シンデレラストーリーなんていう他人任せではなく、3人それぞれが地に足をつけて全速力で駆け上がりながら、生活の実感から生み出されるリアルな音楽を吐き出す姿は、今時珍しいくらいロックバンドのストレートな魅力に溢れている。「CONNECT歌舞伎町2023」の台風の目は、サバシスターかもしれない。
新宿は、なんか強そう
― 歌舞伎町に遊びに来ることはありますか?
るみなす:コロナの前はライブハウスの帰りに「アルプス」(平日は生ビール150円の激安居酒屋)に行ったりしてました。サバシスターのアーティスト写真は、ゴールデン街付近のコンビニの前で撮ったんですよ。その撮影の合間に歌舞伎町の鳥貴族を挟んだりしました。
ごうけ:私はライブのときに来るくらいですね。いまだに怖いイメージがあるので……。
なち:歌舞伎町は怖いから、ライブ終わりはお母さんと電話しながら帰ってました。最近はもう慣れて、意外と「つん」って歩いてれば大丈夫だなって。
― やっぱりそういうイメージはありますよね。
るみなす:椎名林檎さんの「歌舞伎町の女王」みたいな、大人の世界というか。
ごうけ:自分には縁がないかなと思っていたんですけど、意外と足を運ぶこともあるなって思います。
なち:新宿駅は乗り換えで毎日使いますし。「red cloth(紅布)」にもめっちゃライブを観に行くんで、週1~2くらいで歌舞伎町を通り抜けてます。
るみなす:友達のライブを観に「Marz」とか「Marble」に行くことも多いですね。
なち:「LOFT」で観たTheピーズとニューロティカの2マンライブとか、めちゃくちゃ最高でした。
― なちさんとごうけさんが最初に会ったのは新宿だったそうですね?
ごうけ:新宿三丁目のセガフレードですね。「二階に座っています」って連絡して。
なち:そう、行ったら座っていて。
ごうけ:お互いの家の中間地点が新宿だったので。そういえば、初めて二人で入ったスタジオも新宿でした。
なち:2回くらい入ったね。
― サバシスターは新宿生まれなんですね。
ごうけ:その後はリハもライブも下北とかが多くなったので、いまはそっちの方が馴染みが深いかもしれない。
― 新宿生まれ下北育ちで。
ごうけ:そうそう(笑)。生まれてすぐ引っ越した感じです。
― 「CONNECT歌舞伎町」には初めての出演になりますが、オファーを受けてどう感じましたか?
るみなす:好きなアーティストがたくさん出てるし、歴史のあるイベントなので嬉しかったですね。
ごうけ:すごい人たちのなかに呼ばれたので、まず大丈夫かなって思いました。
なち:家から近いから来やすいなって(笑)。いつも乗り換えとかで使っている身近な場所にすごいバンドが集まるのはワクワクするし、自分もそこに呼んでもらえたのはすごく嬉しいです。
― ライブを観ようと思っているアーティストはいますか?
るみなす:私はZAZEN BOYSが大好きなので観たいし、cinema staffも楽しみです。マスドレ(MASS OF THE FERMENTING DREGS)も観たいな。わー、楽しみ……!
なち:(出演アーティスト一覧を見ながら)あ、the myeahnsもいるじゃん! ファンです。
るみなす:レイラは今度2マンをやるんですよ。雲の上の存在から友達まで幅広く出るので、見どころが多いですよね。私もせわしなくいろんな会場を行ったりきたりすることになりそう(笑)。
ごうけ:下北って下北っぽいバンドが多いけど、新宿も新宿っぽいバンドが多いから、普段は共演しない人と一緒にやれるのは楽しみですね。
― 例えば今回の出演者のなかだと「新宿っぽい」と思うのはどなたですか?
ごうけ:NAkidZは新宿っぽいと思います。
― 「新宿っぽさ」とはなんだと思います?
