新・歌舞伎町ガイド

エリア

FOLLOW US:

花の持つ“生”のエネルギーを引き出す。フラワーアーティスト田中元気 /倉庫0のアートな夜 VOL.1

歌舞伎町

インタビュー 遊ぶ
アート イベント バー 倉庫0 東急歌舞伎町タワー
DATE : 2023.07.03
東急歌舞伎町タワーの地下にあるシークレットBar「倉庫0」。夜な夜なクリエイターやアーティストたちを含め、様々な人が集まる。倉庫0から生まれるアートプロジェクトは、ナイトエンターテインメント施設「ZEROTOKYO」内の展示会場と倉庫0の2拠点で新たなコミュニケーションを生み出し続ける。そんな一夜をレポートしよう。

謎多きアーティスト・田中元気とは?

ZEROTOKYOギャラリーでの展示

東急歌舞伎町タワーの地下。まもなく22時になろうかというある金曜の夜、ZEROTOKYOのエントランス前にあるシークレットBar「倉庫0」に多くの人々が集っていた。ここから飛び出してZEROTOKYOのギャラリースペースで行われるという展示に注目している人々だ。お目当ての作品は、本日お披露目される《生物と非生物の境界、“メタプランツ”の世界》という展示。作品のステートメントにはこんな解説が記されている。


有機物と無機物という異なる素材を掛け合わせて作品を制作。ふたつの要素を対立するものとしてではなく、“メタプランツ”として景観の中に融合させることを目指す。自分自身が生命たる所以を見つけることはできるのか。


ナイトエンターテインメントという空間において、かなり目を惹くこの大きな作品を制作したのは、若きフラワーアーティストの田中元気氏だ。

作品に使用されているのは、歌舞伎町の街で廃棄されてしまうロスフラワー。“生をなくしかけた”花を作品として甦らせた。鑑賞者は生物と非生物の間を行き来しながら、生命とは何かを突きつけられる。作品に込めた想いを語る田中元気氏の周りには、もっとその話を聞きたい者、自分の感想を聞いてほしい者など多くの人が集まってきた。

謎多きアーティスト・田中元気とは

原風景は、繁華街で「生を失って捨てられていた花」

多くの人が作品を見て、熱っぽく語る。そんな作品を作った田中元気氏とは、どんなアーティストなのだろうか。

これまでの作品制作のラインナップはとても華やかだ。

ハイブランドのファッションウィークのランウェイ装飾、イベント展示、著名アーティストのMVや映画作品など、多方面で活躍している。クレジットされている「GENKI TANAKA」という名前は多く見かける注目のアーティストでありながら、その素顔はあまり知られていない。

今回のイベント・そして展示作品の制作前に、改めて、倉庫0でじっくりと話を聞いた。

「元々は、映画の分野に携わるのが夢でした。なので、映画学校に行く学費を稼ぐために地元・福岡の中洲という繁華街にある花屋でアルバイトをしていました。昼の花屋さんと夜の花屋さんって、花が必要とされるシーンが全然違うんですよ。夜は男の人が女の子を口説くためなど、少し色っぽい目的で購入していくんです。でも、仕事が終わって街を歩いていると、さっきおじちゃんが買っていったはずの花束が道端に捨てられているのを発見したことも。そういう、繁華街においての花の姿にすごく“生”を感じたんですよね。なんだかそのドラマ性に無性に惹かれたというか。人間の欲望に近いところに花が存在していて、“生きてる”という状態に近いと感じました。そのストーリー部分で、自分の表現したいことができるんじゃないかなと思ったのが、今の表現活動のスタートになっています」

自給自足生活で得た「価値は自分で作り、オリジナリティを見つける」こと

「僕の両親が自営業だったこともあって、自分自身の手で未来をクリエイトしていく、ということに強く憧れがあったんですよ。全部自分でやってみたい、ということで自給自足生活を始めることになったんです。神奈川県藤野町に、自給自足を実践しているコミュニティがあって、そこでしばらく生活していました。食べ物も自分達でつくり、家も古民家を直しながら生活。水は川から引いていました。今でこそ、SDGsという言葉が流行っていますが、持続可能な生活スタイルを求めて、都市から移り住んできた人たちが多かったです」

