そしてそれは歌舞伎町でも。江戸時代に新宿エリアで栽培されていた唐辛子を使った「Ne10」が、2023年春から歌舞伎町を中心に流通している。こんなふうにクラフトジンのシーンは密かに盛り上がりつつある。その魅力はどこにあるのか、どんなジンがおすすめなのか。いずれ劣らぬジンラバーたちが、歌舞伎町のバー「Anniversary」に集まって語り合った。
今回集まった、ジンラバーのお三方
池田奈帆夏さん
人事育成のコンサル会社経営のかたわら、ジンにどっぷりハマる。現在、ジン専門オウンドメディア&オンラインショップの「Ginny Club」を運営。ジンを飲みつつのライブ配信や世界の蒸留所取材、独自セレクトのジンの販売なども行う。
小野寺総章さん
ジン好きが高じて、2017年、小岩に「Bar Soutsu」をオープン。900種類以上のジンを収集し、伝道するオーナーバーテンダー。日本のジン好きたちが集い、情報交換を行うメディア&コミュニティ「Gin Lab Japan」主宰。
徳永將次さん
「BAR Anniversary」オーナー。バーテンダースクールを経て、2017年、歌舞伎町に自身のバーをオープン。約400種類のジンを揃え、SNSでも情報発信。2023年6月には、一般社団法人日本クラフトジン協会を設立。
今、クラフトジンは流行しているのか
― 今、実際にクラフトジンが流行っているという実感はありますか?
小野寺総章さん(以下、小野寺):実はまだ、“流行り始め”くらいの感覚ですよね。世界中で飲まれているお酒の割合でいうと、ビールやウイスキーに比べてジンの消費はごくわずかなんです。もちろん、まだまだ伸びしろがあるとも言い換えられますが。
池田奈帆夏さん(以下、池田):居酒屋でもサントリーの「翠ジンソーダ」が普通に飲めるようになってきて、日常的な食中酒としても広がりを見せてますよね。
小野寺:ウイスキーやワインなどに集客は劣りますが、熱量は高いですよね。日本で飲めるジンの銘柄が、この数年で何十倍にも膨れ上がって、うちのストックも気づけば900種類を超えちゃいました(笑)。
徳永將次さん(以下、徳永):6月に大阪の「ウイスキーフェスタ」を覗いてきたんですが、思っていた以上にジンの蒸溜所の出展が多かったですね。池田:そもそもジンが日本でマイナーだったのは、おいしくないからではなく、馴染みが薄かったからだと思うんです。
小野寺:そうですね、海外だとパーティーでパンチボウルでカクテルをシェアするなど、カジュアルにジンと触れ合う機会もありますからね。
徳永:海外ではおなじみのパーティードリンクでしたけど、この数年は、日本でもクラフトジンがかなり出てきていますよね。個人的には、コロナ禍を経て、家飲みの機会が増え、認知がすごく高まった気がします。
池田:そうですよね。ジンって、「バーでちゃんと飲む」印象が強いんですけど、実はもっと“雑”でいいと思っていて(笑)。私、インスタライブでも飲んでるんですけど、メジャー使わずグラスにドバッて注いでソーダでガシャガシャ割ってます。
徳永:本職がいうのも何ですが、それが楽しいのがジンですよね。
だから私はハマった!クラフトジンの魅力とは
― みなさんそもそもなぜジンにハマったのですか?
徳永:私はウイスキーのハイボールを飲んでいて、ふと思ったんです。ハイボールって、オーダーのときに銘柄指定しますよね。でも、ジントニックをオーダーするときって、単に「ジントニック」しか言わないなあと思ったんです。
池田:確かに。バーだとよく「マッカラン」とか「デュワーズ」とかいいますね。
徳永:実はジンも、銘柄によって味や香りにもわかりやすい特徴があって面白いんですよね。ドライなものもあれば、フルーティーなもの、甘いテイストのものもあって。そういう面白みに惹かれました。
小野寺:比較的小規模な蒸留所が小ロットでつくることができるので、結構思い切った味や香りを付けることができますしね。探せば、面白いジンが次々見つかりますし。
徳永:そうなんですよね。全体的に価格もお手頃だから、増えていく一方です(笑)。
小野寺:ウチもです(笑)。
池田:私も!(笑)。ジンって、意外に他のお酒が苦手な人でも楽しめるんですよね。私がそうだったんですが、大学時代にイタリアンレストランでアルバイトをしていて、ワインが好きになったんです。でも、ビールやハイボールは苦手で……。普通の居酒屋さんで飲むときには、選ぶものがなくて(笑)。そんなときにバイト先でジントニックを飲ませてもらったら、おいしくて!
