どうぞどうぞ』って感じです」と寛容なスタンスだ。

撮影中も多くの芸人が喫煙所を訪れ、2人と言葉をかわしていた。タバコミュニケーションが存在している。

山添:先輩方や後輩に会って喋ってると、稽古に戻るのが遅くなるんですよね。ただ、ここで先輩からネタのアドバイスをもらったりして、ケイさんのところに戻ってそれをさも自分が思いついたかのような体で話すんです。

ケイ:そうやって聞くと、ただタバコ吸ってただけじゃないんだなって思っちゃいます(笑)。

喫煙者の肩身が狭い昨今、山添さんは珍しい喫煙風景の撮影を喜び、「ワーキャー芸人にはこれはなかなかできないですから」と”らしい”シニカルな発言も飛び出した。

その後は中庭を囲む1階廊下をぐるりと回って案内してもらう。吹き抜け下につくられたワーキングスペース、中庭と並ぶ写真撮影のテッパンスポットである鉄格子の壁など、廊下を歩くだけでも気になる場所は多い。

ケイ:ほぼ外だから、虫とかよく出るんですよ。

最近できたというフリーワークスペース。以前はここが喫煙所だった時期も。
1階廊下、撮影スポットでちょっとふざけた表情をつくる2人。

吉本興業・東京本社は1934年に建てられた旧四谷第五小学校の建物を転用している。そのため、一般的なオフィスとは違って「良い言葉でいうと、開放的な造り」(ケイ)になっている。撮影中は、背の高い山添さんが後ろの立ち位置に自発的に移動するなど、さりげない気遣いを見せる一幕も。

コンビ名を決めたのは本社の「旧体育館」だった

芸人も社員も用事で訪れた人も、全員が通過する受付エントランスは、最近きれいに改装されたばかり。撮影時はちょうど吉本興業創業110周年特別公演『伝説の1日』を終えたばかりの時期だったこともあり、スタンドフラワーや黒板アートで賑々しく飾られていた。

ケイ:(本社移転後の)初期はものすごい感じ悪い受付嬢がいたんですよ!今は警備員さんが受付をしていてすごく優しくなってる。

山添:警備員さんに顔を覚えてもらって、名前を呼んでもらえるようになったときが嬉しいんですよね。

2人とも受付カウンターの中に入るのは初とのことで、物珍しい様子。

本社内を歩き回りながら、2人の思い出の場所を尋ねると「旧体育館」が挙がった。現在は主に社員が利用するフリーデスクとなっているが、かつては若手芸人が自由に使えるスペースで、下積み時代にはここで夜〜朝にかけてネタを作っていたという。

ケイ:前のコンビのときからよく使ってました。鬼越トマホークの喧嘩を止める芸もここで生まれてます。私たちのコンビ名を決めたのもここだったよね?

山添:そうでした。ケイさんが持ってきた案は「ロゼの気分」「シガレットな関係」とかめちゃくちゃオシャレで、僕の出す案は「ガンメタルシャーマン」とか「未知とのSO GOOD」とかめっちゃダサいやつ。最終的に僕の同期たちにも相談しながら、ちょっとダサい寄りの今のコンビ名でケイさんに譲歩してもらいました。

現在は完全にオフィススペースになっている旧体育館をのぞきながら、当時の様子を説明してくれた。

東京本社には屋上が2箇所存在する。どちらもこれまたよく撮影に使われており、お笑いファンなら見たことがあるだろう。今回は、ルーフバルコニーへと続く3階の階段で撮影と相成った。ちなみに、3階は主に社員の執務スペースとなっているため、撮影以外で来る機会はほとんどないという。

屋上へ続く階段にて。若手時代の山添さんの“小芝居”エピソードが語られた。

本社はこうした取材以外にも打ち合わせ、ネタづくり、稽古、さまざまな作業をする場として芸人たちに活用されている。だが、超若手の頃は決して良い印象ばかりではなかったそうだ。

