— 三浦さんの作品は劇団ポツドール(※三浦が主宰を務める演劇ユニット)時代からご覧になっているとのことですが、峯田さんが惹かれる理由、その魅力を教えてください。
緊張感、ですかね。役者さんの立ち姿や表情を観ていると、ここに至るまでにいかにすり減らしながら稽古をしてきたのかってことまで感じられますし、それを観ているこちらもつい体がギュッとなってしまう。その緊張感、緊迫感みたいなものに、いつも僕は感動するんです。
— 三浦さんとは映画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(2010年)、舞台『母に欲す』(2014年)でもご一緒されています。その世界観を自らが体現する上で苦労されたこと、またやりがいはどんなところに感じていますか?
僕は演技の経験がそこまで多くないので、三浦さんだからっていうのはあんまりよくわかんないです。ただやっぱりやりがいはあるんですよね。三浦さんって、お芝居を綺麗ごとでやること、カッコつけてやること、オブラートに包んでやること、そういうことをダサいと感じている人だと思っていて。で、それってちょっとおこがましいですけど、僕が音楽でやってきたことと近いなと思うんです。だから三浦さんとは合うというか、共鳴出来るんじゃないかなって。稽古中、手を抜いていたらすぐにバレますしね。「そんなんじゃないですよね?」って。そういうところをすごく大事にしている人だと思いますし、だからこそ適当にはやれないですよね。しかも今、気軽に劇場に足を運べる状況でもないわけですから。それでもやっぱり劇場に行きたい、生でお芝居を観たいっていうお客さんに対して、手を抜くなんてことは絶対に出来ないなと思います。
— 峯田さんは前回の舞台を振り返って、「濃密だった2か月間の暗闇」とコメントされています。その真意を教えてください。
すごく暑い夏だったんですよ。ブラジルでサッカーのワールドカップがやっていて、僕、ずっとそれを見るのを楽しみにしていたんです。でも結局全然見られなくて。稽古やって家に帰って来ると、もうスイッチが切れたように寝てしまう。それから朝起きて、稽古に行って、帰って来て、寝て、みたいな繰り返しで。セリフを覚えるのもいっぱいいっぱいでしたし、誰かと遊びに行くような気にもなれなくて、今思い返すとなんか“暗闇”なんですよね。
— よくその暗闇に戻って来ようと思われましたね?(苦笑)
僕、暗闇好きなので(笑)。ただ当時は、もう舞台はやりませんって感じだったと思います。最初で最後、くらいの気持ちで臨んでいたので。でも三浦さんとはそれ以降もよく会っていて、3年ぐらい前かな、はっきり「やろう」と言われたんです。その時、「本当にやるんですか?」なんて言いつつ、どっかで嬉しい気持ちもあったんですよね。女の人と別れる時ってもうやってられないって思うんですけど、だんだんやっぱり……って気持ちが変化していったりする。なんかその感じに近いと思います。
— 銀杏BOYZとしてステージに立つことには慣れていると思いますが、役として立った時の心境とはどういったものだったのでしょうか?
ある意味、銀杏BOYZも演じていると思うんですよ。銀杏BOYZでライブをやっている時って、お客さんはやっぱり“銀杏BOYZの峯田”を観に来ているわけで、自分自身、“銀杏BOYZの峯田”で歌っている気がして。役もそれと変わんないんですよね。人前に立って歌ったり演じたりするって、どっかでつくっているところがあると思うんです。ただ銀杏BOYZの時は自分がプロデュースしていますが、舞台で役として立つ時は三浦さんがプロデュースしている。で、そこに委ねられる。銀杏BOYZは委ねられないので。その違いぐらいで、僕にとってはどっちも楽しいことなんですよね。
— まだ稽古前ではありますが、現段階までのプロットを読まれてみて考えていることは?
まぁ岡田(将生)くんが隣にいるので、ふたりの立ち位置みたいなものは考えています。対照的に見えるといいなって。だから自分がこう動きたいっていうよりかは、岡田くんとどううまく空気をつくっていけるのか。なんかそれってバンドと一緒なんですよね。ボーカルがこういう奴で、隣でギター弾いてるのがこういう奴で、みたいな感覚と一緒かなと。やっぱり僕は、そのバランスが面白いバンドが好きですし、お芝居でもそういうところを考えますね。岡田くんが“青”だったら、僕は“赤”にしようかなって感じ。あと弁護士の役とかはではなく(笑)、売れないミュージシャンの役なので、そこは自分の経験のストックから引っ張り出していける部分はあるのかなと思います。
あの街独特の磁場みたいなものは、たぶんどうやっても変わんない
— 作品の舞台である新宿・歌舞伎町についてはどんなイメージを持たれていますか?
