ラーメンライター
井手隊長
全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。「東洋経済オンライン」「Yahoo!ニュース」「AERAdot.」等の連載のほか、コンテスト審査員、番組・イベントMCなどで活躍中。近年はラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」、「個人店の事業承継」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。
ニボラー増殖の火付け役|すごい煮干ラーメン凪 新宿ゴールデン街店本館
2004年創業の、東京の煮干ラーメンブームを牽引している「すごい煮干ラーメン凪」。煮干は小魚を煮て干した食材で、一般的なカタクチイワシをはじめ、真イワシ、ウルメイワシ、アジ、サバ、トビウオなど、さまざまな種類がある。
煮干はラーメンにおいて昔から使われる食材で、以前からスープ全体の美味しさを下支えする脇役的な存在として重宝されてきた。しかしその流れから一変、「凪」のブレイク以降、煮干の旨味を前面に押し出した煮干ラーメンのお店が都内を中心に増えてきた。「ニボラー」と呼ばれる中毒者が現れるほどの人気で、一大ブームを築いている。
中でもおすすめが、代表の生田悟志さんが「津軽煮干ラーメン」に衝撃を受け、試行錯誤の末に完成させたのが看板メニューの「すごい煮干ラーメン」(1,350円)だ。
一杯に60g以上の煮干を使用した超濃厚なスープは、日本全国から厳選した20種類以上の煮干を独自にブレンド。煮干を丸ごと食べたときのような旨味と香りを見事に再現している。
チャーシュー、ネギのほかに、特徴的な具材としてオリジナルの「いったん麺」が入っている。「いったん麺」とはオリジナルの幅広麺でシルキーな食感が新しい。
スープは、決してドロドロではなく、煮干の美味しさだけを純粋に抽出した見事な仕上がり。一口目で煮干の深い旨味に驚き、最後の一滴まで楽しめる至極の一杯となっている。
■ラーメンデータ
すごい煮干ラーメン(あっさり★★★★☆こってり)
・トッピング:チャーシュー、ネギ、煮干、銀ダレ(辛味ダレ)
・タレ:醤油
・スープ:煮干
・麺:極太縮れ、いったん麺
圧倒的に香ばしい焼きあごの香りとまろやかさ|焼きあご塩らー麺 たかはし 新宿本店
2015年、新宿・歌舞伎町に彗星のごとく現れた「焼きあご塩らー麺 たかはし」。店主・高橋夕佳さんの地元、新潟で親しまれる「あごだし」を使用したラーメンが評判を呼び、一躍大人気店となった。その後、高田馬場「やまぐち」の山口裕史さんが総料理長に就任し、味をリニューアル。さらに進化を遂げ、多くのファンを魅了し続けている。
中でも店名にもなっている看板メニューの「焼きあご塩らー麺」(1,000円)は、ぜひ味わってほしい一杯だ。席に着くと最初に提供される焼きあご白だしが期待感を高める。
具材にはチャーシュー2種、白髪ネギと青ネギ、メンマ、ノリが揃い、麺は太め縮れの「麺屋棣鄂」特注麺を使用。
スープ一口で、圧倒的に香ばしい焼きあごの香りとまろやかさが感じられる。スープ、塩ダレ、香味油の全てに焼きあごが入っていて、まさに焼きあごの“三重奏”だ。
塩ダレはまろやかで程よい甘味があり、全体を優しくまとめ上げている。麺も存在感があり、ラーメンらしい食べ応えをしっかりと演出。チャーシュー、ネギがそれぞれ2種類のっているのもニクイ。
焼きあごの美味しさと香りがまっすぐに伝わり、魅力的な一杯になっている。味だけではなく心を豊かにできる「特別な日常」の体験を提供できるお店が、「たかはし」の目指すポジション。新宿を本店とし、この味は全国へ、そして世界へと広がり続けている。
■ラーメンデータ
焼きあご塩らー麺(あっさり★★★☆☆こってり)
・トッピング:チャーシュー、低温調理チャーシュー、白髪ネギ、青ネギ、メンマ、ノリ
・タレ:塩
・スープ:焼きあごほか
・麺:太め縮れ
一杯につきニラ1束を使ったニラ麺|麺屋 我論
2020年にオープンした「麺屋 我論」は、新宿ゴールデン街のバーを改装して誕生したユニークなラーメン店。内装はバーの雰囲気をそのまま残しており、お洒落な空間が広がる。提供されるお水のカップも「メーカーズマーク」のものでハイボールを飲んでいる気分になれる。
数あるメニューの中で特におすすめなのが「ニラ麺」(1,250円)だ。なんと一杯につきニラを1束分使っているという。
スープを注ぎ、麺を浮かべ、大量のニラをのせ、チャーシューを散りばめたらアツアツの油をかけて香りを立たせる。仕上げに卵黄を中央に添えることで、見た目も華やかだ。麺は細めストレート。
