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“好き”という思いを共有できる「シネマート新宿」ならではの映画体験

新宿3丁目

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ミニシアター 映画 映画館
DATE : 2023.01.18
エレベーターの扉が開いた瞬間に目に飛び込んでくる、圧巻のディスプレイと、ライブハウスのような壁。思わず写真を撮りたくなる映画館として熱烈な支持を集めているのが、新宿3丁目にあるシネマート新宿だ。多くの映画好きを魅了する背景には、単に映画を観るだけではなく、実際に足を運んで参加したくなるような工夫や遊び心がある。マネージャーの宮森覚太さんに話を伺った。

[連載:行きたくなる理由がある、新宿の映画館]

せっかく映画を楽しむなら、作品の世界観により浸ることができる空間へ行きたい。ここ新宿は、歌舞伎町、新宿3丁目の徒歩圏内に10館もの映画館(2023年4月オープンの109シネマズプレミアム新宿含む)が並ぶ映画の街。「目的の映画を観て帰る」だけではない愉楽のひとときを求めて──、個性が光る映画館の魅力を探っていく。

 

これまでの記事はこちら

[第1回]ミニシアターからシネコンまで、行きたくなる理由がある。新宿おすすめ映画館ガイド

[第2回]映画好きが訪れたくなる仕掛けが随所に。「新宿武蔵野館」と「新宿シネマカリテ」を支える映画愛

連載[行きたくなる理由がある、新宿の映画館]。今回紹介するのは、新宿三丁目駅から徒歩1分、新宿の顔ともいえる伊勢丹新宿店の目と鼻の先にあるシネマート新宿だ。

多様な表情を見せる街で、多様なアジア映画を発信するミニシアター

新宿は言うまでもなく多様な文化が息づく街であり、その多様さのどの側面を捉えるかによって、人それぞれに抱く街の印象は異なるだろう。映画というカルチャーの側面においては、現在9つの映画館が新宿には存在し、2023年にはその数が10になる。あえて色をつけない映画館もあれば、他とは明らかに一線を画し、思いきり特徴を打ち出している映画館もある。シネマート新宿は後者だ。特徴は、韓国・台湾・香港・中国などアジア映画のラインナップが充実したミニシアターでありながら、洋画の注目作や邦画まで押さえていること。また、音楽映画やカルト的作品にも力を入れていること。シネマート新宿のマネージャー・宮森覚太さんに話を伺った。

「シネマート新宿の客層の特徴として、映画館をハシゴしている方が多いように感じています。新宿は映画館が多いということもありますが、本当に映画好きな人ばかりで、平日はおひとりで訪れる方が多いですね。そういった映画好きな人たちにたくさん、足を運んでいただけたらうれしいです」

その言葉どおり、シネマート新宿の上映ラインナップは、大手シネコンではかからないような作品が揃っている。ここに来れば「世界にはこんな映画があるのか!」と思うようなワクワクする作品と出会える。なかでも秋の風物詩として開催されるのが、劇場発信型映画祭「のむコレ」だ。シネマートの番組編成担当・野村武寛氏によるラインナップは、要チェックなレア作品が揃っている。6回目を迎えた2022年の「のむコレ」の上映作品は18作。スタンプラリーもあり、全作品を見るツワモノも100人程度いたという。スタンプラリーをはじめ、上映作品に関連した割引施策など、参加側も主催側も両方が楽しめる企画上映も、シネマート新宿の“らしさ”になっている。

観るだけじゃない、観客が参加できるユニークな企画上映

「たとえば、『鲛绡碧 真珠の涙』では、真珠のアクセサリーを身に着けて来たら割引というようなドレスコードを設けたりしました。人数にすると300人中40人くらいですね。ユニークなところでは、ブルース・ウィリス似の人、ニコラス・ケイジ似の人は割引になったり。似ているかどうかはスタッフの判断になりますが、そういう企画を実施することで、お客さんとの交流にもつながりますし、私たちも楽しませてもらっています」

2020年開催のUNDERDOCS<アンダードックス> 写真提供:シネマート新宿

ほかにも、UNDERDOCS<アンダードックス>という音楽映画の企画上映もある。日本で紹介されていない新作や長年上映されていない旧作など、地下にうごめく数々のアンダーグラウンドなロック・ドキュメンタリー映画にスポットライトをあてた期間限定の特集上映だ。

「私自身、音楽映画好きということもあり、音楽ものにも力を入れています。音楽映画を上映するようになったきっかけは、2012年の『赤い季節』だったと記憶しています。ミッシェル・ガン・エレファントのチバユウスケさんが初めて映画音楽を担当したのが『赤い季節』で、映画の上映とあわせて『ミッシェル・ガン・エレファント“THEE MOVIE” –LAST HEAVEN 031011–』や「The Birthday Quattro × Quattro Tour ’12 Bootleg」のイベント上映を実施しました」

2020年秋に開催されたUNDERDOCS<アンダードックス>では音楽映画25作品を上映した。コロナ禍でなかなかライブに行けない人が多かったということもあり大好評に終わったが、音楽映画の企画上映が盛り上がる背景には、魅力的な作品が連日上映されることはもちろん、“ブーストサウンド”の存在がある。

音を体感する迫力のブーストサウンド

ブーストサウンドを導入しているスクリーン1

ブーストサウンドとは、シネマート新宿が導入している迫力の重低音出力&高解像度の音響システムのことで、スクリーン1には、通常のシネマのスピーカー、サブウーハーに加え、スクリーン前方に重低音を再現するサブウーハーが4台増設されている。映画を“体験”する臨場感あるサウンドもシネマート新宿の特徴のひとつなのだ。ブーストサウンドは基本、音楽ものの上映時に使用されるが、『グレイマン』や『トップガン マーヴェリック』など、作品によってはブーストサウンドで上映される。この音響システムを取り入れて「よかった」と思う出来事があったと宮森さんは語る。

