心おどらせる唯一無二の空間
同店は、アクセスからして通常の東急歌舞伎町タワーへの入口とは異なる。篠原有司男氏の作品が出迎える1階のエントランスから、「BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel」へ入館。ホテリエのエスコートでまずは18階へ上がり、回廊の先からさらに上階へとエレベーターを乗り継いで向かう。
一歩一歩、館内を進むにつれ自然と気持ちが高揚していくはずだ。やがて目的地の45階へ着けば、景色は別世界。「東京スカイツリー」をはじめとする都内のランドマークはもちろん、空気の澄んだ日中には富士山も望む圧巻の眺めがそこにある。
45階は地上200m。加えてこの空間は3フロア分を吹き抜けにした13mの天井高で、抜群の開放感がさらなる非日常を演出してくれる。ここからは、同店のほか、フロア内のバーやインルームダイニングの料理も統括する、竹末宗弘シェフにRestaurant Bellustarへの想いをうかがった。
竹末宗弘シェフ
2001年に「セルリアンタワー東急ホテル」の開業スタッフとしてキャリアをスタート。当時ミシュラン一つ星を獲得したタワーズレストラン「クーカーニョ」で基礎を学ぶ。2016年に、エスコフィエ・フランス料理コンクールで第3位獲得。「BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel」の開業前、パリの三つ星レストランでの現場研修を経てRestaurant Bellustar シェフに。
土地の恵みを一皿に創造。食事を通して「旅」を感じる
竹末シェフの生み出すメニューはなんといっても創造的だ。それらに欠かせないのが日本固有の多彩な食材。旬であることはもちろん、全国各地の土地の恵みにフォーカスし、季節に応じた風土を表現。それが“素材で旅するレストラン”というわけだ。
「たとえば、お客さまの地元の食材であれば、産地から郷愁を感じていただけたり、故郷を懐かしんでいただけたりするかと思います。一方、まだ行ったことのない土地の食材であれば、これをきっかけに『いつか食事を楽しみにその場所へ行ってみたい』と思っていただけることもあるかもしれません」(竹末シェフ、以下同)
「Restaurant Bellustar」の料理は、季節の移ろいと共に、素材と産地も変わる。毎回新たなスペシャリテが生み出され、食事を楽しみながらその土地に想いを馳せることもできるのだ。
和仏のハイブリッドで魅了するモダンフレンチの数々
日本各地の食材を活かしつつ、さまざまな国の技法をフレンチに落とし込むのが竹末シェフ流の「モダンフレンチ」だ。数ある今季のメニューから竹末シェフの想いが感じられる一例を紹介していこう。
コースの幕開けはサプライズな前菜から
レモンなどでマリネされた甘海老を、炭火で一瞬炙ることで芳しい燻香がふわりと漂う。青リンゴは細かくチョップされた果肉とまろやかなムース、それぞれが甘酸っぱい清涼感を演出し、たっぷりのキャビアがコク深い塩味を添える。
なお、同店ではメニュー名を「甘海老 リンゴ キャビア」など、必要最低限の食材の名称を表記しているのも特徴だ。これは、お客さまがメニューに想像力を膨らませ、目の前に料理がサーブされた際のサプライズを楽しんでという、竹末シェフの想いからだという。
帆立は約80℃でゆっくり加熱し、ミディアムレアともまた違う未体験の食感に。素材の甘みも最大限に引き出され、そこに山の恵みが凝縮した茸のソースが絶妙にマッチ。やさしい刺激と和柑橘の風味を醸し出す柚子胡椒は、一風の涼やかなキレを創出する。
秋田の魚醤「しょっつる」とオリーブオイルなどでマグロをマリネ。炭火で一瞬炙って香ばしさをプラスし、大粒のフランス産ゲランドの塩と七味唐辛子で整える。ガルニ(付け合わせ)はビストロの定番料理である「ポワロー・ヴィネグレット(ネギのマリネ)」をヒントに、国産の長ネギで表現。蒸し上げてからビネガードレッシングでマリネし、アンチョビ入りマヨネーズと竹炭のパン粉、辛味のある香草を組み合わせている。
日本の伝統技法とフレンチが融合。メイン料理も素材は余すことなく使い切る
