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名店主に聞く!初心者がゴールデン街を楽しむためのヒントと、5つのおすすめ店

歌舞伎町

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ゴールデン街 バー 田中開
DATE : 2022.11.16
新宿の中心地・歌舞伎町にありながら、一線を画す独特な空気が流れるエリア「ゴールデン街」。その異様な雰囲気に憧れたりもするけれど、初心者には少し足を踏み入れづらい。そこで、ゴールデン街の名店「OPEN BOOK」の店主・田中開さんに、初めてのゴールデン街を楽しむためのヒントとおすすめの店を聞いた。

田中開 Tanaka Kai

新宿ゴールデン街「OPEN BOOK」店主。1991年、ドイツで生まれ、東京で育つ。新宿ゴールデン街でレモンサワー専門のバー「OPEN BOOK」、新宿一丁目で「OPEN BOOK 破」、日本橋のホテルK5内で「Bar Ao」を経営。2022年5月には、初の著書『酔っ払いは二度お会計する』(産業編集センター)を刊行。『MASH UP! KABUKICHO』 では、歌舞伎町の人々と対話をしながら街の魅力を再発見する『田中開が新宿を掘り下げる』を連載中。

そもそも「ゴールデン街」ってどんな場所?

ゴールデン街は、歌舞伎町にある飲食店街。2000坪ほどの狭い区画に木造長屋が連なっており、280軒以上の小さな飲食店が密集している。

その起源は、さかのぼること1945年・太平洋戦争終結後の混乱期。闇市として歴史が始まり、1950年代の終わり頃までは非合法で売春がおこなわれる「青線地帯」だった。1960年代になると「文壇バー」と呼ばれる店が増え、夜な夜な作家やジャーナリスト、編集者、映画関係者が集まるように。狭い店内で肩を並べて熱い議論や喧嘩を繰り広げ、「文化人の地」として賑わった。

現在も、雑多な人々が小さな店内に溢れ、時を忘れてお酒を交わす光景はあの頃のまま。昭和の風情が残る店が連なる飲み屋街として、国内外から注目されるエリアだ。

初心者がゴールデン街を楽しむための4つのヒント

ゴールデン街にある、レモンサワー専門店「OPEN BOOK」。店主は、田中開さん。1970年代からゴールデン街で飲み歩いていた、直木賞受賞作家の田中小実昌さんを祖父に持つ。小実昌さんが遺した書物など、無数の本が吹き抜けの天井まで並ぶ店内で、開さんに「初心者がゴールデン街を楽しむための4つのヒント」を教えてもらった。

1. 初心者におすすめのお店は「人によって変わる」

2. ゴールデン街デビューするなら「お祭りの日」がおすすめ

3. 自分に合った「曜日と時間帯」を見つけよう

4.「いろんなレイヤー」があるのがゴールデン街のいいところ

1. 初心者におすすめのお店は「人によって変わる」

ゴールデン街で初心者におすすめのお店を開さんにたずねてみると、「正直、どこでもいいと思っている」と思わぬ回答が。びっくりして理由を聞いていくと、そこにはゴールデン街を知るための大きなヒントがあった。

「初心者におすすめ……正直、どのお店でもいいと思っているんですよ。もちろん、比較的行きやすい雰囲気のお店はあるけれど、じゃあそこが手放しに初心者全員におすすめできるお店かと言われたら、また違うと思っていて。ゴールデン街は、“初心者”かどうかというより、“人”によっておすすめすべきお店が変わる場所だと思っています。

おすすめが何かより、どのようにして自分にとってのおすすめを知るか。自分を軸とした文脈のある考え方がゴールデン街らしいなと思います。たとえば、隣で飲んでいるお客さんとの会話から2軒目のおすすめのお店を教えてもらうとか。そんなふうに、自分に合うお店を“見つけていく”のがゴールデン街の醍醐味かなと思うんですよね。……こんなこと言っていますけど、あとでちゃんとおすすめのお店は紹介するので安心してください(笑)」(田中開さん、以下同)

2. ゴールデン街デビューするなら「お祭りの日」がおすすめ

おすすめの店は人によってさまざまだが、初心者のゴールデン街デビューに“おすすめの日”があるのだそう。

「初心者がゴールデン街デビューするなら、春夏秋に開催される「お祭り(※)」に遊びにきてみることをおすすめします。この日は、どのお店もウェルカムな雰囲気。ノーチャージでどこも1杯500円になるから、いろんなお店にトライしやすいはず。

5軒くらい回ってみてそれぞれのお店の雰囲気を知って、お気に入りを見つけてみるのがいいかも。お客さんどうしもみんなオープンで、いい感じに混み合っていて、横にいる人との会話も生まれやすいと思います。いわゆる“ザ・ゴールデン街”な一日を楽しめるはず」