僕、初めて東京に来たのが18歳の時で、まず新宿に行こう!って思ったんです。で、中央線のホームから地下の改札に下りたんですけど、地上への出方がわからなくて(笑)。駅員さんに「すいません、どうやって地上に出たらいいんですか?」って聞いても、なまっているせいか、「は?」みたいにしか答えてくれない。それで「もういいです」ってまた歩き出して、結局1時間ぐらい出られなかったですね。ただ僕が行きたかったのは東口の新宿アルタだったんですけど、出たのが西口の小田急百貨店の前。地上に出たところでどう行けばいいかもわからないし、あんなに人の多いところを歩くのも初めてだったので、頭がグワングワンしてきちゃったんです。で、とうとうその日はアルタにまでたどり着けず、ここは魔境だ!って(笑)。なんか新宿って、今も“人外魔境”みたいなところがあると思いますね。
— まず新宿を目指されたということは、上京前から新宿に対して憧れがあったということですか?
ありましたね。僕、『幻魔大戦』っていうアニメ映画がすごく好きで、それに新宿が出てくるんですよ。主人公の高校生が、ある異星人に目をつけられて襲われるんですけど、その瞬間時が止まって、周りの人は全員固まっちゃうんです。その中を異星人に追っかけられた主人公が、泣きながら逃げるっていう。それが夜の新宿の明治通りで、幼稚園生ながら、新宿は怖ぇなって(笑)。あとはやっぱりライブハウスの聖地みたいなところなので、勝手に憧れていました。
— 後に、その聖地で自らライブをされるようになりますね。
デビュー当時はだいぶ新宿や歌舞伎町にいましたね。新宿LOFTとアシベホールってとこでよくライブをやっていて、それこそお客さんがまだ20人くらいしかいなかったころ。ライブが終わったらみんなで安い居酒屋さんで飲んで、いろんなバンドマンとしゃべって、そうすると彼女がひとりで漫画喫茶にいるって言うから途中で切り上げて、彼女と落ち合ってラブホテル行って、みたいな。ラブホも昔はもっといっぱいありましたからね。鏡張りの部屋とか(笑)。まぁ20代のころの僕はそんな繰り返しでした。
— 今でも新宿や歌舞伎町には行かれますか?
行きますよ。今ライブはそこまでやっていないですけど、プライベートではよく映画を観に行きます。なんか歌舞伎町の人混みを抜けていく感じがいいんですよね。その突き当たりに映画館(=TOHOシネマズ 新宿)があって、帰りのエスカレーターに乗ると歌舞伎町が全部見渡せる。映画の余韻とともに、人がうわーっているのを眺めつつ、その中に紛れていく感じもまたよくて。やっぱり新宿っていろんな人間の欲が渦巻く場所というか、田舎にはない、東京にしかない感じがあると思うんです。ただ同じ東京でも渋谷のポップさとはまた違う、ちょっと怖くもあるんだけど、なんかゾクゾクするところがあって。昔に比べるとずいぶんきれいにはなりましたけど、そのエネルギーみたいなものは変わんないと思うんですよね。方向感覚がなくなる感じというか、あの街独特の磁場みたいなものは、たぶんどうやっても変わんない。で、そういう歌舞伎町が、僕はやっぱり好きなんですよね。
衣装協力:Sasquatchfabrix.(トップス18,000円、パンツ38,000円)、Onitsuka Tiger(シューズ12,000円)※すべて税抜
COCOON PRODUCTION 2021『物語なき、この世界。』
2021年7月11日~8月3日
Bunkamuraシアターコクーン
作・演出 三浦大輔
出演 岡田将生、峯田和伸、柄本時生、内田理央、宮崎吐夢、米村亮太朗、星田英利、寺島しのぶ、ほか
料金 S席11,000円、A席9,000円、コクーンシート5,500円
問い合わせ 03-3477-3244(Bunkamura、10:00~18:00)
HP
photo:山本れお
styling:入山浩章
text:野上瑠美子