こちらも、フランス料理に日本料理の技法を取り入れた一皿。伝統的な「松笠焼き」の技で甘鯛を鱗ごと調理し、ラストはサラマンダーで一層パリッと仕上げる。とび色舞茸は内部をジューシーにソテーし、貝ダシの泡ソースやスパイシーなトマトのコンディメントを味覚のスイッチに。
鴨は、約40年前からこの道一筋で従事している名手が育てた、フランス料理に適した品種を採用。10日~2週間程度状態を見ながら熟成し、凝縮したうまみをオーブン焼きでさらに閉じ込める。仕上げは炭火で焼き上げ、提供直前にはいちじくの葉で包み、ゲストの前でその姿を披露してくれる。
添えるいちじくは、カベルネ・ソーヴィニヨンとカソナードで表面だけカリッと甘香ばしくキャラメリゼ。サイドディッシュは鴨のモモ肉コンフィを、モモと挽肉によるコンソメスープ仕立てで提供してくれる。
選ぶのも楽しい。アーティスティックなデザート
2種類から選べる1皿目のデザートとメインのデザート、ラストの食後の小菓子も「Restaurant Bellustar」の魅力だ。こちらはその内の一皿。塩味を効かせていて、ブルーチーズのムースに岩手・遠野の養蜂所が仕込んだ多彩な花の蜜を閉じ込めている。表面は、液体窒素で凍らせることでひんやりと。味、温度、食感、香りと、さまざまなサプライズが楽しめるスイーツだ。
日本一の産地から届くブランド「あおもりカシス」は、約60年前にドイツから移植されて以来、青森の環境が適していたため品種改良の必要がなくそのまま頒布。原種ならではのワイルドな風味は、ジャムのように濃厚ながらも余韻はすっきり。ほんのりビターなチョコレートと、甘酸っぱい果実のコントラストは魅惑のおいしさだ。
料理だけじゃない。空間との一体感が良いパフォーマンスにつながる
日本で星付きレストランの現場で腕を磨き、同店開業前にはパリの三つ星レストランで学んだ竹末シェフ。そこで新たに得たエスプリは、空間や給仕を含めたレストラン全体でのアプローチだったという。
「厨房はもちろん、ソムリエやサービスなども交えたチームの一体感に驚かされました。仲がいいのはもちろん、各自に誇りとリスペクトがあり、それがお客さまの満足度につながっているんですね。最高の一日を味わっていただくという目標に対しての方向性が共有されており、私自身の刺激になると共に、より高みを目指していきたいと思っています」
さらに、高層階ならではの空間が、料理へのインスピレーションにも大きく影響しているという。
「高層階の眺めはやはり特別感がありますから、私たちのプレゼンテーションも地上のそれとは変わるかと思います。たとえば、器やテーブルクロスを日中の陽光に合う作品から選んだり、夜であれば輝く景色に料理の盛り付けが負けないように彩ったり。そういった意味で、空間とシンクロした一皿を提供できると考えています」
空間美×独創的な食体験を五感で味わって
今回紹介したメニューは8,000円からのランチと17,000円からのディナー、それぞれのコースで一部が楽しめる(各、消費税・サービス料別)。東北へのフォーカスは2024年9~10月の開催となるので、ぜひこの間に予約を。
また、10月14日までは「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク 2024」に参加し、ランチは5,000円、ディナーは10,000円(各、消費税・サービス料込み)という価格で今回のスペシャリテを含んだ特別コースを味わえる。またとないこの機会に、足を運んでみては。
最後にあらためて、本コースに込めた想いをシェフにうかがった。
「ほかの地域にもそれぞれの魅力がありますが、東北は全県に海と山があり、米どころやフルーツの名産地も多い土地。今回、実りの秋を表現するに際して、東北にインスパイアしたいと思いました。
なお、前回は5~6月に北陸をテーマにコースを組み立てましたが、年明けには九州をコンセプトにして企画する予定です。こちらも楽しみにしていただけたらと思います。当店は、お料理はもちろんのこと、サービスやアート、開放的な空間や眺望なども自信であり、五感で味わっていただきたいと思っています。ランチも営業しておりますので、お気軽にご来店いただけたらうれしいですね」
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文:中山秀明
写真:小島マサヒロ