ごうけ:なんだろう? なんか……強そう。
一同:(笑)
るみなす:若干エレクトロの要素が入ってたり、近代的な音楽をやってるのが新宿っぽいのかな。パンクっぽい人が多い気もします。
なち:確かに見た目が奇抜だったりするかも。
ごうけ:レザー着てる人が多いね。
なち:ギターウルフ系だ。
― 下北っぽいのは?
ごうけ:みんなマッシュ。
― 前髪が目にかかっている感じの(笑)。
るみなす:年齢も下北の方がちょっと若いような気がしますね。
やっぱりバンドが一番かっこいい
― 新宿駅の南口には音源を流して路上ライブをしている人がたくさんいますし、ライブハウスでアイドルがパフォーマンスするのも普通になった一方で、サバシスターはオールドスクールとも言えるド直球のロックバンドですよね。
るみなす:私はバンドを結成する前からずっとギターを弾いてきて、自然とそうなったという感じですかね。ごうけちゃんもそのタイプだよね?
ごうけ:そうだね。ずっとドラムとか楽器をやってきて。色々やりたいなと思ったこともあったんですけど、amazarashiが好きでライブを観るたびに「私もこれになりたい!」って思うんですよ。結局、自分はバンドをやりたいんだなって思いますね、「やりたい」っていう気持ちだけですね。
なち:アイドルも好きだし、どんな音楽でも聴くんですけど、一番音楽にのめり込むきっかけがバンドだったんで。やっぱりバンドっていう手段が一番かっこいいと思うんですよね。大変なことも含めてすごく楽しいし、やりがいもあるし。憧れている存在だから、作る曲も自然とバンドサウンドを想像したものになることが多いんですよね。
― 去年の結成からサバシスターを取り巻く状況がすごい勢いで変化していると思います。これ以上ないくらい順調ですが、みなさんの想像を超えていますか? それとも「思った通りっしょ」くらいの感じ?
なち:いやいや(笑)。バンドとしては自分たちでもびっくりするくらい上手くいっちゃってる感じではありますね。
ごうけ:フェスに出るのが夢と言ってきたので、まさかもう出れるの? っていう。
るみなす:バズりとか流行を目指して始めたわけじゃないから、やりたいことをやってこういう風になったのはすごくよかったです。
ごうけ:変に売れたいっていう気持ちはないんで、今後も楽しくやっていきたいっていうのが一番にありますね。
― 先日リリースされた1st EP『アテンション!!』に収録されている「タイムセール逃してくれ」は、上手くいきすぎている戸惑いが歌われていますね。
なち:上手くいきすぎているから、ちょっとぐらい失敗してもいい、むしろ失敗した方がいいんじゃないかって。それが最初のテーマで、それにプラスして誰もが抱えている悲しい気持ちとかマイナスな出来事を肯定できる歌を作れたらなっていう歌です。
― 曲の作り方に変化はありますか?
なち:うーん、最初よりは技術も上がったし使えるコードも増えているから、自分のやりたいことを実現できるようにはなってきてると思うんです。でも、その時思ったことを書いてるので、いつも同じじゃないけど、伝えたいことを忠実に書くっていうことは変わらないし、変わらないでいたいと思います。
― お二人はプレイヤーとしていかがですか?
