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音楽がつなぐ街と人。もっちゃん。が挑むストリートライブの可能性

歌舞伎町

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Kabukicho Music Live イベント 音楽
DATE : 2025.02.28
新宿駅南口などを皮切りに、さまざまな場所で盛り上がりを見せている路上ライブ。しかし、公共の場であるがゆえ、アーティストがなかなか思う存分にライブができる場が減っている現実もある。そんな中、新宿・歌舞伎町では「公認」の路上ライブイベントが実施されている。

今回は、公認のストリートライブ制度「Kabukicho Street Live」の運営や、フリーライブイベント「Kabukicho Music Live」でアーティストのブッキングや配信などに携わっているもっちゃん。さんへお話をうかがった。

もっちゃん。

2017年に『MOTCHAN NO HEYA – もっちゃんの部屋 -』(当初は『木村顕真&杉田ゆういちろう応援チャンネル』)を立ち上げ、YouTubeを中心にストリートミュージシャンの応援をスタート。総視聴回数は2億再生を超え、チャンネル登録数は45万人以上を誇る人気クリエイターでもある。2022年からは歌舞伎町シネシティ広場で開催されている「Kabukicho Music Live」のブッキングに携わるなど、年々活躍の場を広げている。

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夢を追う路上のミュージシャンを応援したい

もっちゃん。さんがストリートライブに惹かれたきっかけは2010年のこと。渋谷で待ち合わせをしていたとき、たまたま観たステージに衝撃を受けたという。

「きっかけはシンガーソングライターの森恵(もりめぐみ)さんのストリートライブでした。4月2日と、日にちまで覚えているくらい。その場でCDを買うほど大ファンになりました。そこからしばらく新たな出会いはなかったのですが、2017年に池袋で妻とデートしていたときに観たストリートライブで、お互い『(このミュージシャン)めっちゃいい歌声だね』って共感。それが木村ケンシンさんです。彼は当時、杉田ゆういちろうさんというミュージシャンとよくコラボしていて、杉田さんのファンにもなりました」(もっちゃん。さん、以下同)

以来、彼らのライブハウス公演に足を運ぶほか、池袋でデートをするたびに同じ場所へ行って演奏していないかを夫婦でチェックするなど応援していたが、次第に「もっと多くの人に知ってほしい」と思うように。そして2017年、もっちゃん。さんは『木村顕真(現、木村ケンシン)&杉田ゆういちろう応援チャンネル』という本人公認のYouTubeを立ち上げたという。

「当時は、ストリートライブを撮って動画を上げる文化があまり育っておらず、彼らの動画もなかったんです。それなら僕が!と思ってはじめました。すると、それぞれが別のミュージシャンとコラボしたり、ファン同士の交流から新たなミュージシャンを教えてもらったりして、僕が応援したい方も増えていったんです。そこでチャンネル名を現在の『MOTCHAN NO HEYA – もっちゃんの部屋 -』にリネームしました。

歌舞伎町の新たな音楽文化を創るもっちゃん。の挑戦

路上ライブを中心に活動している夢追い人を、少しでも知ってもらえたら―。その想いは当初から一貫したテーマであり、「MOTCHAN NO HEYA – もっちゃんの部屋 -」にはこれまで数多くのミュージシャンが出演してきた。

そんなもっちゃん。さんが東急歌舞伎町タワーおよび歌舞伎町シネシティ広場で実施している公認路上ライブに携わるようになったのは2022年11月から。きっかけは、『MOTCHAN NO HEYA – もっちゃんの部屋 -』を見た路上ライブ担当者からの1件のメッセージだったという。

「最初はそんな話ある?という疑いの気持ちでしたが、初めて話を聞いたときに『歌舞伎町を日本一のストリートライブの聖地にしたい』という気持ちが強くなって、ワクワクしたのを今でも覚えています」

現在もっちゃん。さんが歌舞伎町で携わっているのは、月に1度歌舞伎町シネシティ広場にて開催されているイベント「Kabukicho Music Live」と、東急歌舞伎町タワー公開空地等で実施している制度「Kabukicho Street Live」から派生して行われているイベント「もっちゃん。すとりーと」の2つ。

<Kabukicho Music Live>

月に1度歌舞伎町シネシティ広場で開催されている、公認ストリートライブイベント。広場にステージを設け、そのパフォーマンスの様子は東急歌舞伎町タワー屋外ビジョンでも投影される。

<Kabukicho Street Live>

東急歌舞伎町タワー敷地内で実施している公認ストリートライブ制度。音楽活動実績のあるミュージシャン・シンガーであれば、プロ・アマ、オリジナル楽曲の有無を問わず予約制で利用できる。平日17:00~21:00、土日祝日13:00~21:00。
ストリートライブ文化の拡大を目的として「もっちゃん。すとりーと」等の派生イベントも定期的に実施している。

「Kabukicho Music Live」は新宿歌舞伎町として初の公認路上ライブとして2022年にスタート。月に1度開催され、現在までに26回開催している。それ以降、広場および周辺エリアを盛り上げ、街のにぎわい創出にも貢献している。

2つ目の「もっちゃん。すとりーと」は2024年からスタート。“ストリートライブの音楽が1日溢れる日”がテーマだ。
「Kabukicho Street Live」の中でも後者は人気企画で 、2日間に及んで開催することも。

