今回は「CONNECT歌舞伎町」の、そして歌舞伎町という街の特性を解き明かすべく、初回から参加しているZAZEN BOYSの向井秀徳に話を聞く。向井の盟友であり、新宿・歌舞伎町のありのままの姿をフィルムに焼き付ける写真家・梁丞佑の撮り下ろし写真とともに、向井節を堪能して欲しい。
MATSRI STUDIOからテルマー湯へ
ここに来る前に、ゴールデン街のところの「テルマー湯」に行ってきましてね。あそこは何がいいかっていうと、温泉を伊豆から運んできてるんですよ、毎日。そこで湧いてるわけじゃないけど、運び湯なんですね。それと、めちゃくちゃ大きい炭酸泉があるんです。めちゃくちゃビッグサイズでですね、温度も丁度いいわけです。炭酸泉って入ったことありますか?
― 残念ながらないです。ジェットバスみたいなものとは違うんですよね?
ジェットバスではなくて、お湯に炭酸を含ませてる。38℃くらいで、じんわり効いてくるわけですよ、15分くらい入ってると。私はサウナーじゃなくて、あくまでもオフロー。「ととのう」っていう感覚もわかるんですけど、あれは体温を上げ下げして無理矢理自律神経のバランスをとってるから、体にいいのかはちょっと疑問なんですけども。脳にダメージとかないんかね。
― 自転車でいろいろな場所の銭湯に出向かれているそうですね。
新宿区なら、ほかに落合の「栄湯」とかね。とにかく何かあるっつったら渋谷区の「MATSURI STUDIO」から自転車でじゃじゃじゃと来るわけですけども。時間が空いたら新宿でやってる映画調べて、バルト9とかTOHOシネマズ、ピカデリー、武蔵野館とかね。ピカデリーの前には駐輪場もありますから。TOHOにも地下駐輪場あるよね? あれが便利だよね。で、帰りに紀伊國屋(書店)に寄って。本屋好きなんですよ。「MATSURI STUDIO」の近くにも紀伊國屋があって毎日行くんだけど、こっちはでかくて楽しいから。
― 大型書店も少なくなってますもんね。
渋谷の「丸善」(編集部註:「MARUZEN&ジュンク堂書店」)もなくなったしね。書店がなくなるのは寂しいね。レコード屋さんに行く頻度は減っちゃったけど、新宿の「(ディスク)ユニオン」のジャズ館とかはたまに行きます。ユニオンは中古が入れ替わるサイクルが早いから、定期的に行かないとダメですね。
― 最近はサブスクで音楽を聴くことの方が多いですか?
というよりも、もう一生分のレコードがあるってことですかね。まだ知らないものは山程あるわけで、それを見つけに行きたい気もするけども、きりがないと思ってですね。世界にレコード屋さんがどれくらいあるかわからんけども、アメリカなんてほぼゼロっすよね。
― 新宿のタワーレコードも縮小になりました。
あ、タワー小さくなった? 昔、新宿タワーレコードと渋谷タワーレコードの熾烈な戦いに巻き込まれたことがありますけど(笑)。どっちがナンバーガールのCDを多く売るかっていう。結局どっちの店舗でもインストアライブをしなくちゃいけないことに……、「しなくちゃいけない」ってことはないか(笑)。よく応援してもらいましたね。
新宿大ガードの風景、ドーベルマン刑事、新宿警察24時……
最近、若者たちが集まっているあの広場(シネシティ広場)では最初の「CONNECT歌舞伎町2014」のときにライブやりましたけど、まだ東宝ビルが工事中で。あそこは何十年も前からたまり場だったわけですよね?