小野寺:銘柄は何でした?
池田:「タンカレー」です。「飲みやすい」ってよく勧められるカクテルみたいな甘ったるさがなくて、フレッシュな柑橘の華やかな香りが立って、雑味のないクリアな味わいに驚いて。ベースリキュールにあとから風味付けするので、味と香りの世界観が自由なんですよね。
徳永:うん、「甘ったるくない」っていうのは結構重要なポイントかもしれませんね。「お酒が苦手」という方には、甘めのカクテルをおすすめしがちですけど、お酒だけ飲まれる場合はよくても、食事とは合いにくい場合もありますよね。その点、ジンは甘すぎないのに、香りと味が相まってほどよい甘みが感じられて。
池田:食事と一緒に楽しむ食中酒としても最高ですよね。
小野寺:私が、実は、ジンっていいなって最初に感じたのが、「甘さ」だったんです。フランスの「エギュベル」というジンで……。
池田:ああ、修道院でつくってるんですよね?
小野寺:ええ。いや、ホント、修道院や小さな蒸留所でもつくられることがあって、多様な味のお酒ができるのが、あらためてジンの良さだと実感しますね。で、まさにそんな多様な味のひとつにハマったんですけど、私、ドライマティーニ(※)があまり得意ではなかったんです。度数がキツいし渋くて飲める気がしなかったんですが、「エギュベル」でつくったマティーニは、甘くて優しくておいしく飲めたんです。そのときに、銘柄がちがうとここまで違うのかと、ジンの個性を強烈に感じて、俄然興味を持ち始めました。
※ジンと白ワインに香草などで風味付けしたドライベルモットでつくるスタンダードカクテル
― では、みなさんそれぞれ、おすすめのジンをセレクトしていただいて、具体的な魅力に迫っていきましょう。
3人のジンラバーがセレクト。
それぞれのおすすめクラフトジン
池田さんセレクション
「初めての方でも楽しく飲めるジン」
私は、これまであまりジンを飲んだことがない方でも「ジンって楽しいお酒だ」ということが伝わる3本を選びました。
ジンの香りと味わいがちゃんとありながらも、それだけではない「楽しさ」に満ちたセレクションです。
「マルフィジン コン リモーネ」
アマルフィ産のレモンで香り付けをしたイタリアのジンです。“ジン版レモンサワー”というイメージでゴクゴクいけます。おすすめの飲み方は、バー風のきちんとした氷ではなく、クラッシュアイスをグラスいっぱいに満たして、マルフィとソーダ、真っ二つに割ったレモンをたっぷりと絞って。すごくジャンクですけど、コンビニで売っているプラカップに入ったレモン味のクラッシュアイスにそのまま注いで飲むのもアリです。
「ジェネラス ジン アジュール」
ボトルのデザインに描かれていますが、ブラッドオレンジのフレイバーが特徴的なフランスのジンです。他にも、ビターオレンジ、エルダーフラワー、スミレ、バジルなどで香り付けされていて。もちろんジュニパーベリーも入っているのですが、すごくフルーティーなので、ジンの香りが苦手という方にも楽しんでいただけると思います。
「エンプレス1908」
カナダの「フェアモントエンプレスホテル」が醸留所と組んでつくったジンです。特徴は香り付けに使ったバタフライピー由来のこのブルー。味ももちろんおいしいんですけど、トニックで割るとピンクに変わるんです! 私はそれを「春色ジントニック」と呼んでいます。かなり甘めなトニックで割って、甘々でキュンキュンしながら飲んでいただきたい!
