あらゆる価値観が交差する歌舞伎町に集う次世代の才能たちの、過去・現在・未来に迫るインタビューシリーズ「NEXT UP!」。
第23回は、映像と音楽を横断しながら、アーティスト「ロボット頭」の世界を作り上げるユニット、iaitokyo。過去と現在が交錯する街「トウキョウ」を舞台に、絵本や音楽、ライブを通して、夢や孤独、人と人との間に在る小さな優しさを描いている。活動の始まりから独自の制作方法、初の台湾公演で得た手応え、そして目指す未来まで、iaitokyoの美咲ひいろと橋本リンドウに聞いた。
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<NEXT UP!的 推しポイント>
- 100円ショップのバケツから生まれた「ロボット頭」
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SNSで見る社会より、現実の人間はもう少し優しい
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物語と音楽を何度も壊して生まれる、二人だけの表現
iaitokyo
映像作家・VJの橋本リンドウと、音楽家の美咲ひいろによるアートユニット。2010年に活動を開始し、映像、音楽、絵本、ライブを横断しながら、アーティスト「ロボット頭」の世界を作り上げている。過去と現在が入り交じる架空の街「トウキョウパラドックス」を舞台に、人々の夢や孤独、現実のなかに在る小さな優しさを描く。
—Beginning—
没入できる世界を求めて。「ロボット頭」が生まれるまで
― iaitokyoは、どのように始まったのでしょうか。
橋本リンドウ(以下、橋本):2010年に、映像と音楽を組み合わせるアートユニットとして始まりました。当時はメディアアート寄りの作品を制作して、街なかのビジョンなどで上映されるコンテストによく応募していました。作品のなかに歌は入っていましたが、まだライブをするような形ではなく、映像と音源が中心でした。僕はもともと、iaitokyoを始めるまではVJとして、クラブイベントやライブの演出、映像制作をしていました。
美咲ひいろ(以下、美咲):私はバンドやソロで歌い、曲を作っていました。当時は今ほどライブで映像を使うことが一般的ではなくて、VJという存在がすごく面白く見えました。私は、お客さんに歌をまっすぐ届けるだけでなく、会場全体を構築して、世界に入り込んでもらえるような表現がしたかったんです。
― 「ロボット頭」という存在は、どこから生まれたのですか。
橋本:活動として始めたのは2016年ですが、その2、3年前には造形の原型を作っていました。最初は100円ショップで買ったバケツなどを加工した手づくりの被り物です。「ロボット頭自身が、拙いながらも一生懸命に作った」という設定を表現したくて、まず僕が実物を作りました。それを写真や映像にして、やがてイラストや絵本へ展開していったんです。
当初はダフト・パンクやゴリラズのような、覆面のアーティストをイメージしていました。重低音の効いた四つ打ちに、かっこいい映像を組み合わせるつもりだったんです。でも、美咲さんが作るのはもっと情緒的な音楽だった。それなら派手な映像を先に考えるより、ロボット頭が哀愁や懐かしさを感じる風景を描く方が大切だと思うようになりました。そこから今の世界観が形づくられていきました。
― 造形で大切にしたことは?
橋本:子どもが描くような単純さと、親しみやすさです。身体に対して頭を少し大きくして、アニメのキャラクターのようなバランスにしています。頭のアンテナのような“アホ毛”も、全身のバランスを取るうえで重要です。
もう一つは、口がないこと。ハローキティのように口を描かないことで、見る人が自分の感情を重ねられると知り、影響を受けました。ただ、実際に歌う段階になって、口がないことにはかなり苦労しましたけどね(笑)。

