パワフルなステージが作るピースフルな空間
TAKUYA
ボーカルグループ「JYT」のメンバーとしても活動しているTAKUYA。今回はソロでの出演で、「はじめて見る人も多いと思うのでカバー多めに」と秦基博「鱗」、CHAGE and ASKA「LOVE SONG」のカバーからスタート。東急歌舞伎町タワーの巨大な屋外ビジョンにもTikTok配信の様子が映し出されており、足を止めて見上げる人も多い。コメント欄には「ほんとに優しい声!」など、画面越しの黄色い声援が寄せられた。
オリジナル曲「ふたり」を披露し、改めて観客に自己紹介と挨拶をする。路上ライブは一期一会。そのチャンスを逃さないように、自己紹介は惜しまないそうだ。Tani Yuuki「W / X / Y」、HY「366日」のカバーを挟み、今夏リリースしたEPから「なんだっけ」を披露。人と比べて「自分ってなんだっけ?」と感じてしまう寄るべなさを、90’s J-R&Bを彷彿とさせるサウンドに乗せて歌う。
自身のYouTubeチャンネルで話題になったAI「アルデバラン」のカバーを伸びやかに歌い上げ、ラストはオリジナル曲の「道」。「歌わせてくれる場所を作ってくれたこと、立ち止まって聴いてくれることに感謝」というMC通り、真っ直ぐな歌声が響いた。
「路上ライブをやると、周りの人の迷惑になっていないかとか、止められないかとか、そういうことが気になるんですね。それでもアーティストは自分を売り出さなきゃいけない葛藤があるなかで、こういう場所を作ってもらえるのは本当に幸せだなと思います。SNSとかでも見ることができるとしても、やっぱり生の歌を聴いてもらえる機会は貴重なので。
知らない人の歌を聴くことってなかなかないじゃないですか。立ち止まってくれたことを無駄にしたくないし、ちょっとでもいいと思ったら名前ぐらい覚えて帰ってほしいなと思いますね。グループでの活動もしているので、それぞれが中途半端にならないように、どちらにも全力を尽くしてやっていければなと思っています」
KIMIKA
ピアノとの2人編成で登場したKIMIKA。彼女は、今年4月の東急歌舞伎町タワー開業イベント以来2度目の出演となる。まず、来年8月にZepp Shinjuku (TOKYO)でのワンマンライブが決定しており、1000人動員を目指していることを宣言。その勢いのままシェネル「君に贈る歌」を披露。ピアノの旋律とよく通る声が合わさり、多くの人が足を止める。
オリジナル曲「Beautiful」ではピアノソロでも盛り上がり、この日も多かった海外からの旅行者に向けて歌われた映画『グレイテスト・ショーマン』のテーマ曲Loren Allred「Never Enough」にも歓声が飛んだ。観客からリクエストを募り、aiko「カブトムシ」をカバー。夏らしい開放感のある雰囲気に包まれる。続いて披露されたのは、以前動画が拡散され、一つの転機になったという秦基博「鱗」。「TAKUYAくんと被っちゃったけど」と前置きされたが、歌声のキャラクターの違いが如実に現れていた。
「この曲を書いたとき、婚約破棄するわ、病気になるわ、身内に不幸があるわで本当に散々で(笑)。一旦自分を見つめ直したら、ガムシャラに音楽やってきたなかで、自分らしく生きていくために一曲ぐらい恋愛の曲があってもいいのかなと思って作った曲です」と歌ったのは「good by my love」。切なさのなかにも優しさと強さを内包する、「自分のため」のラブソングだ。
途中のMCで、シネシティ広場に集まる子どもたちが気がかりだと語ったKIMIKA。この音楽がある空間が、子どもたちにとって居場所になればと願いながらMrs.GREEN APPLE「僕のこと」をカバー。曲中で「みんな一生懸命生きて偉いよ! 自分のことをもっと褒めて」と呼びかけた。桑田佳祐「明日晴れるかな」の後に、「こんなに気持ちよく50分間歌えると思ってなかった」と喜びを噛み締めながらバラード「Pink Sunset」でライブを締めくくった。
「前回に出演したときよりも、この広場がすごく穏やかな場所になったと思いますね。若い子もいるけど、落ち着いているし、グローバルだし。東急歌舞伎町タワーが完成する前から木村社長(株式会社TSTエンタテイメント代表取締役社長)から『アーティストが安心して街中で活躍できる場所を作りたい』という話を聞いていたので、今日も参加できてすごくうれしいです。
いまはSNSを使って誰でもスターになれる時代なので、ネットとリアルを両方活用できて歌えるのは夢みたいです。まずは来年のZepp Shinjuku (TOKYO)でのワンマンを1000人で満杯にできるように頑張っていきます!」
MAINAMIND
