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【田中開(OPEN BOOK)が新宿を掘り下げる】Vol.05 梁丞佑(フォトグラファー)「夜が明るくて星の見えないこの街で、みんな自分の星を探している」

歌舞伎町

インタビュー
PHOTO ゴールデン街 新宿歌舞伎町MAP 田中開
DATE : 2023.07.12
新宿・ゴールデン街のレモンサワー専門店「OPEN BOOK」の店主・田中開がカウンターを飛び出して、歌舞伎町の人々と対話しながら街の魅力を掘り下げる本連載。第4回のゲストは、この街で写真を撮り続ける韓国出身のフォトグラファー・梁丞佑(ヤン・スンウー)さん。彼は実際に歌舞伎町で寝泊まりし被写体と酒を飲み交わし、ファインダー越しに様々な人の姿を見つめてきた。
この日初対面の二人。梁さんは終始、人懐こい笑顔で取材に答えてくれた。

田中開(以下、田中):以前、的屋でアルバイトをされている様子を拝見しましたが、的屋の方と仲良くなるために働いてるんですか。

梁丞佑(以下、梁):そうなんです。始めは写真が撮りたくて仲良くなるためにアルバイトを始めて、もう11年目になります。2022年に「的屋」をテーマにした写真集『TEKIYA 的屋』(禅フォトギャラリー)を出版したので、もうしばらくはバイトをしなくても良いかなと思っているのですが、人手が足りないようで誘ってくれるんですよ(苦笑)。

田中:そうだったんですね。それだけ頼りにされているということじゃないですか。ちょうど僕の店に新宿を撮り続けたフォトグラファー・渡辺克己さんの写真集があったので持ってきました。お会いしたことはありますか?

梁:渡辺克己さんには、僕が学生だった頃によく飲みに連れて行ってもらいました。格好つけたりもしない、普通の酔っ払いのおじさんですよ(笑)。当時僕は、金曜日の夜から日曜日の朝まで歌舞伎町に段ボールを敷いて寝泊まりしながら写真を撮っていたんです。たまにプリントを渡辺さんのところに持っていくと、アドバイスをしてくれました。「この黒は、これで良いと思う?」なんてね。

田中:渡辺さんの黒はかっこいいですもんね。街での写真の撮り方について何か教えてもらったことはありますか。

梁:渡辺さんに教えてもらったのは酔拳ですね。やっぱり飲んだら自分の気持ちも変わりますし、一緒に飲めば相手も気を許してくれますから。僕は学生でずっと被写体を探していたけれど、渡辺さんは連載をやっていたから、いつも題材に追われていました。僕が写真を撮るのは、自分の短編映画を作っている感覚なんです。最初に丁寧に説明して、被写体がOKしてくれたらそこからは自分の世界に登場してもらうということだから、結構注文をすることもあります。

左上から時計回りに、『新宿』(渡辺克己)、『酔っ払いは二度お会計する』(田中開)、『新宿迷子』(梁丞佑)

田中:どうして歌舞伎町を撮り始めたんですか。

梁:日本に来る前はソウルに住んでいたのですが、ソウルから釜山までドライブをしたら3時間ちょっとで海にぶつかるほどで、「ちょっと狭いな」と窮屈に感じていた部分があったんです。その時に友達に「この海を渡ったら日本だよ」と言われて、2ヶ月後には日本を訪れました。1996年でした。街並みが綺麗だなと思って日暮里に住んでいたのですが、綺麗すぎて逆に半年でストレスが溜まってしまった。そんな頃、通っていた日本語学校の先生が「歌舞伎町は危ないので、行かないように」と教えてくれて、「そんなに親切に(面白そうな)場所を教えてくれるならば行かないと」と思って早速行ってみた。そしたら本当に、色々な気持ちが吹っ切れました。みんな道端で飲んでいたり、喧嘩していたりして、自由に感じたんですね。

