本記事では、イベント初日に密着。全編ガッツリ楽しみながら、レポートをお届けする。
今年で3回目を迎えた「歌舞伎超祭」
2023年11月3日、歌舞伎町・シネシティ広場は人であふれていた。3連休の初日であり、「歌舞伎超祭」の初日でもある。
会場内入り口付近には、とんかつ茶漬けでおなじみの歌舞伎町の老舗「すずや」のキッチンカーや歌舞伎町クラフトジン「Ne10」でつくった歌舞伎町ジンソーダを配布するブースが出展し、さらなる歌舞伎町気分を盛り上げる。
今回はこのイベントに先駆けて歌舞伎町内のレトロ商業ビル「王城ビル」を“歌舞伎町のアートのハブ”として再利用するプロジェクトの幕開けとして開催されたChim↑Pom from Smappa!Group(以下、Chim↑Pom)による展覧会「ナラッキー」の続編ともいえるイベントのようだ。
▼「ナラッキー」のレポートはこちら
歌舞伎町の新アートプロジェクト第一弾。Chim↑Pom from Smappa!Groupが見出した「奈落」から見上げるものとは?
雑踏から現れた東京QQQ
と、どこからか鈴の音がきこえてきた。街の喧噪のなかから一定のリズムでチリーン、チリーンと。音が徐々に近づいてくる。
東急歌舞伎町タワーの屋外ビジョンに「東京QQQ」の文字が現れ、ノイジーで抽象的なサウンドに乗ってさまざまなパフォーマンスをコラージュした映像が流れ始めた。そして、その音の正体が姿を現した。「歌舞伎超祭」でパフォーマンスを行う「生き様パフォーマンス集団」、東京QQQだ。
神楽鈴を手にした歌舞伎町の守り神でもある弁財天を先頭に、学帽に学ランをまとった人、レオタード姿の人、その後ろでは真っ赤なスリップドレスの人が太鼓を叩き、車いすに乗った人が続く。さらに、顔にネズミの特殊メイクを施したスーツの人、そして深紅のスリップドレスの人、キラキラをクラシカルにまとったパフォーマー、しんがりは、ピンクのベビードールが可憐な髭で長身のドラァグクイーン。
スマホを向ける聴衆を挑発しながらステージにたどり着き、会場を見渡して横並びで大見得を切る。ヒーロー勢ぞろいのカタルシスのようなものに身震いさせられ、パフォーマンスは始まった。
学ランのダンサー高村月、オレンジ色のスーツの平位蛙、レオタードのアオイヤマダ、車いすダンサーのかんばらけんたがステージと空間を踊って埋めていく。清水舞手がピアノに手を置くと、鍵盤を叩くたびに感電したように痙攣し、アオイと月の踊りもその音に吸い寄せられていく。
ピアノの音はマイナーコードの「きらきら星」へとかわり、ふたりのダンサーは星をつかもうとするかのように虚空に手を伸ばす。やがて複雑な変奏曲へと変わったきらきら星を弾き終えた瞬間、舞手は、祈りを捧げるように天を仰いだ。
「すごいものを見せられている」と思った。ほんの20分ほど前までは、会場で供されたクラフトジン「Ne10」のソーダ割り片手にDJ Shoma fr.dambosoundが流す70年代の黒人キッズグループのメロウな音にカラダを揺らしていた、「気持ちいい休日の夕方」だったのだが。今や会場にはちょっとした緊張感のような空気が漂っている。
フラッと遊びに来た人たちにとって、たぶん、ここには想定の斜め上を行く歌舞伎町が展開され始めたに違いない。
異色の3人組と星空バーレスク
そんな斜に構えた分析は、次の瞬間、木っ端微塵に破壊された。「奈落の底からこんにちはー」というキャピキャピした声と共に「もしもしチューリップ」が登場したのだ。KUMI、ちびもえこ、山田ホアニータによる“肩書きも大きさも性別も超えた”3人組チームである。自己紹介で「”みんなのイマジナリーフレンズ”です」と話す。これが楽しい楽しい。
