新・歌舞伎町ガイド

エリア

FOLLOW US:

“東京の現在地” がここに。黒Tシャツ専門店「#000T KABUKICHO」を通して見た歌舞伎町のリアル

歌舞伎町

インタビュー 買う
デカメロン ファッション 手塚マキ
DATE : 2023.07.31
大きな「I♡歌舞伎町」の看板や映画館、ゴジラのモニュメントなどが集合する、歌舞伎町のど真ん中。このまさに歌舞伎町を象徴するエリアのすぐ側の路地裏にひっそりと佇むのが、黒Tシャツ専門店「#000T KABUKICHO(クロティ カブキチョウ)」だ。

オーナーは、千駄ヶ谷で毎週行列ができる白Tシャツ専門店「#FFFFFFT(シロティ)」オーナーの夏目拓也氏と、歌舞伎町でホストクラブやバー、美容室などを展開する元カリスマホストの手塚マキ氏。2023年9月8日にテナントオーナーチェンジに伴う契約満了により閉店する同店だが、一見交わることのなさそうな2人が、なぜ2年半もの間、共話題のショップを共に運営することになったのだろうか。そこから見えてきたのは、歌舞伎町の進化と街としての可能性。新鮮なタッグを組んだ2人に、「#000T KABUKICHO」立ち上げや歌舞伎町についてのまで話を聞いた。

親和性が高い「歌舞伎町×黒」
このだからできたコラボレーション

まずはお2人の出会いと、「#000T KABUKICHO」を共に手掛けることになったきっかけから教えてください。

夏目拓也(以下、夏目):2020年の秋ぐらいでしたね。僕の先輩でありマキさんの親友である方が「2人が会ったら絶対面白いから」と言って引き合わせてくれたのが出会いです。

手塚マキ(以下、手塚):友人が思った通り初対面からすごく盛り上がって、もうその日に「黒Tシャツ専門店を一緒にやろう」という話になったんだよね。

夏目:普通にごはん食べてバーで飲んで、まさかその日のうちに黒Tシャツ専門店を出すことを決めることになるとは、出掛ける前は思っていなかったんですけど(笑)。もし黒Tシャツ屋をやるなら場所も含めて「自分の信じるストーリー」がないとやりたくないと思っていたんです。そこへ偶然、歌舞伎町のナイトメイヤーであるマキさんと出会ってお話しているうちに「この人とだったら面白くできそうかもしれない」と思ったのを覚えています。

2016年に白Tシャツ専門店「#FFFFFFT(シロティ)」を始めて、ありがたいことにお客様も日本全国、世界各地から来てくれるような状況だったのですが、そうすると次は「黒Tシャツ屋はやらないのか」と聞かれるんですよ。それはもう、本当にたくさんの方に聞かれました。もちろんやろうと思えばできたのですが、そもそも僕は白Tが好きで白T専門店を立ち上げたので、「白Tが軌道に乗ったから黒Tも」という安易な展開がどうしても自分の中で納得できなかったんです。

手塚:僕は正直、洋服でも何でもよかったんですけど(笑)、やっぱり嬉しいじゃないですか。歌舞伎町って水商売や夜の街というイメージが強くて、さまざまな業種から距離を置かれがちですが、夏目くんがステレオタイプなイメージではない捉え方をしてくれていることがまず嬉しかった。そのうえで、自社のブランドがネガティブにならないと思って歌舞伎町を選んでくれたことがさらに嬉しかったですね。

夏目さんが信じる「ストーリー」に歌舞伎町と手塚さんがマッチしたのですね。どんなところにストーリーを見出したのでしょうか?

夏目:よく誤解されるのですが、「夜の街だから」「ホストが黒い洋服を着ているイメージだから」といった理由で歌舞伎町に「#000T KABUKICHO」をオープンさせたわけじゃないんです。絵の具を全部混ぜると黒色になるように、歌舞伎町は年齢性別、国籍や肩書きなど関係なく受け入れてくれる場所。多様性や懐の深さがあるところが、黒という色と親和性があるなと。

実際に歌舞伎町を歩くと黒い洋服を着ている人はそれほど多くなくて、それは一昔前のイメージなんです。だから歌舞伎町の人たちに黒Tがウケると思って出店したというよりは、歌舞伎町の人や外から来る人たちに面白がってもらいたいという気持ちが強かった。お店をきっかけに人が歌舞伎町に来てくれたら僕もマキさんも、みんなも楽しいよねという感覚でした。

それから翌年、まさにコロナ禍だった2021年に「#000T KABUKICHO」をオープンされたわけですね。

夏目:はい。でも今考えると、コロナ禍じゃなかったら出店していなかったかもしれないですね。

手塚:そうかもね。当時の歌舞伎町は、人が集まる密な場所としてコロナにおいて完全に悪者になっていた時期だったから。僕も外から新しい人が入ってきて化学反応を起こすような、前向きな側面を出していかなければいけないと思っていたし、タイミングが合致したんだと思う。

夏目:きっかけは偶然でしたけど、ただ仲良くなって一緒に店をやろうというのではなく、ビジネス的にもしっかりWin-Winというか。お互い意義のあるスタートでした。

怖い、暗いイメージは過去のもの
若者が集まる“行けば何かある場所”に進化した歌舞伎町

お2人の中心にある歌舞伎町という街。しかし、関わり方や歌舞伎町歴は大きく異なっていますよね。ちょうど「中」と「外」から歌舞伎町を見ているようだなと感じたのですが、お2人にとって歌舞伎町はどんな街ですか?

