新宿を行き交う人々に、エンターテインメントが伝播していく
11月3日・文化の日。じわじわと夕暮れが迫る歌舞伎町・シネシティ広場に、敷かれたレッドカーペット。東急歌舞伎町タワー前のステージまで伸び、舞台中央に鎮座するポールへと続く。ステージ付近にはいくつものお立ち台や、サーカスの火の輪くぐりを思わせるフープが。ふだんは多くの人たちが行き交うシネシティ広場だが、「歌舞伎超祭」開演までのあいだは柵で囲まれ、まさに「祭り」の前の静かな昂りを湛えているような雰囲気だ。
開演まで10分。囲いの周りにはすでに人だかりができ、今か今かと始まりを待ち構えている。たまたま通りがかった人たちも、「何が始まるの?」と足を止め、スマホを向けて広場の様子を伺っている。
そして迎えた定刻──開け放たれたゲートから、「待ってました!」とばかりに人々がステージへ駆け寄る。
MONDOが選曲した幕開きの一曲、Sugar Soul feat. Kenjiの『ガーデン』が誘うように流れる。続いてサカナクション『新宝島』のイントロが流れると、大歓声とともにオーデイエンスが踊る、踊る! 遠巻きに様子を見ていた人々も、どんどん広場の中へ。「もっと前で見ようよ!」とはしゃぐ子どもの姿も。偶然その場に居合わせた人たちに、たちまちエンターテインメントが伝播していく。
歌舞伎町の守護神・弁財天が降臨! 神秘の舞とポールダンスで観客を魅了
興奮冷めやらぬなか登場──いや、降臨したのは歌舞伎町の守護神である弁財天と付き人のお月さま。歌舞伎超祭では、例年お馴染みのふたりである。
弁財天が「さあさあ、皆の者、ひさしぶりじゃのう」と呼びかけると、観客たちから喜びの声が上がる。美しい身のこなしで神秘的な舞を踊り、一転、激しい音楽と共にポールダンスで会場を圧倒する弁財天。
……かと思えば、突如始まるお悩み相談コーナーでは、一人ひとりの生きづらさに真摯に向き合う一幕も。
「パチンコがやめられない。本当にやめたいんです」という相談には、どうしてやめられないのか相談者に丁寧に問いかけ、「(パチンコの)派手な演出に夢中になってしまうのなら、もっと派手なことをするのがいいのでは? それは人を幸せにすることです」「私からこういいましょう。あなたにはもう、パチンコは必要ありません」と諭すように囁く。なにやら深刻そうな雰囲気にはじめはちょっとだけハラハラしたものの、相談者に送られるあたたかい拍手に、こちらまで勇気をもらえた気持ちになるのだった。
総合プロデューサー・手塚マキさんの力強い挨拶で始まる、歌舞伎町の文化の日
そして、弁財天の呼びかけで歌舞伎超祭の総合プロデューサーであり、歌舞伎町商店街常任理事の手塚マキさんがレッドカーペットからステージへ登壇。
「戦後、焼け野原になった日本で初めてできた商店街振興組合が、歌舞伎町商店街です。“歌舞伎町”という地名は、かつて計画された歌舞伎座誘致の名残り。『文化でこの街を盛り上げたい』という思いが、当時からこの街にはありました」と手塚さん。
集まったたくさんの人々と、「こんな派手なイベントを開催させてくれる商店街の寛容さ」に感謝を述べながら、力強く挨拶。
気づけばあたりは薄紫色の夕闇に包まれている。ステージ照明がますます妖しく光る。まだまだ始まったばかりの「歌舞伎町の文化の日」。観客の期待は高まるばかりだ。
ヒップなダンスと華麗なドラァグクイーン! 歌舞伎町がエンタメの渦に
続いては、キッズダンサーチーム・PEACE TOMODACHI(YUSEI、$HUN、Hinata、Reira、Rinkoto、HINATA、JOY)がヒップなダンスで会場を沸かせる。
ドラァグクイーンのレイチェル・ダムールは2025年大阪・関西万博の公式キャラクター・ミャクミャクを全身にまとって登場。身につけた飾りを少しずつ脱ぎ捨て、最後にはヌーディなボンテージ姿で麗しくポーズ!