フィンガー5の「恋のダイヤル6700」で入場した瞬間からみんなニコニコ。「笑っていいとも!」のテレフォンショッキングばりに観客とコミュニケーション。
奈落で生まれたというオリジナル曲を発表し、「ナラッキー」での作品を通じて実感した人とつながる喜びを語る。「世界の国からこんにちは」にのせて、レッドカーペットを囲んだ観客のみなさんが手と手を取り合って作るトンネルをくぐって退場するくだりは、なんとなく多幸感に満たされた。見える範囲の全員が笑顔だった。
3人は「奈落に帰る」と言い残して去っていったが、そのときは本当に「王城ビル」の地下に帰って行くような錯覚すらした。
次に登場したのはショーガールのKily shakley。シルバーのショー衣装にブルーのシースルーのガウンを身にまとってレッドカーペットから姿を現した。
ガウンを脱ぎ、コスチュームを1枚ずつとってゆく。「バーレスクティーズ」と呼ばれるパフォーマンスだ。何も知らずに広場を通りかかった人は、最初は驚いたかもしれない。だが、歌舞伎超祭でのKily shakleyのショーは、とてもしっくりきた。
曲は、個人の価値観の大切さを唱えるテイラー・スウィフトの「Bejeweled」から、ドリス・デイがムードたっぷりに「私を夢見て」と歌う「Dream A Little Dream of Me」へとつながる。真っ白な羽根の扇をたおやかにゆらしながら踊る姿は息を呑むほど美しかった。
暗黒のミッキーマウス・マーチ
続くダンサー・平位蛙と音楽家・清水舞手のセッションは圧巻だった。リアルなネズミの特殊メイクを施した平位が、ネズミの鳴き声とモールス信号をマッシュアップした音源で、オルゴール人形のように踊る。そして舞手が暗黒の「ミッキーマウスマーチ」を奏で、平位はレッドカーペットへ。逃走するように踊る動きの伸びやかなこと!
観客をねめつけ、小さな女の子の髪をかき上げ、かわいいけれど近づいてくると怖い。緩急をつけながらレッドカーペットを駆け回る。そして、ネズミは人々のあいだを抜け、ふらふらと街に消えていく。
平位を送り出した舞手は、ベートーヴェンの「悲愴」第2楽章を静かに弾き終えると、取って代わったRADWIMPSの「実況中継」に合わせて上着を脱ぎ捨て、レッドカーペットに降りてゆく。それは舞手という名の通り、鋭く美しいその手が空を裂き、また空を抱き、あらゆる空間と感情を巻き込む舞であった。
床を転がりながら叫ぶ。魂を絞り出したかのような舞いの最後に、今日イチの拍手を浴びた彼は、「光は新宿より、闇は私より」と声を挙げた。
ますます聴衆は増え、子どもたちははしゃいだ
完全に日は落ち、会場の周囲の人もいよいよ増え、夜を明かすつもりの人々も姿を現す。大きなキャリーバッグを引っ張ったまま、会場にフラリと立ち寄る旅行客もいる。
そして、パパママと一緒にきた小さな子どもたち。おとなしく見ている、というよりノリノリの子が目に付くのだった。
「もしもしチューリップ」であり、小人バーレスクダンサーのちびもえこが、巨大なサクランボを手にEGO-WRAPPIN’の「くちばしにチェリー」を踊り、レッドカーペットを駆け抜けたときハイタッチをした女の子は、ずっとその姿をニコニコ顔のまま追っていた。
学ラン姿のダンサー・高村月が登場したときには、別の子がママに抱っこされたまま「あの人カッコいいーっ!」と一生懸命主張していた。
月が登場したのは、後半。いよいよ会場は一体になりつつあった。オープニングでパフォーマーたちを先導した“弁財天様”が再登場。七福神の一員で、芸能や水にまつわる天女様だ。そしてその実体はKUMIであった。
ステージ上に設えられた金属製のポールをするすると上り、留まる姿は天女さながら。そしてゆったりと回転しながら下りてくる。弁財天様はポールダンサーだったのだ!