ケイ:昔は、昼に来ると社員さんや先輩芸人がいっぱいいるので緊張しましたね。深夜は若手芸人の巣窟みたいになってたんですけど。

山添:当たり前ですけど、1〜2年目の芸人は数が多すぎて、上の人からしたら有象無象が1000人くらいいるようにしか見えないんですよ。そのうちの一人が悪いことしたら、その同期も悪く見えたりする。だから、先輩や社員に目をつけられたらあかんってことで、本社にはよう来なかったです。

一方で、なんとも山添さんらしいエピソードも。

ケイ:若手の頃、ネタ合わせで会議室を予約してその時間に行くと、先輩や明らかに偉い社員さんが使ってたことが何度かあって。そんなときは、山添がしれっと部屋に入っていって「すいません、間違えました!……あれ、おかしいな?俺、予約取ってなかったかな?」って小芝居して、部屋を奪い返してた(笑)。

山添:「バカのふりして行ってきます!」って言ってね。そういう特有のイタさはずっとあります。

ケイ:今はそういうことがあると、社員さんもすぐ部屋を空けてくれます。

単独ライブ前の打ち合わせなどでは、会議室のホワイトボードが活躍する。

会議室に入って「打ち合わせしている風で」とポーズをお願いすると、自然と間近に控えた主催ライブ『山添展』(2022年4月14日開催)のネタの状況を確認し始める2人。実際の打ち合わせの雰囲気を垣間見ることができた。

「尖ってた部分をバキバキに折ってくれた街」

東京の吉本芸人にとって、本社のみならず劇場「ルミネtheよしもと」もある新宿は馴染み深い街だ。相席スタートの2人は、新宿でどんな風景を見てきたのだろうか。

ケイ:最初に新宿に来たのは、子どもの頃、ミュージカルを観に母にコマ劇場に連れて行ってもらったとき。初めて歩く歌舞伎町で「覗き部屋」と書いてある看板を見て、「何をするお店なの?」と母に聞いて「見ちゃダメ」って言われてドキドキした記憶があります(笑)。最近は街がキレイになって、キャッチの人もいなくなって怖い印象はなくなりましたね。

山添:僕は高校卒業したあと大阪NSCに入ってすぐ辞めて、とりあえず上京して結局また東京NSCに入るんです。その間に、同居してた友達が「芸能界にも精通」と書いた歌舞伎町のショーパブのバイト募集を見つけてきて、そこでバイトを始めました。俳優やダンサー志望の先輩たちがお客さんに「こいつは芸人志望なんです」って紹介してくれるんですけど、僕は当時お酒も飲めないし踊れもしないから、お客さんから「おもろない」「お前、何ができんねん」ってめちゃくちゃ言われるんですよ。
それで尖ってた部分がバキバキに折られて、変なプライドを持たずに東京NSCに入学できました。「自分はおもろないやつなんやな」って。だから、僕を丸くしてくれたのが新宿ですね。

コンビ結成後、ネタを考えたり打ち合わせをしたりするのも新宿の喫茶店だった。

ケイ:南口のカフェ・ミヤマ、よく行ってたよね。

山添:行ってましたねぇ。あと、僕は東口の珈琲西武も大好きで、よくあそこでネタ書いてました。オムライス、生姜焼き……ごはんが全部おいしいんですよ。今もよう行きます。

そうした日々の中で、憧れの一つがまさに「ルミネthe よしもと」だったという。山添さんが「あそこに立てる日が来るのか、と思いながら毎日ネタを作ってた」と振り返るように、若手にとってルミネの寄席はなかなか立てる場所ではない。2人が寄席の演者として出られるようになったのは、『M-1グランプリ』決勝進出が決まってからだった。

