歌舞伎町には多様な「クラブ」がある。踊るクラブやホストクラブ、中でも敷居が高いのは会員制のクラブだろうか。いわゆる酒を介した“オトナの社交場”は実際のところ、どんな世界なのか。2人の若きママに取材した。
春香ママ
ゴールデン街のバー「Miso Soup」で副店長として働いたのち、2022年2月にオープンしたクラブ「春」のママに就任。「歌舞伎町一おじさんたちが集まるオアシス」を目指す。好きなお酒はワイン。
ゆうきママ
歌舞伎町の老舗クラブで6年間勤務したのちに独立。3年半前にオーナーママとしてクラブ「きっか」をオープンさせた。ゴルフのベストスコアは79というツワモノ。好きなお酒はシャンパン。
一見さんはお断り。選ばれた人が楽しむクラブの世界
歌舞伎町のクラブ初潜入。まずは初心者らしく、料金やシステムについて聞いてみた。一見さんには敷居が高いようだが、一度入ってしまえば思ったよりもリーズナブルで、気軽に通える世界のようだ。
― まずは、基本的なところからお伺いします。営業時間と料金設定はどんな感じですか?
春香ママ:「クラブ春」は19時から翌1時です。
ゆうきママ:うち(クラブきっか)は20時から24時ですね。
春香ママ:料金システムは飲み放題1時間8000円です。ボトルや延長料金は別途かかりますが。
ゆうきママ:うちはセット料金お一人様20000円(TAXチャージ料込み)で、時間制限はなく、ボトル別です。女性の場合は、もっとリーズナブルに飲めます。
― 歌舞伎町はカジュアルなバーや居酒屋が多いと思いますが、クラブで“オトナの飲み方”をするには、どう振る舞えばよいのでしょうか。
春香ママ:私たちのお店は会員制なので、まずは先輩や上司に連れてきてもらうところからですね。そこで、飲み方を覚えるというケースが一般的。次にひとりで来てくださるとすごくうれしい。
ゆうきママ:歌舞伎町には20~30軒クラブがありますが、ほとんどが会員制で、老舗店が多いですね。お店の雰囲気を保つために一見さんをお断りするという名目もあります。
春香ママ:先日、他のクラブのママがいらっしゃったんですが、シャンパンのボトルを入れて1杯飲んでさっとお帰りになりました。長居せず、けれどお店に貢献してくださろうとする姿がかっこいいなあって(笑)。
ゆうきママ:やさしくて気を使える方は紳士だなと思います。混んできたらさっと席を空けるとか、そういうのも飲み方の美学ですね。
「私たちの世代がSNSで情報を発信していこうと思っています。」
飲み方や通い方にも作法や美学があり、それを愉しむのもクラブの魅力のひとつ。そんなクラブのお客さんは、お金持ちや初老の男性が通うイメージがあるが、若い方にもきていただけるように積極的に情報発信をしているという。
― お客さんはどのような層の方がいらっしゃるのですか?
春香ママ: やはり40、50代以上が多いですね。でも、若い方もいらっしゃいますよ。IT企業とかの経営者とか。
春香ママ:お客さん同士のつながりもあって、そこから若い方がいらっしゃることもあります。私たちもお客様の年齢に関係なく「この方にこの方を紹介すると、仕事面でもいい化学反応がありそう」ということは常に考えています。
― 紹介制なので、徐々に増えていく感じですね。
春香ママ:それこそ、ゆうきママとは20代、30代とかの若い世代のお客様がもっと増えるといいねという話をよくしています。
ゆうきママ:連れて来られるパターンはあっても、1人で来店するケースは少ないので。若いお客様を育てるのもクラブの使命だと思います。そういう想いもあって、最近、春香ママと歌舞伎町インスタグラムを始めたんです。老舗のママたちは自分の親より年上の世代の方が多く、SNSには疎いんです。だから、私たちの世代が若い人たちに向けてどんどん情報を発信していこうと。インスタグラムがきっかけで、クラブで働きたいという人もきてくれるとうれしいですね。
若い世代がクラブを盛り上げていく
常連や長く付き合いのあるお客様を大事にしながらも、積極的に若い世代に情報発信していきたいという2人のママ。実際、働いているホステスさんも若い方が多く、その点では同世代の親近感も感じるところ。実際どんな人が働いているのだろうか?
― ホステスさんはどんな方たちですか?
春香ママ:今、16人いますが、みんな我が強い(笑)。いろんな子がいますが、最終的に残るのは個性があって我が強い子たちなんですよ。見た目も性格もお酒の飲み方もバラバラ。いろんなタイプがいるから楽しいお店になるんだと思います。
ゆうきママ:うちは10人ぐらい。それぞれお店のカラーはありますよね。Z世代と呼ばれる若い子たちとのギャップは感じていて、考え方も働き方も違うので、どういう風に教育していいのかなって。
春香ママ:私はずっと言い続けています。その場で怒ると営業に差し支えが出るので、ふざけて注意して閉店後にLINEで「ああいうところは直してほしい。お願いしますね」と。そういうやり取りを経て、自分から学ぼうとする子は育ちます。
歌舞伎町は人が魅力、エリアによって顔が違うのも面白い
大人の社交場を支える2人のママ。銀座でも六本木でもなく新宿・歌舞伎町に店を構えるには理由がありそうだ。何よりも2人ともこの街が好きだという
― お二人は、最近の歌舞伎町をどのようにみてらっしゃいますか?
春香ママ: 歌舞伎町は人が魅力だと思います。お店の人も、お客さんにもいろんな人がいて、お店に行くというより会いたい人に会いに行く街なんだと思います。しかも、エリアによって顔が違うのも面白い。
ゆうきママ:歌舞伎町はお店同士の交流がすごく深いですね。ママ同士が自分のお客様を連れていろんなお店に顔を出したりというのが結構あります。お店をオープンしてびっくりしたのは、同じビルに入っているクラブのママさんがお客様を連れて挨拶に来てくれたんです。黒服さんまで一緒に。歌舞伎町は懐が深いなと思いました。
春香ママ:歌舞伎町のクラブはお客様を抱え込むんじゃなくて共有するという意識が高いと思います。
ゆうきママ:コロナ禍で歌舞伎町に対して悪いイメージを持っている方が増えてしまったのは残念です。でも、一番言いたいのは、ホームにしちゃえば、とても穏やかな街ですよ。知り合いを増やしていくと、安心して楽しめるし良心的な街なんです。
閉じているようで開かれている。歌舞伎町のクラブの世界
「自分の店が大好きで家より長い時間を過ごすかも」と2人のママは言う。会員制で紹介制。敷居は決して低くないが一度入ってしまえばホームのような居心地がある。そして、お店とお店、人と人がつながって新しい出会いや楽しみが増えていくのがクラブの楽しさであり、歌舞伎町という街の魅力そのものかもしれない。まずは居酒屋・バーに通い、さらにクラブに連れて行ってくれる友人・知人と繋がったら、あなたも新しいステージへ。より深い歌舞伎町の愉しみが待っている。
写真:山本恭平
文:石原たきび