ミラーボールをモチーフにした衣装のDQJ LUCIANOのDJプレイは、ロックをダンスミュージックにリミックスした曲が中心。現代風にアレンジされた数々の名曲で、祭りはさらに勢いを増していく。
あたりはすっかり暗くなり、DJプレイを彩るGOGO DANCER(momoMc、Jacky、柘榴ユカ、AYA AVA、Konochan)もいっそうホットに。観客たちも、より前のめりになっていくのが伝わってくる。
シネシティ広場を席巻! 東京QQQが魅せる「生き様」
鮮烈に歩んできたのは、東京QQQだ。メンバーはアオイヤマダ、かんばらけんた、Kily shakley、KUMI、⾼村⽉、ちびもえこ、平位蛙、MONDO、⼭⽥ホアニータの9人。
「本日はご来店いただき誠にありがとうございます。東京QQQデパートには、さまざまな生き様を取り揃えております」
エレベーターガールに扮したKUMIが「いらっしゃいませ」とオーディエンスに声をかける。「上へ参ります」──“ボレロ”の調べに乗せ、エレベーターが向かうフロアは……。
まずは2階・ブティック。バーレスクダンサーのKily shakleyが妖艶に魅せる。
お次は3階・時間売り場へ。「今を生きろ!」と声高に叫ぶアオイヤマダ。その強いまなざしが、時間に追われてばかりの現代人をグサリと刺すよう。
理想の色の口紅を求めるMONDO。「自分らしさ」や「個性」を渇望し翻弄されているようだ。果たして求める色は見つかるのか?
4階・靴売り場では、車椅子ダンサーのかんばらけんたが真っ赤なパンプスを「履き」、圧巻のダンスを披露! カツ、カツとハイヒールが鳴らす音が、生命の律動のように鳴り響く。
続いて5階のAI・バーチャルフロアへ。サラリーマンに扮した平位蛙がアニメーションダンスを踊る。他のメンバーは無表情でキーボードを叩く仕草。シュールでSF的、同時に、思考停止状態で仕事に勤しむ現代人へのアンチテーゼのようでドキッとしてしまう。
6階・レストランフロアでは、⼭⽥ホアニータが落ちそうで落ちないパフェを手にコミカルにパフォーマンス!
そして7階・ゴールデンフロアには、「社長」のちびもえこが。チャップリン風の衣装を一枚、一枚と脱ぎ捨て、ペイスティ姿もあらわに妖艶に踊る。
エレベーターはさらに上階へ。8階・ハート売り場で踊るのは、高村月。自身のハートの在処を確かめるかのように、全身を躍動させる姿。その切実さが美しい。
そして最上階に待ち受けていたのは……。
「9階・人生の迷子センターでございます。人生に迷っている、迷子のお客様いらっしゃいませんか?」とエレベーターガールの KUMI。呼びかけはやがて叫ぶような痛切な響きに変わっていく。
「迷ったっていいの! 迷ったって、迷いながら生きればいい!」
こだまする叫びとともに、KUMIはここまでメンバーが乗ってきたエレベーター=ポールをのぼって宙を舞う。その刹那、撃ち抜かれるように突然の終幕を迎えると、「店内」には『蛍の光』のメロディが流れるのだった。
「本日はご来店いただき、ありがとうございました。みなさまのお心に響く生き様はありましたでしょうか?」
割れんばかりの拍手と喝采に包まれた東京QQQのパフォーマンス。徹底的に肉体性を顕現させたこのステージを、ベストアクトに選んだオーディエンスも多かったのではないだろうか。ショーの締めくくりは、は戸川純『諦念プシガンガ』。繰り返される「我一介の肉塊なり」という言葉がまさにぴったりだった。
迎えた後半戦、祭りのボルテージは加速度的に増していく
そして祭りは後半へ。DQJ LUCIANO+MONDOの音でシネシティ広場は多幸感たっぷりのパーティー会場に変貌! 前半戦を熱く盛り上げたメンバーたちがGOGO DANCERとして再登場し、さらにTEN、NAWOTO、肉襦袢ゲブ美も加わる。全員個性が強いのに不思議と調和する、そんな光景が歌舞伎町っぽくてとてもいい。
DJタイムを経て登場した後半戦パフォーマーのトップバッターは、五⼗嵐ゆうや+池上たっくん。
「長すぎる褌パフォーマンス」に会場は爆笑に包まれる。華麗なステップがかえって余計におもしろい。……なんて思っていたら、ラストは中島みゆきの『糸』に乗せて感動的な大団円!
