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映画を極限まで楽しめる空間を作りたい。新宿で10館目の映画館「109シネマズプレミアム新宿」が目指したもの

歌舞伎町

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映画 映画館 東急歌舞伎町タワー
DATE : 2023.04.20
2023年4月14日、新宿に新しい映画館が誕生した。以前、新宿ミラノ座があった場所に新しく建てられた「東急歌舞伎町タワー」内に構える「109シネマズプレミアム新宿」だ。東急歌舞伎町タワーは、ホテルやレストランだけでなく、劇場、ライブホール、映画館といったエンターテインメント施設が顔を揃える複合型ビル。その9〜10階が109シネマズプレミアム新宿。映画の街として活気を帯びていると同時に映画館の激戦区でもある新宿に、10館目の映画館としてオープンする。どんな特徴の映画館なのか、廣野雄亮支配人に話を聞いた。

[連載:行きたくなる理由がある、新宿の映画館]

せっかく映画を楽しむなら、作品の世界観により浸ることができる空間へ行きたい。ここ新宿は、歌舞伎町、新宿3丁目の徒歩圏内に10館もの映画館(2023年4月オープンの109シネマズプレミアム新宿含む)が並ぶ映画の街。「目的の映画を観て帰る」だけではない愉楽なひとときを求めて──、個性が光る映画館の魅力を探っていく。

これまでの記事はこちら

[第1回]ミニシアターからシネコンまで、行きたくなる理由がある。新宿おすすめ映画館ガイド

[第2回]映画好きが訪れたくなる仕掛けが随所に。「新宿武蔵野館」と「新宿シネマカリテ」を支える映画愛

[第3回]“好き”という思いを共有できる「シネマート新宿」ならではの映画体験

[第4回]映画監督が表現したい“本物の音”に応える「テアトル新宿」のこだわり

[第5回]昭和から続く、いつでも“新たな発見”と出合える映画館「K’s cinema」

歴史ある場所にもういちど映画館を

現在、東急歌舞伎町タワーが建つ場所は、もともと新宿ミラノ座があった場所だ。新宿ミラノ座の創業は1956年。新宿を代表する老舗映画館として愛されていたが、惜しまれつつも2014年12月末に閉館した。その跡地に建つビルに再び映画館を──という思いは、ごく自然な流れだったという。

「東急歌舞伎町タワーが建つこの場所は、弊社(東急レクリエーション)の創業地でもあります。多くの方に愛していただいた新宿ミラノ座のあった場所ですから、その場所に、もういちど映画館をという思いは当然ありました。私が入社したのは2013年、閉館にももちろん立ち会いました。その時に、新宿ミラノ座に通っていただいたお客さんから色々な想い出話を聞き、新宿ミラノ座の歴史に触れ、改めて、映画館っていいなと感じたのをよく覚えています」と廣野さんは語る。

館内のグッズ売り場には、新宿ミラノ座の頃の写真が飾られている

映画館激戦区である新宿でどう特徴を出すか

この連載では、新宿のミニシアターを中心に紹介してきたが、シネコンもすでに3つ存在する。新宿バルト9、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ新宿。しかもTOHOシネマズ新宿と109シネマズプレミアム新宿は目と鼻の先だ。廣野さんは「映画館がひしめく街だからこそ、映画を観るなら新宿だねと言ってもらえるように、一緒に映画の街として新宿を盛り上げていきたい」と言う。ミニシアターはそれぞれ独自の戦略で色を出している。シネコンとして109シネマズプレミアム新宿はどんな色があるのだろうか。

109シネマズプレミアム新宿の特徴のひとつは、8スクリーン全てがプレミアムシートであることだ。これは日本初となる。シートは「CLASS A」「CLASS S」の2種類。この映画館の基本となる「CLASS A」のシートは、リクライニング機能とサイドテーブルを備え、鑑賞中のノイズを極力排するようカスタマイズ。「CLASS S」は電動リクライニング機能やUSB式充電装置付サイドテーブルを完備、より自分だけの空間で映画鑑賞に没入できるシートになっている。料金は、CLASS A:4500円(税込)、CLASS S:6500円(税込)。チケット料金にはドリンクとポップコーンが含まれ、CLASS Sはプレミアムラウンジ「OVERTURE」の利用もできる。

ラウンジはまるでホテルのような広々とした空間だ。そこには、数々のアートも飾られている。フィルムを使った竹中美幸のアートをはじめ、椛田ちひろ、椋本真理子、井崎聖子、増田洋一郎など、アート作品は全作品が109シネマズプレミアム新宿の為につくられた新作ばかり。また、メインのラウンジには、いろいろな映画のワンシーンからイメージしたインテリアでコーディネイトされた空間もあり、映画好きにはたまらない時間を過ごせるだろう。

特別な環境で特別な映画鑑賞体験をするために

「映画を極限まで楽しめる空間を作りたい。それは、映像も音響も座席もすべてにこだわった環境、映画を観るうえで最もいい環境。109シネマズプレミアム新宿が目指した点です。ターゲットとしては、老若男女いろいろな方に来ていただきたいというのはもちろんですが、特に、映画を観ることにこだわりを持った方たちですね。チケットは通常より高い設定になっているので、金額だけみると富裕層向けのラグジュアリーな映画館なのか?と受け取られる方もいると思います。けれど、我々が目指しているのは、映画に集中できる環境、こだわりが分かる人たちに向けた環境、そういった特別な環境で映画を堪能してほしい。なので、カップルシートは敢えて作りませんでしたが、手をつなぐことのできる距離にはなっています(笑)」

