ヒロインのユン・セリを演じるのは、宝塚歌劇団出身で現在も舞台を中心に多彩な輝きを放ち続ける花乃まりあ。自身も原作の大ファンだったという彼女が、憧れの役に対する溢れんばかりの情熱と、表現者としての意気込みを語ってくれた。
花乃まりあ
東京都出身。2010年に宝塚歌劇団に入団し、花組トップ娘役として活躍。2017年の退団後は舞台、ドラマ、情報番組のレポーターなど多彩な分野で活動を続ける。本作では、韓国ドラマ原作ミュージカル『愛の不時着』のヒロイン・ユン・セリ役に抜擢された。
今この瞬間まで信じられない。コロナ禍に「不時着ごっこ」をしていたあの頃の自分に教えてあげたい
― ご自身も原作のファンだったと伺っていますが、ユン・セリ役のオファーを聞いたときはどのようなお気持ちでしたか?
本当に大好きな作品だったので、本当に今この瞬間に至るまで信じられない気持ちです。コロナ禍で多くの方がそうだったように、私自身もこの作品に救われました。苦しい時期に夢中になって「不時着ごっこ」をしていた当時の自分に教えてあげたいくらいです。
― 好きなシーンやセリフを再現したりされていたということですか?
夢中でやっていました(笑)。俳優をしているからには、いつかこの作品と交わることがあったらいいなという気持ちが、心のどこかにあったのだと思います。本当に夢のようです。

― 一番好きなシーン、思い出のシーンを教えてください。
やっぱり最後の、軍事境界線でリ・ジョンヒョクさんが北朝鮮に帰るところにユン・セリが走ってくるシーンですね。今見ても泣けてしまうくらい好きなシーンで、これまで何十回も見ています。あと、北朝鮮に来たばかりの頃のリ・ジョンヒョクさんの家の暮らしの温かさが描かれる場面も好きです。ククス(韓国の麺料理)を食べるシーンや、お風呂やキャンドルのシーンなどですね。実はお風呂の中でサントラをかけて、リ・ジョンヒョクさんの家のお風呂に入っている気持ちになってみたりもしていました(笑)。
― ファッションなども真似されたり?
そうですね。ヒョンビンさんの身長を調べて、当時実家で母と一緒に「ソファーに立ったらこのぐらいだよね」「私がユン・セリだったらこのくらいの身長差だよね」なんて言いながらセリフも合わせていたと思います。美しいものに対して「リ・ジョンヒョクさん」と呼んでみたり、トマトを育てるシーンを真似してみたり……そんなことをやっていました。
― もともと韓流ドラマはよくご覧になっていたのですか?
『冬のソナタ』ブームのときに母がハマって一緒に見ていました。母はそのまま韓国語を習いに行ったりもして。その影響で韓国は大好きだったんです。ただ、私自身がここまで熱狂的にハマったのは『愛の不時着』が最初で、そこからほかの作品も見始めたというパターンですね。
演じる側としてユン・セリの魅力を再発見したい
― 助演の方々も生き生きと描かれているのも『愛の不時着』の魅力ですよね。
本当に一人一人のキャラクターが魅力的ですよね。実際に演じられた役者さんたちの個性と魅力が素晴らしく掛け合わさってできた作品なので、今回、新しい役者の個性が合わさるとどうなるのか、私自身も楽しみですし、お客様にも期待していただきたいです。
― ミュージカル版はすでにご覧になりましたか?
映像で拝見しました。長いお話をキュッとタイトにまとめているのですが、原作ファンの「ここは外せない」というポイントがちゃんとピックアップされていて。メインキャストだけでなく、すべてのキャラクターの魅力を俳優さんたちが生き生きと演じられているのが、作品の良さを失わずに「生もの」に昇華されていて素晴らしいと感じました。
― 大ファンだからこそプレッシャーもあるかと思います。花乃さん流のユン・セリをどう解釈し、演じていきたいですか?
大ファンであるがゆえに、真っさらな気持ちで解釈するのは難易度が高いと感じています。ですから、まずは台本をいただいたときに「自分が演じるんだ」ということを一旦置いて、一人の俳優としてセリフを読んだときに何を感じるか——その初見の発見を大切にしたいです。
また、素晴らしい共演者の皆さんと実際にお芝居を合わせたときに生まれるものも大切にしたい。ユン・セリという人物の「強さ」と「ピュアな部分」は外せません。いちファンとして熱狂していた側から、演じる側として彼女の魅力が何なのかをあらためて突き詰めていきたいと思っています。
― ドラマではリ・ジョンヒョクの内面が見えにくい分、溢れ出す感情が感動を呼びますが、ミュージカルでは歌うことで心情が分かりやすくなりますよね。
そうですね。より大きな表現になると思います。舞台は引きで見ていただくものなので。内面で湧き起こっていることはドラマ版と同じでも、微細な表情の変化などはデフォルメして表現しないと舞台の最後列のお客様までは伝わりにくい。ですから私は「超汗だく」でやる覚悟です(笑)。ユン・セリとして心も体もいっぱい動かして、数時間の公演の間で目一杯感情を動かしていかないと伝わらないと思うので。

