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歌舞伎町の新旧が交差する。ディープな路地裏「思い出の抜け道」探訪

歌舞伎町

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DATE : 2024.10.08
路地が多く、ときに入り組んでいることで生まれる雑多な雰囲気。それが歌舞伎町らしさのひとつだが、今回紹介したいのは「思い出の抜け道」と呼ばれる小さなストリートだ。ディープな雰囲気が漂っている路地であるゆえ、足を踏み入れづらいという人もいるだろう。しかし、だからこそどんな場所か気になるというもの。そこで、数軒の飲食店探訪レポートを中心に、この路地の魅力をお伝えしたい。

歌舞伎町の路地にひっそり佇む「思い出の抜け道」

「思い出の抜け道」がある場所は、新宿区役所の北側。区役所通りの1本西側にある東通り沿いに入口の看板があり、そこから数十メートルという短い路地のことを指す。

淡色記事(国土地理院)を加工して作成

歩いてみると、花道通りの風林会館の前へつながっている。

入口の簡素な黄色い看板には「新宿センター街 since1951」の文字。この一帯が歌舞伎町という名になったのは1948年(昭和23年)であるから、それから3年後のことだ。当時はきっと、街灯などは乏しく暗い、しかし夢や希望に満ちた人々が行き交う――。そんな一角だったのではないだろうか。

なお、1998年公開の映画『不夜城』(原作は馳 星周が1996年に上梓)では「思い出の抜け道」がロケ地となっていて、劇中で当時の雰囲気を垣間見ることができる。現在との対比を知りたい人は必見だ。

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初めての人も大歓迎!「思い出の抜け道」でハシゴ酒

通りにはさまざまな飲食店が並び、どれも個性派ぞろい。串カツ、スナック、珍メニューが名物の酒場にバーと、編集部が数軒をハシゴした。それぞれの魅力を紹介しよう。

揚げたて串カツが60円~|新宿歌舞伎町のれん街「かっちゃん」

まずは外観からして明るく、入りやすい雰囲気の「新宿歌舞伎町のれん街」へ。ここは戦前から存在した3棟の長屋を2018年に改築した建物で、横丁的な楽しみ方ができる飲食施設だ。

館内には牛タン、海鮮料理、焼鳥など、それぞれをウリにした居酒屋を中心に7軒が集結。

その中から「東京串カツ かっちゃん 新宿歌舞伎町のれん街」を訪れた。スタッフは元気で、客もみなにこやかな顔。アットホームな雰囲気で入りやすい。

店名の通り、名物は串カツ。30種以上がラインナップし、1本60円からとリーズナブル。おまかせの5本セットや10本セットもあるので、迷いがちな人はこちらを。また、唐揚げ、カツオのタタキ、きゅうりの一本漬けなど酒が進む一品料理も充実していて、1軒目としても、2軒目以降にサクッと飲むにも使い勝手は抜群だ。

お通しはうずらの卵×マヨネーズで、紅生姜と甘酢生姜が添えられている。

これは崩して混ぜることで、串カツ用のタルタルソースにもなる。備え付けのソースも美味だが、ぜひお手製タルタルも試したい。

酒もカラオケもお菓子も心ゆくまで楽しめる!|新宿歌舞伎町のれん街「スナックミカ@灯鏡」

新宿で良心的なスナックを探しているなら、「新宿歌舞伎町のれん街」の2階にある「スナックミカ@灯鏡(とうきょう)」がおすすめだ。

入口ドアの小窓から店内を覗けるので、中の雰囲気がわからずドキドキするなんてこともないだろう。思い出の抜け道に初めて行く人も安心して入店できそうだ。

カラフルな照明が彩る店内にはカウンターとテーブル席があり、グループでの利用にも重宝する。そしてリーズナブルな価格も同店の魅力だ。基本は1時間3,000円で、指定のドリンクが飲み放題。カラオケも歌い放題で、おまけにお菓子も食べ放題なのがうれしい。