るみなす:ギターを弾く機会が純粋に増えたので、上手くなってはいるかもしれないけど、「こういうフレーズが弾きたい!」っていう根本は変わってなくて。KEYTALKの小野武正さんがすごく好きで、同じ楽器を使っているくらいなんですけど、そういう尊敬して目標にしているギタリストが揺るがないから、そこは変わらないのかなと思います。
ごうけ:練習量は増えたし、でっかい会場でやると責任感が強くなるとかもあるけど、私もやりたいことは変わってないですね。シンプルなドラムが好きなので、あまりテクニカルになりたいとは思わないけど、みんなに伝えられるドラムを叩きたいとはすごく思っていて。気持ちを込めてやるのが大事なんだなっていうことが、だんだんわかってきました。一音でも気を抜くとすぐバレちゃうし。そういうことは考えるようになりました。
誰にもわかられたくないところもある
― アートワークなども含めて、現在は裏方のスタッフワークも3人だけでやっていますよね。
ごうけ:腕がある信頼できるマネージャーさんがいたら、そりゃお願いしたいんですけど、「自分たちでやる」っていうのもバンドのやり甲斐のひとつでもあるじゃないですか。ライブの集客とかグッズの売れ行きとか、目に見えてるからがんばろうって思えるところもあるから。どこかの事務所に所属することがあっても、ちゃんと3人でやっていく体制にしたいとは思っています。そのほうが調子に乗らないと思うし(笑)。まだ結成して1年だから、こういう下積みの経験は絶対あったほうがいいと思うし、裏方の人がやっていることをみんなが理解していることが将来的にもいいのではないかと。
― 「Tシャツが何枚売れたから、ここに何万円があるんだな」っていうことをちゃんと把握するという。
なち:デザイン系の学校で学んできたからグッズにも自分のこだわりがあるし、曲に関してはなおさらで。自分のスタイルだと、他人に言われて曲を作るもんじゃないと思うし。自分のことを書いてるから、誰にもわかられたくないところもあるし。いまの環境はすごくやりやすいですね。
― その「わかられてたまるか」というのが、サバシスターの強さの核なのかもしれないですね。
なち:そうですね。曲を聴いてくれたり、曲作りに関してアドバイスをくれるのは嬉しいけど、自分の根本があってそれを積み重ねて作り上げてきたものだから。その辺の個人の想いを考えないで、いまのバンドのスピード感だけを見ているような人とは一緒にやりたくないし、別に自分の音楽を聴いてもらわなくていいって思います。
― 「自分たちがやりたいことをやるには」ということをすごくフラットに考えた結果というか。「絶対にメジャーデビューしない!」というわけでもないですもんね。
なち:売れるんなら売れたい(笑)。
― 今後はどこに向かっていきますか?
るみなす:こういうときは「ARABAKI ROCK FEST.」に出たいって言っていたんです。私の地元でもありますし。それが今年出演が決まって。でも、これが叶ったから終わりじゃなくて、出演し続けるっていうことにすごく意味があると思うんです。話題だから呼ばれたんじゃなくて、ちゃんと音楽を聴いていただいて、ちゃんと出演できたんだよっていうこともみんなにわかってもらえたらいいなと。まずは、自分たちの力をどこまで持っていけるのかを試すことがいまの目標かなって思います。
ごうけ:サバ缶とコラボしたいです。いまサバが不漁らしいんですけど。あと、個人的にはアニメが好きなので、いつか主題歌をやれたら嬉しいなって。
なち:私は……もっと大きい家に引っ越したい!
サバシスター
なち(Vo/Gt)、ごうけ(Dr/Cho)、るみなす(Gt/Cho)からなる3人組ガールズバンド。
ごうけがネット掲示板(ジモティー)でバンドメンバーを募集。当時上京したてのなちと出会い、その場でバンド結成。その後、ごうけと同郷のるみなすに声をかけ、3人組ガールズバンドとして2022年3月よりバンド活動を開始。心のなかにあるトキメキやモヤモヤ、大切な人の大事なもの、そしてたくさんの感謝などを音楽に詰め込んだ歌詞と、どこか懐かしさを思わせるメロディーでライブハウスを中心に活動中。
2022年8月 結成5ヶ月で「SUMMER SONIC 2022」出演
2022年9月 初企画「鯖ノ壱」下北沢SHELTER SOLD OUT
2022年10月 「Love music」(フジテレビ)にて初地上波、「JUNE ROCK FESTIVAL 2022」出演
2022年12月 04 Limited Sazabysの「Harvest tour 2022」出演
『満パンスター2023 -さらば&三四郎が3月にライブすることだけ決まってる番組-』(テレビ朝日)12月エンディングテーマにアイリーが起用
2023年4月 「ARABAKI ROCK FEST.2023」出演決定
2023年5月 「JAPAN JAM 2023」「VIVA LA ROCK 2023」出演決定
text:張江浩司
photo:落合由夏