下積み時代の食を支えてくれたのが小次郎
「歌舞伎町といえば、やっぱり(プロダクション人力舎の)事務所ライブですね。『どっきん!』というお笑い若手ライブを新宿バティオスで。新宿Fu-では、『バカ爆走!』というライブを定期的にやっています」
芸歴8年目のトンツカタン。結成から事務所のライブには頻繁に出演してきただけあり、歌舞伎町にはなじみのお店がたくさんあるという。
「そんな中でライブの後に行くことが多いのが『小次郎』さん。新宿は下積みの人間に優しい街なので、ビール100円! みたいなお店や、安いけど食べたらすぐ出てってね、回転率重視だから! というお店がたくさんあります。僕は、お酒も呑まないしたばこも吸わないので、安くて美味しいものを食べさせてくれるお店を探すことが多いんです。小次郎さんは、美味しいのはもちろん、店内がとってもキレイで、居心地がいいのでついつい足が向いちゃいます」
ライブに出演した同期や同じ事務所の先輩後輩たちの中でも、お酒を呑まないメンバーで反省会と称して、いろいろな話を積み重ねてきた。
「事務所ライブに頻繁に出るということは、売れてない証拠なわけです。売れてないわけですから、さっき言った100円のビールや驚くほど安いおつまみのお店のような“売れてないなりの食事”っていうのがありますよね。そういう場所でグチりつつ、くそーっと思いながら過ごす。芸人の1年目、2年目なんてのはたいていそういうものだと思うんです。でも、そういう日々を続けていると腐ってくるといいますか……こういう生活が永遠に続くんじゃないかと思ってゾッとするんですね(笑)。そういうときに小次郎さんに行くと、ガラス張りで抜けもいいですし、しっかりとした食事をさせてもらうことで腐らずに済むんですよ。これ、本当に大事なことなんです」
芸人にとって「小次郎」がどれぐらい大事な場所であったか、という話を教えてくれた。
「僕が芸歴1年目のときに世界でいちばんおもしろいと思っていた先輩芸人さんがいたんですね。毎日のように一緒に居たんですが、ある日かしこまった声で『ちょっと時間をくれ』と呼び出されたんです。新宿で会おうということになり合流したんですが、駅から近い喫茶店でも、ほどよい距離の居酒屋でもなく、小次郎さんで話したいって言うんです。歌舞伎町のいちばん奥の方にあるお店ですから、ライブの後や何かのついでで行くお店だと思うじゃないですか。そこへわざわざ行って話したいという内容が、『芸人をやめようと思う』ってことでした。僕、芸人を引退するのっていいことだと思ってるんです。なぜなら、その方が絶対に幸せだから(笑)。なので、いつもなら辞めるという人は笑顔で送り出すんですけど、その先輩にかぎっては絶対にイヤだと思ったんですよね。今回、小次郎さんとの思い出って、どんなことがあったかなと考えたときに、若手芸人にとって、そんな人生の大事な話をする場所でもあるんだなー、なんて思いましたね」
小次郎「五目カタ焼きそば」の麺の存在を知ってほしい
小次郎のメニューの中で森本さんのヒトサラは「五目カタ焼きそば」(880円)。
「小次郎さんは、安い定食メニューが充実しているんです。唐揚げ定食、生姜焼き定食というメインのメニューは写真入りで手前に置いてあります。一緒に文字だけのメニューがあるんですが、ふと見ると五目カタ焼きそばという文字を発見しまして。もともとカタ焼きそばが好きなので頼んでみると、びっくり。麺が太いんです」
深さのある器に盛られたカタ焼きそばの上からは、白菜、きくらげ、豚肉、小松菜などたっぷりの野菜で作られたしょうゆ味の餡がかけられている。よく目にするカタ焼きそばは、パリパリという音のする細い麺であることが多いが、餡の下に隠れている麺は、たしかに驚くほど太い。口に入れるとサクッという噛み心地。餡と絡めて食べるとほどよくしっとりとして食べ応えがある。
「僕は細い麺のカタ焼きそばしか食べたことがなかったので、この麺に衝撃を受けました。これ単体でサクサク食べるお菓子みたいだなと思ったぐらい。でも、餡と合わさったときの一体感がまた良かった。途中からお酢やからしをかけて……僕、酸っぱければいいと思ってる節があるんで、たっぷりとかけちゃうんですが、味変して楽しんでます。ほんと、どれも美味しいのでもし歌舞伎町で迷ったら小次郎さんに入っておけば間違いないと思ってますよ」
ホームグラウンドでありながら、早く抜け出したい場所でもある
