東急歌舞伎町タワーの館内には、いたるところに歌舞伎町や新宿の歴史や多様性を表現するモチーフがちりばめられている。JAM17 DINING&BARも、そのひとつ。ダイニングへ続く壁一面にはアナログレコードがディスプレイされているが、これらをセレクトしたのは、新宿に所縁のある6組。
彼らは新宿にどんな想いを抱き、レコードを選んだのか。そして彼らが新宿に感じる“GROOVE”とは? 第5回となる今回は、ジャズ喫茶&バー「DUG」へ。1961年に前身となる店舗「DIG」の開店以来、長年にわたって新宿を代表するジャズの聖地であり続けている。マスターの中平穂積さんは、数多くのジャズミュージシャンを撮影してきた写真家でもあり、87歳を迎えた現在もジャズファンにとって憧れの存在。店内の至るところに、穂積さんが撮影した国内外の著名ミュージシャンのポートレートが飾られている。
穂積さんの息子であり現店長の中平塁さんと、マネージャーを務める中平里香さんに話を聞いた。
[連載:『あなたが思う“GROOVE”』‐6組のアーティストたちが選盤したレコードを紹介]
新宿・歌舞伎町に2023年5月に誕生したHOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel。お客さまの滞在が、各エンターテインメント施設や新宿のまちと呼応した“高揚感”に包まれるよう魅力ある音楽を意味する“GROOVE”がホテル名の由来。開業にあたり、新宿や歌舞伎町にゆかりのある6組のアーティストを選者に招き、「JAM17 DINING & BAR」にてレコードを展示。選者それぞれにとっての『あなたが思う“GROOVE”』を探っていく。
何度聴いても色褪せない、名盤中の名盤たち。
ジャズ喫茶&バー・DUGが選んだ5枚のレコード
─ 「JAM17 DINING&BAR」のために選ばれた5枚のレコードについて聞いていきたいと思います。里香さんによるセレクトとのことですが、どのような基準や方向性で決めていきましたか?
里香さん:今回、穂積さんに選盤を一任されたので、私がセレクトすることになりました。マスターだったらどう選ぶかな、と考えながら、穂積さんが最近よく聴いているレコードだったり、「DUG」にゆかりのある作品だったりを選んでいます。
実をいうと、候補に挙げた作品は他にもたくさんありました(笑)。「DUG」でレコーディングされたものや、店名の由来になったレコードなど。作品によっては実際にディスプレイするのが難しい事情もありまして、最終的にこの5作に落ち着きました。
とはいえ、選んだのはどれも「DUG」としてみなさんにぜひ聴いていただきたい作品。いつ聴いても、何度聴いても色褪せないレコードばかりです!
<ジャズ喫茶&バー DUGがセレクトした5枚がこちら>
1. Art Blakey and The Jazz Messengers/Moanin’(1958)
里香さん:ドラマーのアート・ブレイキーが率いるバンド「ジャズ・メッセンジャーズ」のアルバム。“Moanin’”は、ジャズ好きでなくても、誰もがきっと耳にしたことがある有名曲です。リリース当時は「蕎麦屋の出前持ちまでも、“Moanin’”を口ずさんでいた」と言われるほどの人気だったそうですよ。もちろん私たちも、大好きな一枚です。
2. Freddie Hubbard/Open Sesame(1960)
里香さん:トランペッターのフレディ・ハバードが1960年にリリースした作品。彼とマスターはとても仲がよかったんです。音楽家と写真家、アーティスト同士で通じ合うものがあったのかもしれませんね。
しかし晩年は、体調を崩してトランペットをうまく吹けなくなってしまったようで……。あるときの来日公演をマスターが観にいくと、ステージにはハバードの他に若手のトランペッターも立っていたそうです。
なんでだろう?と思っていたら、公演後の楽屋で「おまえならわかっていたよな、俺が吹けていなかったこと」と涙を流したというエピソードも。それもあって、フレディ・ハバード作品は必須のセレクトでした。
3. John Coltrane/My Favorite Things(1961)
里香さん:サックス奏者、ジョン・コルトレーンの大名盤です。これはもう本当にいいレコードなので、ぜひみなさんに聴いていただきたい一枚。表題曲は、映画『サウンド・オブ・ミュージック』の楽曲でもあり、耳馴染みのある方も多いのではないでしょうか。たくさんの有名ジャズミュージシャンにカバーされている名曲です。
4. Wes Montgomery/Full House(1962)
里香さん:マスターのお気に入りの作品で、お店に来るとよくかけている一枚です。どんなところが好きなのか、本人に尋ねてはいないですけどね……、野暮ったいのでね(笑)。私たちから見れば何十年も前にリリースされた作品でも、マスターにとってはリアルタイムで聴き込んでいたアルバム。「DIG」をオープンして間もない頃の新譜ですから、きっと当時から「たくさんの人にこの曲を聴いてもらいたい!」という想いでいっぱいだったのだと、想像しています。
5. Wayne Shorter/Speak No Evil(1964)
里香さん:ちょうどこのレコードセレクトのお話をいただいた頃に、ウェイン・ショーターの訃報がありました。1960年代にサックス奏者としてジャズ界で活躍、70年代以降はバンド「ウェザー・リポート」の中心メンバーとなって、音楽のスタイルをどんどん変化させていったミュージシャンです。
このアルバムでベースを担当しているロン・カーターとマスターが仲良しで。NYの自宅にも遊びに行ったことがあるそうです。とても大きなペントハウスに住んでいて、専用のエレベーターまであったとか!