― 被り物をした状態で表現をするというのは、生身での表現とどんな点が異なるのでしょうか。
美咲:まず、被り物をしていても意外と伝わるんだ、という発見がありました。表情が見えなくても、声そのものに表情がある。声のトーンや大きさ、出し方を以前より意識するようになりました。それから、身体の動きも大切です。
参考にしたのは、プロ野球球団のマスコット。特にドアラは本当にすごいんです。大きく動くだけでなく、急に止まる。その強弱だけで感情や間を作っている。もともと好きで見ていたのですが、ロボット頭として活動するようになってからは、動きをかなり研究しました。
橋本:着ぐるみには、人を優しくする力もあると感じます。道で手を振ると、多くの人が振り返してくれる。ロボット頭も、顔が見えないからこそ、お客さんが「もっと理解しよう」「何か返してあげよう」としてくれることがあるんです。
― iaitokyoとしてライブ活動をスタートさせたのは最近のことだそうですが、それ以前はどんな活動をされていたのでしょうか。
橋本:2007〜2008年頃は、メタバースの先駆けである「Second Life」のなかで2人の女の子のキャラクターを動かし、今でいうVTuberに近いアートユニットを作っていました。仮想空間で個展を開き、そこに実在するアーティストのように活動していたんです。その作品に坂本龍一さんが興味を持ってくださり、事務所から連絡をいただいたこともありました。
ただ、当時は初音ミクはいても、VTuberはまだいない時代です。どう世の中に届け、ビジネスにすればいいのか、誰にも分からなかった。僕たち自身も正体を秘密にしすぎて活動しづらくなり、続けられなくなってしまいました。
美咲:でも、楽曲だけでなくビジュアルを含めて、没入できる世界を作りたいという思いは、今のiaitokyoやロボット頭にもつながっています。
― とても明確な世界観を持って活動してこられたんですね。そうした表現に影響を与えた存在はいるのでしょうか。
美咲:私は一人のアーティストを強く目標にするというより、ジャンルに境界を作らず音楽を聴いてきました。子どもの頃に習っていたピアノの先生が、クラシックから80年代のポップス、90年代のグランジまで、本当にいろいろな音楽を聴かせてくれたんです。歌うことに関しては、感情をむき出しにするようなアラニス・モリセットのスタイルに惹かれましたし、一方で松田聖子さんやAURORAも好きです。
― アコーディオンを弾きながら歌う独特の世界観も、どこかからインスピレーションを受けたのでしょうか。
アコーディオンを始めた直接のきっかけは、チャラン・ポ・ランタンの小春さん。コロナ禍にYouTubeで発信されていた動画を見て、ボタンアコーディオンの姿と音に「かっこいい!」と思いました。ピアノ鍵盤式ではなくボタン式を選び、さらに電子アコーディオンなら、エフェクターをつないでいろいろな音を出せる。その電子的な感じも[、ロボット頭に合うと思ったんです。
― 橋本さんはいかがですか。
橋本:僕はアーティストというより、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマイケル・J・フォックスが演じるキャラクターがずっと好きです。軽快で、何度でも困難に立ち向かい、ときに突拍子もない方法で乗り越える。ギターを始めたのも彼への憧れからでした。今でも、ああいう姿勢でいたいと思っています。
表現の見せ方では、モーニング娘。からももいろクローバーZ、BiSH、欅坂46、NewJeans、BLACKPINKまで、アイドルを幅広く見ています。楽曲だけでなく、ステージングや総合的なプロデュースが緻密に計算されている。その視点は、ロボット頭をどのように見せ、どこに立たせるかを考えるうえで、とても参考になります。

—Essence—
現実は、SNSで見るよりもう少し優しい——並行世界「トウキョウ」に込めた思い
― ロボット頭が暮らす「トウキョウ」とは、どんな世界なのでしょう。
美咲:ロボット頭が、もといた世界からトウキョウへ出てきて、自分の居場所を探す物語です。ただし、そこは現実の東京そのものではなく、現在の建物と、かつて実在した建物や乗り物が混在しています。現代でもあり、過去でもある、ごちゃ混ぜの世界です。
橋本:出発点にあるのは、SNSやメディアを通して見る社会と、実際に街を歩いて人に会ったときの感触との違いです。SNSでは強い言葉や攻撃性が目立つけれど、現実の人間はそこまで悪いことばかり考えていないし、小さな優しさもある。顔の見えない相手に、そんなに強い言葉をぶつけなくてもいい。実際に会ってみたら大丈夫かもしれない。そうした「SNSと現実の狭間にある優しさ」を表現するために、リアルだけれどリアルではない東京を描いています。
― 作品には「夢」というモチーフもたびたび登場します。
橋本:根底には、作品に触れた人の生活が少しだけ楽しくなったり、笑顔が少し増えたりしてほしいという思いがあります。「頑張っていることを、ちゃんと見ているよ」と伝えたい。昔思い描いた夢を今はしまい込んでいたとしても、現在頑張っていることも同じように大切で、光っているんだということです。
美咲:例えば、渋谷を舞台にした物語では、人々がこぼれ落としていった夢が街に漂っていて、それを網で集め、大切に保管してくれる存在が登場します。その姿は普通の人には見えず、世界の狭間にいるロボット頭にだけ見える。でも、「夢を追い続けることだけが正しい」と言いたいわけではありません。今を生きて、目の前のことを頑張っている。その姿も素敵なんだという物語です。


