あらゆる価値観が交差する歌舞伎町に集う次世代の才能たちの、過去・現在・未来に迫るインタビューシリーズ「NEXT UP!」。
第5回は、シンガーソングライターのかわにしなつきが登場。心地よいサウンドに乗せたありのままのことばで、Z世代の共感を集める彼女。その軽やかな歌声とスタンスを育んだ半生を探る。
〈NEXT UP!的 推しポイント〉
- 誰もが応援したくなる、愛され力
- SNS時代をポジティブに生きる「理想的ガール」
- 日本からアジアに広がるグローバルな可能性

かわにしなつき
シンガーソングライター。2002年生まれ、奈良県橿原市出身。自然豊かな環境で生まれ育ち、公園で駆け回って遊ぶ幼少期を過ごす。一方で、絵本や音楽を愛する母のもと、のびのびと感性をのばした一面も。母の影響で物心つくころにはエレクトーンに触れはじめ、やがてピアノに出会う。2020年より関西で本格的に音楽活動を開始し、2023年に東京に拠点を移す。同年、1st EP『マジックアワーにとけて』をリリース。2024年に発表した“理想的ガール”がSNSで注目を集め、反響は台湾や韓国など海外にも波及している。
—Beginning—
ピアノと歌に夢中の青春時代。周囲のあたたかな応援に支えられて
─ かわにしさんが「音楽と出会った」瞬間を覚えていますか?
最初に楽器に触れたのは幼稚園のころで、エレクトーンでした。母が昔習っていたから実家にあったんです。「音楽に目覚めたきっかけ」でいうと、よく覚えているのはピアノを弾いたときのことです。
それまでエレクトーンの軽いタッチしか知らなかったので、ピアノの鍵盤の「重さ」に驚いて。しかもエレクトーンは鍵盤が二段あるのにピアノは一段。それが当時の私にはとてもかっこよく見えたんですよね。「一段だけで演奏ができるなんてすごい!」とピアノに憧れるようになって、小学生のころからピアノ教室に通い始めました。
─ 実際にやってみて、ピアノを弾くのは楽しかったですか?
そうですね。 高校生まで続けましたが、やめたいと思ったことはないです。兄もピアノを習っていたので、一緒に連弾をやるのも楽しかった。母も加わって3人で連弾をしたこともあります。ピアノはひとりで演奏するのが基本ですが、こうやってみんなでできるのもいいなって。発表会では母が衣装のドレスを作ってくれて、それを着るのもワクワクしましたね。

─ 歌に意識が向き始めたのはいつごろでしょうか。
「歌うことが好きかも」と認識したのは中学の合唱の授業でした。思春期というか、みんな恥ずかしがってちゃんと歌わなくなってくる時期ですよね。そんななかで私は「なんでみんな歌わへんのやろう? 私はいちばんいい声で歌ったろ!」という感じで。全校集会では校歌を誰よりも大きな声で歌っていました(笑)。
せっかくならもっと上手に歌えるようになりたい、いろんな歌を歌いたいと、高校入学を機にボーカルレッスンに通うようになりました。とはいえ当時は積極的に歌手になろうとしていたわけではなく、「好きだからやってみたい」という感覚で。
─ その後、自ら作詞作曲を始めた経緯はどんなものだったのでしょう?
高校3年生のころにコロナ禍になって、学校も半年くらい行けず、レッスンもお休みになってしまって。何をしたらいいんだろう?と途方にくれるなか、始めてみたのが歌の配信でした。
ありがたいことに母がとても協力的で、使いやすい配信アプリを一緒に調べてくれました。配信活動を続けるためにはオリジナル曲が必要だと考えたのが、作詞作曲に挑戦したきっかけです。
最初はどんなことを歌詞にすればいいのか見当もつかなくて。悩んだ結果、ならば「私にできるのかな?」という不安をそのまま書いてみようと。そうしたら、応援歌のような曲ができました。
─ 初めてのオリジナル曲、反響はいかがでしたか?
周りの友達が何回も聴いてくれて、それだけでもうれしいことなのに、高3の受験シーズンだったこともあって「背中をおされた」「励まされた」と言ってくれる子もいて。ありのままに書いた言葉が、誰かの心を動かすなんてすごいことですよね。なんというか、世界はこんなにも優しいのか…と感動しました。それが原動力になって、どんどん曲を作るようになっていったんです。