― 戦後に歌舞伎町が区画整理されたころから広場になっていたようです。
新宿は変わらない印象があるんですよ。お店とかビルは変わるけど、基本的なこの空気感は同じなんじゃないかな。歌舞伎町ができたときから。
― 石野卓球さんは「歌舞伎町はほかの街と持ってるカルマが違う」と仰ってて。
そりゃ違うでしょうね(笑)。だからあの広場に若者が引き寄せられる理由があるんでしょう。海外からもやってくるしね。海外の人が東京を舞台に映画を撮るときに、絶対あの小滝橋通りから新宿大ガードを通って目の前に歌舞伎町が広がる画を入れるんですよ。「またかよ」っていうくらいに。いろんな映画のあのシーンばっかり繋いだ映像を作ったら面白いかもしれないですね。同じ風景なんだけど、時代が違うから建物や看板は変わっていく。70年代の東映もみんなそうですよ。『ドーベルマン刑事』とか。
― 東映のヤクザ映画にも新宿がよく出てきますよね。
東映は大体決まってるんですよ。犯人が「くわー」って逃げていくのを追いかけるようなシーンは、歌舞伎町から大久保にかけての路地裏で。なんかこう、小さなスナックがあって、その店先に積んであるビールケースに突っ込んでドンガラガッシャンになるみたいな。
― 上京する前にそういった映画を観ていて、向井さんのなかで歌舞伎町はどんなイメージでしたか?
もうわかりやすいぐらいに怖い場所ですよ。当時は「新宿警察24時」もテレビですごくやってましたから。歌舞伎町では毎日こんな事件が起こっとるのかと(笑)。そういう印象だから、東京出てきて「新宿LOFT」に出演したときはビビってましたね。
― 最初に新宿界隈のライブハウスに出たのは「LOFT」ですか?
そう、移転直後の「LOFT」ですね。小滝橋にあったころは観に行ったことはあるけども、出演したのは今のタテハナビルになってすぐだったと思いますよ。バンドやってるような人からすると、「LOFT」っていう名前自体がスペシャルなもので。まあ、福岡も大概ですけど、何が大概かっていうと無軌道な若者たちがいっぱいいるんですよ。福岡でもこんななのに、新宿はどういうことになってるんだ、っていう不安はあったですね。でも、私の勝手な先入観で怖いとか恐ろしいとか思ってるけど、本当に怖いのは秩序が全くない状態。歌舞伎町はそういうことではないんですね。秩序があるんです、街の掟が。それがない盛り場は無茶苦茶ですからね。そんなところには誰も行かない。なぜみんながここに集まるかというと、秩序があるからだと思うんです。
朝焼けに座り込んで冷凍都市を眺める
― 新宿のライブハウスでの印象深い思い出はありますか?
いっぱいありますよね。「LOFT」だと、わーってライブやってそのまま「LOFT」で打ち上げするわけですよ。達成感もあって、対バンの人たちと「今日良かったな」って気分良く飲んで。「LOFT」はそのままずっといられるんですよね。もうずっと飲んでるんです。まあ、終電くらいの時間になったら人がごそっと減りますよね。1人減り、2人減り、最後はもう自分しかいないみたいな。そういうことが多かったね。
― 気付いたら黙々と飲んでいたと。
もう「LOFT」のスタッフもバイトの子が1人しかいないみたいな(笑)。あとは、ライブ終わったらリサさんという人がやってたバーによく行ってましたね。「つるかめ食堂」の近くの路地にあって、今はもうなくなっちゃったんだけど。バンドマン同士で飲んでたら白熱してきてさ、「お前はバンドをわかっとーとか!」みたいになりがちなんですよ。そしたらリサさんが「これでも食べなさいよ」ってセロリを一本渡してきたりして(笑)。そういう思い出がありますね。
― クールダウンしなさいと(笑)。
それで、もう今日は歩いて帰ろうかなと思って、都庁の方に向かってると空が白んで朝焼けになってくる。それを見て「ああ、俺東京に来たんだな」みたいなことを実感しましたね。
― 「今日から俺 東京の人になる」みたいな感じですか。
長渕剛さんの歌?(「東京青春朝焼物語」の歌詞)そうじゃないんだよな。「LOFT」でライブやって朝までクワーと飲んで、誰もいない西新宿で座り込んでみたりして。朝焼けなんか見ながら。それが「LOFT」のライブ後のよくある風景じゃねえかな。青梅街道を歩いた人もいるだろうし、中央線界隈に住んでるバンドマンは多いから。「今日は西荻まで歩いて帰ろう、一本道だ!」みたいな(笑)。そういう感じかな。
― 向井さんの歌詞には「冷凍都市」という言葉がよく出てきます。そういった歌舞伎町や西新宿のイメージの集合体が「冷凍都市」なのではと思うんですが、いかがでしょうか? 私自身、上京して初めて歌舞伎町に来たときに「ここが冷凍都市か……!」と勝手に興奮してしまって。
冷凍っちゅうくらいだから、人の心が冷たくて無機質で、みたいなネガティブなイメージかと思いきや、そうではない。要は、見た目ですよ。ビルとビルの、あの色合いとかね。これが凍ってるみたいで。そこに住んでる人たちがみんな冷たいのかっていうと、そんなことはないんだな。むしろハートフルな人たちですよ。
― 今年も「CONNECT歌舞伎町2023」に出演されますが、ほかの街で開催されているサーキットイベントとの違いはどんな点でしょう?
