海外でも支持を集める、今あらためて注目したいCHAI
— CHAIはどういうアーティストでしょうか?
パンク/ニューウェイブ系のサウンドを出発地点としているガールズバンドです。マニアックな例になっちゃうんですけど、1980年代に細野晴臣がプロデュースしていたチャクラというバンドがいて、当時からヌケ感のあるキュートなニューウェイブ系アーティストの系譜みたいなのがあったんですよね。個人的にはCHAIはその流れに連なっているんじゃないかなと思っています。
— CHAIのデビューは2016年ですが、みのさんは今あらためてCHAIを紹介すべきタイミングだと感じているということでしょうか?
まさにCHAIはすでに知名度もあるアーティストだと思うんですけど、音楽性が変化しているんですよ。最初に彼女たちが出てきた時は、もうちょっとストレートなロックサウンドを持ったバンドでしたが、2021年のアルバム『WINK』ぐらいから、よりトラック的というかデジタル的なサウンドに接近しつつある。その『WINK』についてはリミックスアルバムも出たくらいです。
実は最初からダンサブルでファンキーな要素を持ってはいたんですけど、それでもこの音楽性の変化は大胆で、なおかつ実りのあるものになっているんですよね。だから、今が改めてCHAIに注目したいタイミングなのかなと思っています。
— 『WINK』のタイミングでは、アメリカ・シアトルの名門レーベル「SUB POP」と契約しています。
僕はシアトル出身なので単純にうれしいですね。また、シアトルを代表するバンドといえばニルヴァーナですが、彼らも1stアルバムはSUB POPからリリースしていて、なおかつ日本の女性3人組バンドの少年ナイフをフックアップして一緒にツアーしていた流れがありました。今回のCHAIとSUB POPのサインからは、そういうシアトルと日本のガールズバンドのゆるい繋がりのようなものを感じて、さらにうれしく思います。
— みのさんが好きなCHAIの曲を教えてもらえますか?
初期ならば「N.E.O.」に代表されるロック色の強いナンバーは間違いなく素晴らしいですね。そして僕が音楽性の変化を感じて以降の作品なら、『WINK』にも収録されている「PING PONG! (feat. YMCK)」という曲が好きです。
これはYMCKという8bitサウンドを駆使した音楽ジャンル「チップチューン」の代表的アーティストと組んだ楽曲なんですけど、チップチューンって歴史もあるしファンも多いけど、まだまだ全国区のジャンルではないと思うんですよ。そういう絶妙なところと連動したのも含めておもしろい。
— 海外に打って出ている日本人のバンドが取り入れるエレクトロニック要素として、チップチューンは文脈的にも非常に筋が通っている気がしますね。日本には豊かなゲーム音楽の歴史もありますし。
まさにその通りで、文化としての連続性や正統性があって、日本人がやることにすごく意味があるサウンドだと思います。さらに、CHAIが持っているキッチュなかわいさみたいなものも8 bitと相性がいい。今のバンドがちょっとカチッとしたトラック系の曲をやろうとしたら、トラップとかドリルなどのラップ系サウンド、あるいはハウスがベタな路線だとは思うんですけど、そこであえてチップチューンを選択するCHAIは本当にセンスがいいなと思います。
— 読者の方に1曲最初におすすめするとしたら?
EP『ジャジャーン』に収録される「ラブじゃん」というナンバーです。CHAIはこれまで音楽性というかサウンドをエレクトロニックな方向に変えてきましたけど、この曲は、アンサンブルはロックバンドなんだけど、ボーカルがラップなんですよね。これまでの方向とは逆転しているのがおもしろいですね。その上、サビにあたる部ではJ-POP的な部分が入ってくるっていう。こういう音楽性の広がり方をリアルタイムで体験できるのは楽しいですね。シングル版のジャケは何気にビートルズ『Let It Be』のパロディーになってますし、そういうバランス感もいいですよね。
ルッキズムにNO。CHAIが放つポジティブなメッセージ
— CHAIは「NEOかわいい」というコンセプトを掲げていますが、そのあたりをみのさんはどう見ていますか?
僕はCHAIの発するメッセージはすごく大事だと思っていて、日本のアーティストで本当に珍しいぐらいルッキズムに対して「NO」を言っていますよね。歌詞でも「ありのままの状態で美しい」ということをエンパワーしているし、アートワークにもそのコンセプトは貫かれています。
— シングル「miniskirt」の「セルライトが光る」っていう歌詞も良かったですね。
最近は整形が一般的になってきて、偏見もなくなってきている流れがありますよね。もちろん、本当にそういう見た目になりたくて、そっちの方がしっくりくるから整形しようとしている人には何も言うことはないんですけど、もしも社会から押し付けられた“美の基準”と自分とのギャップに苦しんで、自分の容姿を変えたいと思っているとしたら、それはすごく不幸なことだと思うんです。K-POPのようなものすごく細いアーティストたちが人気を得ている今だからこそ、CHAIのメッセージを必要としている人もたくさんいるだろうなと感じています。
— そういうメッセージ性を見ても、CHAIがインターナショナルで受け入れられるのは納得できますね。
海外進出に際して、CHAIが元々持っていたメッセージ性もサウンドも、何も無理していないんですよね。見た目のトピックと同じで「ありのままで良い」という姿勢を貫いている。英語にしても、発音が訛っているとか、文法が間違っているとかを気にするんじゃなく、それをありのままに思い切り表現することに重きを置いている。そういう点でズバ抜けているんですよね。海外の人たちからしても、無理してやってるものを受け取るときのギクシャク感がないというか、素直に入ってくるんだと思います。
CHAIの自由な音楽的冒険のこれからが楽しみ
— CHAIは非常に前途有望なバンドだと思うんですけれども、どういうことを期待したいですか?
