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本好きでなくてもOK。歌舞伎町・ホストクラブが主催する読書会に人が集まるワケ

歌舞伎町

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イベント カルチャー ホストクラブ 文学 読書
DATE : 2024.10.11
読書会というと、静かなカフェやライブラリーなどで行われるイメージ。しかし今、そうした場所とは真逆に思える“歌舞伎町のホストクラブ”で開かれる読書会が、じわじわと人気を集めている。新宿歌舞伎町でホストクラブを展開する「Smappa!Group」と日本最大級の読書コミュニティ「猫町倶楽部」が共同主催する読書会「文化系ホストクラブ」だ。

異色の読書会が開催されるに至った経緯や、その背景にある思いを、仕掛け人である山本多津也さん(猫町倶楽部)、手塚マキさん(Smappa!Group)にうかがった。

歌舞伎町ならでは?「ホストクラブ×読書会」

2024年9月に行われた読書会の様子。約70人の参加者のうち3割がホストたち。

新宿歌舞伎町のホストクラブ「APiTS(アピッツ)」にて、異色の読書会「文化系ホストクラブ」が始まったのは、2024年2月のこと。それ以降、回を重ねる毎に参加の応募数が増え続けているという。

1グループ、7名程度に分かれて議論する。
読書会には主催の手塚マキさんも参加。

テーブルを囲む参加者は、主催の手塚マキさんに加え、現役ホストや好奇心旺盛な一般の人たち。会場がホストクラブのため、そのお客さんが多いのかと思いきや、あくまで読書や課題図書に惹かれて参加する人がほとんどである。

この日の課題図書はエーリッヒ・フロム『愛するということ』と、その“ガイドブック”として書かれた鈴木晶『フロムに学ぶ「愛する」ための心理学』の2冊。

読書会では、毎回課題図書が決められていて参加者全員で同じ本について意見を交換し合う。各テーブルには弁の立つホストたちが複数人参加していることもあり、それぞれのテーブルでエッジの効いた会話が繰り広げられているのが、この読書会の何よりの魅力だ。

ちなみに、エーリッヒ・フロムの『愛するということ』が課題図書だった回では、「愛」をテーマに、日常での実践的な愛の話から推しへの愛、昨今の恋愛離れにより誰も愛さなくなる遠い未来の話まで、グループごとにさまざま視点で議論が交わされていた。

読書会への参加条件は「課題作品を読んでいること」、そして「論破をしないこと」。他人の感想や意見を否定しないことが唯一のルールとなっている。

このような新しい読書体験が歌舞伎町で生まれているのは非常に興味深いこと。そもそもこのユニークな読書会はどんな経緯でスタートしたのか? 仕掛け人である猫町倶楽部主宰の山本多津也さん、Smappa!Group代表の手塚マキさんに話を聞いた。

好きな本について誰かと語りたいという人は多いはず

猫町倶楽部・山本多津也さん

― 「文化系ホストクラブ」の読書会がスタートした経緯を教えてください。

猫町倶楽部・山本多津也さん(以下、山本):読書会ってどうしても堅いイメージがありますし、あまり読書量が多くないと躊躇してしまいますよね。でも、普段は読書をする習慣がなくても、好きな本について誰かと語りたい人は多いはずですし、もっとライトな層が気軽に参加できる読書会をつくりたいと思っていたんです。

そんななかで、マキさん(手塚さん)が歌舞伎町で「歌舞伎町ブックセンター」という本屋を立ち上げたり、ホストクラブで読書会イベントを開催したりと、本や読書にまつわる取り組みを積極的に行っていることを知りました。それ以前にもマキさんの著書を猫町倶楽部の読書会で課題本にしたこともあり、かねてからお考えに共感する部分も多かったので、ぜひ一緒に何かをやりたいなと。それで、僕の方からマキさんにお声がけしました。

Smappa!Group・手塚マキさん(以下、手塚):僕としては、すごく嬉しいお話でした。というのも、このところ一部のホストが起こした問題によって、ホストクラブ業界全体に対して厳しい視線が向けられています。だからといって「僕らは健全ですよ」なんていいたくもないんだけど、「ホスト=悪」みたいなイメージを少しでもなくしていくために、何か態度で示せることはないだろうかと考えていたんです。そんなときに、山本さんから今回のお話をいただいて。

読書会を開催することでホストクラブと全く縁のない人たちとつながるきっかけにもなる。僕らホスト側も歌舞伎町の狭い世界だけに閉じるのではなく、普段はあまり関わることのない人たちと接点を持つことはとても意義があるんじゃないかと思います。

Smappa!Group・手塚マキさん

いつもと違う世界に飛び込むことで、見え方が変わる

山本:僕らとしても、歌舞伎町のホストクラブというある種、異質な空間で読書会をやることに対して、とても大きな魅力を感じています。人間って自分が普段いる場所、見ているもの、話す人によって思考が形成されていきますよね。だからこそ、時にはいつもとまるで違う世界に飛び込んでみることで、価値観や考え方を広げるきっかけになると思うんです。

それに、こういった楽しげな場所で読書会を実施することによる「吊り橋効果」みたいなものもあるんじゃないかと思っています。たとえば現代アートなんかも、知識がない人にとっては小難しくてとっつきにくく感じられるじゃないですか。でも、旅行で直島の芸術祭に足を運んでみると、旅の高揚感なども相まって、そこにある現代アートを知識ゼロでも楽しめてしまう。本も同じで、楽しい雰囲気の場所で読んだり語り合ったりすることでより面白く感じられて、そこを入り口に読書会の魅力に気づいてくれる人もいるのかなと。そういう狙いもありますね。

名古屋や大阪など遠方から参加する人も多いとのこと。

読書会の魅力を知ってもらう、きっかけの場にしたい

― 「文化系ホストクラブ」ではこれまで、オスカー・ワイルド『サロメ』や、鈴木涼美『トラディション』など幅広い課題本を取り上げてきました。毎回の課題本はどのように選んでいるのでしょうか?

