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【NEXT UP! #6】ラナメリサ:“まだ何者でもない”私が歌う理由──デビュー前夜の素顔

歌舞伎町

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NEXTUP
DATE : 2025.11.26
劇場、ライブホール、屋外ステージ、路上ライブスペース、ナイトクラブ──さまざまな“表現の場”が、東急歌舞伎町タワーにはある。ダンサー、シンガー、アイドル、DJ…。そこで日々パフォーマンスを行うクリエイターたちの顔ぶれもまた、幅広い。

あらゆる価値観が交差する歌舞伎町に集う次世代の才能たちの、過去・現在・未来に迫るインタビューシリーズ「NEXT UP!」。

第6回は、11月にメジャーデビューするシンガーソングライターのラナメリサが登場。「Kabukicho Street Live Fes」に出演し、その歌声で人々の足を止めていた彼女に、人見知りだったという幼少期に触れた音楽のルーツやこれまでの歩み、デビューを目前にした心境まで聞いた。

<NEXT UP!的 推しポイント>

  1. 静けさの奥にある衝動
  2. 「好きになれなかった声」を愛していくための探求
  3. 「自分はまだ何者でもない」。メジャーデビューに向けての覚悟

ラナメリサ

中学の部活をきっかけに独学でアコースティックギターによる作詞作曲を始める。2023年からシンガーソングライターとして本格的に活動を開始。ライブハウスや路上でのパフォーマンスや、TikTokなどのSNSでも精力的に発信を行っている。2024年には未発表曲『エロス』の歌唱動画が各SNSで話題となり、関連投稿の累計再生回数は460万回を突破。2025年4月からはNACK5にてレギュラーラジオ番組「ラナメリサのきいてよベイベー」(毎週日曜24:00〜)のパーソナリティを担当。さらに、グッズのデザインも自身で手がけるなど多彩な一面を持つ。自然体で等身大なキャラクターが魅力のシンガーソングライター。2025年11月26日にフォーライフミュージックエンタテイメントよりシングル『愛でてよベイベー』でメジャーデビュー。

Instagram

—Beginning— 
歌うことは恥ずかしかった、けれど歌わずにはいられなかった

― 幼少期はどんな子どもでしたか?

末っ子で、ワガママな子どもだったと思います。身内の前ではわいわいしているのですが、人見知りが激しくて、授業で手を挙げられないタイプでしたね。でも、5歳くらいのときに母親のCDプレイヤーに入っていた『グリース』というミュージカル映画の音楽にハマって、電車で熱唱してしまったこともあって。イヤホンで聴きながら、完全に自分の世界に入ってましたね(笑)。あとディズニーチャンネルのコメディドラマやミュージカルドラマ、海外のティーン向けの映画などもよく観ていて、そういう作品で使われている音楽が好きでした。

― 自分で音楽をやり始めたきっかけは?

父親のアコギが家にあって、小学生のときに父親から簡単な曲を教えてもらったんです。それでなんとなく、ギターをちゃんと弾けたらかっこいいなと思って、中学のときに音楽系の部活に入りました。バンドじゃなくて弾き語りをする部活で、自分で作詞作曲もしなきゃいけなくて。

― 作曲のやり方は部活で教えてもらえるんですか?

それが教えてもらえなくて(笑)。先輩が作った曲を聴いたり、好きな曲を弾き語りしながらコード進行を覚えたり、自力でやっていました。だから初めて作った曲とか本当にひどいですよ。とても人には聞かせられない…。

― 人見知りだと人前で演奏や歌を披露するのってなかなか緊張しそうですが、実際どうでしたか?

緊張はするんですけど、それと同時に承認欲求をそういう場で満たさないと生きていけなかったですね(笑)。最初は死ぬほど恥ずかしいと思いながら演奏していたんですけど、徐々に慣れていきました。普段は面倒なことに巻き込まれないように、とにかく失敗しないように過ごしていて。弾き語りをしているときも、人には見られているけど、特段目立っているとはあまり感じませんでした。文化祭で演奏するときも、たくさんある演目のなかのひとつでしかないですし、出なきゃいけないライブは出て、とりあえず目の前のことを静かにこなしていました。

― 最初はギターが弾けたらかっこいいという思いで音楽を始めたとのことですが、歌は楽しんでいましたか?

中学時代は歌うことが好きだという意識はあまりなかったです。そもそも音楽自体をちゃんと好きになったのが中学の半ば。中学時代に『銀魂』や『鋼の錬金術師』を観て、FLiPやNICO Touches the Wallsの曲を聴くようになって、アニソンにすごくハマったんです。それでバンドをやりたいと思うようになって、高校でも音楽系の部活に入って、コピーバンドをやっていました。

― それでギターだけでなく歌にも力を入れるようになっていったのですか?