初期のゴリゴリにロックなサウンドにあった肉感的なグルーヴというか、グイグイ引っ張っていくようなサウンドが、最近のデジタル的な方向性と結びついた作品を聞けたら、個人的にはすごい嬉しいですね。全体的にはメロウでチルな方向性に向かっている印象があるので、そうしたアグレッシブな方向も見てみたいなと。まあ、これは僕の好みなんですけど、でも彼女たちはそのゴリゴリなアンサンブルとデジタルの融合も余裕でできるはずだから、いちファンとしてそういう展開も気になってます。
もちろん、今みたいに自由にいろんな冒険をしているCHAIがすごく好きなので、好きにやって欲しいというのが前提にありますけどね。
— 意外とタイアップが多いけど、オルタナティブな感じが失われていないのも絶妙なバランス感ですよね。
このレベルの実験性と商業的な展開を両立しているのは素晴らしいですよね。いやらしさがないんですよ。やっぱり自然体。
— そしてライブがぜひ観たい。
観たいですよね。僕もまだ生では観たことがないんですよ。
『THE FIRST TAKE』にも出ていましたが、ビジュアルの使い方も上手い。双子のシンメトリーな感じを意識的に多分やってて、ビートルズで左利きのポールが持つベースと、右利きのジョージハリスンのギターの向きが扇子に開いてるあの感じがあって、すごくお洒落だなって思いました。
Vol.1 全員10代の末恐ろしきバンド「chilldspot」
Vol.2 日本の音楽ファンに“命題”を突きつける「民謡クルセイダーズ」
Vol.3 ゆらゆら帝国以来の衝撃。オルタナロックの系譜に立つ「betcover!!」
Vol.4 フォークソングとしての普遍性と攻めたサウンドの融合「ゆうらん船」
Vol.5 すぐれたポップセンスで日本語を響かせるバンド「グソクムズ」
Vol.6 天才と呼びたくなるシンガーソングライター「中村佳穂」
Vol.7 謎多き新世代ミクスチャーバンド「鋭児」
Vol.8 バンドサウンドとBento Waveを融合させる「ペペッターズ」
Vol.9 渋谷系の真髄に迫るネオネオアコバンド「Nagakumo」
Vol.10 新世代らしい音楽との向き合い方を感じる「Mega Shinnosuke」
Vol.11 “音色”からポップミュージックの幅を広げる「Serph」
Vol.12 日本にガレージロックブームを起こすかもしれないバンド「w.o.d.」
Vol.13 素晴らしすぎる作曲、掴めないキャラクター「Bialystocks」
Vol.14 ロックとダンスが融合した多国籍バンド「Johnnivan」
CHAI Vo&Key マナさんからのコメント
みのさ〜んお久しぶりぶりです!
CHAIだよ〜〜Vo&Keyのマナだに!
お元気ですか?わたしは元気です!
あのYouTube以来だで、ちょーお久だ!
推薦ちょーうれしい!ありがとうございます!また、みのさんとくっちゃべりたいものです。今回リリースしたEP”ジャジャーン”は日本限定リリースでCHAIとしては初めての挑戦EPなんです。曲も去年リリースした4曲と新曲の”ラブじゃん”含め5曲になっとってな、CHAIのテーマでもある”NEO KAWAII”をもう一度、去年のアメリカ南米ツアー中にライブが毎日続く日々の中でメンバーで話しとってな、結局自分への愛がそもそもなきゃ
コンプレックスにも気づくことなく生きとったんじゃないかってところからの、愛ってもっと身近にあって、愛の形はそれぞれ自由で正解なんてない、かわいいもそう、そんに中でふと会話の中ででた言葉が”ラブじゃん”でした。
曲もメキシコのフェスの時に泊まったホテルで作ったりして、すごく日本人ってことを改めて誇りに思ったりしながらつくったポップなEPになりやした!ぜひきいてほしい
乾杯〜
NEW EP「ジャジャーン」
2023.1.18Release
CHAI
ミラクル双子のマナ・カナに、ユウキとユナの男前な最強のリズム隊で編成された4人組、『NEO – ニュー・エキサイト・オンナバンド。2017年1stアルバム「PINK」が各チャートを席捲し、2018年2月にアメリカの人気インディーレーベルBURGER RecordsよりUSデビュー、8月にイギリスの名門インディーレーベルHeavenly RecordingsよりUKデビューを果たし、4度のアメリカツアーと、2度の全英ツアー、アメリカ、ヨーロッパ各国のフェスへの出演、中国・香港・台湾・韓国などアジアツアーも果たす。
みのミュージック
YouTubeチャンネル「みのミュージック」は現在40万人登録者を誇り、自身の敬愛するカルチャー紹介を軸としたオンリーワンなチャンネルを運営中。
Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めており、ミノタウロスでは約2年ぶりとなるEP「評論家が作った音楽」を1月リリース。
書籍「戦いの音楽史」も度重なる重版でロングセラー本となり、活動の場を広げている。
text&photo:照沼健太