山本:そこは毎回、マキさんと悩みながら決めています。猫町倶楽部の通常の読書会では、どちらかというと難解でつまずく部分があったり、読み手によっていかようにも解釈できたりするような本を選ぶことが多いですのですが、そうした本を読み解くにはある程度の読書経験が必要です。

「文化系ホストクラブ」の場合、普段あまり本を読まない人にも参加してほしいので、そのあたりのさじ加減は考えていますね。ただ、ホストクラブという場所をことさらに意識した選書にはせず、あくまで読書会として面白くなりそうなものを課題本にしています。

手塚:僕としてはなるべく多くのホストに参加してほしいと思っていて、そのためにはある程度ハードルを下げないといけない。特に最初の頃は、短めの古典文学だったり、歌集だったり、読みやすく理解しやすいものを選んでいました。ただ、回を重ねる毎に少しずつ変わってきていて、『愛するということ』を課題図書にした回は、わりと難易度高めでしたよね。

山本:それでもその回は、ホストの参加者がもっとも多かったですよね。なかには今回で4回目、5回目という人もいて。だいたい、全体の3分の1くらいは継続的に参加してくれているホストの方たちで成り立っています。Smappa!Groupのなかで、読書文化が浸透しつつあるのを感じますね。

手塚:今回は課題本のテーマ的にも、特に多くのホストに読んでほしいと思っていて、僕からもかなり呼びかけました。ただ、僕としてはもうちょっと来てほしいかな。うちのナンバーワンなんかは、ずっと参加してくれているんですけどね。さすがトップをとるだけあって、学びたいという意欲や向上心が強いのかなと感じます。ちなみに、過去には課題本をほぼ読まずに参加したホストもいるんですよ。ほとんど内容を知らずに、コミュニケーション能力だけでその場を乗り切って。「おまえすごいな!」って逆に感心しちゃいました(笑)。

山本:ある意味、それは素晴らしい技術だと思いますよ。『読んでいない本について堂々と語る方法』 (ちくま学芸文庫 )っていう本もあるくらいで、過去の知識人たちも「読んだふり」でその本についてコメントしていたなんて話もありますから。

― ただ、手塚さんとしてはやはりグループのホストの方にもっと本を読んでほしいという思いがあるわけですよね?

手塚:そうですね。実際、読書の面白さを感じ始めているホストはちらほらいて、それはすごく嬉しいことです。じつは10月に、SHUNというホストが新潮社から『月は綺麗で死んでもいいわ』という歌集を出すんですけど、これまでだったら考えられないですよね。ですから、今後も続けていけば、そういうことがどんどん生まれてくるんじゃないかと期待しています。

一冊の本をきっかけに、思考や世界観が広がるような読書会を目指して

― では最後に、今後この読書会でやりたいこと、あるいは「文化系ホストクラブ」をこんなふうに発展させていきたいという展望があれば教えてください。

手塚:今日は課題本の一つ『フロムに学ぶ「愛する」ための心理学』の著者である鈴木晶先生にもご参加いただきましたが、やはり特別な会になりました。著者の方に直で質問できる機会ってなかなかないし、その本のことをより深く楽しむきっかけにもなる。

今後も、一冊の本をきっかけに思考や世界観が広がるような、何かしらの仕掛けがあるといいのかなと思います。今回のように著者の方をゲストにお招きするだけでなく、たとえば食にまつわる課題本にして、本に出てくる料理を実際に味わいながら語り合うとか。本を入り口に、多角的に興味が広がっていくようなことができるといいかなと。

『フロムに学ぶ「愛する」ための心理学』著者の鈴木晶さん。各テーブルを回り、参加者の質問に答えるなど交流を深めていた。

山本:この「文化系ホストクラブ」って、やはり最初はイロモノみたいに見られていたんですよ。でも、場所がホストクラブというだけで実際にやっていることは、通常の読書会となんら変わりません。ですから、今後は普通の読書会として、多くの人に受け入れてもらいたいと思っています。

とはいえ、せっかくこういう非日常的な空間で実施しているわけですから、この特別感を活かしてリアルな読書会へ足を運ぶきっかけの場にしていきたいですね。コロナ以降、読書会もオンラインが中心になって、収束後もリアルな場に出てこなくなってしまった人がたくさんいるんです。オンラインはオンラインで気軽に参加できる利点はあるんですけど、やはりリアルな場のほうが色んなノイズがあったり、予想外のことが起こったりして面白い。

ですから、この「文化系ホストクラブ」を当たり前のものとして定着させつつ、家の中にこもっている人が再び読書会の場へ足を運んでみたくなるような、魅力的な場所にブラッシュアップしていきたいと思っています。

本に親しみが薄かったホストたちと、ホストクラブを訪れたことがない人たち。およそ接点のない両者による、本を通じたコミュニケーションは双方にとって刺激になっている。そんなそれぞれの未知への好奇心が、この場所に集まる大きな理由になっているのだ。

猫町倶楽部×Smappa!Group「文化系ホストクラブ読書会」

場所
APiTS(アピッツ)
東京都新宿区歌舞伎町2-10-8 ゆきざきビル3F

参加条件
・課題作品の読了
・ドレスコード(任意)

参加費
●読書会のみ
一般・B会員  2,500円
ラウンジA会員 2,000円
●読書会+懇親会
一般・B会員  7,500円
ラウンジA会員 7,000円

※会員制度に関しては猫町倶楽部HPにてご確認ください。

次回イベントについては猫町倶楽部HPをご確認ください。

文:榎並紀行
写真:坂本美穂子

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