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『あなたが思う“GROOVE”』‐アーティスト・コムアイが選ぶレコード5選。秘められた想いに迫る。

歌舞伎町

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アート レコード 東急歌舞伎町タワー 音楽
DATE : 2023.05.15
2023年4月14日、歌舞伎町に誕生したホテル×エンタメからなる超高層複合施設「東急歌舞伎町タワー」。映画館や劇場、ライブホールなどのエンタメ施設を中心とした新施設が多数入るほか、ホテルの内壁や館内のいたるところに、歌舞伎町や新宿の歴史にまつわるモチーフが継承されているのが特徴だ。17階にある『JAM17』 もそのひとつで、ここには新宿に所縁のある5人のアーティストがセレクトしたアナログレコードが、レストランへと続く壁一面にディスプレイされる。セレクトしたアーティストの一人コムアイは、新宿に対してどのような想いを抱いているのか。5枚のレコードのセレクト理由とともに話を聞いた。

 

 

[連載:『あなたが思う“GROOVE”』‐6組のアーティストたちが選盤したレコードを紹介]

新宿・歌舞伎町に2023年5月に誕生したHOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel。お客さまの滞在が、各エンターテインメント施設や新宿のまちと呼応した“高揚感”に包まれるよう魅力ある音楽を意味する“GROOVE”がホテル名の由来。開業にあたり、新宿や歌舞伎町にゆかりのある6組のアーティストを選者に招き、「JAM17 DINING & BAR」にてレコードを展示。選者それぞれにとっての『あなたが思う“GROOVE”』を探っていく。

コムアイ

音楽ユニット・水曜日のカンパネラの初代ボーカル。声と身体を主に用いて表現活動を行なう。日本の郷土芸能や北インドの古典音楽に影響を受けている。主な作品に、屋久島からインスピレーションを得てオオルタイチと制作したアルバム『YAKUSHIMA TREASURE』、奈良県明日香村の石舞台古墳でのパフォーマンス『石室古墳に巣ごもる夢』、東京都現代美術館でのクリスチャン・マークレーのグラフィック・スコア『No!』のソロパフォーマンスなど。水にまつわる課題を学び広告する部活動『HYPE FREE WATER』をビジュアルアーティストの村田実莉と設立。俳優として、NHK『雨の日』、Netflix『Followers』などにも出演。2023年、妊娠を発表。現在は胎児の父である太田光海監督と、ドキュメンタリー作品を制作中。

コムアイが選ぶ、5枚のレコード。「違う空間へと接続するとき、助けになる音楽」

― 早速ですが、今回コムアイさんが、東急歌舞伎町タワーの17階にあるレストラン『JAM 17』のためにセレクトした、5枚のレコードについてお聞かせください。こちらはどんな基準で選んだのでしょうか。

コムアイ:「なんとなく新宿に合いそうだな」と思うレコードと、「どこか遠い場所へチャンネルを合わせられそう」と思うレコードを半分ずつセレクトしました。ホテルって、その街に滞在していることからも、自分の日常からも、ちょっと浮いた場所にいるような気持ちにさせてくれるじゃないですか。そこからまた違う空間へと接続する時に、助けになるような音楽。レコードの溝ってどこか指紋みたいだし路地のようにも見えません?路地には「記憶」が刻まれていて、そこを歩いているとイメージが浮かび上がってくるのと、レコードの溝には「記録」が刻まれていて、針で擦ると音が流れ出すのって、ちょっと近いものがあるなと思いました。

<セレクトした5枚がこちら>

1. Hieroglyphic Being / The Red Notes

ジャマール・モスという、シカゴのプロデューサーが「ヒエログリフィック・ビーイング」という名義で出したアルバムです。最初に彼の音源を聴いたとき、すごくインダストリアルなサウンドなのにちょっとふざけているところもあって(笑)、いっぺんに気に入ってしまったんです。何年か前、水曜日のカンパネラがバルセロナで開催されている音楽フェス〈Primavera Sound〉に出演する機会があって(2019年)、その時にジャマールもいたから「会おうよ」という話になったんです。しばらくホテルで話したり、制作中の楽曲を見せてくれたりしたのですが、ハグしたら周りが見えなくなるくらい、体もデカくて屈強なドレッドのおじさんなのに、なぜだか私が彼に抱いている印象はギャルなんですよ(笑)。ジャマール名義で昨年リリースされた『Thanks 4 the Tracks U Lost』も遊び心あるソリッドなハウスですごく良かったので、この作品が気に入ったらそちらも是非聴いてみてほしいです。

2. Daniel Avery, Alessandro Cortini / Illusion of Time

これはタイトルからして、新宿のホテルっぽいですよね(笑)。ちょっとインダストリアルで退廃的な感じもありつつ、エモーショナルで瞑想的な感じすらあるのがこの作品の面白いところだなと。このアルバムが気に入ったので、ダニエル・エヴリーがやっている他の音源もいくつか聴いてみたのですが、もっとポップだったり、都会のロンドンを感じさせたりしていて、それはそれで良いけど、私はこちらのコラボレーションの方が好みです。このアルバムは、アレッサンドロ・コルティーニが持つ「職人気質」というか。決してポップではないが、エモーショナルに気持ちを持っていかれるんです。歌舞伎町を歩きながら聴いたら散歩が止まらないだろうなと。

3. Yu Su / Yellow River Blue

ユー・スーはカナダ在住の中国人アーティスト。特に詳しいプロフィールは知らないのですが、このアルバムは良い意味ですごく引っ掛かったんです。曲ごとにルーツというか影響源が全く違う気がしていて。「アジアだからこう」「中国人だからこう」みたいな、ティピカルイメージから自由な感じがして。彼女の人間味もあると思うのですが、欧米社会の外側からやってきた自分が何を求められているのかに対して意識的だし、それでいて自分が奏でるサウンドからは「自由」を感じる。そこがすごいなと思いますね。

4. Shika Shika / Shika Shika: 5 Years

中南米のミュージシャンをたくさん擁するベルリンのレーベル〈Shika Shika〉のコンピレーションです。このアルバムは、一人でじっくり聴いても良いし、何人かで飲みながら聴いても楽しいし、いろんな楽しみ方ができるところが気に入っています。

5. Roberto Musci / Tower of Silence

ロベルト・ムッシも、アレッサンドロ・コルティーニに続きイタリア出身の音楽家です。このアルバムは、70年代から80年代の彼の楽曲をまとめたアンソロジー的な内容で、自分にとって特別な存在。というのも、私は「YAKUSHIMA TREASURE」というアルバムをオオルタイチさんとリリースしていて、屋久島でのフィールドレコーディングと、そこで得たインスピレーションをもとに作った楽曲をミックスしているのですが、その指針としてすごく影響を与えたのがこの作品集なんですよね。タイチさんはどうかわかりませんが、少なくとも私のほうはとても影響を受けています。「一体、どこで採集してきたのだろう?」と思うような世界の隅々で録音された美しい歌やセリフなどをもとに、ロベルト自身が吹くサックスの音がいきなり飛び込んできたり。その交わってくる大胆さ、遠慮はないけどリスペクトはあるという、その姿勢もかっこいいなあと常々思います。何より、フィールドレコーディング中に、すごい歌に出逢ってしまってマイクを持ちながら涙している音楽家の姿が目に浮かぶようで、その感動が耳から伝わってきます。私自身も、熱心にフィールドレコーディングをしているわけではないのですが、インドやバリ、日本の辺境のお祭りや誰かの家などで、歌や踊りの美しさに打ちのめされるような瞬間に生かされてきたので、これからも、ずっと影響され続ける作品ですね。

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