2025年6月29日、新宿・歌舞伎町にある東急歌舞伎町タワー TOWER STAGEにて、アジア各国から注目のアーティストが集結する音楽イベント「TOKYO PLAYGROUND」が初開催された。
“音楽とカルチャーが交差する、新たな遊び場”を掲げた本イベントには、タイのVINI、マレーシアのbabychair、日本からはCody・Lee(李)、EMNW、Dead By Inchesという、新進気鋭の5組のバンドが出演。
異なる国籍・ジャンルの音楽が交差し、カルチャーが交わる“遊び場”としての価値が生まれた1日をレポートする。
アジアの才能と歌舞伎町が交差する、“開かれた都市型フェス”

近年、アジアの音楽をテーマにしたイベントが、日本各地で同時多発的に立ち上がっている。そうしたなかで初開催となった「TOKYO PLAYGROUND」。
アーティストとオーディエンスが開かれた音楽体験を共有できる場を目指して企画されたこのイベントには、「海外と日本の音楽シーンをつなぐ“入口”のような場をつくりたい」という主催者の思いが込められているという。
企画・制作の中心となったのは、ソニー・ミュージックの新人発掘部門・SDグループ。同グループは2023年から、グローバル展開を見据えたオーディション「The Global Playground Audition」を展開し、受賞者に海外フェス出演の機会を提供してきた。
SDグループの佐藤友佳子さんは、「TOKYO PLAYGROUND」という場を作るに至った背景について「いきなり海外のフェスに出るよりも、まずはその“空気感”を国内で体験してもらう方が、アーティストにとって理想的だと感じていました。だからこそ、東京の中心で多くの方に見ていただける魅力的な場所を探していましたし、多様な人が自然と触れられる場所を作りたかったのです」と語ってくれた。

この構想に東急歌舞伎町タワーを運営する株式会社TSTエンタテイメントが共鳴。歌舞伎町のランドマークともいえるタワー前のTOWER STAGEと歌舞伎町シネシティ広場を舞台にした入場無料の野外イベントが実現した。
「フェスといわれてイメージするのは、遠出が必要だったり、特定のジャンルに深くハマっていないと足を運びにくい。でも、新宿・歌舞伎町の広場なら、誰でも立ち寄れてカルチャーとの偶然の出会いも生まれやすい。そういう“開かれた場”を目指して、フリーイベントというかたちにしました」(佐藤さん)
タイ、マレーシア、日本。各国の音楽シーンで注目を集める5組のライブ


Photo : Rintaro Miyawaki
当日は快晴。初夏の日差しのなかで、まずは東京のオルタナティブシーンで注目を集める4人組バンド、Dead By Inchesからスタート。2020年に結成され、下北沢や渋谷のライブハウスで活動を続けてきた彼らは、近年はタイの大型フェス「Maho Rasop Festival 2023」にも出演するなど、国際的な活動も行っている。透明感あるボーカルと荒々しいギター、タイトなグルーヴが交差するエネルギッシュなパフォーマンスを展開した。


Photo : Rintaro Miyawaki
2番手に登場したのは、結城えま・めにゅによる2人組ユニット・EMNW(読み:エムニュー)。ドラム、ギター、ベースを従えたバンド編成で、力強いパフォーマンスを披露した。
EMNWは、2024年の結成以降、今年4月には台湾・台北のフェスとライブハウスで初の海外公演を成功させるなど、急成長中のユニット。2000年代に盛り上がりをみせたいわゆるミクスチャーロック系のヘヴィなバンドサウンドをバックに、えまとめにゅの軽やかなラップや歌が響き渡る。ジャンルだけでなく世代もミックスした独自の世界観に、多くの観客が拳を上げていた。


Photo : Rintaro Miyawaki
続いてステージに現れたのは、マレーシアのドリームポップバンド、babychair。約1年半ぶり、2度目の来日となる。
ローファイな質感と浮遊感のあるメロディ、そして甘く繊細な歌声が、会場の空気をゆるやかに包み込む。南国の湿度を含んだようなサウンドと、オーディエンスの静かな集中が交差する時間は、異国的で詩的な余韻を残した。