大学は三鷹。養成所は東高円寺。そして、事務所は西新宿。どこへ行くにも新宿が中心になっていた森本さん。新宿にはどんな印象を持っているのだろうか。
「学生時代は乗り換えをする駅、という認識でしたが、芸人になってからはホームグラウンドですね。ライブが月20本以上あったので、ひたすら無心で新宿に通ってました。歌舞伎町という街は、新宿の中でも特殊じゃないですか。欲望渦巻くといいますか。羽振りのいい人たちと僕らのような下積みの人間が混在している印象ですね」
2月には「行くぜ武道館!トンツカタン森本のブチ切れデトックス2 in EXシアター」と題されたライブで、フワちゃん、三四郎、R-指定(Creepy Nuts)らが森本さんをキレさせるネタを持って集結するという人気企画の第二弾が催され、チケットはソールドアウト。人気俳優や、ミュージシャンなどから「今、注目している芸人」として名前を挙げられることも多く、4月にはドラマにも出演が決定している。
「芸歴8年目にして、ようやくいろいろな方面の方に認知していただけるようになってきてうれしい気持ちはあります。ずっと観ていたテレビ番組に出ることになったり、こんなふうに取材を受けさせていただいたり。とはいえ、まだまだベースは歌舞伎町のライブハウス。なじみのメンバーに会うことで、ここをホームグラウンドだと思ったりもしますが、ここから抜け出したい気持ちも強くありますね。六本木やお台場、汐留に通える日々がきたら、あの頃の自分のホームグラウンドは新宿だったって話せるんじゃないかと思ったりもします」
お笑いの先輩たちは体力があるなと思う
遠かった先輩たちの背中が近くに感じられる日々が増えてきたことで、改めて感じたことがあったそうだ。
「お笑いの先輩たちは、本当に体力があるんですよ。たくさんのロケをこなして、そのままスタジオで収録。いろいろな仕事をしながら単独ライブの準備をする。僕なんて、学生時代の部活はハンドベル部でしたから。体力を使うことはほぼやってきてない。なので、僕も体力をつけるべく筋トレを始めようと奮起しまして。最近は、ジムに行ってひたすら筋トレをしたあと、『いきなりステーキ』に行ってお肉と炭水化物を摂取するという生活を送っています。と言っても、僕らみたいな芸人にとってステーキは高価なので、グリルチキンにライス大盛880円を食べて、来店スタンプを貯めてまた行く。という地道な日々なんですけど」
いつか新宿で食べてみたいのは…
最後に、先輩がごちそうしてくれた美味しい料理、または通い続けた新宿で、いつかアレを食べてやる!と思っているお店か料理はあるかと聞いてみた。
「憧れのお店という質問をされてパッと頭に浮かんだのは、新宿ではないんですが、三四郎の相田さんに連れて行っていただいた個室でのお寿司ですね。あれは、美味しかった! 味はもちろん“こういう世界もあるんだ”と思わされた瞬間でした。正直、それ以外……新宿の高級店がまったく思い浮かびません!! いつか、あそこの高級〇〇を食べてやる!みたいなことを思ったことがないんですよね。なんでだろうって考えたら、歌舞伎町の入り口にあるとんかつの『にいむら』でとんかつを食べる瞬間も『すげぇ、俺』って思ってるぐらいだからですよね。なので、今考えられるとしたら、『にいむら』でワンランク上のとんかつを食べることぐらいですかね(笑)。もっといつか食べる高級店のこと勉強しときます!」
トンツカタンの60分ネタライブ「3月のトンツカタン」
「とにかく60分間、ひたすらネタをやろうというライブです。単独ライブとは違うけれど、できるだけ新作をたくさん用意したいと思っているので、ぜひ足を運んでくれたらうれしいです。また、こんな時世でもありますので、配信も用意しました。アーカイブもありますので自宅で楽しんでくれてもうれしいです」
日時:2021年3月5日(金)
18:45 開場 / 19:00 開演 (20時終演予定)
場所:下北沢・北沢タウンホール
料金:来場チケット 3500円(全席指定)※Livepocketにて販売中
配信チケット 2000円(7日間アーカイブ付き)※ZAIKOにて販売中
※アーカイブ・視聴チケット購入は3/12(金)23:59まで視聴可能
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文:オオバリエ
撮影:今元秀明