ケイ:最初は全然ウケなかったですね。『M-1』にかけるネタを調整としてルミネでやるのに、不安になるくらいウケなくて……。

山添:その頃の僕らは、ルミネに来られる老若男女のお客さん全員を笑わせられるネタがなかったんです。それでもちょこちょこ舞台に出してくれはって、申し訳ない気持ちとウケたい気持ちでいっぱいでした。当時はケイさんはボケじゃなくて“メッセージ”担当だったんで、そのメッセージが刺さる年代にしかウケなかった。僕もボケるようになってから、ウケるようになっていきましたね。

ケイ:最近は笑ってくれるお客さんが増えました。特にコロナ禍以降、若手に対してもお客さんが温かい印象があります。

「女優さんには頼みにくいネタを私に持ってきてない?」

そして今や、3年連続で主催ライブ『山添展』をルミネで打てるほどに成長した。このライブは毎回、ケイさんのほか、事務所問わず先輩後輩芸人や女優、アイドルなど幅広い出演者を集めて、山添さんがそれぞれとネタをする。すべてこのライブ用の書き下ろし新作だ。3回目となる今回は、インパルス・板倉俊之さん、ジェラードン、岡野陽一さん、Aマッソ、そして女優・北原里英さんなどなど、豪華メンバーが集結する。

山添:コンビ結成時から、ケイさんは「私は結婚したら芸人辞めるかもしれないから、あんた独り立ちできるようにちゃんと考えておきなさい」って言ってて。僕は一生ライブをやっていたい人間なので、コンビで世に出るよう頑張りつつ、自分のこともやらなあかんと思いながら後者はずっとないがしろにしてたんです。そんなときに、作家さんから「山添がいろんな人とネタやるライブやらへん?」って声をかけていただいて、「ぜひ」とお願いしました。DVDにならへんし再演もないその日限りの1回きり。めっちゃコスパ悪いんですけど、毎年できるライブになったら良いと思って臨んでます。

ケイ:『山添展』は毎回1本目がコンビでのネタなんです。女優さんに頼みにくい下ネタ系のコントは私で、美女とやるネタは女優さんとやってるんですよ。

山添:そんなつもりないですよ!ほかの出演者が舞台を見たとき、まず1本目で「攻めてる」って思ってもらいたいんです。その攻めてる方向がついシモに走ってたんかもしれません。でも今回のケイさんとのネタは下ネタじゃないです。もうできてるんで、あとは調整して磨いていく段階です。

今回の取材中、本社での出来事も含めて、新宿での思い出話は尽きることがなかった。今振り返ればしんどかった若手の頃のライブ後の打ち上げ、本社での深夜のネタ見せ明けに通った24時間営業の定食屋、『M-1』決勝前に2人で手を合わせに行った花園神社、ルミネの出番の合間に食べるランチ……コンビの始まりから現在に至るまであらゆることを経験した場所の話をする2人は、ずっと楽しそうだった。

山添:芸人を志して上京したときから養成所に入ったとき、デビューしたとき、ようやくバイトを辞めれそうになったとき……全部の時代でずっと接点がありました。そんな街は新宿くらいですね。

相席スタート

山﨑ケイ(やまざき・けい/1982年6月生まれ、千葉県出身)と、山添寛(やまぞえ・かん/1985年6月生まれ、京都府出身)のコンビ。2013年結成。『M-1グランプリ』2016年決勝進出。レギュラー番組に『ポップUP!』(フジテレビ/金曜パーソナリティ)がある。

▼山崎ケイ
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▼山添寛
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ライブ『山添展』

日時:2022年4月14日19:00〜20:30
場所:ルミネtheよしもと
出演:山﨑ケイ/インパルス 板倉俊之/囲碁将棋/ジェラードン(かみちぃ・アタック西本)/岡野陽一(プロダクション人力舎)/Aマッソ(ワタナベエンターテインメント)/北原里英(太田プロダクション)/にゃんぞぬデシ(シンガーソングライター)/山添寛

HP

吉本興業株式会社・東京本部

東京都新宿区新宿5丁目18−21
※一般の方は入れません。

Photo:八木虎造
Text:須賀原みち
Edit:斎藤岬

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