「消費者ではなく、生産者になろう」という思いが強かったという元気氏。既存のものに依存しないスタイルはこの自給自足生活から自然と得たものなのだという。

「価値を決めるのは自分だ、というやり方はあの生活から影響を受けていますね」

その頃、そのコミュニティで元気氏にたくさんのことを教えてくれた“師匠”からは特に強い影響を受けたのだそう。

「哲学とか思想みたいなものは、身体に宿ると最近思うんですよ。行動は“生き方”なんじゃないかなと」

現在は、自給自足と都市型生活の両方を行き来するような生活を送っている元気氏。それこそが自分が選ぶ行動であり思想なのだという。

「納得いかない」ことの中にこそ、オリジナリティの種がある

「他者とのコミュニケーションでも、コミュニティの中での生活にしても同じことですけど、『ここは好きだけど、こういうところは納得できないなぁ』ってよくあるじゃないですか。その『こういうところは納得できない』の部分、違和感があって共感できないことにこそ、自分の主義・主張が宿るんじゃないかと思います。その違和感と向き合うことで、自分のオリジナリティが生まれるのではと」

自給自足のコミュニティでは圧倒的師匠だった人のことを、「師匠の世界観は好きだし、尊敬しているんだけどこういうところは納得できないんだよなぁというところもあります」と語る元気氏。

「でも、そうやって納得できないかもなぁと思えるところこそ、僕は極めるべきだという気がします。そこなら唯一、師匠に勝てるかもしれませんよね(笑)。師匠の世界をそのままコピーするのでなく、その違和感を大切にするからこそ田中元気スタイルにアップデートした僕の世界観ができるんだと思う」

「生を感じる」花を、再構築することでエネルギーを引き出す

その違和感を作品に昇華させているのが、元気氏の代表作《仮面》シリーズだ。

もともとは「花の持つ“生”」に魅力を感じているはずなのに、市場に出回る商業用の花は、均一の基準をクリアした「同じ顔」に見えたのだという。

「違和感があって、エネルギーを感じられるものこそが“生”。そういう表情に変えてあげるために、既存の花を一度解体して組み直すという手法で作っています。見たままの花の姿でなく、歪なところを含めて、エネルギーを引き出したい。一方的なコミュニケーションではなく、見ている側も、見られている花側も、等しく生きていて、過剰なエネルギーを持っているはずなんです。その部分を表現していきたいですね」

新宿・歌舞伎町でのオリジナル展示

今回の展示会場は、新宿・歌舞伎町。元気氏にとっては馴染みのある街なのだという。

「歌舞伎町って、好きなんですよね。実はカツアゲやぼったくりにあったこともあるんですけど(笑)、最悪かもしれないけれど、いい経験したなって僕は思えます。システムの中にいて守られて生きていても自分は成長しない。そういう意味でも、ドキドキさせてくれる街ですよね。いろいろな人がいて、過剰なエネルギーを持つ街だなと」

普段、クライアントワークにおいての作品制作が多い元気氏にとっては、オリジナル作品の制作は刺激になったようだ。

「自分の主張に忠実に製作を進められるという点において、普段のクライアントワークとは違うアプローチで自分の内面と向き合う面白さがありました。自分で問いや課題を見つけ、現時点での回答を出すこと。自己表現においてもっとも原動力になるプロセスにより深く触れられた気がします」

作品を目の前にして鑑賞者と会話することはほとんどないそうだが、今回の展示ではかなり多くの人と話し込む姿が見られた元気氏。どんな会話をしたのだろうか。

「感想をたくさんいただいて、みんなの関心がどのようなところにあるのかを知れたのは面白かったです。歌舞伎町のロスフラワーについてのリアクションが特に多かったのですが、余剰物をどのように社会でシェアしていくのか、やはり多くの方が課題として認識しているのがわかりましたね」

ギャラリースペースと倉庫0を行き来しながらたくさんの人々と会話した元気氏。

「倉庫0はアットホームな雰囲気で、狭さも手伝ってなのか、打ち解けやすさを感じましたね。次回はぜひ、もっと一人ひとりと長く交流ができたらと思います」

Genki Tanaka | 田中元気さんプロフィール

1997年生まれ。フラワーアーティスト。
2020年より地震で花を使った表現活動を始め、MV撮影やイベントの装飾、東京コレクションのランウェイショーでのパフォーマンスなど、さまざまな分野にて創作活動の幅を広げている。2016年、神奈川県藤野町にて自給自足の生活を営みながら、持続可能な社会のシステムのデザインを志すパーマカルチャーデザイナーの資格を取得。既存のシステムに依存せず、徹底した現場の観察による新しい価値の創造を目指すパーマカルチャーの思想は、現在でも花の制作に生かされている。

写真:玉井俊行
文:MASH UP! KABUKICHO編集部

こんな記事もおすすめ