毎日新しいレコードと出会える場所。ユニオンレコード新宿・南 敬介さんの「至極のジャケット5選」
最後にお話を聞いたのは、新宿最大級の大きさを誇るレコードショップ・ユニオンレコード新宿。邦楽・洋楽問わず、オールジャンルを常時2万点以上取り揃える。平日日中にもかかわらず店内は老若男女で賑い、昨今のレコード人気を実感させられる。
「入荷の回転のよさはディスクユニオンのなかでもトップクラス。1ヶ月に1万枚以上は新入荷品を投入しています」と、チーフの南 敬介さん。毎日来ても、昨日にはなかったレコードと出会えるというほど。
レコードジャケットとは、「情熱や、不安・不満、当時の時代背景だったり…その時にアーティスト本人が表現したいものだと思うんです」と南さんは語ってくれた。“言葉にならない思い”が滲み出る、「至極のジャケット5選」を聞いた。
南さんが選ぶ至極のジャケット①『GIRLFRIEND』/マシュー・スウィート(1991)
「5つに絞るのは正直難しかったんですけど…」と笑いつつ、南さんがいちばんに挙げたのは90年代パワー・ポップの金字塔ともいわれるマシュー・スウィートの3rdアルバム。
「ジャケットで選んで、内容もよくって、ずっと持っている作品です。マシュー・スウィートには不遇の時代もあって、アルバムを2枚出したあとにレコード会社から契約を打ち切られているんですよね。
そんななか、マシューは恋人とこの写真を見て『次にレコードを出すことがあれば、この写真を使いたいね』と語り合った。それを実現させた作品という、そんな素敵なエピソードがあるんです」(南さん・以下同)
南さんが選ぶ至極のジャケット②『AJA』/スティーリー・ダン(1977)
スティーリー・ダンの最高傑作とも謳われる6thアルバム。腕利きのミュージシャンを何十人も起用し、非常に完成度が高いことで知られるこの作品。ジャケットには、日本を代表するトップモデル・山口小夜子が起用されている。
「高度に構築されたクールな音楽性を見事に表現するジャケットです。このジャケットで私は山口小夜子さんという素晴らしいモデルが日本にいることを知りました」と南さん。隙のない美しさに心を奪われる一枚だ。
南さんが選ぶ至極のジャケット③『AXIS:BOLD AS LOVE』/ジミ・ヘンドリックス(1967)
1度見たら絶対に忘れないインパクト溢れるアートワークは、ジミ・ヘンドリックスの2ndアルバム。
「ブードゥーっぽいというのか、インドっぽいというのか、とにかくかっこいい。学生時代からずっと愛し続けているレコードです」
ジャケットのサイケデリックさに負けないほど、楽曲も鮮烈でエネルギッシュ。ギター演奏に革命をおこしたというジミヘンのイノベーティブな才能まで表現されているような、生命力にあふれたアートワークだ。
南さんが選ぶ至極のジャケット④『FLIGHT TO DENMARK』/デューク・ジョーダン(1974)
色鮮やかな印象を与える3枚から一転、こちらはアメリカのジャズピアニスト、デューク・ジョーダンの作品。そのタイトルの通りデンマークで録音された1枚。
「アメリカでいわゆるストレートのジャズが下火になってきた頃の作品で。白い雪のなかで、寒そうにデュークが佇んでいるという。『とうとうこんな寒いところまで来ちゃったよ…』というつぶやきが聞こえてきそうな雰囲気です。内容も非常に寂寥感があって、写真とリンクしている。とても好きなジャケットです」
北欧に新天地を求めたデュークだが、のちに『FLIGHT TO DENMARK』は彼の生涯を代表する作品に。その始まりのワンシーンのような、そして映画のポスターのようなジャケットだ。
南さんが選ぶ至極のジャケット⑤『NORTH MARINE DRIVE』/ベン・ワット(1983)
海をモチーフにしたジャケットといえば、日本ならTUBEやサザンオールスターズに代表されるような、夏・リゾート・楽園感──なのだが、こちらは「いわゆる“海ジャケ”のなかでも、トップクラスに爽やかさがない(笑)」と南さん。
しかしながら北海道出身の南さんは、海のこうした寒々しい一面を切り取ったこの写真に、心惹かれたそう。そんな、レコードジャケットと“通じ合う”ような瞬間は、ジャケ買いの真髄のような気がしてなんとも素敵だ。
ジャケ買いに失敗はない。オンラインではできない、“予定にない出会い”を楽しんで
「僕もこれまで色々とジャケ買いをして、『思ったのと違うな』と感じたことはありますけど、失敗したとか損をしたとか思ったことはないんです。逆にそれがおもしろいし、新しい出会いになる。
最初は違うな、と思っても、2ヶ月くらい一生懸命聴いていたらだんだん好きになってきたり…そんな風にして、中2のときに出会ったアルバムを大人になった今でも聴いていたり。背伸びも、時には必要ですよね」と南さん。
レコード初心者も気負わず、まずは雑誌を買うような気持ちでお店に来てみてほしいとのこと。
「ユニオンレコード新宿では、価格帯も380円から50万円クラスまで幅広くご用意しています。1000円だけ持って選んでみる…なんていうのも、おもしろいと思いますよ。
ジャケ買いってオンラインではできないと思うんです。やっぱりレコードがたくさんあるところに来てこそ。つい目に入ったものが気になって予定にないものを買っちゃう、というのが“出会い”ですよね」
ジャケ買いとは、出会いである。そしてそれは、アーティストの心情とちょっとだけリンクできるような、尊い瞬間なのかもしれない。ぜひレコード店に立ち寄って、一生モノの出会いを見つけてみてほしい。
写真:齋藤誠一
文:徳永留依子