ビールやボトルなどの酒は別料金となるが、サワー系や定番カクテルならフリー。

また、つまみをしっかり食べたい場合は、横丁内の居酒屋つまみをデリバリー的な形でオーダーできるのもありがたい。各店のメニューリストも備えられているので、ママに声をかけてみよう。

セラピストを本業とするママはフレンドリーで、トークのネタも多彩。2、3軒目やシメにはうってつけだ。歌舞伎町の穴場として、覚えておくべきスナックである。

カラスやネズミを味わえる22時間営業の“奇”酒屋|寺子屋

3軒目に訪れたのは「寺子屋」。もともとは、女将の工藤翔子さんが俳優業のかたわら20年間切り盛りしてきた居酒屋であり、歌舞伎町で飲み明かした酔客たちに愛された、早朝営業の良心的な店である。

そんな常連も多い店が、高田馬場などにあるジビエ居酒屋「米とサーカス」とタッグを組んで2023年にリニューアル。19時から翌日17時まで開いているという驚異の営業スタイルだが、現在もアグレッシブな雰囲気はそのままに、エッジの効いたメニューを名物に展開している。

定番の一皿は「牛すじ煮込み」。牛スジを、たまり醤油と砂糖と酒で約半日煮込んだトロトロの食感がたまらない。

そして、極めつけは珍しい食材を使ったつまみと酒の数々。カラスやハトの姿焼きに、ヌートリア(大ネズミの仲間)の串焼きなどがおすすめとなっていて、酒もハブ、冬虫夏草、ゴキブリなどを漬け込んだ珍酒がズラリ。

その中から「ヌートリアの串焼き」を実食。驚くことに、くさみは一切なく、鶏肉のような味わいでおいしい。なお、これらはそれぞれの専門業者から仕入れた食材なので、安心して食べてみてほしい。

ドリンクは「タツノオトシゴ酒」をオーダー。焼酎漬けとなっていて、ロックで飲んだが、うっすらと海のニュアンスを感じる味わいだ。さらには金木犀(きんもくせい)酒も飲んでみると、確かにフローラルな芳香と紹興酒のような甘やかなニュアンスがあって美味。

このように、冒険心や好奇心が旺盛な人には間違いなく刺さる1軒となっている。そして、尖った業態が受け入れられるのもまた、歌舞伎町のふところの広さなのだ。

薬草の秘酒と爆音が感性を刺激するアブサンバー|カリビアン

最後に紹介するのは、「新宿歌舞伎町のれん街」のほぼ向かいの建物2階にある「CARIBBEAN(カリビアン)」というバー。

新宿区役所裏にあるカクテルバー「ALTERNATIVE(オルタナティブ)」の姉妹店で、複数のハーブとスパイスを原料とする薬草系リキュール「アブサン」と、ロックミュージックがテーマのバーだ。

名物を謳うだけあってアブサンの銘柄は多彩。好みの味や飲み方を伝えればもちろん応じてくれるが、ぜひ試してほしいのが「クラシックスタイル」や「ドリップスタイル」などといわれる嗜み方だ。

これは「アブサンファウンテン」と呼ばれる専用の給水機やスプーン、角砂糖などを用いてポタポタゆっくり完成させる、ある種最も正統派な飲み方。見た目のインパクトも絶大だが、アブサンは薬草の鮮烈な香りやビターテイストも個性的だ。

アブサンは比較的飲みやすいソーダ割りなどのオーダーもでき、他にラム酒やウイスキーなども充実。そしてフードは、香川出身の店主による渾身の「讃岐うどん」が名物だ。インスピレーションを引き出す霊酒として、古くから芸術家や個性派ミュージシャンに愛飲されてきた魅惑の一杯を、ぜひ「思い出の抜け道」で味わってほしい。

まずは抜け道へ入ってみよう

今回訪れた4軒は、「思い出の抜け道」にある飲食店の一例に過ぎず、エッジの効いた酒場がいくつもある。まずはこの記事を参考に、「思い出の抜け道」に足を踏み入れ好みの店を探してみよう。

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写真・文:中山秀明

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