夏目:僕は2年前に「#000T KABUKICHO」をつくるまではあまり来たことがなかったのですが、怖いとかネガティブなイメージはなかったですね。それこそ歌舞伎町にお店を出した理由でお話ししたように、年齢性別、国籍など関係なく受け入れてくれる懐の深い街というイメージをもっていました。

「#000T KABUKICHO」をオープンしてからは、より深くこの街に関わるようになったわけですけど、やっぱり面白いですよね。エネルギーにあふれていて、それでいて自由というか。こんな街、場所はなかなか無いだろうなって思います。

手塚:僕はホストをきっかけに歌舞伎町に来るようになって、27年ほどになります。20代の頃は職場として捉えていて、むしろ「歌舞伎町以外で何ができるか」を模索していたくらい俯瞰して見ていた。だから色んな人に会ったし、色んな場所に行きました。海外で夜遊びして、ファッションやカルチャーに触れたりもしてきたけど、なんかどっかの真似事だなって感じが拭えなかったんですよね。

そういう時間を経てわかったのが、歌舞伎町のクレイジーさ。夏目くんの言う通り、この街の自由さ、ユニークさは世界に類を見ないぞと。

夏目:うまく言えないですけど、クレイジーとかカオスという言葉って一般的にはネガティブな表現じゃないですか。でもそれをポジティブな形容詞として捉えられるのが歌舞伎町の魅力ですよね。

自由、クレイジー、カオスといった言葉はまさに歌舞伎町の代名詞ですが、近年はさらにその魅力(!?)が増しているように感じます。長年歌舞伎町と共に歩んできた手塚さんは、今の歌舞伎町をどう見ていますか?

手塚:東急歌舞伎町タワーが建ったり、旅行者や若者が増えたりして、史上空前の“歌舞伎町バブル”が来ていると感じています。毎日祭りのようににぎやかですよ。僕よりさらに昔からいる人は「ちょうど80年代もこんな感じだった」と言っていました。

コロナが落ち着いたからだと思うじゃないですか? でもこの感じ、コロナ禍中から始まっていたんです。やっぱり社会が不安定だったり、不安なことがあったりするときって人が集まるのかもしれません。その場所に適していたのが、あらゆることを受け入れてくれる歌舞伎町だったっていうね。

夏目:たまに「歌舞伎町って昔の渋谷みたいだな」って感じることがあるんですよ。ひと昔前の若者の町といえば渋谷で、「とりあえず渋谷行こ!」って感じだったと思うんですけど、そんなノリで今や歌舞伎町に集まっている感じ。

手塚:それはすごく感じるよね。若者の歌舞伎町に対するハードルが下がっていて、昔は「渋谷でプリクラ撮る」だったのが「歌舞伎町でTikTok撮る」じゃないけど、歌舞伎町に来たら何か面白いことがあると思っている若者が増えた気がします。そのうち、「トー横」とかが日本一イケてる広場になる日が来るんじゃないかって期待しています。

それぞれの強みを生かして
「これからも歌舞伎町に寄り添い続けたい」

― 本日はありがとうございました。最後に、今後どのように歌舞伎町と関わっていきたいかお2人の展望を聞かせてください。

手塚:せっかく今、歌舞伎町が注目されて面白い場所だと期待されているので、「歌舞伎町らしいコンテンツ」が増えていくと良いですよね。それこそ、夏目くんのように外から企業や個人店など「歌舞伎町だからやってみたい」という人が増えてくれたら、それが街の個性になっていくはず。「#000T KABUKICHO」を出店したように、地に足のついた関わり方をしてくれる人が増えるよう、僕も尽力していきたいです。

夏目:僕はビジネスや社会貢献よりも、新しいことや面白いことをやりたいと思って生きているタイプ。その先に面白がってくれる人や結果がついてくれば最高だよね、と思っているのですが、歌舞伎町はそれを実現できる場所だと思います。今回、「#000T KABUKICHO」をきっかけに、教科書的ではないリアルな歌舞伎町を体験することができたので、今後もこのご縁や経験を生かしていきたいです。

#000T KABUKICHO(クロティ カブキチョウ)

公式Instagram

(2023年9月8日閉店)

文:大西マリコ
写真:玉井俊行

こんな記事もおすすめ