レディースデーやファーストデーといった割引はないため、おトクに映画を観たいという場合、映画館と観客のマッチングは難しいかもしれないが、特別な時にこの映画館を選ぶ、というのもひとつの選択肢だ。ほかにも、各スクリーン前にはステージが用意されており、舞台挨拶やトークイベントをはじめ、さまざまなイベントを組み合わせた上映も企画しているそう。毎回は難しくとも、特別な時、イベントの時、数回に一回はここで──というように、新宿エリアの映画館のなかで、バランスよく映画を体験するのもありなのではないか。

シアター7には、奥行き4mのステージが備え付けられている

坂本龍一監修の音響システムSAION -SR EDITION-

これまで紹介してきたミニシアターも音響に力を入れているところは多かった。109シネマズプレミアム新宿の音響システムSAION -SR EDITION-の魅力は、何と言っても音楽家・坂本龍一が監修していることだ。どんな経緯で坂本氏とコラボすることになったのか。

「この映画館らしさを考えるなかで、音響にも力を入れたい、特別なものを取り入れたいと思いました。そのなかでたどり着いたのが、坂本龍一さん。日本はもちろん世界の映画音楽に影響を与えてきた坂本さんにお願いできないかと。新宿という街が坂本さんにとってゆかりのある街であることも決め手でした(※坂本龍一氏は「高校時代に新宿の映画館やJazz喫茶を周り、新宿で学んだものは僕を根本的に変えた」とコメントしている)。ご快諾いただき、音響システム以外にもいろいろなアイデアを提案いただきました」

坂本龍一氏はこう説明する。「音響システムはスクリーンの後ろにスピーカーを組んでいますが、高性能サウンドシステムと高度なチューニング技術により、スクリーンの存在を感じない、〈曇りのない音〉を目指し設計されています。スピーカーはもちろん、オーディオケーブルやアンプなど細部にこだわり、最上の音響を楽しめる劇場ができたと自負しています」。たとえば、坂本龍一氏が音楽を手がけた『レヴェナント:蘇えりし者』で言うと、雪解けのしたたる水滴の音、微かな自然の音が、とてもクリアにかつ繊細に身体に届くような、そんな音響システムがSAION -SR EDITION-だ。

さらに廣野さんが驚いたのは、設備だけでなく、映画鑑賞をする人の“耳を洗う”という思考だった。

「観客が、良い音を受け取るためには、受け取る側の耳が整っていなくてはならない、ということでした。日常の生活音で曇ってしまった耳を洗うための時間や空間がないと、せっかくの音響システムを最大限に堪能できないのだと。もう、目からウロコでしたね。そこで、坂本さんに3つの楽曲を作っていただきました。ラウンジで流す音。シアターが開場したときのチャイム音。予告編の後、本編に入る直前に流す音です」

映画をエンターテインメントとして捉えた場合、シネコンはアミューズメントパークのような賑やかな空間、日常から映画の世界へ誘ってくれる空間として存在している。そういったこれまでのシネコンの在り方と比べると、“耳を洗う”という考え方はとても新しい。と同時に“映画を極限まで楽しめる空間”を目指す109シネマズプレミアム新宿のコンセプトともぴたりと重なる。

文化継承、フィルム上映のできるスクリーンを完備

109シネマズプレミアム新宿は、8つのスクリーンからなるが、そのなかのひとつはフィルム上映が可能なスクリーンになっている。これも、坂本龍一氏からのリクエストだったという。

生まれた時から映画館での上映はデジタル上映(DCP)で、フィルムの映写機は映画のなかでしか観たことがないという人も多いだろう。けれど、遡ること約130年。1891年にトーマス・エジソンがキネトスコープを発明し、1895年にリュミエール兄弟がシネマトグラフを発明し、そこから映画の歴史が始まった。原点に通じるフィルム上映を絶やしてはならない──文化を継承する、フィルム上映を体験できる場所があることも109シネマズプレミアム新宿の大きな魅力となるはずだ。カセットテープやレコードが世代を超えて注目されているように、フィルム上映の良さも体験してほしい。

現時点では、109シネマズプレミアム新宿の作品ラインナップは新作ロードショー作品が中心となるが、「フィルム上映も含めて独自性を出してきたいと思います」と廣野さん。「好きな映画をもう一度ここで観たい、あの映画音楽をもう一度ここで聴きたい、誰にでも特別な映画があると思います。そういう映画を上映できる企画も考えていきたいですね。新宿という街らしく、金曜と土曜は深夜営業やオールナイト上映も企画しています」

今、私たちはさまざまな環境で映画に触れることができる。そして、映画館という存在は、映画を「観る」から「体験する」へ変化している。映画の街・新宿で、どんな映画体験できるのか。109シネマズプレミアム新宿が加わったことで、楽しみは広がるばかりだ。

最後に、この連載のお決まりの質問を廣野さんに投げてみた。109シネマズプレミアム新宿で好きな映画を上映できるとしたら、どの作品を観たいですか?

「やはり音響にこだわっているので、もちろん『レヴェナント: 蘇えりし者』を始めとした坂本龍一さんが手がけられた作品は全部観たいですが、エンニオ・モリコーネの音楽は外せないですね。そのなかでも1本選ぶとしたら……『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』ですかね。ほかにも、ヨハン・ヨハンソン(音楽)の『メッセージ』も観たいですし、挙げ出したらキリがないですね」

109シネマズプレミアム新宿 支配人 廣野雄亮さん

※109シネマズプレミアム新宿のオープン記念として、4月14日(金)から5月18日(木)まで「Ryuichi Sakamoto Premium Collection」を企画。坂本氏が手掛けた映画音楽の代表作『戦場のメリークリスマス』『シェルタリング・スカイ』『トニー滝谷』『天命の城』の他、『坂本龍一PERFORMANCE IN NEW YORK: async』や、109シネマズプレミアム新宿限定上映となる『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022+』などをラインナップ。

写真:沼田学
文:新谷里映

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