新進気鋭のダンサー / パフォーマーであるアオイヤマダは、昨年の「歌舞伎超祭」は「自分の根幹が揺らぐような体験だった」と振り返る。新宿・歌舞伎町の空の下で、彼女は何を感じ、今年は何をオーディエンスに伝えようとしているのかを聞いた。
※第一回
「生きてるよ」という合図を感じた
— 昨年の「歌舞伎超祭2021」でのパフォーマンスはいかがでしたか?
私はあんまり緊張しないんですけど、「歌舞伎超祭」の前日は胃がキリキリしちゃって。歌舞伎町って何が起こるかわからないイメージもあって、正直怖かったんです。
— 街中の広場で行われるイベントですから、自分のパフォーマンス目当ての観客だけでなく、通りすがりに偶然居合わせた人も多いですもんね。もしかしたらヤジが飛んでくるかもしれないですし。
そうなんですよ。みんながウェルカムじゃないかもしれないし、「ここでやるメリットってある?」って思っちゃって(笑)。でも、当日はすごく風が強くて寒かったのに、とても盛り上がってくれたんです。トー横キッズと呼ばれるような若い子たちもいて、パフォーマンス中に手を振ったら振り返してくれたり。なんだか「生きてるよ」って合図してくれたように思えて、あの光景は忘れられないです。あの歌舞伎町のシネシティ広場という場所で、みんなでいろんな疑問や想いを持って時間を共有できたことはすごく意味があったんだろうなと思います。生でパフォーマンスをやって、それを観たい人も観たくない人もいて、全部が混ざって独特の空気感でしたから。作ろうと思っても作れないし、奇跡的な時間ですよね。終わった後の疲労感がすごくて、2日間はグッタリしてました。
— アオイさんのパフォーマンスはダンスだけではなく、観客に語りかける場面や、ポエトリーリーディングの要素も含まれていました。
私ひとりだけで進んでいっても違うというか。自分の中の世界をドンって押し付けるだけだとお客さんを置いていくだけなので。お客さんに問いかけて、巻き込んでいく。そういうスタイルがあの場所には合っていました。
— パフォーマンスを見せるだけでなく、客席とやり取りをするんですね。
そうですね。そういった意味では、大変だった分、得るものも大きかったです。鍛えられました。
気付いたら「ヒューマン!」と叫んでいた
— ダンスとの出会いを教えて下さい。
ダンスをはじめたのは幼少期なんですけど、そもそも言葉にトラウマがあったんです。自分の想いと違うかたちで相手に伝わってしまうことが多くて。そういうときに母にすすめられてダンススクールに行ってみたんです。ダンスはすごく余白があるんですよ。想像する時間があって、その面白さと可能性に惹かれたんです。優しいというか、自分に合ってるなって。地元の長野のスクールでストリートダンスと呼ばれているものをやっていたんですが、15歳で上京してからは山口小夜子さんや勅使川原三郎さん、暗黒舞踏、歌舞伎などの伝統芸能に触れていきました。そうするうちに身体を追求するダンスというよりは、自分の身体を入れ物にして、そこに魂を入れ込んでいくプロセス自体が面白くなっていったんです。そのプロセスを含んだ全体を私はダンスと呼んでいます。
— そうなると、観ている人に何かを伝えることが重要になってくるということですか。
伝わらなくてもいいんだけど、想像する時間をプレゼントしたい。でも、昨年の「歌舞伎超祭」のパフォーマンスでは、全部情報として処理されている気がしたんです。街の真ん中で壁もないし、歌舞伎町はいつもと変わらず動いている。そこで私たちがパフォーマンスしても、ただの情報として流されていくというか。風景の一部になっちゃって、パフォーマンスしているのにパフォーマンスしていないような感じ。むしろ、街の人たちの方がパフォーマーなようにも思えて、「パフォーマンスって一体なんだろう」と。
— アオイさんのパフォーマンスに対する根幹が揺らぐ体験だったんですね。
普段のパフォーマンスで大切にしていることは、空間をデザインすることなんです。自分がその空間にどういう存在でいることがベストなのか、その空間の密度をどうすれば倍増させられるのかということを考えて、それに必要なストーリーを作っていく。それに沿って身体や目線の動きで空間をデザインしていくんですけど、「歌舞伎超祭」の会場に至っては空間に終わりがないじゃないですか。
— 空も開けてますもんね。
そうなんです。無限に広がっているから。さっき言ったこととちょっと矛盾しちゃうんですけど、強いメッセージを大声で叫ばないと伝わらない感じがしたので、そこにスタミナを使ったんだと思います。
— パフォーマンスの中で「ヒューマン! ヒューマン!」と叫んでいましたね。
あれに関しては全く予定していなくて(笑)。パフォーマンス中の記憶もあんまりないので、後で映像を見て「こんなに叫んでたのか」とびっくりしました。目の前のお客さんもそうですけど、ビルの隙間から見ている人とも目を合わせたりしてたんですよ。すごく機械的でごちゃごちゃしている街だけど、それを作っているのも人間だよなと思ったら「ヒューマン!」って叫んでました。やっぱり、人間が一番怖いし、変だし、面白いですよね。
ダンスは人間の細胞を開かせる
— 今回のパフォーマンスにはどういったメッセージが込められそうですか?