徳永さんセレクション
「これからもジンを好きでいてもらうために」
私はクラフトジンを一過性のブームで終わらせたくないんですね。なので、せっかく飲んでいただくならば、その後も続けてジンのことを好きになってもらえるような印象的でバリエーションに富んだものがいいのではないかと選びました。
「ゴールド 999.9 ジン」
フランスのジンです。ジンはよく香水のような飲み物と言われますが、これはスミレやバニラ、柑橘が香ばしい、“強めの香水”。香りもボトルの見た目もすごくはしゃいでますよね? こういうの、好きです(笑)。1回飲んでもらえたら大体もう覚えてもらえる銘柄だと思います。香りも味もしっかりしているので、トニックで割っても特徴的な風味は負けません。
「ストラスアーン オークド ハイランド ジン」
普段ウイスキーを好まれる方にもぜひ飲んでいただきたいと思って選びました。スコットランドのハイランド地方でスコッチウイスキーをつくっている蒸溜所のジンです。オークのチップを浸漬させることで、この琥珀色が出るのですが、リキュールの「パルフェ・タムール」に近い、優しくて甘い芳香を放ちます。これも本当に入口としては飲みやすい1本になっています。
「トーキョー ハチオウジン」
その名の通り、八王子でつくられているジンです。日本のクラフトジンって、地域に密着してつくられるものが多いので、どこか焼酎に近いイメージを持たれている方が多く、ジンとしてはおいしいのに敬遠されている方もいらっしゃいます。トウモロコシ由来のベーススピリッツにエルダーフラワーと甘夏の香りを合わせて、角が取れに取れて丸みのある上品なフレーバーに仕上がっています。
小野寺さんセレクション
「ジュニパーベリーを存分に楽しめる銘柄」
ジュニパーベリーとは、すべてのジンに必須のスパイスです。ハーブっぽい強い香りと苦みがあります。よく「ジンってなにから勉強したらいいですか?」って聞かれるんですけど、勉強しなくていいんです。強いて言うなら「ジュニパーベリーの味を知っておくとめっちゃジンって面白いぜ」っていう(笑)。それを伝えたくてこの3本を選びました。
「セイクレッド オーガニック ジン10× Juniper」
イギリスの小さな蒸留所のジンです。自宅を改装した、“自宅兼蒸留所”でつくられる特徴的な銘柄です。そもそも「セイクレッド オーガニック ジン」はジュニパーベリーが強めな銘柄なんですが、これはその10倍ジュニパーベリーを使っているというのが最大の特徴。ジュニパーベリー大爆発! みたいな味でありながら、ジントニックとの相性も抜群。まず初めに飲んでほしいジンですね。
「棘玉」
ジン専門につくっているという珍しい秩父のメーカーさんです。日本の銘柄が最近増えていますが、柚子や山椒など日本由来のボタニカルを使いながらもジュニパーベリーを強く押し出しているんですね。ですので、上のセイクリッドとはまったく違うアプローチでのジュニパーベリーの香りが楽しめると思います。
「プロセラ ジン」
ケニア産の非常に変わったジンです。最大の特徴フレッシュジュニパーベリーを使っていること。世界的に見ても生が使われていることはほとんどありません。その実も1本の木から収穫し、ジンはもちろん、ボトルもコルクも手作り。付属するフレーバーソルトを舐めつつ飲む仕様です。1本1万円以上と高価なこともあり、ストレートかロックで飲みたいですね。
ジンラバーたちで
歌舞伎町エシカルジン「Ne10」を飲んでみた
― 本当に、ジンってさまざまな場所でさまざまな銘柄がつくられているんですね。ではここで、歌舞伎町エシカルジン「Ne10」をまさにご当地でお試しいただきましょう。
「Ne10」
2023年4月の「東急歌舞伎町タワー」開業とともに発売。売り上げの一部が”エンターテイメントシティ歌舞伎町”実現に寄与する団体に寄付される、「飲めば飲むほど街が盛り上がる仕組み」を伴った新宿&歌舞伎町のおみやげとしてふさわしい商品を作ろうと企画された。江戸時代から栽培されていた内藤とうがらしをキーボタニカルとして使用。歌舞伎町の多様性を象徴するレインボーカラーをラベルのオーロラ箔で表し、街をイメージさせるネオンの元素記号「Ne」と元素番号である 10 (10 種のボタニカルが使用されていることも意味づけられている)を銘柄に用いた。
徳永:ではまずストレートでいきましょう。
池田:へえー、すごい、唐辛子の香りが立ってますね。それでいて柑橘の風味もしっかりある。レモンかな?
小野寺:レモンピールが入っているようですね。スパイシーで、オリエンタルな感じがするのが歌舞伎町の雰囲気にぴったりです。
徳永:辛いんじゃないかと思われるんですけど、唐辛子の風味がいいですよね。公式ではソーダ割りを推奨されていますね。割ってみましょう。
小野寺:結構白濁もするんですね。油分が多めに入っていて、ボタニカルが強く立ってきますね。焼肉とかステーキにも合いそう。
池田:ストレートのときは、唐辛子のスパイシーさをすごく感じましたけど、ソーダで割ると柑橘が出てきますね。それがすごい飲みやすくていいなって思いました。個人的に綺麗なカクテルっていうよりかはもうごくごくいきたい感じ。
小野寺:食中酒としてこれ以上ないぐらい相性のいい銘柄ですね。ざっくりとソーダで割っておいしいので、カジュアルな飲食店どこで飲んでもその味が再現できそうなほどフレーバーが強いし。歌舞伎町という街のシーンにも相性がいいんじゃないかと思います。
徳永:唐辛子のえぐみや嫌味がなく、スッと入ってくるようなジンですよね。暑い時期はソーダ割りで清涼感のある飲み方をして、冬場にはお湯割りでも一層香りが楽しめる。そうするとまた何か冬の料理の合わせ方が変わってくるのかな。
これからもクラフトジンを盛り上げ続けるために
小野寺:ところで、徳永さん、今後、歌舞伎町でジンって流行ると思いますか?