Photo : Rintaro Miyawaki
4組目には、メジャーデビューから3年を迎えたロックバンド・Cody・Lee(李)が登場。近年は台北、台中、上海、北京、ソウルなどアジア圏でのライブも積極的に展開し、国際的なファン層を築いてきた。
この日は「涙を隠して(Boys Don’t Cry)」「我愛你」など、エッジの効いたアッパーな楽曲を次々と披露。キャッチーなメロディーとリズムの演奏に足を止める通行人も多く見られ、幅広いオーディエンスの心を掴む彼らの底力が垣間見えた。


Photo : Rintaro Miyawaki
トリを飾ったのは、タイのテクノポップバンド、VINI。80’sテイストのシンセサウンドに浮遊感のあるボーカルを乗せた、ダンサブルでドリーミーなサウンドが夜の歌舞伎町に響きわたる光景に、多くの通行人も魅入られていた。この日はバンコクの先輩バンドであるPOLYCATとの共作曲や、新アルバムの楽曲など意欲的なセットを披露。ラストにふさわしい開放感のなか、観客の身体は自然と揺れ、広場には一体感が広がっていった。

歌舞伎町から世界へ。アーティスト同士のグローバルな交流がもたらすものとは?
国籍もジャンルも異なる5組のアーティストが集った「TOKYO PLAYGROUND」。共通していたのは、海外での活動を積極的に広げようとする姿勢だ。彼らにとって海外展開とはどのような意味を持つのか、そして「TOKYO PLAYGROUND」のような国際的なイベントに期待することとは?ライブを終えたEMNWとVINIに話を聞いた。

― アジア各国のアーティストが集まる「TOKYO PLAYGROUND」に出演してみていかがでしたか?
結城えま:いつも普通に歩いてる新宿で自分がライブしているのが不思議な感覚だったんですけど、お客さんも温かくて、盛り上がってくれて楽しかったです。
めにゅ:新宿って様々な国籍の人が集まる場所だと思うんですけど、そういう場所でタイやマレーシアのバンドと一緒にライブできるっていうのが、すごく貴重な機会だなと感じました。
― 4月には初の海外公演として台湾にも行かれたとか。印象に残っていることは?
めにゅ:台湾の方々はとにかく温かくて。私たちのことを知らなかったはずなのに、ライブで盛り上がってくれて、カバー曲も一緒に歌ってくれて。食べ物も美味しかったし、また早く行きたいです!
結城えま :言葉が通じなくても、音楽でひとつになれる感覚を体感できて、日本でライブするのとはまた違う感覚でした。とてもいい経験になりました!
― 「TOKYO PLAYGROUND」は海外フェスや国内外ショーケース出演へと繋がるオーディション企画とも連動しています。すでに台湾の「NEON OASIS 2025」へ出演したお2人から、海外進出を目指すアーティストに伝えたいことがあれば教えてください。
結城えま:私たちにとって初めての海外で、言語や文化の違いに不安もありました。でも、現地の方が本当に助けてくれて、すごく親切で。その優しさに何度も助けられました。日本のことを好きでいてくれる人も多くて、「行ってみたら案外大丈夫かも」と安心できました。
めにゅ:「大好き!」「かわいい!」と日本語で話しかけてくれる人が多くて、歓迎してくれているんだと感じました。現地でのライブの後に話しかけてくれた台湾の方が、日本のライブにも来てくれたりして、つながりが続いているのが嬉しいです。
― 今後、海外の音楽シーンとどのような関わり方をしていきたいですか?
めにゅ:EMNWを始めてまだ1年ぐらいなんですが、短い期間でもたくさんの経験ができて。もっといけるなって思っています。これからも世界へ繋がっていける音楽を届けたいです。
結城えま:最近、TikTokやインスタ経由で海外のフォロワーさんがすごく増えていて。DMやコメントでも「次はこの国に来て!」とたくさんリクエストをもらっています。そういう人たちに、会いに行きたいと思っています。
音楽が橋渡しになってくれる

