小原たかきさん
今や新宿二丁目の伝説となったエンターテイメント空間「advocates cafe Tokyo」や「ArcH」を経て、現在「AiSOTOPE LOUNGE」「ALAMAS CAFE」「AiiRO CAFE」「AVANTGARDE TOKYO」等のプロデューサーとして、新宿二丁目から羽ばたく勢いで幅広く活躍中。
ゲイならではの毒舌とリアル二丁目目線の軽妙なトークで、V系雑誌CUREでコーナーを持ちながらV系アーティストとの対談ラジオ番組や、レインボープライド・HIV啓発イベントなどでもMCをこなし、CS番組エンタメーテレ「二丁目なうなう」のメインMCを7年半務める。
奄美大島でのびのびと育ちながら小室哲哉時代を過ごし、今や数々のアーティスト本人公認パーティーも開催。小室哲哉楽曲イベント「TK GROOVE」の他、「宇多田ヒカルナイト」「カイリーミノーグナイト」等を主催。また、各所メディアを賑わす「新宿二丁目 女装紅白歌合戦」などの主催もする敏腕豪腕髭顔オネエ。
新宿2丁目はどこにある?
アドレスとしての新宿2丁目は、東京メトロ新宿三丁目駅の東側、北に靖国通り、南に新宿御苑を挟んだエリアを指す。その中でも新宿通りから靖国通りに抜ける200m超の「仲通り(なかどおり)」がメインストリートとなり、ここを中心にバーや飲食店などが軒を連ね、ゲイグッズを扱うショップ、同性同士で利用可能なホテルなどもある。DJバーやイベントスペースなどもあるため週末には何かしらイベントが行われていて、終電前後まで賑やかなことが多い地域だ。
新宿2丁目は閉鎖的な街?
1960年代以降にいわゆる「ゲイ・タウン」として栄え始め、今では様々なセクシャルマイノリティの人々が交流し、楽しむ街であるが故に、いわゆる”ノンケ”(ストレートの性的志向者)が立ち入りづらい印象もあるだろう。しかし、今回お店を紹介していただいた小原さんによると、以前に比べればよりオープンになってきたという。
「お客さんのLGBTQ+に対する理解も深まってきて、20代後半〜30代前半のノンケの人も増えてきています。また、外国人のお客様も多いですね。YouTuberもよく二丁目に遊びに来ているのを観ますし、昔よりかは『オープン』になってきていると思います。ただ、この街が「多様性」を受け入れる場所として「LGBTQ+優先の街」という事を頭にいれて遊んで欲しいです。ノンケだからとか、LGBTQ+だからとか関係なく、何事にもとらわれない自由な街だからこそ、遊ぶためには暗黙のルールが必要なんですよ」(小原さん)
新宿2丁目の楽しみ方
自由でオープンな街だからこそ、自分らしく“ホッピング”して欲しいという小原さんは、初心者が安心して楽しむために3つのポイントを教えてくれた。
①外から店内の様子が見えること
②料金体系が明瞭なこと
③HP、Twitter、Instagramなどで、情報発信をしっかりしていること
以上を踏まえつつ、小原さんが教えてくれた4つのお店を紹介していこう。
ALAMAS CAFE/初心者もやさしく受け入れてくれる、2丁目のオアシス的カフェ
まず一軒めは、「初めての2丁目」なら是非とも訪れて欲しい店「ALAMAS CAFE」。仲通りの真ん中に位置し、オープンなエントランスの奥からは賑やかな笑い声や音楽の絶えない店だ。ALAMASはタイ語で「ダイヤモンド」の意味。元々はタイフードのお店だったが、現在はメキシカンを中心に多国籍なフードを提供。メキシコから取り寄せた雑貨にあふれた内外装は、見ているだけでも楽しい気分になれる。
看板メニューのタコスは4種類で各450円とリーズナブルだ。ドリンクメニューも豊富で、もちろんテキーラの種類も充実している。景気づけに一杯やって、ここを拠点にお店を周る人も多い。週末はDJイベントやラジオ風トークショーの公開収録を開催しており、特別料金なしで観覧することもできる。
「1人で来たいときもあれば、みんなでワイワイしたいときもあると思うので、どのタイミングでもぜひ! ウェルカム精神でいるつもりなので、本当にいつでも来てください。
お客様同士でコミュニケーションをとることは結構見受けられますし、そうやってつながっていってくれるのは私としても嬉しいです。」
と話すのは店長のゆうちゃん。お店の雰囲気だけでなくゆうちゃんをはじめスタッフ全員が優しくて温かい。近隣のお店のスタッフも出勤前にごはんを食べに来ることもあるようで、取材中も、ゆうちゃんに「いってらっしゃ〜い」と送り出されている別の店のスタッフもいた。
AiSOTOPE LOUNGE/エンタメ好きなら一度は行きたい、2丁目カルチャーが詰まった遊び場
続いては、新宿2丁目でも最大級のイベント・クラブスペース「AiSOTOPE LOUNGE」。