― 共演の三山凌輝さんとはどのように作品を作っていきたいですか?
三山さんはすごく落ち着きのある方だなと感じています。主役二人の息が合うことが大事な作品ですので、相談しながら作っていきたいです。先ほど三山さんのビジュアル写真を見せていただいたら、もう完璧にリ・ジョンヒョクだったので、すでにご自身の中で役を掴んでいらっしゃるのだと思います。協力して真摯に向き合う「ワンチーム」として頑張りたいですね。
― 今回演出を担当するのは韓国版のミュージカル「愛の不時着」と同じく、人気演出家のパク・ジヘさんです。韓国のミュージカルについてはどのようなイメージがありますか?
韓国のミュージカルは歌の難易度が非常に高く、感情の爆発を大切にする印象があります。日本人の感覚からすると「激しい喧嘩をした直後に情熱的に愛を語り合っている」ような、鮮やかな感情の転換がある。そのドラマチックでロマンチックなところが魅力だと思うので、シーンを鮮やかにしていく作業をパク・ジヘさんから学べたら嬉しいなと思っています。
「命懸け」の育児と仕事の両立。その瞬間瞬間に100%の力を
― 「愛の不時着」には「偶然が重なって運命になる」というテーマがありますが、花乃さんご自身の人生を変えた「運命の出会い」はありますか?
まさに宝塚との出会いが、私の運命を変えたと思います。もともと周囲に宝塚ファンがいたわけではないのですが、母がたまたま申し込んだ生協の貸切公演のチケットが当たったんです。今思うと『ベルサイユのばら』のチケットがそんなに簡単に取れるなんてすごいことですが(笑)。あの日、『ベルサイユのばら』の観客席に座ったことが自分の人生を変えることになりました。それがなければ、こうして俳優を続けていることもなかったかもしれない。本当に「導かれるべくして導かれた」のだと、嬉しい気持ちになります。
― 作品の「命懸けの恋」にちなんで、花乃さんが今「命懸け」で取り組んでいることは?
今まさに、2歳に満たない子供の育児とお仕事の両立を「命懸け」でやっているなと感じます。以前は、外で仕事にすべてを費やして、家では休息するというバランスでしたが、今は家でも「一か八か、今夜寝てくれるか分からないモンスター」を抱えている状態です。日々生きることそのものが命懸けだなと思いつつも、それが原動力にもなっています。

― 家事・育児と舞台のお仕事が並行する中、どうやってスケジュールをこなしているのでしょうか。
私は器用に切り替えるのがあまり得意ではないと気づきました。公演の合間の楽屋で次の作品の台本を読もうとしても、どうしてもそのときの役のルーティーンになってしまうんです。ですから、「家へ帰ってからやる」「今日はここまで」と欲張らずに決めて、その瞬間瞬間に100%の力を注ぐようにしています。家族のサポートや現場の方々の理解があってこそですが、働くお母さんに対する意識改革が進んでいる現場も増えてきたと感じます。そういう環境的な配慮が当たり前の社会になっていったらいいなと思います。
― 今回の会場となるTHEATER MILANO-Zaや、歌舞伎町の印象はいかがですか?
THEATER MILANO-Zaには観劇に足を運んだことがあります。本当に綺麗な劇場ですよね。都市のど真ん中で、海外の方もたくさんいらっしゃる活気に溢れた場所に劇場がある。「皆さんの楽しみの真ん中に劇場がある」というパワーを感じて素敵だなと思います。劇場自体もすごく見やすくて好きなので、今回出演できるのがとても嬉しいです。
あと、東急歌舞伎町タワーの中にある映画館(109シネマズプレミアム新宿)が大好きなんです。リッチな気持ちになれるので。
― お忙しい日々の中、最近の息抜きはありますか?
やはり韓国ドラマを見ることです! ただ、出産してからは眠気に負けることが増えて、最新作を追いかけるスピードは以前より少し落ちたかもしれません。最近は『白と黒のスプーン〜料理階級戦争〜』(Netflix)を見ました。自分でお料理するときにちょっと盛り付けを真似してみたり、日常の中に作品の要素を取り入れて楽しんでいます。
THEATER MILANO-Za公式サイトにて、三山凌輝さんのインタビューも公開中!▼

三山凌輝さんのインタビュー記事はこちら
ミュージカル『愛の不時着』

公演日程:2026年7月12日(日)~7月26日(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
お問合せ:サンライズプロモーション 0570-00-3337(平日12:00~15:00)
主催:フジテレビジョン、サンライズプロモーション
チケット料金:平日公演 S席 ¥15,000/A席 ¥10,000/B席(当日引換え)¥6,000
土日公演 S席 ¥16,000/A席 ¥11,000/B席(当日引換え)¥7,000
文:MASHUP! KABUKICHO編集部
写真:鈴木大喜