弾き語りとバンドが交錯する、最新のシンガーソングライター
— カネコアヤノさんはどんなアーティストでしょうか?
ひとことで言うとシンガーソングライターです。ソングライティングの良さと現代的なトラックのおもしろさを両立させている点から、シンガーソングライターの一番新しいかたちを提示している方じゃないでしょうか。
— トラックのおもしろさ?
これは僕の推測ですが、カネコさんの作品は本人とバンドの分業で作られているんだと思っています。カネコさんによるものすごく良いソングライティングが根幹にあって、固定メンバーで構成されているバンドがそこにおもしろいアイディアをプラスして楽曲にしていく。それによって楽曲の良さとトラックとしてのおもしろさを両立しているわけですね。
というのも、カネコさんは全アルバムで弾き語りバージョンもリリースしているんです。それって楽曲をギターで作って、それをみんなにシェアしてからレコーディングしているってことじゃないですか。打ち込み主体で作っていたら、全部ギターで演奏できるとは限らないですから。だから出発点は、典型的なシンガーソングライター的なところにあって、そこにアイディアをプラスしていくスタイルということが窺えるんじゃないかと僕は考えてますね。
— 先ほどみのさんも仰っていましたが、僕もカネコさんの音楽を聴いて真っ先に連想したのはユーミンでした。
初期の代表曲「ロマンス宣言」は、よく「ユーミンとザ・ストロークスの融合」みたいに言われていましたからね。さっきの構図で言えば、ザ・ストロークスみたいな要素はおそらくカネコさんじゃなくバンドから来ている部分だと思います。
— カネコさんのプロフィールを調べる限り、彼女の音楽的ルーツにはザ・ストロークスみたいな洋楽は入っていなさそうですしね。
それも含めて、カネコさんとバンドの皆さんとの間で化学反応が生まれているのかなと思います。
— おすすめの楽曲は?
「光の方へ」ですね。これはめちゃくちゃ名曲です。そして個人的に好きなのは、これまた大名曲「ロマンス宣言」の弾き語り版です。何も飾っていない、すごく良いバージョンだと思います。あとは新作アルバムからの「予感」もいいですね。彼女たちのオルタナティブな部分がすごく堪能できる曲になっていると思います。
まるでクラシックのような、有機的ポップ・ミュージック
— トラック的なおもしろさ以外に、カネコさんの楽曲にはどのような特徴があると思いますか?
すごいセンスの持ち主だと思いますね。王道のポップスとしっかり接地面を持ちながらも、全然ルールにとらわれていないソングライティングをしているというか。というのも、カネコさんの作曲って、一曲の中でテンポがめっちゃ変わるのが特徴的なんですよ。それって現代のトラック的な考え方からすると、ライブで同期が流せなくなるし、DAW上の編集もしにくくなるから、非常に不利なんですよね。というか、テンポが一定じゃない曲って、クラシックの世界では普通でも、ポップスの世界ではそもそも普通じゃないですし。
— メトロノームを使わず一発録音しているとテンポが揺れることはありますが……
演奏の都合上ではなく、表現の一環としてテンポが変わるんですよ。曲中でのカネコさんの感情表現に寄り添って、楽曲のスピードも変わるというのはめっちゃおもしろいなって思います。
ジョン・レノンが一拍抜くのが得意とか、そういうリズム的な得意技みたいなのは他のアーティストにもあるけど「曲の速さが変幻自在」でそれをストロングポイントにしてる方は、自分はカネコさん以外ちょっと知らないですね。
— ボーカリストとしてのカネコさんはいかがですか?
もう声が抜群にいいですよ。全く飾っていないのに。こういう声だけで勝負できる人はなかなかいないですよ。間違いなく「今、最高の声を持っているアーティストの一人」と言えるんじゃないですかね。生でライブを見た時も本当に素晴らしくて「その声で生まれたら、そりゃ歌手になるよね」って思うぐらいの説得力がありました(笑)。
— (笑)。先程クラシックの例を出されていましたけど、カネコさんの歌声にはバイオリンなどのストリングスっぽい部分があるなと思いました。
自由にグライドする感じがありますよね。山なりにメロディーを射抜いていくというか。
— DAW上で音程を補正してバチバチに合わせていくのともまた違う、豊かな表現を感じます。
それって逆に言えば、歌が下手な人はできないですからね。変化するテンポも含めて、カネコさんの音楽はかなり有機的だと言えそうですね。
— まさに。「人が作っている音楽」という感じがすごくありますよね。
そんな有機的な素材を、バンドがトラック的な考え方で料理していくわけで、それってある意味で二重構造になっていると言えるかもしれないですよね。
— それも含めてユーミンっぽいかもしれませんね。
細野晴臣さん、鈴木茂さん、松任谷正隆さん、林立夫さんたちがバンド演奏してましたもんね。話としていい着地ができた気がします(笑)。
Vol.1 全員10代の末恐ろしきバンド「chilldspot」
Vol.2 日本の音楽ファンに“命題”を突きつける「民謡クルセイダーズ」
Vol.3 ゆらゆら帝国以来の衝撃。オルタナロックの系譜に立つ「betcover!!」
Vol.4 フォークソングとしての普遍性と攻めたサウンドの融合「ゆうらん船」
Vol.5 すぐれたポップセンスで日本語を響かせるバンド「グソクムズ」
Vol.6 天才と呼びたくなるシンガーソングライター「中村佳穂」
Vol.7 謎多き新世代ミクスチャーバンド「鋭児」
Vol.8 バンドサウンドとBento Waveを融合させる「ペペッターズ」
Vol.9 渋谷系の真髄に迫るネオネオアコバンド「Nagakumo」
Vol.10 新世代らしい音楽との向き合い方を感じる「Mega Shinnosuke」
Vol.11 “音色”からポップミュージックの幅を広げる「Serph」
Vol.12 日本にガレージロックブームを起こすかもしれないバンド「w.o.d.」
Vol.13 素晴らしすぎる作曲、掴めないキャラクター「Bialystocks」
Vol.14 ロックとダンスが融合した多国籍バンド「Johnnivan」
Vol.15 大胆変化。今こそ注目したいバンド「CHAI」
カネコアヤノ
シンガーソングライター。大学在学中に音楽活動を始め、2012年5月に「印税生活」でデビュー。2016年4月に初の弾き語り作品『hug』、2017年9月には初のアナログレコード作品『群れたち』を発表。2023年1月に日本武道館ワンマンショー2daysを開催するなど、高い人気を誇るアーティストである。
みのミュージック
YouTubeチャンネル「みのミュージック」は現在40万人登録者を誇り、自身の敬愛するカルチャー紹介を軸としたオンリーワンなチャンネルを運営中。
Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めており、ミノタウロスでは約2年ぶりとなるEP「評論家が作った音楽」を1月リリース。
書籍「戦いの音楽史」も度重なる重版でロングセラー本となり、活動の場を広げている。
text&photo:照沼健太