なんというか、「LOFT」が主役だなと。かといって「LOFT」によく出てる人ばっかり集まってるわけじゃない。歌舞伎町全体を巻き込んでるわけだから、ほかのライブハウスも合体してやってるんだけど、まず先に「LOFT」の吸引力があるから安心感がありますね。
― 筋が通っているというか。
うん、筋が通ってる。あそこの(シネシティ)広場はもう使えないんですか?
― 今年も広場でアーティストがプレイするステージを予定しています。
あ、やるんですか。あそこは開放して、それこそ「なにこの音楽?」って思ってる若者に無理矢理聴かせる。「歌舞伎町でヒマしてるなら聴け!」と、無理矢理聴かせることを大人がやってほしい(笑)。「ギター弾いてみるか?」って。
― そういうアクシデント的な出会いから生まれるものもありますよね。
ありますよ。それが巻き起こっても歌舞伎町は乱れないですから。掟があるからね。もっと無茶苦茶やってほしいですよね。
向井秀徳(むかいしゅうとく)
1973年生まれ、佐賀県出身。
1995年、NUMBER GIRL結成。99年、「透明少女」でメジャー・デビュー。
2002年解散後、ZAZEN BOYSを結成。自身の持つスタジオ「MATSURI STUDIO」を拠点に、国内外で精力的にライブを行っている。
また、向井秀徳アコースティック&エレクトリックとしても活動中。
2009年、映画『少年メリケンサック』の音楽制作を手がけ、第33回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。
2010年、LEO今井と共にKIMONOSを結成。
2012年、ZAZEN BOYS 5thアルバム『すとーりーず』リリース。今作品は、ミュージック・マガジン「ベストアルバム2012 ロック(日本)部門」にて1位に選ばれた。
梁丞佑(やんすんうー)
1966年年生まれ、韓国出身。
1996年に来日し、日本写真芸術専門学校へ入学。2004年に東京工芸大学芸術学部写真学科を卒業後、2006年に同大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。大学在学中から新宿・歌舞伎町に集う人々を題材として撮影を続け、各地で精力的に個展を開催。2000年の「フォックス・タルボット賞一席の受賞を皮切りに数々の写真賞を獲得し、2017年には写真集『新宿迷子』で第36回土門拳賞を受賞した。
『CONNECT歌舞伎町2023 Move to New Order』
開催日:2023年4月23日(日)
開場:12:00
開演:13:00~22:00 ※タイムテーブルは後日発表
会場:Zepp Shinjuku(TOKYO) / 新宿BLAZE / 新宿ロフト / MARZ /Marble / shinjuku SAMURAI / シネシティ広場
チケット:
前売りチケット 6500円
当日券 7000円
e+ チケット販売
ぴあチケット販売
うぶごえプロジェクトページ(クラウドファウンディング)
主催:CONNECT歌舞伎町実行委員会 / 歌舞伎町商店街振興組合
URL:公式サイト / Twitter / Facebook
text:張江浩司
photo:梁丞佑