圧巻のパフォーマンス連続! 歌舞伎町の夜を彩る多彩な表現者たち
続いてレッドカーペットに舞い降りたのは、アオイヤマダと⾼村⽉のユニット・アオイツキだ。シネシティ広場をいっぱいに使って物語仕立てのダンスを展開。銀杏の葉に扮したふたりが、儚くも美しいファンタジーを描いていく。
そのまま駆け抜けるように、アオイヤマダ・高村月にかんばらけんた・平位蛙を加えたユニット・四のパフォーマンスへ!
電流に打たれたように躍動する4人の肢体。指先まで艶かしい、生きた肉体のダンスだ。
⾁襦袢ゲブ美の登場で空気は一変。なぜかコンビニのおでんを食べながらのステージは、弾けんばかりの笑顔がなんともキュート。東急歌舞伎町タワー入り口のエスカレーターを登る人まで、にこにこと見守っているのが微笑ましかった。
続くKAZAEN+KENGOの登場で再び会場の空気は一新される。変幻自在にボールを操るフリースタイルサッカー/バスケットボール。次々と決まる大技に、オーディエンスは片時も目が離せない!
弁財天の呼びかけで迎える最高潮! 2024年歌舞伎超祭が感動のクライマックス
そして、2024年の歌舞伎超祭はフィナーレへと向かう。大トリに相応しい華やかさで凛と佇むのは、ゴージャスな羽に身を包んだ歌舞伎CHERRY(momoMc、acha、Kily shakley、AYA AVA、ELLES、Jacky、Lune Glitter 、柘榴ユカ)。
可憐な笑顔、艶やかなダンスとポールパフォーマンス。鍛え上げられた肉体の美しさにも息を飲む。まばゆいばかりのシーンの連続に、シネシティ広場の熱狂は最高潮へ! 眠らない街・歌舞伎町のネオンまで、このステージを照らすための舞台装置に見えてくる。
いよいよクライマックスという瞬間、流れたのは椎名林檎の『歌舞伎町の女王』だ。集まった人々が、ひときわ大きな歓声をあげる。そこへ再び登場した弁財天がポールをのぼり、歌舞伎町の上空を悠々と舞うのだった。
「さあ、みなのもの、最後の宴じゃ!」
弁財天が呼びかけるとステージには出演者全員が大集合。所狭しと盛り上がり、観客たちも体を揺らしながら満開の笑顔だ。
「みな、楽しんでいただけたかのう? 歌舞伎町のみなさん、集まってくれたみなさん、ありがとう。また来年、再会できることを祈って……。歌舞伎町は大丈夫。日本は大丈夫。みなさんは大丈夫。大丈夫じゃなくても、大丈夫!」と弁財天。
呼応するように、会場のあちこちから万感の「ありがとう!」の声が聞こえる。なんだか、平和ってこういうことなのかもしれない。感極まる、あたたかいフィナーレだった。
歌舞伎超祭こそが、この街にあったかもしれない「歌舞伎座」だ
手塚マキさんは「歌舞伎町は、誰もを許容する懐の深い街です」といった。まさにそれを体現するような、色鮮やかな個性が集結した歌舞伎超祭。この街にあったかもしれない「歌舞伎座」が2024年に現実になったら──そんなロマンが溢れ出す1日だったのではないだろうか。どのパフォーマンスも、人間の身体が織りなす芸術である。生命力がみなぎる、生身の人間の美しさ。まるで新宿の街のようだと、心から思う。
文:徳永留依子
撮影:坂本美穂子