▼関連記事
【最新】新宿で味わいたいガチ(マジ)中華の店10選|本場の料理を満喫
レイコさん
<プロフィール>
上海生まれ、本名は朱玲。1990年に来日し、当初は大阪でアルバイトをしながら日本語を勉強する。その後、上京した際に訪れた「上海小吃」で故郷を思い出す味に感動し店舗スタッフに。いまや名物店長として親しまれている。
新宿・歌舞伎町で30年。現地そのままの味が楽しめる中国・上海料理
「上海小吃」があるのは、混沌とした歌舞伎町の中でもディープな雰囲気が漂う「思い出の抜け道」エリア。新宿駅から、徒歩8分前後で行くことができる。
目印は、界隈でもひと際異彩を放つ中国語の赤い看板。数棟の、味わい深い雑居ビルの狭間から細い路地を入り、やさしく微笑む少年少女風の中国人形が見つかれば、目の前がエントランスである。扉のすぐ向こうで、レイコさんが歓迎してくれるはずだ。
店内の雰囲気も個性的。現地の調度品や絵画、同店がモチーフとなったマンガや雑誌の切り抜き誌面、そしてオリジナルのポスターや、常連客の文化人やホストなどが持参したと思われる彼らのPOPなどがあちらこちらに。歌舞伎町らしさに本場の雰囲気がミックスした、にぎやかな空間となっている。
▼関連記事
歌舞伎町の新旧が交差する。ディープな路地裏「思い出の抜け道」探訪
上海料理とは?「上海小吃」で食べられる約400品の刺激的なメニュー
「上海小吃」は3階建てで、最上階に厨房がある。また、数メートル先には離れの別館もある。そんな「上海小吃」のメニューは約400品と多種多様。約7割が上海料理で、残りは四川や湖南地方の刺激的な料理。レイコさんの故郷でもある上海は中国を代表する一大都市であり、中国四大(上海、北京、広東、四川)料理の一つに数えられるほど食文化が豊かだ。
特徴は、山海の恵みを生かした料理の豊富さと、醤油、黒酢、砂糖などを駆使した甘く濃厚な味付け。世界屈指の大河である長江(揚子江)が、東シナ海に注ぎこむ河口のデルタ地帯に位置するため、淡水魚と海水魚が豊富に獲れることもポイントだ。日本でも有名な料理には、上海蟹、小籠包、三黄鶏(上海風骨付き蒸し鶏)、干し豆腐、葱油拌麺(葱油のあえそば)、上海炒麺(上海焼きそば)などがある。
中でも最もオーダー率が高いというのが「あさりの甘辛炒め(1,650円)」。13種もの調味料からなるタレが、プリッとした弾力のあさりと相性抜群だ。
さらに別途「揚げパン(750円)」を注文して、「あさりの甘辛炒め」の濃厚ダレに浸して味わうのが、この店の定番の食べ方となっている。レイコさんは「つけ麺のタレにしてもおいしいよ!」とも。
なお、これら約400品すべての調理を1人のコックが担当しているから驚きだ。また点心や生地は、営業前に点心師が同店で仕込むというこだわりよう。他の店頭スタッフも中国出身の人たちで、まぎれもない本場そのままの味を提供してくれる。
店主おすすめ上海家庭料理。本場の味を賞味あれ
今回は圧倒的に有名な「あさりの甘辛炒め」以外の名物を紹介しよう。まずは、レイコさんが客として訪れた際に胃袋をつかまれた「豚肉高菜そば」。彼女が幼少期によく食べていた、お母さん自家製の一杯とまったく同じおいしさだという。
店主レイコさんのお母さんの味が食べられる!「豚肉高菜そば」
味はもちろん当時と変わらない。たっぷりの刻み高菜はやわらかな塩味で、細切りの豚肉が甘みのアクセントをプラス。高菜に辛さや酸味はなく、実にまろやかなうまみが滋味深い。麺はソフトなストレートタイプで、コシはほぼなし。このミュニッとした食感は日本の中華麺より現地の拉麺に近く、その柔和なタッチがやさしいスープとマッチする。
中国人ならみんな作れる!?国民的な家庭料理「蕃茄炒旦トマトと卵の炒め」
お次は「中国の人ならみんな作れるよ。地域や家ごとに味は違うけどね」とレイコさんが微笑む「蕃茄炒旦 トマトと卵の炒め」。中国は日本の25~26倍ともいわれるほど広大で、代表的な家庭料理も地域ごとに異なるが、それでもこれだけはだれでも知っているといわれる、国民的な家庭料理である。
シンプルながら味わいは奥深く、特に卵の食感が絶妙。見た目こそふわふわしているが、食感はたくましく、決して硬くはないがやわらかいともいいきれない。そして一口ほおばれば、やさしい塩味の奥から甘みと酸味が顔を出す。ベースにはトマトのうまみや卵のマイルドなニュアンスもあり絶品。白飯があれば、より至福な食卓になりそうなおいしさだ。
上海のポピュラーな食材を使った「上海マコモダケ炒め」
続いて食したのは「上海マコモダケ炒め」。マコモは水辺に生えるイネ科の植物で、名称とは裏腹にキノコではない。日本ではあまりなじみはないが、上海では比較的ポピュラーな食材だ。タケノコやアスパラガスにも似たサクサクの食感で、同店では甘じょっぱいタレで炒められている。素材の淡白なうまみとマッチして、酒のつまみにもってこいのうまさだ。
ちなみに同店には、酒好きにはたまらないシステムがある。それが、35歳以下の3人以上のグループなら、ビールと紹興酒以外の酒類が持ち込み自由というルールだ。また、タイムサービスによる半額品や、学業や営業などのさまざまな分野で1位になった人を祝うワインサービスも存在。詳しくは「上海小吃」のウェブサイトへ。
サソリやクモにカエルetc。馴染みのないゲテモノにハマる人も!