「みんな踊ろう」って思ってます。もう一度身体を動かしたほうがいいんじゃないかな。「ダンス」っていうとハードルが高い感じがしますけど、踊ること、身体を動かすことは生きることそのものだと思うんです。踊ると、脇が伸びていったり、肺に空気が入っていったり、普段の生活にはない感覚があるんです。それがすごく大切だと思うんですね。
— 確かに都市生活を送っていると、ほとんど身体を動かさずに生きていけちゃいますもんね。
そうなんですよ。山に登ったりすると、身体が非対称に動くのがわかるんです。高いところと低いところがあるし、滑りそうになって手をついたりするから。都市はずっと平らだから、身体が四角形に収まっていっちゃうんですよね。この前、自閉症やダウン症、車椅子の方々とワークショップをしたんですけど、みんなの顔が本当に変わるんですよ。親御さんも「あんな明るい顔を見たことない」って言ってました。ダンスはその人の細胞を開かせるような、生きていくうえで根本的な動きなんですよね。
— みんなが踊ることになれば、「パフォーマンスする方 / 観る方」という境界線もあいまいになりますね。
パフォーマンスはみんなの手を取って巻き込むことができるから。ちょっと無理矢理にでも踊る方に引き込んで、困らせたいです。人は困ると何か新しいものを見つけるじゃないですか。今年は困らせて、問いかけて、踊って、元気になってもらいたいなと思います。
アオイヤマダ
ダムタイプ『2020』や『星の王子さま』などの舞台に出演する他、ハイブランドのファッションモデル、MVに起用される。
東京オリンピック閉会式でソロパフォーマンスを披露。
出身地の長野県松本市から文化奨励賞を授与。
GUCCI short film『KAGUYA by GUCCI』に翁役として出演。
Spotify『ただいま』、Instagram #野菜ダンス 発信中。
©hisashi ogawa
KAAT DANCE SERIES『星の王子さま -サン=テグジュペリからの手紙-』
日時:2023/1/21(土)~2023/1/29(日)
会場:KAAT 神奈川芸術劇場
演出・振付・出演:森山開次
美術:日比野克彦
衣裳:ひびのこづえ
音楽:阿部海太郎
出演:アオイヤマダ 小㞍健太 酒井はな 島地保武/坂本美雨 ほか
公式サイト
歌舞伎超祭2022
日 時:2022年11月3日(木・祝)16:00~20:00 ※雨天決行
内 容:特設ステージ上でのダンスやショーなどのパフォーマンスイベント、歌舞伎町の飲食店によるフード販売
場 所:歌舞伎町シネシティ広場 (東京都新宿区歌舞伎町1丁目19)
入場料:無料
主 催:歌舞伎町商店街振興組合
後 援:新宿区
協 力:歌舞伎町タウン・マネージメント、東急株式会社、株式会社東急レクリエーション、Smappa!Group
イベントプロデューサー:Oi-chan(OIP)
text:張江浩司
photo:RyoSato