感情を揺さぶられ続けた祭の感動エンディング
弁財天様は観客と対話をし、願いを聞いては「叶う」と言い切る。なんだかすごくポジティブな気分にさせられる。のみならず、弁財天様は(アッパーな曲でひとしきりポールダンスの妙技を見せた後に)「みなに伝えたいことがある」とのたまった。
「この世は本当に諸行無常だけれど、でも、大丈夫じゃなくても大丈夫」だと。「人は、生まれ落ちたならもうそれでラッキー」なのだと。あとは出会ったみんなと、何より大事な自分自身に感謝して生きていこう、と。
弁財天様は、その思いをかたちにして、皆に伝授してくださるのであった。
「大丈夫じゃなくても大丈夫、生まれ落ちたらナラッキー、あなたにサンキュー、私にサンキュー」という祝詞と共に両手でOKサインを作って動きを繰り返す。新宿のど真ん中で、広場に集まった少なくとも数百人が一斉に。壮観だった。見ていて気持ちいいだけでなく、どんどん「まあ大丈夫だよな」という気持ちにさせられていくのだった。
公演は終盤に。アオイヤマダが登場し、和紙の衣装をまとい、指は「大丈夫じゃなくても大丈夫」のOKサイン。力強くレッドカーペットを踏みしめて踊る。
やがてドレスを脱ぎ捨てると、レオタードが現れた。ステージから会場を見渡し、指さして「ヒューマン」と叫ぶ。また指さして「ヒューマン」。最後に、両手で自らの胴をポンと叩いて「ヒューマン」と叫んだ。
それを合図にパフォーマーたちがみななだれ込んでくる。ドラァグクイーン・MONDOは自らの顔を懐中電灯で照らしながら。山田ホアニータが「にんげんっていいな」を「奈落っていいな」とモジって歌い、みな思い思いに踊る。
そしてMONDOの元に集う。
ちびもえこが懐中電灯と鏡を手にし、かんばらけんたとKily shakleyが光を当てる。MONDOは、コスチュームを脱ぎ去ると、トレーから透明なテープとハサミを手に取り、メイクをパーツごとにテープに写し取る。そして、メイクが転写されたテープをキャンバスに貼り付けていく。そうして少しずつメイクも取り去られ、「顔拓」ができあがっていった。
これもまた王城ビルでの「ナラッキー」で展示された作品のひとつだ。
マイクを通してMONDOは声を上げる。
「This is my love.」
「Is this my love?」
「No, I am love!光を灯せ!」
そして、戸川純の「諦念プシガンガ」が流れ始め、またみんながステージ狭しと踊り始める。曲のサビで繰り返されるのは「我 一塊の肉塊なり」というフレーズだ。
歌舞伎超祭は実に多彩なパフォーマンスを見せてくれた。
そして、多彩なのはステージ上のことだけではないのだ。広場に集まった私たちも、通りすがりにチラッと目をやった人も、知らずに歌舞伎町を歩いている人々も、みんな違う。ここへ来た目的も人生もそれぞれみんな違うけれど、みんな同じ「ヒューマン」なのだと思った。そんなつながりを感じて、胸の奥がじんわりあたたかくなった。
終演後に出演者のかんばらけんたさんと、今回のイベントのプロデューサーの手塚マキさんにお話を聞くことができた。
かんばらけんたさん/車いすダンサー
今年、初めて参加しました。規模がどんどん大きくなって、お客さんの数も年々増えて、エンディングのときに客席のお客さんの顔を見たらグッときましたね。このイベントは新宿・歌舞伎町ならではだと思います。ビルの真ん中のこれだけの設備が整った広場もそうなんですけど、普通に受け入れられるのがすごいです。
僕は少し前に、王城ビルで行われたイベントのために初めて歌舞伎町に来たんです。ちょっと怖い繁華街っていうイメージだったんですけど、この街に初めて来た日、キャッチの人に声を掛けられたんです。人生で初めてでした。うれしかったなあ。誰であろうとお客さん、みたいな姿勢。自然と壁がない感じで。それで歌舞伎町のことが全然怖くなくなりました(笑)。
手塚マキさん/歌舞伎超祭プロデューサー・歌舞伎町商店街振興組合常任理事・Smappa!Group会長
今日は「歌舞伎町の文化の日」として、完璧だった気がします。みんな楽しそうで、一昨年に1回目をやったときは、まだどこかに抵抗感というかびっくりして相容れにくいような印象を受けたんですが、もはやみんな慣れて、街のおじさんたちも普通に受け入れている感じで。海外からの観光客のみなさんも足を止めて長居してくれたのも歌舞伎町らしくてすごくいいなと思いました。3年目を迎えて、歌舞伎町に「歌舞伎超祭」があるのがあたりまえになってきた気がします。
来年以降、王城ビルもアートの拠点として本格的に稼働しますので、連動して同時にイベントをしたり、アフターパーティーをやったりするのも楽しそうですね。来年以降にもまたぜひ期待してください。
▼11月4日のイベントの様子はこちら
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文:武田篤典
写真:RYO SATO