日本ではゲテモノ扱いされる、マニアックな食材がそろっているのも「上海小吃」ならではだ。もともとは日本に住む中国人向けに用意していたというが、日本人にも一定のファンがいるとか。特に人気なのが、クモやゲンゴロウ、サソリといった珍味。
珍味は中国では家庭よりも屋台などの飲食店で提供され、素揚げにして食べるのがポピュラーだそう。ほかにも昆虫や幼虫、カエル、ハブ、タウナギ(ウナギに似た淡水魚)、ハト、豚の脳みそなどがラインナップ。なかでもカエルやタウナギは唐揚げや鍋などにして、上海でもよく食べられているという。
これらはもちろん食用で、材料は中国から仕入れている。そんな話をレイコさんから聞いていると、ラフな袋に入った空心菜が大量に届いた。何やら、行商人らしき方とレイコさんが中国語でしゃべっている。やはりここは異国情緒たっぷりだ!
歌舞伎町で30年生き抜いてきた「上海小吃」の底力
長年「上海小吃」に立ち続け、歌舞伎町の街や人を見続けてきたレイコさん。海外移住に憧れ欧米も選択肢にあった中、距離が近い先進国ということで日本に渡ることを決めた。
「私が『上海小吃』で働きはじめたのは1994年の8月17日。場所は変わらずここだけど、最初はもっと狭くて、出前をメインにしていたの。お客さんも中国人とか、夜のお仕事をしている人がほとんどだったね」(レイコさん)
やがて隣にあった焼鳥屋が閉店し、その空いたスペースを繋げてより開けた店にしようと奮起。ウェブサイトを立ち上げるなど情報発信もはじめ、2001年ごろからは日本人も頻繁に訪れるようになったという。
映画『不夜城』や『千年女優』など。カルチャースポットとしての顔
ちなみに、レイコさんが働きはじめる一週間前の8月10日。すぐ近くにあった「快活林」という北京料理店で、「青龍刀事件」と呼ばれる中国マフィア絡みの殺傷事件が起きている。
そのエピソードは後年、1998年公開の映画『不夜城』(原作は馳 星周が1996年に上梓)に着想され、「思い出の抜け道」はロケ地にもなっているが、当時のことを尋ねると思わせぶりな表情で「ノーコメント!」とはにかむ。いずれにせよ、当時の治安の悪さは我々の想像以上だったようだ。
なお、店内に入ってすぐ右の壁には、チャイナドレスを着たレイコさんの写真が。40代の頃の勤務時の姿だそうで、実に麗しい。「今はもう着ないよ~」とレイコさんは照れるが、なるほど、男性ファンが多いのもうなずける。
人も料理にも魅力は盛りだくさん。そんな「上海小吃」には全国からお客が訪れ、常連の中には有名な作家も。その一人がアニメ監督・マンガ家の今敏(こんさとし)氏だ。店内には、監督が亡くなった今でも代表作『千年女優』のセル画などが飾られている。
アーティストを惹き付ける理由は、この店に漂う異国な雰囲気や非日常感、そして日本という郷に従わない美食の数々が、彼らの感性を刺激するからだろう。間違いなく、新宿を代表する中国・上海料理の名店、ぜひ足を運んでほしい。
▼関連記事
歌舞伎町の老舗洋食レストラン「パリジェンヌ」。ホールスタッフが語る「いろいろなことがあった」20年
【大久保・淀橋市場の歩き方】「伊勢屋食堂」の老舗グルメや市場を深堀り