歌を好きになったのは、高校に入ってから友達とカラオケに行く機会が多くなったからですね。カラオケで歌うならうまくならなきゃ、と思うようになって意識し始めました。当時は今と歌い方が全然違うと思います。もっとまっすぐ歌う感じだったし、今よりもずっと細い歌声だったと思います。

—Essence— 
声を磨き、自分の“歌”を見つけた日々

― 現在のような歌い方になったきっかけは?

明確なきっかけがあったわけではなくて、徐々に変化していきました。高校卒業後は一人でもカラオケに行くようになって、ひたすら練習していたんです。

― 上達するにつれて、歌うことの楽しさも見出せるようになったんですね。

そうですね。カラオケに一人で行くようになってからさらに楽しくなりました。実は、自分の歌声はあまり好きではなかったんです。でも、信頼している人たちから「おもしろい声してるね」って言われてから、少しずつ自分の声や歌に意識的になりました。

― 本格的にミュージシャンになろうと思ったのはいつですか?

怒られるかもしれませんが、今もしっかりとは思えていなくて。これまで音楽を続けてきたなかで褒めてもらえて、プッシュしてくれる方がいて、それで進んできた感じです。就職したくないし、かといってフリーターも嫌だった。じゃあどうするんだって思っていたけれど、音楽を続けてきて先の道が少し見えた気がしたから、思い切りやってみる方向に舵を切ってみようと。2025年11月にメジャーデビューするのですが、デビューして終わりじゃないし、気を抜いたらいけないという不安感と、ここで売れなきゃ後がないという危機感もすごくあります。

― 不安を抱えながらも、音楽を続けてこれたのはなぜだと思いますか?

2023年ごろまではずっと横浜のライブハウスで活動してきたんですが、都内のライブのお誘いをいただいて、東京でライブをしたことがあったんです。1万円のノルマを払って、お客さんのいない空間でライブをして…「私は何をやってるんだろう?」って思っちゃったんです。それからちょっと意識が変わりました。お世話になっている地元のライブハウス以外ではライブをするのを一旦やめて、曲作りに集中して、ちゃんとSNSに動画を上げるようになりましたね。SNSは苦手だったんですけど、後輩が頑張って更新しているのを見て、多くの人に私の音楽を知ってもらうために私もやらないと、って。

—Future— 
“まだ何者でもない”私が進む先

― 自分の音楽を聴いてもらいたい、という気持ちが活動のモチベーションなのでしょうか。

そうですね…正確には、聴いてくれる人がいなくなるのが怖い、という気持ちが一番大きいです。もちろん、聴いてくれる人が増えたら嬉しいですけど、それ以上に離れていかないでほしい。だから忘れられないように動画を上げなきゃって…(笑)。私はすごくビビりで、ずっと何かに怯えて生きているんですよね。メジャーデビューさせていただくことは決まったし、新しい音源も作り始めてはいますが、自分はまだ何者でもない。聴いてくれる人がいないと生き残れないと思っています。

― 曲作りにおいては、どんな意識を持って取り組んでいますか?

面白いフレーズを考えるのは好きだしリズム感は重視しています。歌詞を書くときも、言葉のリズムを重視していますね。私は飽き性なので、似たような曲があると飽きちゃうんですよ。自分を飽きさせないようにするためにいろいろなことを経験しないといけないと思っています。でも、飽き性のくせに環境の変化には弱くて…。初めての場所とかめちゃくちゃ怖いので、すごく怯えちゃいます。でも、その怖さを乗り越えないと飽きちゃうっていう。

― なるほど。でも、繊細さと冒険心を両方持っているということは、アーティストとしてとても大切な資質ですよね。メジャーデビューも決定して、ミュージシャンとしての新たな一歩を踏み出しますが、これからどんな大人になっていきたいですか?

私、小学生のときは今すぐにでも大人になりたかったんです。大人のほうが自由だって思っていて。でも、実際に大人になるにつれて、自分が何をしたいかもわからないのに現実と向き合わなければいけなくなるのが怖くなっていきました。でも、もう受け入れるしかないって最近は思っています。ミュージシャンとしては、ドームツアーをやりたい!でっかいステージに立って「アリーナ!」とか「2階席!」って言いたいです。それぐらいたくさんのファンの方を集められるようになれたらいいなって夢があります。

インタビュー中、慎重に言葉を選びながら自分の弱さや不安をさらけ出してくれたラナメリサ。その姿からは、ステージで見せる堂々とした佇まいが信じられないほどだ。だが、恐れや迷いを抱えながらも一歩を踏み出す勇気こそ、彼女の歌の源なのかもしれない。内に秘めた繊細さと外に放つ強さ、その両方を抱きしめるように、ラナメリサはこれからも音と言葉で自分を更新していく。

文:飯嶋藍子

写真:谷川慶典

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