全体のMCも務めるポールダンサーのKUMIは、国内外の様々なイベント、舞台、パーティーで活躍する他、椎名林檎、宇多田ヒカルなど数々のアーティストのMVにも出演しており、昨年の歌舞伎超祭では祈りにも似た舞をポールの上で披露。弁財天をイメージした衣装に身を包んだ彼女に、意気込みを語ってもらった。
※第一回
マスク越しにも伝わる笑顔
— 昨年の「歌舞伎超祭2021」はいかがでしたか?
まだコロナの感染状況が予断を許さない時期で、正直「本当にやって大丈夫なのだろうか?」と不安に思ったことを覚えています。野外とはいえ人を集めてもいいのか、ヤジが飛んでくるんじゃないか……。でも、次の瞬間、パフォーマンスができる喜びがドッと湧いてきました。あの日、ポールの上から眺めた景色は忘れられません。多くのみなさんがとても自由に楽しんでくれていました。マスクをしていても、笑顔になっていることがわかりました。ライブパフォーマンスの力を改めて感じました。私たちもお客様の前でやるのは久しぶりだったので、その光景に胸がいっぱいになって…。外ならではのすごい風が吹いていたのを覚えています。
— ふたつのパフォーマンスを披露されてましたが、ひとつ目は巫女を彷彿とさせる姿が印象的でした。
コロナや、みなさんの不安な気持ちを祓いたいという思いで神楽鈴を持ってポールに上りました。歌舞伎町だけでなく、ここを中心に東京、日本、世界を清めるくらいの気持ちだったのを覚えています。野外でのパフォーマンスでは空に近づくことになるので、神様というか天界というか、そういうものと地上を繋いでいるような感覚になるんです。天井がない、どこまでもひらけた空があるあの広場の環境があるからこそのパフォーマンスになったと思います。
— 続いて黒の烏帽子に白装束で登場し、途中で脱ぎ捨てて黒ボンデージ姿に変わりながらのダンスも圧巻でした。
烏帽子と白装束は陰陽師をイメージしたんです。音楽は映画『AKIRA』(1988年)のサウンドトラックを使わせていただきました。
— 「芸能山城組」ですね。
そうです! 私、大好きなんですよ! 歌舞伎町の雰囲気ともぴったりですよね。あと、男性性を表現したい狙いもありました。最初のパフォーマンスで女性的な表現をして、次に男性的な力強さを。そして、それも脱ぎ捨てるという。今は説明しやすいので「女性性/男性性」という言葉を使っていますけど、もうそろそろそういう分け方自体がなくなると思うんです。男か女かどちらかしかないのではなく、その間はグラデーションになっていて、様々な個性があると思うんです。
社会の解像度が上がるきっかけに
— KUMIさんのポールダンスからは非常にポジティブなクィア性を感じました。
この世の中にはいろんなセクシャリティや自由なあり方がある。それはとても自然で当たり前だと思うんです。ポールダンスの世界にも様々な方がいます。小人バーレスクダンサーのちびもえこちゃんも昨年出演していましたけど、私はもえこちゃんと知り合っていろいろお話ししてから、街を歩いていても電車に乗っていても彼女と同じような方々がいることに気づくようになったんです。逆に言えば、それまではあまり見えていなかったということですよね。演劇をやっていたときに目が見えない役を演じたんですけど、その時も視覚に障害を持ってる方がこんなにいらっしゃるんだなと認識できるようになりました。
— 社会や他者に対する解像度が上がるような経験ですね。
まさにそうです! いろんなパフォーマーがステージに上がることで、みなさんが自然に視野が広がるような体験をされるんじゃないかなと思っています。
— いい意味で雑多な歌舞伎町はまさにうってつけですね。
ポールの上で回りながら歌舞伎町を見渡したときに、そういった街のパワーがグワーっと集まってきて、今度はポールから空に昇っていくようでした。やっぱり街にすごく独特な力があるのを感じます。
一期一会じゃ生ぬるい
私はとても厳しい家庭で育って、その反動もあってポールダンスを始めたんです。初めは独学だったんですけど限界を感じて、あるとき知り合ったポールダンサーの方から教えてもらえることになって。そのころはポールダンススタジオもなかったので、当時歌舞伎町にあったお姉さまが艶かしく踊るようなお店がレッスン場所だったんです。
— 歌舞伎町がKUMIさんのキャリアのスタート地点だったんですね。
この取材にあたって久しぶりに思い出しました。その先生も新宿区のお生まれだったので、改めてご縁を感じました。
— 今年の「歌舞伎超祭」はどうなりそうですか?
今回は食べ物のブースもあるんですよね?
(スタッフ)歌舞伎町のお店が出店してくれて、ビールなんかもあります。
お酒も出るんですか? あら、大変。出演者も喜んじゃいますね(笑)。やっぱり食べたり飲んだりすることって、お祭りの楽しみのひとつですよね。
昨年が終わった段階では、2回目ができると思ってなかったんです。それがこういった機会をいただいたということは、前回よりもさらに伝わって繋がれるようなものにしたいと思うんです。出演者も運営のみなさんも一緒になって創りあげられたらなと思います。コロナがあったり、世界では争いや、様々な出来事が起きている。日本でも。この先何が起こるかわからない。だからこそ、今を精一杯生きたい。もし今回で終わってしまったとしても悔いがないくらい、みなさんと一緒に今を味わえたらと思っています。「一期一会」じゃ生ぬるいくらい、大切な出会いにしたいです!
— 120%のKUMIさんが観られそうですね。
日本のいいところでもあると思うんですが、「迷惑をかけちゃいけない」とか「こうあらねばならない」という思いが強すぎて窮屈になってしまっている人がたくさんいると思うんです。胸を開いて、オープンハートで、他者のことも自分のことも許したり愛したりしたい。どんどん軽くなって空に昇っていくような。そんな気持ちになってもらえるようなお祭りになったら最高ですね。
イベント情報
イベント名: 歌舞伎超祭2022
日 時: 2022年11月3日(木・祝)16:00~20:00 ※雨天決行
内 容: 特設ステージ上でのダンスやショーなどのパフォーマンスイベント、歌舞伎町の飲食店によるフード販売
場 所: 歌舞伎町シネシティ広場 (東京都新宿区歌舞伎町1丁目19)
入場料: 無料
主 催: 歌舞伎町商店街振興組合
後 援: 新宿区
協 力: 歌舞伎町タウン・マネージメント、東急株式会社、株式会社東急レクリエーション、Smappa!Group
イベントプロデューサー: Oi-chan(OIP)
text:張江浩司
photo:佐藤亮