(※)春は「桜まつり」、夏は「納涼感謝祭」、秋は「秋祭り」が開催される。年によって開催日が変わるので、詳細は新宿ゴールデン街商店街振興組合のウェブサイトをチェック

3. 自分に合う「曜日と時間帯」を見つけよう

「どのようにゴールデン街で過ごしたいか」を軸に、来るタイミングを決めるというのもおすすめの楽しみ方、と開さん。

「ゴールデン街は、曜日と時間によって、いる人が全然違うんです。当然ですけど、金曜と土曜が忙しくて、初めて来る人が多いのもこの曜日。そういう意味で、普段からいる純度の高い“ゴールデン街の人”たちがいるのは月曜から木曜の夜。

自分に合ったお店を見つけるのもいいけれど、“自分に合った曜日と時間帯”を知ることもゴールデン街のひとつの楽しみ方だと思います。お祭り騒ぎの土日に来てワイワイするのも楽しいけれど、せっかくならお店の人と仲良くなれるタイミングがいいんじゃないかな。ちなみに、火曜日の夜7時はどのお店も暇になるのでおすすめです(笑)。

ただ“よく行く店”というだけではなく、そこで“話せる人を見つける”というのが、大人の嗜みじゃないですか。お店に行かなくても十分お酒を楽しめるようになった今、愚痴のひとつでも聞いてくれるような関係性が築けたり、自然とお互いを知っていけるような時間を見つけてくれたらうれしいです」

4.「いろんなレイヤー」があるのが、ゴールデン街のいいところ

最後に、「ゴールデン街」というエリアの魅力についてたずねると、「レイヤー」というキーワードが飛び出した。

「ゴールデン街には、いろんな“レイヤー”が存在しているんです。時間の軸や生活スタイル、人々の層という意味でのレイヤー。夜のイメージが強いエリアだけど、もちろん昼間の時間も存在していて。同じ場所に対していくつものレイヤーがあるのがゴールデン街のいいところだと思っています。

人それぞれ、生きている時間の前提が違うことを改めて教えてくれる場所。ずっとここにいる僕にも、見たことのない、知らないゴールデン街の時間があるんです。

と、ここで冒頭の『人によっておすすめのお店が変わる』という話に戻るんです(笑)。僕の“おすすめのお店”は、あくまでも僕が知っているレイヤーの中でのおすすめ。これを前提とした上で、最後に5つのお店を紹介します」

「OPEN BOOK」田中開さんがおすすめする5店

開さんが「OPEN BOOK」を始める前に初めてゴールデン街で働いたお店、お店を閉めたあとに夜な夜な通っているお店など、おすすめの5軒を紹介しよう。

昭和49年から続く、ゴールデン街のシンボル店「呑家 しの」

「『しの』は、僕が初めてゴールデン街で働いたお店。馴染みも思い出もあるし、とにかくお酒が安くて、自分がお店を出した今でもよく通っています。ゴールデン街の中でももっとも古く、ゴールデン街といえばこのお店。エリアのシンボルみたいな場所でもあるから、まずは『しの』に行ってみることをおすすめします」

1959年製のジュークボックスが今も動く、音楽好きにはたまらない「こう路」

「60年以上現役で動きつづける、米国Rock Ola製のジュークボックスがあるお店です。月例ライブをやっていたりもするので、音楽好きな人にはおすすめしています。ゴールデン街の中でも、とくにわかりにくい場所にあるお店。見つからなかったら、案内するのでいつでも声かけてください」

手打ちの蕎麦など、しっかりご飯が食べられるバー「Bar OKINA(翁)」

「ゴールデン街では珍しい、しっかりご飯が食べられるお店。名物は手打ちの蕎麦。『OPEN BOOK』のすぐ近くにあるから、炭酸水やライターがなくなったときに貸し借りをしたりと繋がりが強いお店です。自分のお店に来てくれたお客さんに他のおすすめ店を聞かれたら、『翁』をすすめることが多いかな」

種類豊富なクラフトビールと、釜で焼かれたピザが人気の「BAR SKAVLA(スカブラ)」

「クラフトビールや種類豊富なジャパニーズウイスキー、そしてピザ釜で焼かれたピザを楽しめるお店です。ゴールデン街の中では比較的新しいお店だから、店構え的にも初心者の人が入りやすいんじゃないかな。飲んでいて、ちょっとお腹がすいたらこちらへ」

勇気を出して入ってみてほしい、名物ママがいるスナック「Le Matin(ルマタン)」

「ゴールデン街に40年近くある、カラオケのないスナックです。話しを聞くのが上手な名物ママがいて、手作りの料理がおまかせで出てきます。お店の入り口は少し入りづらい空気感があるかもしれないけど、勇気を出して入ってしまえばゴールデン街の醍醐味を存分に味わうことができるはず」

写真:田中成美

文:藤原ひかる

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