― 物語と音楽は、どのように作っていくのですか。
橋本:まず僕が、描きたいテーマや物語、キャラクターの感情を考え、それを美咲さんに渡します。
美咲:私はそこからイメージする音を組み立てます。リズムから始めることが多く、音の要素が揃ってからメロディを考え、最後に歌詞を書く。ただ、私が作った曲が最初の物語に合わないこともあります。
橋本:音楽が物語を超えてきたときは、物語の方を変えます。逆に「この音ではキャラクターが動けない」「この感情にはならない」と伝えて、音楽を壊して作り直してもらうこともある。
美咲:そのやりとりには、ものすごく時間がかかります(笑)。リンドウくんはVJとして、音を聞いた瞬間に「お客さんはこの音から何を連想するか」を考える癖が染みついているんです。私とは音楽の聞き方が違うので、初めの頃は話がなかなか通じませんでした。今はまず叩き台を作り、壊して、2人が納得できる方向へ少しずつ寄せていきます。そのすり合わせが、iaitokyoらしさを生むために必要な時間なのだと思っています。
—Future—
言葉の壁を越え、もっと遠くへ。ライブから広がるロボット頭の未来
― 近年はライブ活動するようになったことで、曲づくりの意識も変わってきましたか。
橋本:以前は物語が中心でしたが、ライブを始めてからは、お客さんがどう参加し、どう楽しむかも曲の出発点に加わりました。みんなが手拍子をしたそうなのに、途中でリズムが変わって叩きにくそうなら、手拍子をしやすい場所を作る。コール&レスポンスを入れる。目の前のお客さんの反応から曲を考えるようになっています。
美咲:先日、台湾で出演した、日本のアニメやオタク文化が好きな方々が集まるイベントでも、その手応えがありました。ほとんどの方にとって初めて聞くオリジナル曲だったのに、こちらが「シュッシュ」と言えば「シュッシュ」、「ポッポ」と言えば「ポッポ」と、全力で返してくれて、応えてくれたんです。そのやりとりが本当に嬉しくて、音楽を通じて交流できていると感じました。

橋本:初日は600〜700人ほどの会場で演奏し、翌日にはロボット頭だけのミニライブも開いていただきました。ほとんど宣伝できていなかったので、一人も来なかったらどうしようと思っていましたが、60人ほどのお客さんが来てくださり、熱心に応援してくれました。海外でも、被り物を通して人が優しく関わってくれる感覚は共通しているんだと驚きました。
― 活動を始めた頃のことを振り返ると、今の広がりをどう感じますか。
橋本:最初の作品をX(当時のTwitter)に投稿したとき、「いいね」は3件だけでした(笑)。その作品を携えて、音楽系の即売イベントに初めて出たのですが、CDを積み上げるのではなく、木を立て、額縁のなかにモニターを置き、シルクハット姿でブースに立ったんです。隣の出展者には「ちょっと変な人が来たと思った」と言われました。
美咲:その頃から、音楽だけを並べるのではなく、そこに一つの世界を作りたいという気持ちは変わっていません。
橋本:当時は反応が3つだったものが、今は海を越えて受け取ってもらえている。まだ分からないことが増えていくのも面白いです。その未知の部分も含めて、これから確かめていきたいですね。
― 最後に、今後、どんなステージを目指していきますか。
橋本:ロボット頭は、最初からライブをすることを目的に作った存在です。ただ、作品のなかに登場するまでに2年、実際にライブをするまでにはさらに4年かかりました。それでも、最初から思い描いていたのは大きなアリーナです。広い会場で鳴ることを想像して曲を作ってきました。
どこまで一人でお客さんと向き合えるかにも挑戦したい。さらに、僕はもともとVJなので、映像や空間演出を含め、ミュージカルのようなショー形式の公演も作りたいと思っています。
美咲:海外の方にも、ロボット頭の存在そのものを面白がってもらえているのを感じます。Instagramでは南米をはじめ、さまざまな地域の方が熱心にコメントをくれるのですが、何がそこまで届いているのか、まだ自分たちにも分からない。その理由を確かめに行きたいです。
橋本:言葉が分からなくても楽しめる作品を作りたい。でも同時に、相手の言葉を学び、きちんと対話もしたいんです。言葉の壁を越えられる表現と、言葉を尽くすコミュニケーション。その両方を大切にしながら、ロボット頭の世界をもっと遠くまで届けていきたいです。

文:三木邦洋
写真:谷川慶典