「『トップガン マーヴェリック』のブーストサウンド上映時に、『マーヴェリック』を65回観たというお客さんがいらしたんですが、『音の圧力がすごいのにセリフがクリアに聞こえる。65回目にしてこの音響環境に出会えるなんて!』と感想をいただきました。ものすごくうれしかったですね。今後もブーストサウンド上映を続けていく励みになりました」

インパクトと個性で勝負する館内ディスプレイ

また、宮森さんに話を聞くためにシネマート新宿を訪れた日、出迎えてくれたのは『未来惑星ザルドス』のなんともインパクトのあるディスプレイだった。エレベーター前に設置された巨大ディスプレイは専門業者による制作だったが、ロビー中央に飾られていたディスプレイの数々はスタッフのお手製だというから驚き。特集上映の作品にあわせた個性的なディスプレイも、この映画館の特徴のひとつとしてファンの注目を集めているのだ。

『恐怖の報酬(オリジナル完全版)』の吊り橋 写真提供:シネマート新宿

館内展示に力を入れるようになったきっかけは2018年。ウィリアム・フリードキン監督『恐怖の報酬(オリジナル完全版)』の上映の際に、劇中に登場する吊り橋をロビーに作ったことだった。まるでアトラクションのような大掛かりなディスプレイによって、シネマート新宿=個性的な映画館というイメージがつき、そこから館内ディスプレイの歴史がスタートする。

「うちは2スクリーンの小さな劇場ですが、映画を鑑賞するだけでなく、ディスプレイなどでも映画の世界を体験してもらい、この映画館に来てよかった、ここで観てよかった、と思ってもらいたくて。館内ディスプレイがシネマート新宿らしさにつながるよう、現在も続けています」

スタッフによるお手製のネオンサインは圧巻の出来栄え 写真提供:シネマート新宿

そのなかでも最近とりわけ反響が大きかったのは、ウォン・カーウァイ特集で作られた「王家衛」の電飾のディスプレイだ。ウォン・カーウァイ監督の代表作となった『花様年華』の制作20周年を記念し、監督自らの手により過去作を4Kレストアするプロジェクトで、『花様年華』を筆頭に、『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『2046』という珠玉の5作が上映された。シネマート新宿だけではなく、全国の映画館で上映されている特集ではあるが、香港の街に迷い込んだかのような電飾のディスプレイは、「シネマート新宿で観たい!」と思わせる大きな要因になった。制作したのはシネマート新宿の頼もしい美術部スタッフだ。

「美術部というのは社内の正式な部署ではないのですが、美大出身のスタッフをはじめ、数人のスタッフがアイデアを出し合いながら積極的に取り組んでくれています。ジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 4Kリマスター版』を上映した際には、板の隙間から伸びるゾンビの腕を再現しました。多くのお客さんがディスプレイの前に立って写真を撮っている様子を見ると、うれしくなりますね」

腕型に切った紙を白いゴム手袋に詰めて作ったゾンビの腕が伸びる 写真提供:シネマート新宿

映画好きが集まることで生まれる「好き」に満ちた空間

ウォン・カーウァイ特集で上映された5作品は、配信でもDVDやBlu-rayでも観ることができるため、映画館側としては、どれくらいの動員になるのか検討がつかなかったという。しかし、ふたを開けてみると爆発的な動員数となり、結果14週のロングラン上映に。ウォン・カーウァイ作品を4Kレストアで観たいというファン心理は大前提にあるものの、それだけではない、ディスプレイなど映画館が発する魅力が「映画館で観たい」と思わせるのではないだろうか。映画そのものを観る体験と、映画館がもたらしてくれる体験。その両方を強く感じた作品として、宮森さんは『ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ』の思い出も語る。

『ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ』は、監督・脚本・主演のシルベスター・スタローンが自らの手で『ロッキー4』を再構築したもので、シネマート新宿では2022年9月にブーストサウンドで上映。また、大のロッキー好きとして知られるタレントの関根勤さんを登壇者に迎えたトークイベントを9月17日に開催した。

「ブーストサウンドでの上映だったので、パンチの音がよかったとか、主題歌「Heart’s on Fire」が流れるシーンがより感動したとか、うれしい声をたくさんいただきました。環境や技術的なものも映画館で観てよかったと思える要因のひとつだと思いますが、特に関根勤さんが『ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ』の魅力を語るイベントの際は、300人以上の観客一人ひとりの『ロッキー』が好き!という想いが劇場内に満ちあふれているのを感じたといいますか、とにかく温かい雰囲気だったんです」

自分の「好き」を、他の人と共有できる場、感動を分かち合える場。そんな体験ができる映画館こそ、まさに「行きたくなる映画館」。シネマート新宿が愛されている理由もそこにあると思えるエピソードだ。

そして、今回もこの質問を投げかけてみた。もしも好きな作品を上映できるとしたら、宮森さんは何をかけるのか。

「最近、リヴァー・フェニックスの作品を観たいという気持ちに駆られているので……映画館の大画面で観たいリヴァーの作品は『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』ですね。ほかにも『ジミー さよならのキスもしてくれない』『マイ・プライベート・アイダホ』『旅立ちの時』など、好きな作品が多いので、いつかリヴァー特集もやりたいですね」

シネマート新宿 マネージャー 宮森覚太さん

写真:沼田学

文:新谷里映

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