J-POPやアニソン、ハウスミュージックなどの音楽イベントから、ゲイ、レズビアンなどセクシュアリティ限定のパーティー、ドラァグクイーンによる華やかなショーまで多彩なイベントをほぼ毎晩開催している。
イベント目当てに来る人もいれば、メインとサブのステージ横にあるカウンターバーでお酒とスタッフとの会話を楽しみに来る客も多い。特に水曜・木曜はドラァグクイーンのおりぃぶぅさんがホステスを務めるQUEEN’S LOUNGEが開催され、常連客も多い。
おりぃぶぅさんは新宿2丁目ならではのエンタメカルチャーがあると語る。
「いわゆるセクシャルマイノリティだって言われている人たちの世界と、ヘテロって言われている男女間で恋愛が成立するような世界の人たちとはちょっと感覚が違っていて。オンリーイベントを徹底的に楽しむカルチャーはここ(2丁目)ならではだと思う」
オンリーイベントとは、特定のアーティストなどに特化したイベントで、ダンスコピーやコスプレなど徹底して「好きなアーティスト」や「好きな世界観」を楽しむスタイル。つまり、単に視聴者としてではなく、演者としてコピーすることまで「やりきる」もの。特にコスプレの熱量は圧倒的で、みんな自作のコスプレで好きなアーティストを、あるいは自分自身を表現している。
初心者からすればその空気に圧倒されそうだが、だからこそどんな人でも「自分が楽しむこと」を大切にしてほしいとおりぃぶぅさんは続ける。
「お互いが楽しむには、自分が楽しむ気概がないと、きっと楽しめないよね。でも自分も楽しみたい、それに乗っかりたい、と思ってそういう受け皿みたいなのをちゃんと自分の中で持ってる子たちはきっと楽しんで帰れる。お客さんが受身な状態で「楽しませてよ。」ってくると、多分コテンパンにされるよ(笑)。」
Campy! bar/個性派揃いの女装ウェイトレスやLGBTスタッフと、小粋なトークを楽しむショットバー
三軒めは、各種メディアでもひっぱりだこのブルボンヌさんをはじめ個性豊かな女装のスタッフがお店に立つショットバー「Campy! bar」。仲通りの中央に位置し、カラフルで可愛いフォントの看板が目印だ。濃いオネエトーク、ビューティー最新事情、辛口トーク、悩み相談などなど、ここに来ればスタッフとの刺激的で楽しい会話をいつでも楽しむことが出来る。
料金もキャッシュオンデリバリー式なので分かりやすく2000〜3000円程度の予算で楽しめて良心的。公式HPではスタッフの出勤テーブルと自己PRページがあるので事前にチェックしておけば、共通の話題も見つけやすい。
「Campy! bar」をプロデュースし、、さまざまなメディアでも活躍するブルボンヌさんは、「MIXバー」というお店のスタイルを大事にしているという。
「それまでは女装さんとかがお店にいて、お客さんがストレート中心のお店みたいなのを『観光バー』って呼んでたんですよ。アタシたちもどこかでは、“観光しに来ていただいた動物園の動物”的なところもあるんだろうけど、これからの時代はもうちょっと、<見に来た人と観光されるもの・陳列されている人>というよりは、『いろんな人がいるよね』みたいなのがわかる空間がいいなと思ったから、『観光バー』じゃなくて『MIXバー』っていう言葉に変えたんですよね」
ストレートの客が増える一方で、これまでセクシャルマイノリティたちの「閉ざされた場」に居場所を求めていた人々の中には、新宿2丁目の未来を憂う人もいるだろう、とブルボンヌさんは語る。
「うちはMIXであることを大事にしているけど、もちろん、同性愛者同士の世界を求めてた人もいるわけで、初めての人にはそういう世界というかノリみたいなものも学んで欲しいわね」
AiiRO CAFE/終電後の2丁目を盛り上げる多国籍なゲイ・バー
最後の四軒めは、仲通りの鳥居風のエントランスが目印のゲイ・バー「AiiRO CAFE」。週末の深夜ともなれば客が店外にあふれかえるほどの盛況ぶりだ。公式HPを英語メインで公開していたり、トリップアドバイザーには訪日外国人のポジティブなコメントが多数寄せられていたりと、外国人の間でも知名度が高い。
こちらでバーテンダーを務めるコーディーさんはアメリカから日本に来て14年目。このAiiRO CAFEには6年おり、週末はDJとしてイベントを仕切ったりもしている。
「外国のお客さんが8割くらいかな。常連さんは日本語上手だよ。だから英語でコミュニケーションしたいっていう日本人のお客さんも多い。初めてお店に来るときは、とりあえず遠巻きにみて雰囲気を楽しむだけでもいいと思うよ。そのうち誰かがきっと声をかけてくれるから」
実際、AiiRO CAFEの店の前で、多国籍な人々がグラス片手にワイワイ会話を楽しんでいる様子は、そばにいるだけで陽気な気分になれるし、ストレートであるとかゲイであるといったことに関係なく、とにかく楽しもうという空気にあふれていて心地よい。朝まで2丁目を楽しみたいならぜひ訪れたい場所だ。
写真:沼田学
文:島崎昭光