― VINIは今回が2回目の来日公演ですね。今回のライブはどんな期待を持って臨みましたか?
Fhong(Gt / Vo、読み「フォン」):まずは自分自身がステージを楽しむこと。もうすぐ新しいアルバムをリリース予定なので、この日本ツアーをきっかけに新しいファンと出会えたらいいなと思っていました。
― 「TOKYO PLAYGROUND」は5組のアーティストが出演して、VINIはトリでの出演でした。
Fhong:正直、とても緊張していました。私たちにとっては過去最大規模のステージだったし、トリという立場にもプレッシャーがあって。でも、ステージに立った瞬間に楽しさが勝って、自分の殻を破ることができた気がします。
― お2人は日本の音楽もお好きなんですか?
Ply:私は日本のアニメが大好きで、『NARUTO』の主題歌を歌っていたFLOWが好きです!
Fhong:今日出演していたDead By Inchesは、タイのバンド仲間のSoft Pineから紹介されて興味を持っていました。日本の音楽には独自の美学がありますよね。他の国と似ているところもあるけど、やっぱり“日本らしさ”がしっかりあると感じています。
― 最近、日本のアーティストがアジアに進出したり、アジアのアーティストが日本に来たりと、国境を越えた音楽交流が活発になっています。そうした国際的な流れのなかで、VINIは今後どのように活動を広げていきたいと考えていますか?
Fhong:より多くの国でファンと出会うために、新しいEP(「love chronicles」)を制作する際には「これからどうしたいか」をメンバーやスタッフとじっくり話し合いました。サウンドもエレクトロからポップ寄りにシフトしています。
Ply:新作にはポップと何かを掛け合わせたような曲がたくさん入っています。それによって、どんな人たちがどんな風に反応してくれるか、それを知るための作品にもなっているんです。もっと他の人のことを理解し、自分のことも深く理解したい。そんな思いを込めた作品になりました。

― 「TOKYO PLAYGROUND」のような日本の国際的なカルチャーイベントへの参加に、どのような意義を感じていますか?
Fhong:私は大学で言語と文化を専攻していたこともあって、異文化理解の大切さをすごく感じています。こうしたイベントが、その架け橋になってくれると信じています。
Ply:アーティストにとっても、海外の仲間と出会えること、そして初めてのお客さんの前で演奏できることは本当に貴重です。バックグラウンドはそれぞれ違うけれど、音楽がその間に橋をかけてくれる──それがすごくクールなことだと思います。
アジアの才能が出会う場所──TOKYO PLAYGROUNDが描く未来像とは?

会場を見渡して印象的だったのは、老若男女の客層が入り混じって、偶然その場を通りかかった日本人や外国人もふと足を止め、ライブに見入ったり、動画を撮影したり、ビデオ通話で紹介したりする様子があちこちで見られたことだった。まさに歌舞伎町という街だからこそ生まれた光景だろう。
そんな「TOKYO PLAYGROUND」は、早くも第2弾の開催が2025年9月27日に予定されている。また、イベントと連動し、『TOKYO PLAYGROUND #2』、『Music Lane Festival Okinawa』(沖縄)をはじめ、台湾やタイ、インドネシアで開催さえる国内外ショーケース出演へと繋がるオーディション企画『TOKYO PLAYGROUND #Audition』も通年で実施されている。
「誰もがカルチャーに触れられる、という特性をもっと生かしていきたい。実際に今回、海外のフェス関係者からも『オープンな場所でこういうイベントができるのって本当にすごいね』『ぜひ自分たちも関わってみたい』という声をいただいていて。『TOKYO PLAYGROUND』に出演することが若手アーティストにとってステータスになるように、継続的な場作りをやっていけたらと考えています。さらに、私たちと同じ志を持つエンタメ関係者とチームを組んで、一緒に育てていけるようなかたちも模索していきたいですね」(佐藤さん)

アジアの新たな才能と、日本の次代を担う若き表現者たちが、都市の真ん中で出会い、響き合う。 「TOKYO PLAYGROUND」は開かれた音楽プラットフォームとして、次のフェーズへと進化を続けていく。
『TOKYO PLAYGROUND #Audition』の詳細はこちら:
https://www.tokyoplayground-official.com/audition/
次回、9月27日(土)に「TOKYO PLAYGROUND#2」の開催が決定!
詳細はこちらから
取材・文:中村めぐみ
写真:谷川慶典、Rintaro Miyawaki