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【COLUMN】山田佳奈の“徒然なるままに、新宿の片隅で人々は、” Vol.3「鳩よ、戦いのファンファーレを」

歌舞伎町

コラム
山田佳奈 映画 演劇
DATE : 2021.08.13
劇団「☐字ック」を主宰しながら全作品の作演出を務めるほか、脚本家、映画監督など、気鋭のクリエイターとして注目を集めている山田佳奈。
新宿・歌舞伎町には訪れる機会も多く、これまでにいくつもの印象的な場面に出会ってきたと言う。
生々しく、愚かで、愛おしい、そんな人間たちのドラマを何本も描き出してきた山田。
そんな彼女が、新宿・歌舞伎町で目の当たりにしてきた光景を、独自の視点から物語としてアウトプットしていく毎月更新のエッセイ。

Vol.3「鳩よ、戦いのファンファーレを」

随分と日差しが強くなった。
歌舞伎町をぐるりと回るように歩いていると、飲食業をはじめとする様々な業種が苦難を強いられているからか、夏到来を喜んで顔をほころばせている人が多いように感じる。大量のガリガリくんを両手で挟むように持ち運んでいるヨチヨチ歩きの中年女性や、陽の光を全吸収すべく全身黒でキメている金髪男性、サングラスにすらりと伸びる生足が眩しい中国人女性。そんな彼ら彼女らとすれ違うように、派手な看板で込み合った花道通りを抜けると開けた場所にぶつかる。

そこをわたしは“鳩広場”と呼んでいる。

名付の由来はそのまんまで、どこからともなく飛んできた鳩が集まっているからなのだが、ここには行き場がなくなったような風情の人たちも大勢いる。大きなトランクケースを傍らに眠っていたり、缶ビールを路上に並べて砦を築くホームレスや、あどけない顔の少年に抱きしめられるみたいにして股の間に座らされている少女。その一方ではUFOでも呼ぶかのように円陣を作るアイドルライブの開場待ちの男性たちや、アーミー服に身を包んだ謎の大男、それにコンパか何かで群がっている若人など。会話こそは聞こえないが誰もが皆、この広場に集まることで人生を噛み締めているのかもしれないし、まったくそんなこと露にも思っておらず、記憶にも残らない通過点を淡々と過ごしているだけかもしれない。

しかし四角い広場に点在する個性豊かな人々は、もはやジャンル不問すぎるコロシアムに集まる猛者のようだと思う。

武器は伝説の剣でも木の棒でも何でもアリ。勿論素手で戦うこともOKだし、対戦方法も問わない。踊りたかったら踊ればいいし、走り出したきゃそれでもいい。トーナメント式に対戦していき最後まで残ったものが勝者だ。しかしまさかの対戦途中で鳩を媒介した謎のウイルスがひとりの参加者をゾンビ化させて大混乱。歌舞伎町は死の街となり、バリケードが張り巡らされて誰も立ち入れなくなる。本当の意味で行き場を失われてしまった猛者たちは、改めて生きる意味を問われて、ゾンビと戦い続けながら自分の人生と向き合うことになる。このまま生きていて良いのかな。今の自分は生きているのか死んでいるのか大差ないし、ゾンビになっちゃった方が何も考えないで楽そうだ。そのとき彼らの背中を押したのは大勢の声である。同じように自らの人生を肯定できなかった人々が、彼らが生きていることを肯定し、“生きて欲しい”と願う。不要のものとして決めつけていたのは自分自身だったのだと、彼らは生きることを選択する。戦いは続くかもしれないが、それでも生きるしかないと逞しく立ち向かっていく姿には迷いがない。

ありがちな展開だけど、歌舞伎町でゾンビ映画撮るって考えるだけでゾクゾクする。
他者にどう思われようが納得する人生がそこにはあって、それが彼らの生きざま。それでいいと思うし、何かが見つかるまで停滞してみるのも悪くない。そもそも人間なんて同じペースで順風満帆に進めないもん。前に向かっていく前に同じ場所に座り続けるのも、一つの選択でいいじゃない。

そんなことを考えていると20代ぐらいの大柄な警察官ふたりがやって来て、広場をぐるりと見渡した。腰には警棒とコードで繋がれた拳銃のようなもの、更には5mメジャーまでもが提げられており、どの武器よりも強いじゃん! アイテム多くてズルいじゃん!と心で大きくつっこみを入れたのだが、金ネックレスにポロシャツを着たチュッパチャップスおじさんから勝気に威嚇されていた。

この街に居座るには少々血の気が多くなくては生き残れないのかもしれない。それこそ弱肉強食を感じるとともに、どうして歌舞伎町に来ると危うい目をした男性にばかりナンパ(という名の勧誘かもしれない)されるのだろうと、わたし自身も苦笑いを生じる夏の午後だった。

山田佳奈(やまだ かな)

1985年4月6日生まれ。神奈川県出身。レコード会社のプロモーターを経て、2010年、劇団「☐字ック」を旗揚げ。ライフスタイルが自由化された現代社会においてのコミュニケ―ション欠如や、大人になりきれない年齢不相応な自我に対して葛藤する人間を描く。2020年の劇団10周年に、所属俳優を持たずに山田佳奈作品の舞台制作を行う場として単身新体制になる。また劇団前期代表作である『タイトル、拒絶』を初長編映画として自ら監督。大きな話題となったほか、Netflix『全裸監督』の脚本なども手がける。36人の監督による短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」に参加、2021年に全国公開される予定。初の書き下ろし小説『されど家族、あらがえど家族、だから家族は』(双葉社)が発売中。
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師岡とおる(もろおか とおる)

1972年12月19日生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学卒業後、フリーのイラストレーター、グラフィックデザイナーとして活動。スタイルに囚われない表現方法で多彩なタッチを描きわける。「バック・トゥ・ザ・フューチャー35周年」ビジュアル、鉄道駅構内「痴漢撲滅キャンペーンポスター」、『氣志團万博』煽りイラスト、NHK「ねほりんぱほりん」キャラクターデザイン、『岩井ジョニ男のジョニスタグラム』演出、呑兵衛応援プロジェクト「NONBEE!」企画デザイン、「PromaxBDA Asia Award」金賞など受賞多数。
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text:山田佳奈
illustration:師岡とおる
edit:野上瑠美子

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