田中:ゴールデン街にはあまりいらっしゃらないですか。

梁:たまに飲みには行くけれど、あまり写真を撮ると怒られるから撮影はあまりしないですね(※商業写真を撮影するには、許可申請が必要)。今は海外の人ばかりだけれど、昔は演劇や映画、写真の仕事をしている文化人が多くて、当時の僕はあまり話が合わなかった。渡辺さんとはゴールデン街でも一緒に飲みましたけど、そこまで馴染めなかったですね。

田中:渡辺さんもそうですが、梁さんもディープなところにガンガン入り込んで写真を撮られていらっしゃいますよね。 中にはコワイ人もいると思うのですが、何かそういう人たちに写真を撮らせてもらうコツはあるのでしょうか。

梁:やっぱり最初は怖くて声をかけられないこともありました。ある時かっこいい5人組を見かけたのだけど、どうしても声をかけることができなかった。それが悔しくて悔しくて、眠れなかったんです。だから「次見かけたら絶対に写真を撮らせてもらおう」と思っていたら、また歌舞伎町で出会って、思い切って声をかけて写真を撮らせてもらいました。それから盗み撮りをせずに、ちゃんと相手に礼を尽くして行儀を良くしていれば結構大丈夫なのだなと学びましたね。

田中:(写真集の5人組が写った写真集を眺めがら)全員バチっと目線が決まっていてかっこいいですね。「行儀良くしていれば大丈夫」ということですが、具体的に何を気にしているのでしょうか。

梁:当たり前だけど、勝手に写真は撮らないし、撮った写真も勝手には使わないですね。ちゃんと撮った人に「使っても良い?」と相談します。

新宿で生きる人々の姿を写し出した写真集を眺めながら。

田中:ゴールデン街は馴染めなかったとおっしゃっていましたが、歌舞伎町はまた違ったんでしょうか。

梁:そうですね。この街は肌の色も、男でも女でもその中間でもどちらでもなくても、なんでも「どうぞ、どうぞ。でもこの中で頑張るか、頑張らないかもあなた次第だから、好きなように」という感じ。そこで夢を見てもがいている人もいれば、どん底まで落ちる人もいる。歌舞伎町ってネオンが明るいから星が見えないでしょう? だから自分の星を探そうということですね。僕にとってはその星が、写真だった。かっこ良く言えばね(笑)。

田中:かっこいい……!確かにただ「ご自由に」というだけじゃなくて、何か暗黙のルールというか、秩序はある気がしますね。最近はまた違うかもしれないけれど、路上でなんでもやっちゃうけれどそれがあるから許されているというか……。梁さんは「歌舞伎町は人が面白い」とおっしゃっていますが、梁さんが思う面白い人ってどんな人ですか?

梁:人間臭い人というんでしょうか。香水とかつけずにそのままの匂いがするところに興味を惹かれるんです。

新宿の路上で生きる人々について親しみを持って話す梁さん。

田中:囲碁とかやっている人、いましたよね。

梁:えっちゃんね! えっちゃんは、去年の冬に亡くなってしまいました。ガード下にいつもいたんだけど、最後に1杯飲んでタバコを1本吸って、そのまま亡くなったと聞きました。

田中:そうだったんですね。最近お見かけしないなと思っていたのですがそういうことだったんですか……。

梁:私が初めて訪れた頃から、この街も大きく変わりました。浄化作戦を経て、より深いところに潜っていった人たちがいるのではないでしょうか。インターネットが広がって様々な地域に散らばっているということもあるかもしれないけれど、それだけじゃないと思います。僕が撮りたいと思う被写体は減ってしまいました。

田中:それでも写真を辞めようと思ったことはないのでしょうか。

梁:ないですね。今も楽しくて楽しくて仕方がないです。

田中:今は何を撮っているんですか。

梁:ホストクラブを撮っています。マスクをしている期間が長かったから、写真を撮るのは難しかった。あるホストクラブの会長が、「この街は時代が変わった。昔は男が(女に)金を使う街だったけれど、今は女が(男に)金を使う街だ」と言っていましたが、その通りかもしれないですね。