徳永:それこそ私がこれからやっていきたいこところなんですよね。自分たちが立ち上げた日本クラフトジン協会で、ジンの資格講座を進めていくんですけど、これ、プロのバーテンダーというよりは、食事をメインとしているお店のスタッフさんに受けていただきたいんです。
小野寺:あー、なるほど、わかります。そのほうが“たまたま”ジンに触れる人が増えますよね。
徳永:そうなんです。食事しに入ったイタリアンで、スタッフにおいしいジンを勧められたら、今度は専門店に飲みに行きたくなるじゃないですか。そういう発信の仕方ができたら最高だと思っています。
小野寺:街にちなんだジンがあるなんてすごくうらやましいです。小岩ジンなんてあったら、僕、ダースで買いますよ。そういうちょっと少量生産が可能だったり、何か街の特性を生かしたりとか、本当に素敵な試みだと思いました。
徳永:それこそまさにジンらしい取り組みですもんね。
池田:確かにね。なんかすごい、地元のボタニカルがあるのもいいし……ところで、お湯割りの件ですけど、キャンプで飲むのってアリじゃないですか? キャンプのお酒に迷っていて。うん、いいかも。サウナ入って、アツアツの体にキンキンに冷やしたジンソーダ。夜は、焚き火眺めながらお湯割り……ああ、ロマンしかない(笑)。
と、ジンラバーたちの話は延々続くのであった。では最後に、新宿で「Ne10」の飲めるお店をご紹介。
「Ne10」提供・販売店(2023年10月時点、最新情報はこちら
・Adios Motherfxxxer(東京都新宿区歌舞伎町1-15-12 ピアットビル2F)
・Bar Anniversary(東京都新宿区歌舞伎町1-11-12 KIビルB1F)
・BAR XYZ(東京都新宿区歌舞伎町1-27-7 森田ビルB1F)
・LABO SECOND(東京都新宿区歌舞伎町1-12-6 歌舞伎町ビル2F)
・OPEN BOOK(東京都新宿区歌舞伎町1-1-6 ゴールデン街五番街)
・お好み焼 大阪家(東京都新宿歌舞伎町1-17-12 第一浅川ビル B1F)
・シーホース(東京都新宿区歌舞伎町 1-1-5 新宿ゴールデン街 あかるい花園8番街 流民2F)
・スンガリー新宿三丁目店(東京都新宿区新宿3丁目21-6 龍生堂ビルB1F)
・スンガリー新宿東本店(東京都新宿区歌舞伎町1-12-15新宿第7ビルB1F)
・東急歌舞伎町タワー(東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー)
・麦ノ音(東京都新宿区歌舞伎町1-12-15)
・リチャードバー(東京都新宿区歌舞伎町2-23-12 チェックメイトビル5F)
【新宿ゴールデン街】
・OPEN BOOK(東京都新宿区歌舞伎町1-1-6 新宿ゴールデン街 5番街)
・SKALVA(東京都新宿区1-1-6 新宿ゴールデン街 5番街)
・流民(東京都新宿区歌舞伎町1-1-5 新宿ゴールデン街 あかるい花園8番街)
・シーホース(東京都新宿区歌舞伎町1-1-5 新宿ゴールデン街 あかるい花園8番街 流民2F)
・Pavo(東京都新宿区歌舞伎町1-1-5 パレスビル1F)
・red.(東京都新宿区歌舞伎町1-1-5 新宿ゴールデン街 花園5番街 2F)
・Brian bar(東京都新宿区歌舞伎町1-1-9 新宿ゴールデン街 G2通り2F)
・miso soup(東京都新宿区歌舞伎町1-1-9 新宿ゴールデン街 花園1番街)
【東急歌舞伎町タワー(東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー)】
・Bar Bellustar(45F)
・JAM17 BAR(17F)
・スーベニアショップ POST CREDIT(9F)※販売
・ZEROTOKYO(B2)
文:武田篤典
写真:小島マサヒロ