新・歌舞伎町ガイド

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『あなたが思う“GROOVE”』‐林靖高(Chim↑Pom from Smappa!Group)のレコード5選

歌舞伎町

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アート レコード 東急歌舞伎町タワー 音楽
DATE : 2023.10.24

時代の矢面に立たされる街だからこそ、歌舞伎町が作品の舞台になる

ここで改めて、林さんの新宿歴を教えていただけますか。

中央線沿いに住んでいたこともあり、ちいさな頃から新宿にはよく来ていました。家族でおいしいごはんを食べに行くなら新宿、親戚と待ち合わせするなら新宿、という感じで。東急歌舞伎町タワーの場所に以前あった新宿ミラノ座には、高校生のときしょっちゅう映画を観に行っていました。

10〜20代には、当時歌舞伎町にあったライブハウスのリキッドルーム(2004年に渋谷区に移転)に通いつめていました。ノイズミュージックが好きで、新宿リキッドルームでのBOREDOMS『Chocolate Synthesizer』のレコ発ライブを観にいったときは、オープニングから喰らいすぎて気持ち悪くなってしまったことをよく覚えています。でも、翌日もまた行く、みたいな(笑)。

他にも西新宿にあったレコード屋のLOS APSON?(現在は高円寺に移転)やロフトにもよく行きました。今思えば、文化的なものは新宿で吸収してきた気がしますね。

─ Chim↑Pomの活動としては、新宿とどう関わってきたのでしょうか。

2016年に歌舞伎町で開催した展覧会『また明日も観てくれるかな?』のあたりから本格的に関わりがあって。

それこそ『笑っていいとも!』のキメ台詞ですね(笑)。

はい(笑)。メンバーのエリイちゃんの旦那さん(Smappa!Group会長・手塚マキさん)が歌舞伎町を束ねる存在だから、というのもあるけれど、ふたりの結婚以前からも新宿にはよく来ています。

僕ら、初期の頃にカラスを集める作品だとか、ネズミを捕まえて作品にしたりだとかしていたんですね。カラスやネズミが多いのはやっぱり新宿や渋谷ということで、自然と制作現場になりました。

カラスが捕まった仲間を助けようと集まる習性を利用したインスタレーション《ブラック・オブ・デス》、毒物に耐性をもつネズミを作品にした《スーパーラット》

ただ、その同時期に石原都知事(当時)が始めたカラス対策が進んでいて。街から急激にカラスはいなくなってしまいました。今、新宿でカラスを集めようとしてもなかなか集まらない。新宿はそういう「浄化作戦」の矛先になりやすい街ですよね。

『また明日も観てくれるかな?』も、東京五輪2020に向けて、歌舞伎町が槍玉にあげられていた時期の展覧会でした。

まさに、コロナの時期もそうでしたね。

そう。歌舞伎町は何かと、“時代の矢面”に立たされる街なんです。そんな、時代を象徴する街だからこそ、Chim↑Pomとしても作品の舞台にすることが多いんだと思います。

林さんの考える「歌舞伎町の音楽」とはどんなものですか?

僕にとって歌舞伎町って、制作のために喫茶店でずっと打ち合わせしたり、作業したり、ということが多い街なんですよね。そのせいか、「有線(放送)」のイメージが強いです。「この曲、最近よく聞くな〜」みたいな瞬間は、歌舞伎町で感じることが多い。

有線で何度も耳にするうちに、なぜか記憶に残っちゃうアイドルの曲とかあるじゃないですか。時間が経ってからもその曲を耳にすると、当時していた作業を思い出したりとか……記憶と紐付いちゃうんですよね。

─  5枚のレコードのセレクトとも通じる部分がありますね。確かに歌舞伎町は、常にどこかで音楽が流れている印象があります。

そうですね。こういう記憶の紐付き方が、他の街ではあまり成立しないんです。いつも何かしら音楽が流れていて、それを耳にする街。そのなかで、好き・嫌いを越えて、自分が反応する曲がある。そんな街です。

超個人的な出来事が少しずつ重なって、新宿という街はできている

東急歌舞伎町タワーがオープンして半年ほど経ちますが、印象はいかがですか。

JAM17にParliamentのジャケットを置いた感覚が、まさに繰り広げられている感じがします。

2階にはChim↑Pomの《ビルバーガー》も展示されていますが、これは、歌舞伎町の廃ビルの一部を素材にして作られた作品。何十年後、何百年後かわかりませんが、東急歌舞伎町タワーもいつかは壊される日が来るでしょう。そのとき初めて、《ビルバーガー》はすごく強い作品になる……と考えていて。

今、ここの営みがいつかは神話になる。そんなふうに、50年後、100年後というスケールで東急歌舞伎町タワーを見られるといいなと思っています。

Chim↑Pom from Smappa!Group「ビルバーガー」 (※)/撮影:木奥惠三

Chim↑Pom from Smappa!Group「ビルバーガー」

─ 100年後の歌舞伎町はどうなっていると思いますか?

まったく想像つかないですよね(笑)。どうなっているんでしょう……アルタ前で『いいとも!』を思い出す人はいないでしょうね。今、「光は新宿より」をそこで思い出す人がいないように。

ただ、「闇市」や「いいとも」のような形として残っていないけど、確実に現在の街を形成しているGROOVEみたいなものは存在していくんだと思います。イースター・エッグ的に。

そしてそれは人々の超個人的な出来事が少しずつ重なって、街はできているということだし、新宿は特にそういう“磁場”があるんでしょうね。

「ナラッキー」という作品もそうです。1960年代には音楽喫茶だった王城ビルの“磁場”に呼び込まれて、2023年の今、僕らが展覧会をしている。

街を訪れる人、街の景色は変わっても、「感じ方」は変わらない。歌舞伎町はいろいろな感情の磁場が色濃くて、キャッチしやすい街なのかもしれませんね。それでは最後に、ずばり林さんの考える“GROOVE”とは?

やっぱり好き・嫌いに関係なく、直感的に記憶に刻まれてしまうものですよね。あとになって不意に解ける暗号のようなイメージです。HIPHOPにおけるイースター・エッグみたいに。

ふと思い出される音楽や記憶、光景を辿っていくと、あの頃の空気感や気分だったり、緊張感だったりが紐付いている。それこそ“磁場”のように、目には見えないけれど、人生に残っていくものだと思います。

文:徳永留依子
写真:坂本美穂子

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