大トリとして登場したMAINAMINDは、2021年にソロ活動を開始したシンガー。それまではアイドルグループ「大阪☆春夏秋冬」の一員として活躍。2020年放送のテレビ朝日『関ジャム 完全燃SHOW』では「令和のアイドル界で厳選!スゴいボーカリスト10人」の1人に選ばれた。両親がダンススタジオを経営していることから幼少期からダンスに慣れ親しみ、ダンサーとして数多くの実績を残し、日本舞踊藤間流の名取でもある。この日はトランペットの高見浩之も参加。「FUJI ROCK FESTIVAL ’23」の矢沢永吉のステージでも吹いた一流プレイヤーだ。
サウンドチェックの段階からビートに乗せてトランペットのインプロビゼーションが響き、それに呼応してMAINAMINDも歌い出す。「みんな、声出していいって! 音もガンガン上げちゃっていいすか?」と煽ると、オーディエンスも「イエー!」と答える。既にトップギアの盛り上がりだ。1曲目は「FUNKY BIG SLOPE」。タイトル通りのファンクチューンで、特筆すべきはMAINAMINDのダンスだ。機材や環境的にも歌を聴かせようとするアーティストが多い(「歌が上手いこと」はもはや大前提とも言える)路上ライブにおいて、彼女の体幹からグルーヴしているようなキレキレのステップとダンスには誰もが目を奪われていた。
「MIND STONE」ではソウルフルにシャウトし、続く「I can’t Stop Loving You」では流麗なファルセットを聴かせつつ踊りまくる。「大阪から来るのに車で10時間以上かかったけど、みんなに会えてよかった!」と満面の笑顔を見せた。イントロからムーディーなトランペットが炸裂したミドルチューンの「Grooving」、コールアンドレスポンスが印象的なドゥワップ調の新曲「べびらぶゆー♡」など、聴かせる曲でも観客をグッと掴む。夜の歌舞伎町に映えるハウス曲「Sweetest Love Affeair」では「オイ! オイ!」とコールが起き、さながらライブハウスのようになったシネシティ広場の熱気が最高潮に。
次が最後の曲であると告げられると、「えー!」と惜しむ声が上がった。「あなたは1人きりじゃないということを、この歌で証明する」というメッセージとともに「Rainbow」が歌われる。途中でステージに小さな女の子を上げ、急遽三人編成に。ファンキーでピースに溢れたライブは大団円を迎えた。
MAINAMIND「新宿のど真ん中で歌えて、警察にも止められへんし、こんな贅沢な機会いただけることなんて滅多にないことだと思うんで、めちゃくちゃうれしかったです」
高見「こういう場所でやって怒られないのは、珍しいですよね。うれしいですよ。本当にふらっと通りかかって観てくれてる人もたくさんいてはって。音もいい感じに反響してたし」
MAINAMIND「ゴジラにも負けてなかったんじゃない?」
高見「ゴジラとずっと目があってたな(笑)」
MAINAMIND「10月27日のワンマンライブが近いので、それに一人でも来てほしくて。エネルギーとかパワーを伝えてピースフルなライブができるのが私の強みだと思っているので、それをダンスと歌で見せられたのはすごく光栄です。これからも音楽で『あなたは一人じゃない』って伝えたいし、MAINAMINDの空間に触れると、『こんな世界があったんだ』って思うぐらいピースになれると信じているので。絶対にワンマンライブもその後も、最高の音楽をやっていきます!」
高見浩之
1982年11月6日生まれ。
甲南中学校在学中にトランペットに出会い、中高6年間に渡りビッグバンドで活動する。在学中に、渡辺貞夫(As)、マンハッタンジャズオーケストラなどと共演。甲南高校在学中より奥田章三(Tp)に師事。高校卒業と同時に渡米。
2007年より、本格的にプロ活動開始。 定期的にシカゴと日本を往復しレコーディング、レッスン、2ギター・ベース・コルネットという編成のTHN-Town Bounce、電化バンドFuturhythmなどのユニットでライブを精力的におこなっている。2016年からは矢沢永吉氏のコンサートツアーのホーンセクションもつとめている。
■イベント情報
日時:2023年8月16日(水)18:00~/8月17日(木)18:00~
場所:歌舞伎町シネシティ広場(東京都新宿区歌舞伎町1丁目19番先)
入場:無料
出演アーティスト:
【8/16】空野大/冨岡愛/うぴ子
【8/17】TAKUYA/KIMIKA/MINAMIND
主催:歌舞伎町商店街振興組合
後援:新宿区
協力:株式会社TSTエンタテイメント/(一社)歌舞伎町タウン・マネージメント/MOTCHAN NO HEYA – もっちゃんの部屋 –
text:張江浩司
photo:落合由夏