─ その体験が、本格的に音楽の道を志すことにつながっていったんですね。周囲の応援もあったからこそ、迷いなく進めたのでしょうか。
きっとそうだと思います。振り返ると、まわりの人に音楽活動を否定された経験は全然なくて。家族も「やりたいならやったらいいよ」と応援してくれましたし、学校の友達も「配信見たよ」「SNSフォローしたよ」という子ばかりで。自主制作のCDを先生がホームルームで流してくれたこともあるんですよ(笑)。はじめはどうしよう、恥ずかしい!という気持ちもあったのですが、みんなとても真剣に聴いてくれて、うれしかったですね。この出来事に、今でも支えられている気がします。
—Essence—
シンガーソングライターだからこそできる、誰かを救う“自然体”
─ 弾き語り動画をはじめ、今でもかわにしさんはSNSで積極的な発信を行っていますよね。現在の所属事務所・アソビシステムからスカウトされたきっかけも、動画配信とのことですが。
高校卒業後は音楽系の短大に進学しつつ、地元で活動を続けていました。両親は応援してくれていたものの、「短大卒業までには将来の展望をはっきりさせてほしい」とは言われていて。まずは事務所に所属すべくオーディションを受けるかたわら、SNSでの発信にもひたすら力を入れる日々でした。
─ とにかく「見つけて欲しい!」という気持ちだったのでしょうか。
そうですね。曲を聴いて欲しい、ライブに来て欲しい、私を知って欲しい、いろんな気持ちがあったと思います。とはいえ、最初はSNSの上手い使い方がわからなくて…。
─ それは意外でした! てっきりもともと得意だったのかと…。
いやいや! 当時のバイト先が私の夢をものすごく応援してくれていたんですね(笑)。そこにたまたま動画配信に詳しい方がいて、たくさん助言をいただきました。ちなみに動画関連の会社とかではなく、普通のコンビニです(笑)。
今でもやっている「弾き語りの前にあるあるネタを言う」スタイルが誕生したのも、バイト先のみなさんと試行錯誤した結果です。アドバイスを受けて“私自身のキャラが見える工夫”をしたところSNSが伸びていって、最終的に事務所の目にも止まったと思うので…本当に当時のバイト先のおかげなんです。

─ そして短大を卒業した2023年に上京、事務所に所属。アソビシステムといえば、きゃりーぱみゅぱみゅさんやFRUITS ZIPPERさんなど、個性豊かなアーティストが所属されています。
そうなんです! こんなにも個性の塊でかっこいい人だらけの世界で、私は何ができるんだろう?と悩んだ時期もありました。でも今は、「ありのままでいること」が私の個性だと思っています。自然体ゆえに、聴く人に共感してもらえる。それこそが、シンガーソングライターの強みなんじゃないかと。
─ 実際、2024年にリリースされた楽曲“理想的ガール”は、「自己肯定感爆上げソング」として多くのリスナーから共感を呼んでいますよね。
“理想的ガール”は、私としてもすごく好みのサウンドに仕上がっています。朝昼夜、どんなシーンで聴いても気分が上がるような曲を目指しました。「理想の私」と「リアルな私」を描いた歌詞に、自身を重ねてくれるリスナーが多いのかな。「私のことを歌っているのかと思った」というファンの方もいて、うれしい限りです。
─ それこそ、SNSなどでキラキラした世界が可視化されてしまう今、理想と現実のギャップに悩んでいる人は多いでしょうね。
外ではしっかり者扱いされている人も、家ではだらしない部分があったり。でも、どちらの「私」も地続きだし、両方あって良いと思うんです。私はどっちの自分も好き。そんな気持ちを込めて書いた曲です。
—Future—
海外リスナーにも刺さる楽曲の魅力。どこまで届くのか、確かめたい
─ “理想的ガール”をきっかけに海外のリスナーからも注目が集まりました。かわにしさんのSNSには韓国や台湾のファンからもコメントが寄せられています。その理由を自己分析するといかがでしょう。
2023年の冬の「Kabukicho Street Live」での弾き語りイベントで撮影された動画が、海外の方に届くきっかけになったと思います。韓国や台湾では今、シンガーソングライターブームが来ているみたいで、その波にのって運良く見つけてもらえたのかもしれませんね。
─ 上京してもうすぐ3年になりますが、かわにしさんにとって「東京」はどんな街でしょうか?
上京してすぐのころ作った『トーキョー』という曲を今改めて聴くと、あのころは右も左もわからずにただがむしゃらで、不安で、東京を「寂しい街」だと思っていたんだな。よしよし。──なんて気持ちになるくらいには東京に馴染んできたと思います(笑)。もちろん地元も最高なんですが、東京は私にとって「がんばれる場所」。いろんな世界でがんばる人に出会えるのも、おもしろいところですよね。
─ 目標にしているステージはありますか?
ずっと目標にしているのは日本武道館です。そして最近は、地元で野外フェスをやるという夢もできました。今年、滋賀県の「イナズマロックフェス」に出演させていただいたんです。音楽で地域を盛り上げるって、すごくかっこよくて魅力を感じました。いつか地元の奈良でそれができたらと思っています。


─12月12日(金)には東京で、年明け1月10日(土)には大阪でワンマンライブが開催されますね。
年末年始をワンマンで迎えられることがもとってもうれしいです! 今回はバンド編成で演奏させていただきます。シンガーソングライターは普段、ひとりで活動することが多いもの。だからこそ、大勢で一緒に演奏できるバンド編成は特別で、楽しみです。
─ では最後に…「シンガーソングライター・かわにしなつき」が歌う理由を、改めて教えてください。
そうですね、「なんのため」と訊かれたら、きっと「自分のため」ではないです。ずっと応援してくれる両親、友達、元バイト先のみなさんがいて…私ひとりでは活動を続けられなかったと思うから。私と関わってくれた人たちに「すごいね」と言ってもらいたい一心で、歌い続けている気がします。
でも今は、もっとたくさんの人にも届いて欲しいです。歌を通して同じ悩みを抱える人に寄り添えるのが、シンガーソングライターだから。私の曲に共感してくれる人と、どれだけ出会えるんだろう? それを確かめられるまで、音楽を続けたいです!

文:徳永留依子
写真:山口こすも