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木村のぶ子シェフ
<プロフィール>
他業界での社会人経験や海外渡航を経て料理の道へ。2006年に名古屋東急ホテルに入社し、宴会調理を経験したのちに鉄板焼の魅力に惹かれて同館「ロワール」へ。2019年にセルリアンタワー東急ホテル「鉄板焼 桜‐SAKURA‐」の立ち上げに携わり、その後現職。モットーは「お客さまと生産者の距離を繋ぐこと」と語る。
感動の一皿。シェフも惚れた極上黒毛和牛を味わう
シェフの目利きで厳選された黒毛和牛や全国から届く旬の食材。「鉄板 天祐」ではそれらのうまみを最大限に引き出す鉄板焼を提供している。コースは常時2〜3種類あり、神戸ビーフや黒毛和牛など、コースによって使用している肉の銘柄が異なっている。なかでもシグネチャーとしているのが「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ」だ。
「当店では肉へのこだわりを強みにしていますが、私自身もともと、肉より魚派なんです」と、意外なことを告白する木村シェフ。しかし、この正直さが料理に色濃く反映されている。肉への偏愛がないからこそ食材に対するジャッジは人一倍シビアで、「これだ!」という素材を見つけた際は一直線に情熱を注ぐ。
そんな木村シェフが惚れ込んだ肉は、南国生まれの「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ」。この和牛が、シェフを新たな世界へ導いたといっても過言ではない。
「仕事柄さまざまなお肉を食べますが、衝撃的なおいしさでした。だからこそ『何が違うんだろう?』と興味をもち、深掘りするようになったきっかけでもありますね。気が付いたら夢中になって、自然と肉牛の知識が蓄えられていました」(木村シェフ、以下同)
「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ」は地域の複数農家ではなく、単一の生産者が育てているため個体差がなく、こだわりの肥育哲学を注ぎこめることが特徴だ。たとえば、牛肉のおいしさに欠かせない血統を徹底的に吟味し、遺伝子解析や食味検査の手法をも取り入れて味わいを追究する。
さらに、一般的な肉牛は生後26~28カ月育てて出荷するが、「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ」はそれより約1年も長い36~40カ月をかける。
飼育期間を長くし成熟させることで、脂の融点を下げ、うまみ成分のアミノ酸が増大する。これにより、ピュアにとろける脂の甘みと、味の凝縮した肉のおいしさを実現できるのだ。その味わいはリッチでありながらも繊細で重くなく、ひと口目の口溶けの良さに感動する。まずは何も付けずにそのままの肉の味を堪能してほしい。
地域の恵みが輝く鉄板料理。厳選素材が生む感動の味
メインの肉以外の食材選びも当然抜かりがない。魚介類や野菜、油や調味料に関しても常にアンテナを張り、ベストなおいしさをアップデートし続けている。
「お魚や野菜に関しては旬も大切ですね。今季の冬は兵庫県香美町ゆかりの食材に着目し、香住漁港で水揚げされたズワイガニの雌『セコガニ』を用意しました。香美町は和牛の原点とも呼ばれる但馬牛ゆかりの地でもありますので、その血統を引き継いだ神戸ビーフもあわせてコースにしています。また、年明けには長崎のクエを使い、鉄板の上で紙鍋を提供する予定です」
続いて、今季の野菜で特におすすめするのは、高知県産の「キラポテト」。糖度の高さとしっとりほくほくした食感の上品な甘みが特徴だ。
そのうえ、塩は石垣島、但馬、十勝、ニューカレドニア、バルセロナ、韓国産の6種を料理によって使い分け、醤油は和歌山「湯浅醤油」の樽仕込みを採用するなど、多彩な味を提供してくれる。
「お米は、浅草橋の老舗米穀店『吉田屋』さんにお願いした秋田のサキホコレを使っています。ふっくらした粒立ちと、噛むほどに広がる甘やかな香りが魅力で、ガーリックライス(※)とも相性抜群です。こちらも目指したのは、ステーキ同様にインパクトはあっても重くないおいしさ。当店ではラストの食事やデザートまで、トータルで満足できる鉄板焼きが楽しめると自負しています」
※追加オプションメニュー
目の前のカウンターと絶景でダイナミックに演出
料理のスペシャリストであり一流のサービスパーソンでもある鉄板焼きのシェフ。木村シェフが心がけているのは、客の表情や動きをよく見て、誰にとっても心地よい時間を過ごしてもらうことだ。
「お客さまのご希望をくみ取り、寄り添うことですね。海外の方ですと、和牛に興味をもたれている方が多く、お肉をテーマにお話しすることがよくあります。また、お客さまのことはもちろん、スタッフの動きも見極めてコミュニケーションをとることも大切ですね。特別な時間をより引き立て、みなさんの記憶に残るレストランでありたいと思っています」
木村シェフの背後に広がるのは、地上200mのパノラマ。もちろんロマンティックな夜景も至福だが、ほかにもおすすめな時間帯があるという。
「時季によって見られる時刻は変わりますが、グラデーション豊かな夕方のマジックアワーは格別です。こちらは東京西部の景色となるのでランドマークは少ないのですが、早い時間は富士山を望めますし、手前にビルが少ない開放的な景色だからこそ、広々とした空や山々の自然を眺められ、私にとっては最高の仕事場です」
にぎやかな街の天空には静謐な美食空間が
鉄板焼きは、ハレの日に味わいたい料理ジャンルの代表格といえるだろう。だからこそ、選ばれる店になりたいと木村シェフは語る。
「ここは、あまたの飲食店が並ぶ新宿・歌舞伎町。駅からのアクセスがよく、行き交う人々も多いですけど、鉄板焼きのお店は少ないんですね。それは、美食以外のエンターテインメントが豊富にそろっているから、印象も薄くなってしまうのかなと思うのですが、そのイメージを変えていけるお店になりたいです」
“眠らない街”は、いつもにぎやか。しかし地上200mの天空には静かで落ち着いた空間があり、ゴージャスな肉のご馳走を味わうためのステージが待っている。ある種のギャップがあるからこそ、より際立つ食のエンターテインメントをぜひ「鉄板 天祐」で体験いただきたい。
※価格は税抜表記
文:中山秀明
写真:坂本美穂子