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レコードの醍醐味、“ジャケ買い”を深掘り! 新宿の3大レコードショップに聞いた「至極のジャケット5選」

新宿3丁目 西新宿

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アート レコード 音楽
DATE : 2023.03.24

レゲエファン垂涎の名盤たちを新宿で目撃。ダブストアレコードマート・家永直樹さんの「至極のジャケット5選」

続いては、日本のレゲエファンにとって聖地ともいえるジャマイカ音楽専門ショップ「ダブストアレコードマート」へ。レゲエミュージックのレコードのなかには、流通量が非常に少なく希少価値が高いものがいくつもある。

「世界に数枚しか発見されていないレコードを欲しがっている人は何万人もいる…ということもあるくらいです」と教えてくれたのは、代表の家永直樹さん。18歳でスーツケースにターンテーブルを詰め込んで渡英、ジャマイカをはじめ世界を渡り歩いてレコードを収集した経歴の持ち主。その手で日本にジャマイカ音楽の息吹を運んだ、パイオニアといえる存在だ。

家永直樹さん

そんなジャマイカ音楽のスペシャリスト、家永さんの「至極のジャケット5選」とは。

家永さんが選ぶ至極のジャケット①『BIONIC DUB』/ダブ・スペシャリスト(1977)

まず家永さんが取り出したのは、なんともソリッドなジャケット。ざらついた紙質もいっそ潔い。ジャマイカ音楽の礎を築いたレーベル、スタジオ・ワンがリリースしたものだ。

「ボブ・マーリィやバーニング・スピアのようなレジェンドたちも、みんなスタジオ・ワンから輩出されたんです。“ジャマイカのモー・タウン”といわれているような場所。

スタジオ・ワンでは録音から撮影スタジオ、レコードのプレスまで、全部その場でできるようになっていて。このジャケットもそこで生産されたものですが、シルクスクリーンで、手刷りで作られています。僕が思うに、コスト削減のためなんでしょうね」と笑う家永さん。

当時としても“手作り感満載”な、ともすれば「粗悪」ともいえるジャケットだったそう。だが今となってはその質感こそが、当時の息遣いを体感できるコレクター垂涎のアイテムになっている。

家永さんが選ぶ至極のジャケット②『The Sannic Sounds』/トミー・マクック(1974)

アルバムカバーを作らず、スタンプを手作業で押しただけ…というなんとも無骨な表情が「すごくジャマイカらしくて」と紹介してくれたのがこちら。サックスの巨匠、トミー・マクックのダブ・アルバムだ。

CDで再リリースされたものと比べても、オリジナルがもつ雰囲気は別格。

よく見るとオリジナル盤には同じスタンプが2回押されており、「おそらく押し直したんでしょうね」と家永さん。そんな大雑把なところもなんだか人間味を感じて微笑ましい。このオリジナルジャケットもまた、限られた枚数だけ発売された非常に貴重なものなのだそう。

家永さんが選ぶ至極のジャケット③『WARDS IN DAB』/フィリップ・フルウッド(1979)

こちらも、オリジナル盤はめったに出てこないという希少なダブ・アルバム。ダブはジャマイカ発の音楽で、既存の音楽トラックを解体・再構築して作るもの。独特の浮遊感のなかにビートが浮き彫りになるさまは、「X-レイミュージック」とも呼ばれている。

「レントゲンにかけて、骨だけを写し出すみたいなね。この時期のダブは、そんなイメージを想起させるような、こういう無骨なデザインが多いんですよ。レゲエ好きがこんなジャケットを見つけてしまったら、絶対に買うと思います(笑)」(家永さん・以下同)

家永さんが選ぶ至極のジャケット④『SCRATCH THE SUPER APE』/アップセッターズ(1976)

もともとスタジオ・ワンにいたリー・ペリーによる作品。「彼のスタジオは、それ自体が楽器の一部のようになっていて、そこで録音されたものは、全部が独特の音になるんです。おどろおどろしいというか。すごく深い…ジャマイカのジャングルのような音楽」と家永さん。

当時イギリスでリリースされたジャケットは、まったく違うポップアートのような雰囲気だったそうだが、こちらはジャマイカ盤のジャケット。

「当時僕たちはその存在を知らなかったから、90年代に初めて見たときは『うわぁー!』って感動しました。リー・ペリーの音楽同様、おどろおどろしさにあふれていて。ジャマイカ音楽のなかでも、いちばん文化的な意味で深みがあったころを象徴するようなジャケットです」

家永さんが選ぶ至極のジャケット⑤『Herb Dub』/ジャー・ロイド(1975)

「またこのイラストもおもしろいです」とピックアップしたのは、こちらもオリジナル盤は高値で取引されているというジャー・ロイドの傑作『Herb Dub』。どこかコミカルな雰囲気のなかに、刺激的な異国情緒を感じさせる。レゲエを象徴する配色である、赤・黄・緑・黒のラスタカラーも印象的だ。

人から人へと渡っていくマスターピース。それを手に取る興奮は、実際に足を運んで自分の目で探してこそ!

家永さんによれば、カリブ海に浮かぶ島国であるジャマイカにおいて保存状態のよいレコードを見つけることは、かなり難しいことだそう。それでも、「ジャマイカの音楽は、結局ジャマイカにいちばんいいものがあるんですよ」と言う。実際に足を運んで、自分の目で選ぶ。スケールは大きく違えど、“ジャケ買い”の原点と通じるものがあるように感じられる。

レコードを楽しむポイントは「専門店に行って、店主と話をすることですね。『こんなものが聞きたい』とどんどん質問をして、会話をしながらレコードを選ぶのがいちばんおもしろいね」と家永さん。

時にレコード会社に眠っていたデッドストックを、時にバーで知り合った地元の人から、貴重な品々を譲り受けてきた家永さん。まるで宝石のようなレコードを求めて、ダブストアレコードマートには多くのレゲエファンが訪れる。

名盤は人から人へと渡っていくもの。手に取るあなたも、その歴史の一部になれるのだ。

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