田中:今ホストクラブはすごく盛り上がっていますもんね。この連載に登場してくれた手塚マキさんも言っていました。ホストクラブを撮っていて何が面白かったですか。

梁:お客さんが多くてホストの数が間に合わず、お客さんが1人で座っている時間ができていたんです。そのお客さんに「なんで写真撮ってるの?」と呼び止められて説明をしていたのですが、その人が韓流アイドル好きだったみたいで。僕が韓国出身だと伝えると「私、あなたを指名するわ!」なんて言うんですよ。

田中:すごい、指名が入ったんですね。それくらい、写真を撮るときはお店に入り込んでいくということですね。梁さんがそこまで懐に入っていけるのには何か理由があるのでしょうか。

梁:自分で気をつけているのは、周りの様子をよく見て空気を読むことです。「やばいな」と思うとすぐカメラをしまうし、ホストクラブでもずっと突っ立っているんじゃあその場がしらけてしまうから、あまり目のつかないところに隠れてみたり……。

新宿で飲む話で盛り上がる二人。

田中:写真集には十分やばい写真も結構ありますけどね(笑)。梁さん自身も韓国ではやんちゃだった時代もあったそうですが、こうして歌舞伎町に集う人の共通点は何かあると思いますか。

梁:基本的には、寂しいんじゃないでしょうか。アフリカ系アメリカ人でこの辺りを仕切っていた人がいて、なかなか乱暴な暮らしをしていたのですが、ある日突然「梁ちゃん、なんで俺がいつもここに立っているのか知ってる?」って聞いてきたんです。「わからないよ」と言うと、「俺だって寂しいんだよ」と言う。それを聞いて、みんな寂しがり屋で人と関わり合いたいんだと思いました。

田中:梁さんもそういう寂しい気持ちはあったんですか。

梁:そうですね、ここに来たばかりの頃は自分で選んで出てきたくせに、「韓国の友達はみんなあっちで楽しくやっているのに、俺はここで金もなくて、何をやっているんだろう」と思っていました。でもそのうちこっちでも知り合いができてね。

田中:本当は関わりたい気持ちがみんなそれぞれあるのに、それを開けっぴろげにしない粋なところもあるから、うまく隠しながら生きているのかもしれないですね。お金を払えば人と会えるという店の形態だけじゃなくて、韓国人や中国人、アフリカ系アメリカ人も、様々な国から人が集まって立ち話をしている風景がこの街にはありますよね。

梁:そうそう、そうなんです。だからそういうものを隠さない方が、僕は良いと思うんですよね。

梁丞佑

1966年、韓国・井邑(チョンウプ)市生まれ。1996年に来日し、日本写真芸術専門学校へ入学。東京工芸大学芸術学部写真学科を卒業後、同大学院芸術学研究科メディアアート専攻写真メディア領域修了。2004年フォックス・タルボット賞第一席、2006年新風舎・平間至写真賞大賞、2017年には、写真集『新宿迷子』で第36回土門拳賞を受賞した。現在フリーの写真家として活動している。主な作品集に、『青春吉日』(2019年新装版/ 禪フォトギャラリー)、『the last cabaret』 (2020年/禅フォトギャラリー)などがある。

田中開

新宿ゴールデン街「OPEN BOOK」(東京都新宿区歌舞伎町1-1-6 ゴールデン街五番街)店主。1991年、ドイツで生まれ、東京で育つ。早稲田大学基幹理工学部卒。新宿ゴールデン街にレモンサワー専門のバー「OPEN BOOK」、新宿一丁目に「OPEN BOOK 破」、日本橋のホテルK5内に「Bar Ao」を経営。直木賞受賞作家の田中小実昌を祖父に持つ。2022年には初の著書『酔っ払いは二度お会計する』(産業編集センター)を刊行。

写真:工藤瑠入
文:平井莉生(FIUME Inc.)
撮影協力:JAM17

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