そんな大盛況な2つのストリートライブ企画だが、アーティストが多数いる中で、どのような流れで出演者が決まるのだろうか。

「昔は新宿の駅前だけでもたくさんの路上ライブが開催されていたので、その中から出てほしいと思った方に声をかけていました。ただ、規制が厳しくなった今はほぼないので、歌舞伎町など公認の場所で出会うミュージシャンが多いですね」

ほかには、撮影などを行うクリエイター仲間の推薦を受け、もっちゃん。さんから連絡するケースもあるとか。音楽ジャンルなど、出演基準はあるのだろうか。

「基本的にオールジャンルです。演奏の有無も問いません。カラオケでも、アカペラでも構いませんし、ダンサーやアイドルも大歓迎です。曲も、カバーとオリジナルのどちらでもOK。でも最近はオリジナル曲を演奏する方が増えていますね。最初に聴き馴染みのあるカバーソングでオーディエンスの足を止めつつ、自己紹介を経てオリジナル曲を聴かせるというスタイルが定番かなと思います」

新宿でのストリートライブの盛り上がりを受け、最近は別の街にも規模を拡大しているという。

渋谷での公認ストリートライブの様子

「2024年の11月からは、東急さんにお声がけいただき渋谷でも公認ストリートライブに携わっています。会場は渋谷サクラステージなどですね。こちらも回を重ねて、渋谷の街も盛り上げていきたいです」

ストリートライブのメッカ・新宿を再び聖地に

意外に思うかもしれないが、もっちゃん。さんが新宿・歌舞伎町を訪れるようになったのは、この活動をはじめてから。学生時代は渋谷に母校があったが、新宿や歌舞伎町は基本的に通り過ぎたり乗り換えたりすることが多かったという。

「今は一番通っている街ですけどね(笑)。でもまったく飽きませんし、毎回ワクワクしますよ。もともと新宿や歌舞伎町周辺は路上ライブの聖地でもあるので、そこに今たずさわれていることが非常に光栄です」

ストリートライブの代表的なスポットといえば、JR新宿駅の南口と、国道20号線を挟んだバスタ新宿前の歩道だ。人通りが多く、ある程度の広さがある。なおかつ走行する車が“借景”になるのでステージ映えする効果もあり、ストリートミュージシャンにとって憧れの場所となっていた。もっちゃん。さんによると、ストリートライブカルチャーの盛り上がりは2019年だったという。

「福岡出身のacaneという人気ミュージシャンが2019年に上京してきて、彼女を中心にめちゃめちゃ盛り上がっていた記憶があります。ただ、人気が高まりすぎて演奏する側も増え、苦情がたくさんくるようになったことで規制が厳しくなりました。また、2020年以降はコロナ禍もあり、Wパンチで勢いが失われたという背景があります」

表現の場を失ったことで路上ライブを卒業するミュージシャンも少なくなかったとか。しかしだからこそ、もっちゃん。さんは公認のステージを増やすことで新宿・歌舞伎町を新たな聖地にしたいと熱く語る。

「まだ公認の場所は少ないんですけど、いつか47都道府県に広げたいです。各地に聖地ができればチャンスも増えますし、新たにミュージシャンを目指す人も増えるはず。歌舞伎町はその第一歩ですね」

ストリートライブ文化を日本にもっと根付かせたい

YouTubeから活躍の場を広げ、複数のリアルイベントにも携わっているもっちゃん。さん。運営に携わるうえで、どんなことを工夫しているのだろうか。

「後にも先にもブッキングです。お客さんとミュージシャン、それぞれが一番楽しめて、喜んでもらえるイベントにするためにはだれに声をかけて、どんな組み合わせにするのがベストか。そこを一番に考えています」

過去を振り返って、思い出に残っているイベントを聞くと、2024年3月に開催された「Kabukicho Music Live vol.15」だという。この日は普段ライブハウスを拠点にしているミュージシャンの出演が多く、中でもNELKE(ネルケ)というバンドでVo/Gtを務めるRIRIKOさんのパフォーマンスに心を打たれたとか。

「ライブハウス出身のバンドって、箱のブッキングマンに育てられたり対バンのミュージシャンから影響受けたりするので、独特の個性や音楽性があると思っています。そのため内容も濃かったんですけど、RIRIKOさんは新宿が地元でもあるんですね。昔は近所のゲームセンターで遊んでいたという話や、育った街の広場で歌えるうれしさなどをMCで語っており、僕自身もすごく感動しました」

最後に、もっちゃん。さんの今後の展望を教えてもらった。“新宿をストリートライブの聖地に”という想いのほか、この活動を通して今後挑戦していきたいこと、叶えたい夢とは。

「できるだけたくさんの、夢追い人の夢を叶えることが一番。そのうえで、『MOTCHAN NO HEYA – もっちゃんの部屋 -』をはじめ、僕のイベントから世界で活躍するミュージシャンが羽ばたいてくれたら、すごくうれしいですね」

さらに、日本におけるストリートライブの価値観も変えていきたいと語る。

「たとえば韓国や欧米は、日本の何倍もストリートライブ文化が根付いているんです。パフォーマーの数も、ストリートミュージックを愛する人の数も多い。とはいえ日本人だって音楽を日常的に聴く文化はありますし、路上ライブから国民的スターになった方もたくさんいます。ですからもっとイベントを盛り上げたいし、歌いたい、演奏したいという方の活動を通して応援していきたいです」

『MOTCHAN NO HEYA – もっちゃんの部屋 -』では本稿で紹介しているライブをはじめ、数々のアーカイブを楽しむことができる。ぜひ視聴のうえ、実際のイベントにも足を運んでほしい。

文:中山秀明
写真:坂本美穂子

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