新・歌舞伎町ガイド

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アーバンギャルドにとって歌舞伎町は「誰もが役を演じる劇場的な街」

歌舞伎町

インタビュー
音楽
DATE : 2019.11.15

新宿の街を楽曲のタイトルや歌詞に多く用い、歌舞伎町でのライブ活動も多く行う「トラウマテクノポップ」バンド・アーバンギャルド。

“おんなじだ この街は劇場とおんなじだ

演じるの花形女優 幕が降りるのは早い”

彼らの楽曲『シンジュク・モナムール』の中で、新宿の街は“劇場とおんなじ”と形容される。多くの映画館や劇場を有するのはもちろん、様々な年齢、ジェンダー、職業の人々が交錯し、彼らはまるで歌舞伎町という劇場の中で役を演じているかのようだ。

『シンジュク・モナムール』の作詞作曲を手がけ、「新宿の街の、劇場的なところが好き」と語るのはリーダーの松永天馬。今回はボーカルの浜崎容子と共に、新宿・歌舞伎町を語る。

松永少年にとって歌舞伎町は“大遊戯場”だった

ミュージシャン、詩人、俳優、作家、映画監督と幅広い活躍を見せる松永天馬。

高校1年生。文芸部に所属していた松永は、“現代の万葉集”を制作していた。かつての万葉集は天皇から農民まで幅広い立場や職業の人々の歌が収録されており、それを現代に実践しようという試みだった。

竹中直人や筑紫哲也といった著名人の事務所にFAXを送り、当時新宿西口公園に住んでいたホームレスたちにも声をかけた。結果150以上もの詩が集まり『マンヨウシュー』『マンヨウシュー2000』二冊の冊子が編纂された。

「風俗嬢の方々にも詩を書いてもらったんですよ。女性とお付き合いしたことすらなかった僕が、風俗店の受付へ行って『詩を書いていただける風俗嬢の方はいませんか』って。それから何度も説明して説得したら、結果的には4人も書いてくれて。『P.N. 歌舞伎町の猫』って人がいたり、『恋人もいないけど お金があるもん お金があればなんでもできるのさ』って詩があったりして」(松永)

東京に生まれた松永にとって、歌舞伎町は“遊び場”だった。

色とりどりのネオンが怪しく輝く街が、高校生男子の眼には一層眩しく映り、椎名林檎が『歌舞伎町の女王』を発表すれば「ここは大遊戯場だったのか。自分は今、大遊戯場にいるのか。大遊戯場にいる俺は今、俺を演じている」と感嘆した。

この街でしか出会えない、ちょっと変わった人々

アーバンギャルドのアイコン、浜崎容子。唯一無二の歌姫として活躍するかたわら、現在はファッションブランド「FORGIVE ME」のプロデュースもおこなっている。

「0時を過ぎた歌舞伎町には、夜の人たちが増えるのが好きです。昔SMの女王様たちとよく遊んでいたときがあるんですけど、女王様たちが外でベンチのようなものに座ってお酒を飲んでいて、『こっちおいでよ』と言われたので寄って行って見たら、椅子に見えていたのは女王様に従う奴隷の男性たちだったんです」(浜崎)

歌舞伎町には、歌舞伎町や新宿の町には、人間椅子をやっている人々だけではなく、都市伝説かのようにその存在を囁かれる人々がいる。虎の仮面をかぶり新聞配達をする新宿タイガーや、「志集」と書かれた詩集を道で手売りする女性、歌舞伎町に隣接する花園神社で開催される酉の市にも奇人変人が勢ぞろいする。

だがしかし、昔の歌舞伎町よりはそのような人々が減ったと松永は語る。特筆するほど変わった人が単純に減っただけでなく、昔に比べてあらゆる情報がSNSなどにより、つまびらかになったことで失われた側面も大きい。

「歪なものや過剰なもの、あるいは不道徳、不健全であるものを許さない時代になってしまったんですよね。しかも昔なら都市伝説扱いされていたものが、すぐ発見されてタレント扱いをされて、世の中的に浄化されてしまう。昔はネットとストリートって完全に分かれてましたけど、今はネットがストリートのあり方を変えてしまってますよね。ストリートで面白いものや変わったものを見つけたら、みんながすぐシェアしてしまう。歌舞伎町にだけ、ネット禁止エリアがあったらいいのに(笑)」(松永)

流行を強いてこない街、歌舞伎町

ライブでは、「明日も生きてくれるかなー?」「いいともー!」の掛け合いが行われ、彼らの歌も歌舞伎町と同じように、多くの人の居場所となっている。

「渋谷まで行く元気はなくて、原宿も落ち着けない。ちょうどいいのが新宿」と浜崎は話す。距離は近くても、渋谷や原宿は心理的な距離が遠い。その理由を松永は、「(新宿以外は)街が流行を強いてくるからではないか?」と分析した。

かつては各々ジャンルがばらばらで好きな格好をして歩く街だった原宿も、以前と比べれば画一化ファッションに身を包む若者が多くなった。“原宿っぽさ”が形成されたことを、「街が流行を強いてくる」と表現した。

一方、新宿は相変わらず人々の年齢や職業、さらにはジェンダーまでばらばらで、誰に注目するでも除外するわけでもない。ましてや恩着せがましく受け入れるわけでもない。

「『KERA』はネットに移行して『Zipper』は休刊、『FRUiTS』は“オシャレな子が撮れなくなった”なんて捨て台詞のような言葉を残してやめてしまった。

今の流行の多くは、すごくユーザビリティを気にしてるんですよね。“わかりやすい”ことを大前提として流行が形成されている。カルチャーはもちろん、街の形成にも言えることだと思います」(松永)

渋谷や原宿を否定するわけでも、歌舞伎町のこれからの変遷を悲観しているわけでもない。かといってカルチャーを諦めているわけでもない。

「街は変わりゆくものですから。こうあってほしいとか、この時代がよかったとかはありますけど、これから生まれてくる子たちにしたら老害の戯言なので、いいんですよ。これまでずっと面白い街だったし、それこそ寺山修司の時代からそうだった。歌舞伎町の劇場的な側面はもうしばらく続いていくんじゃないかと思います。新しいマイノリティのカルチャーが生まれたり居ついたりする場所として、機能し続ける街であればいいなと思います」(松永)

アーバンギャルド

ポップ・ロック・バンド。自らを「トラウマテクノポップ」と称する。メンバーは浜崎容子(vo)、松永天馬(vo)、おおくぼけい(key)の3名。詩や演劇で活動していた松永を中心に結成。シャンソン歌手としてステージに立っていた浜崎をアイコンに、2008年にアルバム『少女は二度死ぬ』でデビュー。2011年にシングル「スカート革命」でメジャーへ進出後、2013年の仏・パリでの〈JAPAN EXPO〉をはじめ、海外でのライヴも定期的に行なう。2018年には中野サンプラザでのワンマンライヴを成功させ、デビュー10周年記念アルバム『少女フィクション』をリリース。2020年には、全国ツアーも予定されている。

アーバンギャルドの曲はこちらから
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