スープは無化調で、丸鶏、豚、昆布、香味野菜などを炭酸水で炊き、和歌山の醤油や乾物、たまり醤油を使ったタレで仕上げている。仕上げの油には香り高い関根の胡麻油を使用。
油をかけることでニラと胡麻油の香りが広がり、一口すするたびに麺とニラが絶妙に絡み合う。臭みは一切なく、ニラの味わいを存分に引き立たせている。
卵黄を溶かせば、月見そばのようなまろやかさがスープ全体に広がり、味わいがさらに深まる。決してくどくなく最後まで飽きずに食べられるようにしっかり考えられた一杯だ。
■ラーメンデータ
ニラ麺(あっさり★★★☆☆こってり)
・トッピング:ニラ、チャーシュー、卵黄
・タレ:醤油
・スープ:鶏、豚、乾物系
・麺:細めストレート
歌舞伎町24時間営業。どこか懐かしさを感じる中華そばの定番|新宿ナギチャンラーメン
ここ近年「ネオノスタルジック系(通称「ネオノス系」)」と呼ばれる、昭和のクラシカルな中華そばを令和版に進化させたお店が隆盛を極めている。その中でも「ちゃんのれん組合」加盟店に代表される「ちゃん系」はその最前線を走るお店。
2023年10月にオープンした「新宿ナギチャンラーメン」は、「すごい煮干ラーメン凪」の系列店でもあり、「ちゃんのれん組合」に加盟している中華そばの店。懐かしさと新しさが融合したラーメンを楽しめる注目の一軒だ。
そのおすすめメニューは、ベーシックな「中華そば」(900円)。ちなみに、「めし」は無料で、食券と一緒に緑の札を出せば注文可能だ。
具は大量のチャーシュー、ネギ、メンマとシンプルながら豪快。麺は太め平打ちの新宿達磨製麺製。豚の旨味がバチンバチンのスープがどんぶりになみなみと入る。
デフォルトでのるチャーシューの量はどんぶりから溢れんばかりの量。切りたてのチャーシューは柔らかく食べ応えも抜群だ。
粗めに切られたネギの辛味と清涼感が絶妙で、飽きのこない味わいを実現。一見豪快ながらも、店仕込みのスープやチャーシュー麺やメンマとのバランスが細部まで行き届いた一杯となっている。
無料の「めし」にはキュウリの「青かっぱ」をのせていただく。チャーシューを巻いて食べるのもおすすめだ。
卓上には味変用のアイテムが充実しており、中でも「中BASCO」というホットソースが面白い。入れすぎは注意だが、スパッとした辛味が加わり、ラーメンの楽しみをさらに広げてくれる。
昭和を愛する世代から、お腹をすかせた若者までさまざまなファンが集まる人気店だ。
■ラーメンデータ
中華そば(あっさり★★★☆☆こってり)
・トッピング:チャーシュー、ネギ、メンマ
・タレ:醤油
・スープ:豚ダシ
・麺:太め平打ち
鴨南蛮のような美味しさを堪能できる鴨だしラーメン|麺堂にしき 新宿歌舞伎町店
2021年にオープンした「麺堂にしき 新宿歌舞伎町店」は、小川町の人気店(現在休業中)の2店舗目。歌舞伎町のど真ん中に位置し、18時から翌13時までというこの土地ならではの営業時間も特徴だ。
中でもおすすめが、看板メニューである「鴨だし醤油ラーメン」(1,030円)。鴨の旨味を余さず引き出し、洗練された味わいに仕上げた至極の一杯だ。
具は鴨チャーシュー2枚、ネギ、三つ葉、そしてメンマ。麺は三河屋製麺による細めストレートの低加水麺を使用している。
鴨だしに鴨の香味油がしっかり効いており、醤油の風味が絶妙なバランスを生んでいる。鴨の旨味は油でわかりやすくなるので、そこを上手く構成している。
さらに、ネギの使い方が巧みで、大きめに切られたネギがとろんと柔らかい仕上がり。ネギがまるで鴨南蛮を思わせる雰囲気を演出しつつ、三つ葉の香りが清涼感を加える。
とはいえ、完全に蕎麦に寄せるのではなく、小麦の風味と油のコクでしっかりラーメンとして仕上がっている。
卓上の調味料も充実しており、仁淀川山椒を加えると上品で香り高い味わいに変化する。煮干し酢を使った味変もおすすめ。伝統的な鴨南蛮のエッセンスを取り入れつつ、ラーメンとしての新しさと美味しさを兼ね備えた一杯をぜひ堪能してほしい。
■ラーメンデータ
鴨だし醤油ラーメン(あっさり★★★★☆こってり)
・トッピング:鴨チャーシュー2枚、ネギ、三つ葉、メンマ
・タレ:醤油
・スープ:鴨だし
・麺:細めストレート
歌舞伎町のラーメンは“多様性”の宝庫
新宿・歌舞伎町のラーメン店は、多彩なラインナップと個性あふれる一杯が魅力。それぞれの店が独自のアイデアを詰め込み、他にはない特徴的なラーメンを提供している。飲食店がひしめくこの街では、観光客やインバウンド需要も高く、唯一無二の味が求められる場所だ。多様性に富んだ歌舞伎町のラーメンを巡って、ぜひお気に入りの一杯を見つけてみては。
文:井手隊長